第18話 『恐るべき』スキル


――『絢爛なる天空城』 ダンジョン内部



 『天風の魔王』の住処へと到達した4人。

 道中のハプニングはあったものの、ちょっとした強硬手段も使用することで無事ダンジョンまで辿り着くことができていた。


 『絢爛なる天空城』。

 このダンジョンは長い間存在している高難易度ダンジョンであり、風属性を中心とした空中戦が得意な魔物が多く、接近型の前衛が多いパーティーでは少し進むことですら難しいと言われているほどのダンジョンだ。


 弓矢を持った鳥人型の魔物だったり、風の精霊や風狼といった魔物が次々と勇者4人へと襲い掛かる。

 もちろん勇者が攻めてくることを想定した魔物配置であり、不意をついてでも仕留めてやろうと言う、容赦の無い攻撃の雨。


 しかし、そんな中でも4人は気にすることなく進む。


 遠距離攻撃で仕掛けてくる相手に対して、パーティーのタンク役をこなしていく、蓮とテスタロッサ。蓮は『神速』と『神ノ瞳』を駆使して、目に見えぬ速さで飛んでくる攻撃を斬り払いながら、注目を集めることでヘイトを買っている。

 テスタロッサは聖盾と聖槍を駆使した防御術。そして自身の髪の毛から分身を作りだすことが出来るブレイブスキル『美猴王』で6人に増えたテスタロッサが次々と攻撃を弾いていく。


 そして飛んでいる魔物を確実に減らしていくのは源輔と雫の2人である。

 巨大な弓を優雅に、そして丁寧な動作を心がけて放つ。彼のブレイブスキルである『射法八節・落日弓イヌクモノ』だ。正しい動作、正確な魔力を込め、曇りの無い精神から放たれる源輔の矢は、いかなる守りをも貫いて心臓を射貫くと言う遠距離特化のブレイブスキルだ。

 雫は魔物に向けて声をかけている。雫の声を聞いて同士討ちを始める魔物もいれば、声を聞いただけで苦しみだして絶命してしまう魔物もいる。自身の言葉を使う雫のブレイブスキル『魔滅之天使シェムハザ』は、放った言霊を対象に呪いのように魂に刻み込んで、動きを強制させるスキルだ。


 4人は襲い掛かる魔物をまったく意に介さない。

 魔王への忠誠を叫びながら攻撃してくる魔物もいるが淡々と残滅していく。

 民の平和を得るためにと、魔王の配下には容赦の心など一切ないのだ。



「数が多いねっ!」


「さすが長い間存在するダンジョンね」


「数が多すぎて、逆に狙いが定めにくいぜ」


「ふぅ~、『朽ち果てなさいっ!』」



――ドサドサドサッ



 魔力を通常以上に込めた雫の言霊による命令が魔物たちを絶命させて墜落させていく。

 まだ城の中にすら入っていないのに消耗戦をしていては意味がないと思った雫は一斉に沈めることを選択した。

 自分だけ少し消耗をしてしまったが、進むためには致し方ないと思い、3人に声をかける。



「城の中に入りましょう」


「そうね」



 4人は城の中に侵入していく。

 街から転移陣に入ることで行くことが出来る、空にそびえる巨大な城。

 

 城内も果てしなく広く、4人の眼前には大量の甲冑騎士が武器を構えて、まるで待ってましたと言わんばかりに、扉を開けた瞬間に突っ込んでくる甲冑の群れが広がっていた。


 向かってくる甲冑の群れに対して、テスタロッサが黄金に輝く槍を構えて一歩前に出る。その槍を投げるような構えをとり、甲冑に向かって叫ぶ。



「『聖槍・天破蛇矛』ッ!」



――ゴォォォッ! バジャァァァンッ!



 テスタロッサの放った聖槍の一投は迫ってきていた甲冑の群れの8割を消し飛ばす威力だった。

 奥の階段を上る通路の出来た4人は臆さず駆ける。先陣を走ったのは蓮だ。



「『斬空円界』」



 蓮の前方に巨大な円が出来る。

 特に警戒することもなく、甲冑たちは蓮が展開した円の中に侵入していく。



――ズバッ! ガシュッ!



 まるで豆腐のように甲冑たちが斬り刻まれていく。

 その円を盾にして4人は奥へと進んでいく。

 蓮の取り逃しは他の3人がカバーしていく形で難なく進んでいく。


 階段を進んで次の階層へと足を踏み入れると、そこには数体の鳥人が武器を構えて待っていた。

 外にいた魔物とは圧が違うと4人も感じて、AランクとSランクの混合部隊だと感じた4人は先ほど以上に集中力を尖らせようとした。



「『滅びなさい』」



――ブワッッ!



