第14話 『果物』の秘密


――アーク 冒険者ギルド 会議室



 メルからの報告を受けたすぐ後に冒険者ギルドからも、ルジストルを通して俺が出てこれないかという申請がきた。

 ルジストルではなくて、俺が呼ばれた。俺は相当なことでなければ呼ばれることはない。

 メルから敵意や悪だくみをしてるとかいう話は聞いていないから、本当に何しに来たのやら…。

 

 ここに呼ばれた瞬間に、プレイヤー関連や帝国騎士関連ではないって分かったから、俺は覚悟を決め、ハクを連れていこうとしたが、食後の昼寝姿が可愛かったから起こすことができず、シャンカラに頼んで同行してもらう。

 ちなみにシャンカラは『神化アヴァターラ』の変身能力で小さな蓮の花型の飾りとなって、俺にくっついてくれている。凄まじい安心感。


 冒険者ギルドの会議室には、ここでギルドマスターをしてくれているオプールと、この街で見ない2人がいた。

 

 1人は鮮やかな青色の長髪をした女性。ベレー帽と黄色で統一された格好が洒落てる。

 もう一人はグレーの短髪だけど、無精ひげが相まってかなり老けて見える男だ。服装はグレーのコートに他はブラウンで統一されていて若く見えるんだが、どうしてこんなに疲れた顔をしてるんだか…。


 この2人がメルがアークの領域内に入った瞬間に驚くような魔力を持っている2人か、確かに俺でも感じる魔力の漏れを感じる。特に女のほうに。



「アークを治めている『大罪の魔王ソウイチ』だ」


「俺はアルバスという者だ。冒険者をやっている」


「私はカノンって言います。よろしく魔王さん♪」


「…わざわざ魔王を呼び出すって何用だ?」



 魔王が迷宮都市を治めていることを知っているのも、しっかり呼べる立場にあるってことも不思議だ。

 オープルが焦るような存在ってことは、この2人が『七人の探究者セプテュブルシーカー』のメンバー……。


 EXランクの人間ってのは俺が思っている以上に影響力がある存在なようで、メルが警戒しなくて良いと言っていたから会ってはいるが、わざわざ田舎に何の用だか気になる。



「俺たちは街に危害を加えに来たわけでも、ダンジョンを攻略しに来たわけでもない」


「まぁ…そしたらわざわざ俺を呼ばないもんな? 元『七人の探究者セプテュブルシーカー』様が何の用だ?」


「…知っていたのか」


「うちのギルドマスターが黙ってビビるような冒険者なんて、そんだけ有名人じゃないとな……」



 『七人の探究者セプテュブルシーカー』で正解だった。

 これが解散したとは言え、元世界最強の冒険者パーティーか、個人個人が鬼のように強くて7人揃うと敵なしっていう話だが……なんで冒険者続けてるのに解散したんだろうか?

 

 それにカノンってほうはニコニコしてるけど、まったくしゃべらない。



「俺たちはある噂を聞いてアークまで来させてもらった」


「なんか噂なんてあったか?」


「いかなる病や状態異常を治す「果実」が存在していると」


「どっからそんな噂を聞いたんだ?」


「ここにいる知り合いの商人の不治の病が治ったと聞いてな。文通で問いただしたら口を割ってくれたんだ」


「そいつは悪い商人だな」


「…向こうも俺たちの事情を知っていた。それに俺に大きな貸しがあってのことだ。許してやってくれ」



 せっかくレーラズ特製の果樹園の果実を渡してやったのに、冒険者に口を割るなんて危ないことを俺に黙ってやるとは……後で尋ねるとしよう。記憶を消しておくべきだったかもしれんな。

 わざわざレーラズの果実が必要ということは、余程酷い病だったり、何かしらの呪いや状態異常なんだろう。


 そしてなんとなくだけど、このカノンってのが対象なんだろうな。



「そんな凄い果実が貰えるとでも思って来たのか?」


「……俺にできることはやらせてもらう。知っているかもしれんが、ダンジョン制覇時の報酬はしっかり貯めてある。利用してもらって構わない……頼む」


「………EX冒険者がなんでもってのは俺からすれば面白い提案だ。そこのカノンさんはどんな状態なんだ?」


「バレちゃった♪」



 俺が視線を向けた瞬間に、ベレー帽を深くかぶってリアクションしてくる。

 さっきからしゃべらなかったのも何かしらの影響あってと考えるべきなのか、それにしても最強の冒険者がかかるようなものって何だろうか?


