第13話 『心配』する焔


――『罪の牢獄』 居住区 会議室



 俺は今、公国に突入し順調に進んでいる勇者に対して、師匠が心配なアイシャの相談を受けている。正直アークにむかっている噂の冒険者がいて他者を心配している場合かとも思うが、大事な同盟相手だし、アイシャの気持ちが分からないでもなかったので受けることにした。

 俺は1度勇者と遭遇したことを伝えてあるし、強かったことをメッセージで伝えてある。



「師匠の気持ちも分かりますが、確実に勝てる方法をとらないのは理解できません」


「プライドもあるんだろうよ。それに勇者の強さからして……アイシャのとこだとドラコーン以外じゃ厳しいと思うぞ」


「……そうだとしても何もできないのは悔しいです」


「俺もお怒りのメッセージ届いていたよ」



 少し前にメッセージの中身を見てみたら、「ルーキー如きが僕を助けようなど傲慢にもほどがある。まずは自分のことを完璧にしてから他のことを考えろ」とお叱りを受けた。大変ごもっともだった。


 勇者たちの進行速度は少し落ちたが、予定に近い日程でラムザさんのダンジョンに辿り着くだろう。

 どんなダンジョンで、どんな魔物が生息しているか分からないが、『空』の魔物よりも戦闘に特化したような感じではあるらしく、風系統の能力をもった魔物が多いようだ。

 それにラムザさんも色々策は考えているようなので、問題ないとアイシャに言い続けているそうなので、さすがに勇者に対する調査は終えているんだろう。



「一人前になれと言われても心配なのは変わりません」


「戦った立場からすれば、かなり厄介だったからな。死にかけたし」


「ソウイチはどう思いますか?」


「……他の3人を見てないから知らないけど、厳しいかもしれないな」


「……そうですか」


「介入するのか?」


「師匠が1人でやると言っています。誇りを汚すわけにはいきません」


「アイシャらしいな」



 あくまでも師匠の顔は立てたいってことか。

 その気持ちは素直に素晴らしいとは思う。まぁラムザさんが負けるなんてのも決まっていないからな。

 蓮って奴の力はある程度やりやすいが、他の3人がもっているブレイブスキルとやらを俺も知っておきたいもんだ。



「そういえばダンジョンに攻略に来たプレイヤーは一掃したそうじゃないか」


「私も常に強くなっていますから」


「ドラコーン以外もパワーアップしてるみたいだしな」


「Lvアップは欠かしていません」



 うちの『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の皆様はLvが固定だからLv上げと言う概念が無いので、少し寂しく感じてしまうな。手間が省けているから楽ではあるんだけども…。


 アイシャのダンジョンはドラコーンが絶対的支柱だし、『焔』の力で魔王側からタイミングを見て一斉復活出来るので、魔王戦争を仕掛けようと思う同じルーキーもいないだろうから安心して運営することができてるようだ。

 さすがにプレイヤーが挑むには早すぎるレベルに到達しているな。でも噂の「最前線」ってのには会ったこと無いから言い切るのは不味いか。



「そういえば最近、各国の交わる国境付近にある他種族の若者が通う『四大学園』という場所が騒がしいようですね」


「各国から優秀な若者が集まる学び舎だったか?」


「えぇ……毎年騒がしいようですが、今年は色々問題が多くて、私の街でも商人が噂にしていました。学園に所属する者が稀にダンジョンにやってくることもあるので気を付けておいたほうがいいかもしれません」


「アークでは聞いたことないな」


「四大学園からは冒険者や国抱えの魔法使いが多く出ているそうですからね。知っておくことに損は無いかと思いますよ」


「手が広いな」



 そこまで先を考えてるのは凄いな。

 少しだけ『四大学園』ってのに興味が出てきた。

 もしフォルカが行けるなら潜入させて、有望な若者をアークに引き込めないだろうか? 人間たちの寿命は短いから、アークで働く人間たちの将来を考えると若い血が入りやすいようにしておいたほうがいいんだろうか?