 雫の一言で一斉に絶命していく高ランクの魔物たち。

 その様子を見て、少し冷めた目をして雫は歩き出す。

 少し3人の方へ顔を傾けて注意をするように声をかける。雫の目には3人が普段以上に消耗しているように感じていたからである。



「少し落ち着きましょう。無駄に消耗しないように進んでいきましょう」


「さっすがお嬢だな」


「行こう」


「まだ先は長そうね」



 4人は気を引き締め直して、ダンジョンの先を進んでいった。










――『罪の牢獄』 居住区  コアルーム



 ルーキーは1度以上は行わないと罰を受けてしまう規定である魔王戦争。


 俺は今、ルーキー同士の魔王戦争を観ながら、帝国領土内にどんな魔王がいるのかを自分なりに調べているところだ。

 絶対に1度はしなければいけないから、しっかり全部確認すれば全ての新人魔王を把握出来るってわけだ。覚えきれないけどな…。


 帝国に居るルーキー魔王は最低でも把握しておいて、出来れば中堅どころも押さえておきたい気持ちはある。

 南が極端にダンジョンが少ないだけで、他は広いし、ダンジョンが多いので覚えられるか不安だ。

 帝都の冒険者ギルドには帝国領土内全てのダンジョンが記された資料があるから、出来ればそれが欲しいので、帝都に行く準備を整えなければいけない。



「俺の理想を叶えるためには何をすることが1番なんだろうな」



 全ての種族が楽しく平和に暮らせる街を築き上げたいってのが、アークを創る上での目標だったし、今でも貫いている自信もあるし、みんなも知っていてくれていることだ。

 魔王としても誰にも負けたくないし、みんなが誇らしくなってくれるような魔王になりたいって思っている。


 そして最近思っているのは、やっぱりこんなにも魔王はいらないってことだ。



「各々が好き勝手にやっているけど、好き放題やれるやつはそんなにもいらないと思うんだよな。王様なんて人間みたいに各国に1人くらいで良いだろう」



 人間を徹底的に滅ぼしてやろうと思っている魔王、自身の種族以外は必要ないと思っている魔王、他者が争うのを楽しんでいる魔王など、他者に迷惑をかけているような理想を好き放題掲げてやっているのは、個人的には気に喰わないし、そんな奴らと同じような目で見られるのは嫌だな。


 最古の魔王様たちは、完全にやりたい理想を叶えて自由にやっている姿だ。誰にも文句など言われず、好きなことを好きなようにやっても、全てが肯定されている。

 立場的には羨ましいもんだな。


 魔王戦争を観戦しながら考え事をしていて気付かなかったが、実績プレゼントが来ているのを発見した。何かしたっけ?


 とりあえず俺は画面をタッチしてみる。



1.EXランク冒険者撃破した記念 【5000000DE】

2.EXランク冒険者配下にした記念 【魔名カード『悪王』ランクSS』】

3.15体目のEXランク支配下記念 【『大罪』の魔名ランクUP】



 これでDEが無くなることは余程使わない限りないだろうな。そもそもGランクしかコアから呼べないから無くなるなんて、ほぼないんだけどな。


 そして魔名カードはいくらあっても腐るものでもないが、次に配合させたい魔物が思い浮かばず、配合回数が余っているので困っている最中だ。


 そして最後の実績にツッコミたい。

 アイシャは『豪炎』を手に入れて、魔名ランクを上げるのに成功したのに対して、俺の条件おかしくないか!? 運よく『大罪』とみんなの相性が良かったからどうにかなったけど、本来不可能なレベルの難題だろ!



「まぁ…『原初の魔王』に怒っても仕方ないか」



 俺は魔名ランクが上がったことによる変化を確認する。

 ……特に縛りに変化はないが、1つだけ使用できるスキルが増えていた。



『魔王スキル:『大罪之烙印クライム・スティグマ』』 ランクEX

・3段階の『烙印之王スティグマ・モード』になることが出来る。ただし1段階目から順にならないと使用できず、使用して10分経過すると次の段階へ移行することが出来る。


・1段階目 『魔王之烙印キング・スティグマ

・全ステータスが極増、体力と魔力が少しずつ回復する。


・2段階目 『魔神之烙印サタン・スティグマ

・さらに全ステータスが2倍になる。状態異常、拘束系統、精神系統が全て無効化。


・3段階目 『原罪之アマルティア・烙印アドヴェント

・『原罪』スキルが使用可能。同時に使用できるのは1つのみ。



 おぉ! これで俺も戦うことができるな!

 しかも、かなり強いぞ! めっちゃ時間かかるけどな!


 1段目で魔物ランク的に言えばBランク、2段目でAランクくらいにはなれそうだな。

 そして3段目まで行ければ『大罪』の力が1つ使用できるから、上手くやれればSSランクの魔物だろうが相手できるようになるはずだ。

 ただ紙のような耐久性なのは変わらないのか…。そこさえ変われば俺も前線で暴れられるかもしれないのに…。


 元のステータスがとんでもなく上がるような報酬は貰えないのだろうか?


 心の中で少しはしゃいでいると、追加で何かのメッセージが来たので開いてみる。





『確認:勇者4名により『天風の魔王ラムザ』が討伐されました』


 

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