第2話 『突然』の予告


 『汚れ無き水辺』というダンジョンが目に留まる。

 帝国北西にあるダンジョンで、比較的聖国領土に近い位置にあるダンジョン、そしてここの魔王は『水の魔王』と記されている。


 『水の魔王』はミルドレッドたちの同期で、ずっと切磋琢磨してきた友人のような関係だったと聞いている。

 同期2人が勇者にやられてしまったのに顔を出さずに関わろうとしてこなかった魔王。

 正直気になっているし、本当に友人なのかどうか疑問に思っていた。

 確かめてみたい気持ちはある。


 でもそんなことばかりに気をとられている場合でもないな。



「天狗となると風だろう」


「たくさん飛んでるの鬱陶しそう」



 阿修羅とメルが『天狗の寝床』と聞いて素直な感想を述べている。

 近くはないけど、ウロボロスが居てくれさえいれば、正直場所なんてそこまで関係ない。1度会っておくべきな気もするし、相手もこちらを気にかけている可能性があるからな。

 まぁ生まれて1年も経過していないルーキーに1000年生きた魔王が気にするのもおかしな話だけどな。



「俺たちはBランクか」


「若が最近言っていたのはAじゃなかったか?」


「まぁ人間の評価だ」



 逆にBがついていることに驚きだな。まだ1年も経過していないし、多くの冒険者が挑んできたわけでもないのに、随分と速い評価を下すもんだな。


 そしてEXの欄にはお馴染みである最強の5人が載っていて安心した。

 SSランクの魔王でも特に難易度が高い8選や、ジョブごとで苦戦するだろうランキングなど、一々ランキングにする意味は分からないけど、俺が次にやることは『天狗の寝床』に挨拶しに行ってみることだな。


 勇者のことも気になるもんだが…。


 資料を見ながら話を続けていると、ドタドタと煩い足音で誰かが入ってくる。



「アルバスさん! カノンさん! 大ニュースだ! 聖国が3人の勇者誕生を発表したぞ!」


「ほう」



 走って来たであろう男はそれを伝えると、部屋を出て行って走り去っていった。

 

 俺たちが3人を葬ってから、そこそこ経過したけど、このタイミングで勇者が補填されるのか。

 聖国が地球から呼び寄せたのか、この世界から選定されたのか気になるところではある。

 ラムザさんが討伐されたイケイケムードが落ち着きつつある中で、新しい勇者誕生というのは、また冒険者や騎士が活気づきそうな話題だ。



「勇者が凄いのか聖国が凄いのか分からなくなってくるね!」


「ますたーが聖国潰せば勇者生まれない?」


「……確かに」



 メルの言う通りだ。

 勇者は聖国が別世界から呼び出すか、選定するかで生み出されている。

 ほとんどの魔王が勇者を警戒して嫌がるならば、勇者を生み出す聖国を先にやるべきじゃないのか?

 

 でも誰もそんなことはしていないし、アクィナスさんは聖都からそこそこ近いが、別に聖都には手出ししていない。まぁアクィナスさんレベルだと勇者なんて恐れるに足らずなんだろうけど。


 勇者に今後振り回されるくらいならば、先に聖都を沈めるか、勇者をどうにか生み出している人物を始末するのが魔王が安全に好き放題できる近道に感じてきたぞ。


 なんて思うが、俺の予想では女神に今の段階で勝てるだなんて思っていないので、絶対に直接殴り込みになんていかないけどな。



「メルに言われなければ考えもしなかったよ。さすがメル」


「えっへん♪」


「物騒なことを言ってるな」


「でも魔王さんの力ならやっちゃいそうなのが怖いよね」



 アルバスとカノンからすれば、俺たちは目の前でとんでもないことを口走っている連中だろう。

 でも魔王の1番敵になるのが勇者ならば、それを生み出している聖国を攻めるのが1番速いだろう。

 他の魔王は基本的に互いの理念のぶつかり合いにならなきゃ、ルーキー以外は戦争なんてしないからな。

 