 そんな雑談を交えながらアイシャと互いの近況とラムザさんのことについては話をしていたら、気付けば3時間経っていたのにアイシャが気付いて、真っ赤になって帰っていったのが面白かった。







――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 『四大学園』について気になったから調べてみたら、関係者が間近に数人いたので話を聞いてみた。

 ちなみに四大学園卒業生が、ミネルヴァ・レディッシュ・ニナの3人。

 

 俺がわざわざ人間の過去について聞いたことに少し驚かれたが、『四大学園』の名前を出して、アークに若者がほしいと言ったら納得された。


 『四大学園』からは過去に勇者も排出されているし、多くの伝説的冒険者の出身でもあるそうで、各国の騎士学校卒業生でもないのに各国騎士団からスカウトされることもあるそうで、ミネルヴァは1年の時に帝国騎士団にスカウトされたそうだ。


 様々なスキルについてだったり、歴史や魔物について、ダンジョン攻略であったりと人それぞれで学べる分野を選べるようで、とてもためになるようだ。

 スカウト合戦というのも激しいらしく各国の学生が無所属みたいな学生に声をかけて将来、自分の国を拠点にしてもらおうっていう争いだったり、冒険者パーティーを作るために声掛けあったりと忙しい学生生活だったそうだ。


 各国ごとで競う国ランキング戦だったり、個人の順位を争うランキング戦ってのもあるそうで『四大学園』の醍醐味らしい。

 俺からすれば、そんなことやっているから一生国同士が対立しちゃうんだろうなって思うけどな。



「ただ優秀な人材の宝庫であることには変わりがないな」



 出来ればルジストルのサポートが長期的に望める人材が欲しいと考えていたので面白そうだ。

 一応求人募集は出来るようなので、今度出してみよう。金はあるから優秀な人材がほしい。


 フォルカで入学してみて直接声をかけるのが一番面白そうだが、そんなことをしている暇は今は無いので、とにかく使えるプランを試していくしかない。


 そして『四大学園』には元勇者と元SSランク冒険者が教師をしているそうなので、あんまりやりすぎて目をつけられるのも面倒ごとに繋がりそうなので、気を付けておかないといけない。



「世界は魅力で溢れてるな…。次から次へと関心を惹くものが増えていく」



 気付けば昼ご飯も食べずに15時になっていた。

 とりあえず今すぐに出来ることは求人募集を出してみることだけなので、一旦忘れて昼食食べに行くかな。



「ハク、ご飯食べるけどどうする?」


「もう一回食べていいの?」


「いいぞ」


「行くっ♪」



 とりあえずハクと一緒に飯の時間だな。










――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 ハクと一緒に遅めの昼食を食べている。

 四大学園のこともそうだが、最近は罠に引っ掛かってくれる冒険者が激減してきたので、罠を見直そうとあれこれ考えている。

 落とし穴に槍こそ至高だと考えているが、さすがに有名になりすぎたのか、どの冒険者も警戒しており、その姿を見た初心者冒険者も真似てきている。


 正直罠が無ければ最初のフロアはGランクの魔物がいるだけで、宝箱はそこそこ置いてあるラッキーゾーンになってしまっている。

 なかなか難しい問題だ。


 ちなみに昼食は「コロッケ」である。

 昼から揚げ物もたまぁには悪くないものである。



「美味しい♪」


「よく食べるな」


「お昼寝するとお腹空くから丁度良い!」


「なるほどな」



 ハクと楽しく昼食を食べていると、人間形態のメルが歩いて俺の下までやってくる。



「ますたー、アークに凄い魔力持った人が2人きたよ」


「来たか……ありがとうメル、すぐ動くよ」


「うん」



 俺の予想ではミネルヴァが言っていた『七人の探究者セプテュブルシーカー』の2人か、帝国騎士団の関係者か、他魔王の偵察の3択だが、どれが来るやら…。


 俺は急いで昼食を食べて、ハクにはコアルームの留守番を頼んで、メルを連れてアークに向かった。

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