 アルバスは眉間に皺を寄せながら語りだした。



「カノンの現状は「記憶喰らい」という呪い、そして脳に重い病を患っている」


「なるほど……手段無く彷徨っていたが、良い噂を聞いたってことか」


「ある人物に両方をかけられてしまったカノンは、今時間が経つたびに物事を忘れて、呪いによって記憶が喰らい消されている状態なんだ」



 詳しい話では、カノンは、とあるダンジョン攻略直後に不意を突かれて呪いをかけられてしまう。

 この呪いは使用者の命と引き換えにかける、とんでもなく強力なものらしく『七人の探究者セプテュブルシーカー』のメンバーでもどうすることもできなかったようだ。

 まだ元気だったカノンはメンバーにはそれぞれの幸せを追い続けてほしいとのことで、呪いをかけられてすぐに『七人の探究者セプテュブルシーカー』を解散して、長年一緒にやってきたアルバスだけが諦めず、治す方法を探しているとのことらしい。


 そしてたまたま帝都に来ていた時、知り合いの商人に良い情報が無いか聞いたところ、不治の病が完治したとの話を伺い、俺に頼みにきたということらしい。


 俺からすれば果実1つでEXランクの冒険者がなんでもしてくれるんだ。アークの知名度を爆発的に上げる最大のチャンスだろう。



「まぁ…話の内容はよく分かった。ちなみに教えてやるが治す方法はダンジョンに来てもらわないと分からない。だけど治すことは可能だと思う」


「本当か?」


「やったー!」


「それで自分らは具体的に何をやってくれるんだ?」


「『七人の探究者セプテュブルシーカー』は解散したが『天海を揺らす者エノシガイオス』としての俺と、『白銀の蒼穹、虹の笛ヘイムダル』と呼ばれたカノンの2人で全面的にこの街の発展に協力させてもらいたい」


「普通なら警戒する話だが……知名度を上げたい俺からすれば願ってもない話だ」



 ダンジョンランクを上げるのには苦労していたからな……知名度の進みは、なかなか手を尽くしてもイマイチだったので、ここにきて知名度爆上げ冒険者が2人も来てくれたのは奇跡のようなものだ。


 聞いた話では、現在含めて10人しかいないEXランク冒険者のうち二人がアークを拠点に色々やってくれるなんて素晴らしい話だ。

 しかも解散してから静かに旅を続けていた2人が突然活動再開となれば確実にアークの名は広まるだろう。

 この2人が拠点として居てくれれば街の安全も保障されるだろうしな。



「この街で何をしていくつもりだ?」


「俺は狩りにでも行くさ。カノンは昔からどこかの街で角笛を使って音楽を奏でていたいと言っていた」


「……盛り上がりそうではある」



 俺の予想だが、この2人が活動を再開すれば、他の『七人の探究者セプテュブルシーカー』が寄ってくる可能性もあるし、厄介ごとが寄ってくる可能性もあるが、それも承知の上でしかやっていけないか…。


 それにまだ治ると確定したわけじゃないしな。



「……この街を墓場にするまでの覚悟は伝わった。とりあえずダンジョンを案内する」


「っ! 本当に感謝する」


「ありがとう!」



 俺は2人をつれてダンジョン内のレーラズのところに案内することにした。









――『罪の牢獄』 居住区 果樹園



 ここに来るまでの道中で、さらに詳しい話を聞いた。

 カノンは大技を使用した直後で抵抗できずに呪いをかけられてしまったということ。

 カノンに呪いをかけた集団はまだ活動を続けていて、他のメンバーは日常生活を送りながら、その集団と戦ってもいるそうだ。もちろん2人もまだ狙われているらしい。

 ちなみにその集団の名前は『八虐のユートピア』って名前らしい。素直にダサい気がするが、かなりの曲者集団だという話だ。


 そしてカノンをレーラズが視ており、助っ人としてリトスも付いている。


 アルバスはうちの魔物たちを見た瞬間に震えていて、さすが最強の冒険者だけあって実力は分かったらしいが、聞いてこないところを見ると大人だ。



「1週間ほど、毎日3食ここで果実と泉の水を摂取すれば確実に完治すると思いますよ。1週間もかからないかもしれませんけど念のためですね~」


「……驚愕だ」


「お願いします!」


「リトスのスキルだと一瞬で治せますが、色々治しすぎてしまいそうですからね」


「できれば1週間世話にならせてくれ」



 レーラズとリトスは俺の頼みということで真面目にやってくれている。

 アルバスは、これ以上カノンに負担をかけたくないらしく、1週間かけて治すことを選択したようだ。

 解散してからの数年間彷徨ったのを考えると、1週間は一瞬の出来事に感じるだろうな。



「まぁダンジョン内は悪さしなければ自由だ。しっかり完治したらアークに貢献してもらうからな」


「もちろんだ。感謝する」



 とりあえず元世界最強冒険者である『七人の探究者セプテュブルシーカー』の2人を身内に引き込むことに大成功した。

 この2人が仲間になるのなら、もうそろそろ人間戦力は十分と見ても良いだろう。あまり仲間にし過ぎると面倒になりそうだからな。

 

 これからアークが盛り上がっていく気が湧き出てきてワク

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