第7話 閃く刃と『虚飾』の王


――聖国 公国国境付近



 勇者御一行様がラムザさんの下へ旅立って3週間。

 ウロボロスの力を使いながら、遠目でどんな感じか様子見をしてきた。

 色んな魔王からの刺客と思われる魔物や、本当に現地に生息している魔物を次々と撃破していく勇者の取り巻きたち。


 冒険者は村や街が近づいたら、もう一行からは離れて困っていることに集中させて勇者たちの活動が世界平和の一歩ですよ活動をしている。

 どんどん護衛の数は減るが、勇者の使者に村や街は救われていき、何もしていないのに勇者が神のように言われている。


 このためにランクの高い冒険者をわざわざ雇ったって考えると、人間社会ってのは信仰させれば勝ちだが、やり方は当人たちが満足すればどんな方法でも良いってのが見える。


 勇者は今のところ手を出していない。

 Sランクの魔物に襲撃されてもピクリともしない。何かしらのバフは周囲の奴らに付与しているんだろうけど、全然でてきやしない。



「さすがに冒険者の数が減ったな」



 勇者は対応しないが、全ての魔物に対して見過ごせない縛りで冒険者はすでに半分ほどに減っている。

 そろそろ監視してるのも飽きたので仕掛けようと思っている。


 ラムザさんが怒りそうだが、俺には俺の都合があるから、ラムザさんが生き残ったら素直に怒られることにしよう。

 もしその戦闘で勇者が出てきても正当防衛なので戦うのは仕方ないってことで許して貰おう。



「それにしても毎回付いてくる根性は褒めてやるぞ」


「キッーキッー!」



 毎回偵察に行くタイミングで俺の肩に何故かいるハヌマンは3週間毎日一緒に監視に付き合ってくれている。ちなみにウロボロスも毎度付き合ってくれて感謝感激だ。


 今から行うのはウロボロスに頼んで残りの冒険者を勇者が反応するまで転移させていく、転移先は数か所あって『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の誰かしらが待機している。そこで各個撃破してもらって勇者たちの守りを剥いでいこうと作戦だ。


 個人的には魔王は多くいなくていいって思っているけども、ラムザさんには生きていてほしいとも思っている。ラムザさんは他魔王に良い影響を与えている偉大な魔王だ。

 自分勝手だなって思われるかもしれないけど、魔王ってのは好き勝手やるもんだなって思うようになってきた。アークを理想の街にするのも、俺の勝手な夢がゆえだ。



「勇者が魔王は悪って掲げる限り、お前らは俺の敵だ」



 ウロボロスが冒険者たちを一斉に転移魔法にかけていく。

 勇者の馬車に近かった聖国騎士たち以外、跳ばすことに成功した。



「さぁ…後は各地でやってもらうだけだな。ウロボロス! 一旦降ろしてくれ!」



 ウロボロスに頼んで少し離れた陸地に転移魔法で降ろして貰う。

 勇者御一行様とは10㎞ほど離れた場所だが、ここからどうにかして勇者と騎士団たちが離れたタイミングを見計らってウロボロスが騎士団や冒険者だけ引き剝がす作戦を見守ることにする。


 ウロボロスには一旦転移させた先の様子を見に行ってもらう。

 大丈夫だろうがしっかり出来ているか、それとすぐに終わらせるであろう『枢要悪の祭典クライム・アルマ』たちを回収する役目も同時に担ってもらう。


 不意に殺気が向けられた気がした。



「キッーキッー!!」



――ザシュッ!



「なっ!?」



 突然ハヌマンが前へ大きく飛び出したと思ったら、ハヌマンの胴が斬られ血が噴き出ている。

 命の危機を感じて俺は咄嗟に後ろに跳び退く。


 しかし青白い剣閃のような群れが気付けば、俺の周囲を囲んでいた。



――ガキンッ!!



「若! 降りる時は言ってくれ!」



 囲まれた剣閃の群れに斬り刻まれそうになった時、ハヌマンを抱えながら現れてくれたのは阿修羅だった。

 三明の神剣を俺の周囲に展開して守ってくれていた。


 気を抜いた訳じゃなかったけど、ハヌマンが助けてくれなかったら死んでいたかもしれない。そして阿修羅のおかげで命拾いした…。


 そしてハヌマンはヤバい状況だ。情けないが完全に庇ってもらった。


 ウロボロスは行かせてしまったが、確実に聞いてくれているであろう配下に届くように大きく息を吸ってから叫ぶ。



「シンラッ! 俺がミスした! 『罪の牢獄』へ戻ってハヌマンをレーラズのところへ!」



――ヒュイィンッ!



 どこに居ようと俺の声を聞いてくれていると信じてシンラに叫ぶ。

 しっかり聞いてくれていたようで、ハヌマンはシンラの力で転移していった。そのままレーラズのところまで連れて行ってくれるはずだ。



「若……今後はしっかり誰かと降りてくれ。少し傲りがあるように見えるぞ」


「あぁ……すまなかった」



 阿修羅が視線を向ける先に居たのは、黒髪に左右瞳の色が違う青年。戦士にしては体格が少し痩せて見えるが、筋力をスキルか何かで補っているんだろう。


 プレイヤーの中でも珍しい刀を持っている。そんな特徴がある奴は1人しか聞いたことが無い。



「『神速刃・暁蓮』」


「僕らの仲間をどうしたんだ?」


「さぁ……どっかで戦ってるんだろ」


「一瞬にして転移された仲間たち、そして突然出現した禍々しい気配。どこの魔王なのか聞いても?」


「わざわざ勇者様に名乗るほどでもない。ただの邪魔者だよ」



 勇者の姿が消えて、三明の神剣が俺の前に出てくる。

 阿修羅の前でスキルが使用できるってことは武器からも見て取れるように接近型なようだ。

 



――ガキンッ!