「『天狗の寝床』よりも、聖都を調べるほうが先なのかもしれないな……色んな情報が入ってくると好奇心が刺激されるな」


「若がやる気を出したな」


「私のおかげ」



 そうなれば俺たちが帝都に留まっておく必要はないな。

 なんとなくの情報収集も出来たし、ピケルさんに貰った馬車と許可証があれば、街の外までウロボロスに送ってもらえればいつでも入ることが出来るからな。


 新しく誕生した勇者について調べることの方が先決だ。ここで得られる情報は良い感じに集まったし、長居すると問題が起こる確率も高まるので退散するとしよう。



「勇者のことも気になるし、帝都を出てウロボロスに迎えに来てもらうか」


「短い散歩になったが面白かったな」


「やっと帰れる」



 阿修羅とメルからすれば面白くない時間になったが、俺からすればとても心強い護衛2人のおかげで安心して、色々考えることが出来たし、やらなきゃいけないことの優先順位もなんとなく決めることが出来た。


 俺たちは冒険者ギルドを出て、馬車を回収して帝都を出ることにした。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 ウロボロスに迎えに来てもらった俺たちは、すぐに『罪の牢獄』に帰還することが出来た。

 俺は新たに生まれた勇者について調べたりしているが、さすがにまだ詳しい情報は出ていない、だが3人誕生したのは確定であるようだ。


 もし地球とやらから呼び出されているのならば、呼び出された側は迷惑な話だと思うんだけどな。



「そして謎のメッセージが1つ」



 画面を開いて最初に気付いた、送ってきた相手が不明のメッセージ。



魔王八獄傑パンデモニウム』への誘いって書いてあるけど、聞いたことも無い話だ。

 魔王って書いてあるから、魔王界の誰かが送ってくれたんだろうけど、本当に分からんから、さっきはスルーしたけど勇者のこと調べ終わったし、確認しておくか。



『『魔王八獄傑パンデモニウム』への誘い:『原初の魔王』が定めし、『魔王八獄傑パンデモニウム』へ参加する権利が得られましたので、参加のメッセージが送られます。配下の魔物を1体選定して明日の夜、指定の場所へ転移してください。転移場所は登録されております』



 俺のコアに『魔王八獄傑パンデモニウム』という転移先が追加されている。

 なんのために選定されている者なのかも、何が目的な集団なのかも記されてはいない。ただやらないと『原初の魔王』の爺さんに怒られそうだから入るしかないってことだろう。


 とりあえず明日行くしかないか。



「面倒ではあるけど、交流の場として捉えるべきか」



 八傑と言ってるのだから、8人の魔王はいるんだろう。

 しかも俺の予想だとランクの高い魔王が揃っていると考えられる。何が選ばれる条件なのか知らないけどな。

 臆さず行くことだけを考えておくか。



「最古の魔王様以外で強い魔王8傑とかになるのかな……もしそうだったら、俺が入る訳ないから、確実に誰かしらの仕業と考えるべきだな。出る杭を打とうって言う奴は……どこのどなた様なんだか」



 画面を弄る手を止めない。あんまり考えすぎても頭が痛くなりそうだから、今は別のことを考えることにしよう。

 

 最近はダンジョン序盤が何事も無いかのように突破されて、被害を与えることが出来ずに、ただただDEを消費してしまっているのが悩みだ。


 だからと言って、いきなりイブリースを配置したら、中堅者以上じゃないと厳しいですよと言わんばかりの難易度になってしまって若者冒険者がアークから消えてしまう。

 宝箱を置くのもDEがかかるので、最終手段でイデアかデザイアにお願いしてCランクくらいの魔物作れないかどうか試してもらわないとな。



 そういった感じで、いつも通り運営について考えながら、手を動かしていくと『魔王戦争のお知らせ』が入る。

 誰が魔王戦争するんだろうなと思って、お知らせ部分をタッチしてみる。



『確定:『焔の魔王アイシャ』vs『水の魔王ヴォジャノーイ』の魔王戦争が決定致しました。戦争開始は30日後です』




 画面を見て、思わず手が止まる。


 ……世の中いつでも忙しいもんだな。

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