「デザイア! 若を避難させろ!」


「……阿修羅…こいつを頼む!」



――ヒュンッ



 ポケットから阿修羅にある物を投げた瞬間、俺の視界がデザイアのいるエリアへと切り替わる。

 2人まとめて勝手に俺のことを決めたのは適切な判断だ、反省しなければいけない。危うく命を落とすところだった。

 

 あの距離を一瞬で詰めてこれる人間がいるなんて思わなかった。さすが勇者だ。

 それに阿修羅が巻き込むかもしれないって思わせるような実力があるってことだ。というよりタイマンの戦闘ではあまり役に立てないから、どこかしらに避難するのが正しい判断だ。



「迂闊だった……けど思わぬタイミングで種が仕込めそうだ」


「そういう時もあるのじゃ……良かったのぉ~、妾とシンラも見にきておって」


「どっちも見ててくれると思ったから叫んだのさ……助かるよデザイア」


「うむ……阿修羅であれば、あの小僧に苦戦はせんじゃろう。あの種は渡したのかのう?」


「あぁ……本当に勇者が仕掛けてくるとは思っていなかったが、阿修羅には渡してある」



 俺は次の展開を考えるために、デザイアに相談しながら一旦ダンジョンへと繋げてもらった。










 ウロボロスに転移させられた冒険者たちの一部は、足下が全て人骨らしき骨が敷き詰められている薄暗い空間に来ていた。

 経験のある冒険者がすぐに結界魔法の中だと気付いて解除を試みるが上手く行かない。

 12人ほど冒険者が円になるような陣形をとって周囲を見渡せるように構えていく。

 重鎧を纏ったタンカーの冒険者が目を良く凝らしてみると豪華なローブと装飾を纏ったスケルトンを発見する。



「魔物発見! 魔導士タイプのアンデッドだ! 装備がド派手な分目立つ! 周囲にも注意しろ!」


「結界魔法が使えるアンデッドだ! 陣形を整えろ!」


「我ら王の野望のため! 我が威光で貴様らを葬ってくれようぞ!」



――ブワァァッ!!



 赤黒い魔力と殺気を威圧するように放出したのは『虚飾ヴァニタス』大罪を司りしスケルトンであるバビロン。

 一瞬にして辺り一帯はバビロンが放った赤黒い魔力と殺気で覆われる。


 『虚飾ヴァニタス』の力が混じった魔力に触れた何人かの冒険者は一瞬にして心折れたように震えだしてしまう。


 その様子を見て後衛にいたベテラン冒険者が肩に手をやるが、1度怯えてしまった冒険者たちは震えが激しくなっていく。

 ヒーラージョブが回復魔法をかけるが、まったく効果がない。


 


「ど、どんどん魔力圧が激しくなっていくぞ! 耐えろ!」


「あ、あぁぁぁぁぁ! 助けてくれ!」


「い、いやぁぁぁぁぁぁ!」


「我が威光で飲み込んでくれよう! 出でよ!『黙示録の獣』よ!」



 あまりの圧に震えだす発狂し始める冒険者に気を良くしたバビロンは自身の足下に巨大な魔法陣を展開する。

 そこからバビロン以上の邪気がこもった魔力が溢れだす。


 現れたのは、巨大な獅子のような胴体に6本の脚、7つの首が伸びており竜のような顔に角まで備えた獣だ。

 7つ首のそれぞれが色の違う宝石が散りばめられた王冠を被っている。


 そして『黙示録の獣』から溢れ出るのはバビロン以上の『虚飾ヴァニタス』の力を有した魔力。


 『大罪』が1つ『虚飾ヴァニタス』の力は、この力を有している存在に怯えてしまったり、恐怖させる気持ちを増大させていく力であり、1度魔力に触れて怯えてしまったら立ち直すことはそうは出来ない。

 ただ精神が屈しなければただの薄気味悪い魔力ということになってしまう。


 『黙示録の獣』が出現した瞬間に半数の冒険者は泡を吹いて倒れてしまった。

 1度『虚飾ヴァニタス』の影響で心を折られた者は2度と再起できないほどに心の傷を負ってしまう。


 これこそ『大罪』の1つ『虚飾ヴァニタス』の力である。その力に1度屈してしまう者が出てしまえば、連鎖的に崩壊が始まってしまう。



「くっそ……化け物めぇぇぇぇ! ”金剛鎧”!」


「行くぞぉ! 剣技ッ! 紅蓮の刃!」


「輝く宙より一筋の煌めきを! ”シューティングコメット”!」


「射貫いてやる! ストレートアロー!」



 『虚飾ヴァニタス』の影響を受けても立っていられた冒険者たちが我武者羅ではあるが、各々スキルを発動させる。

 その様子をみてバビロンは『黙示録の獣』の上で高らかに笑いながら宣言する。



「愚か者どもめが! 我は全てにおいて優先される偉大な王なりッ! 『全ての嘘はやがてグローリー・オブ真実へと塗り替わる・ピクチャー』」 



 自身のアビリティ名をわざわざ宣言した瞬間バビロンの空であるはずの両目が真紅に輝くっ!


 金剛石のような硬さをえるはずだった鎧は砂のように崩れ落ちていき。


 炎を纏うはずだった剣は燃え尽きて灰へ。


 魔法陣から落ちるはずだった小隕石は、何故か発動者の方へ。


 放たれた剛矢はいきなり反転して、矢を放った女の下へ。



 この世の全ては偉大なる『虚飾ヴァニタス』の大罪、スケルトンの王であるバビロンの都合が良いように塗り替えられていくッ!

 

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