第6話 勇者の『号令』


――聖都クリスニル


 

 聖都は多くの人で賑わっていた。


 今日は『勇者』が討伐する魔王を発表し、それと同時に出発する日。普段は落ち着いた街並みも少しお祭り騒ぎのような雰囲気に染まっている。


 この世界に住む多くの人々の期待と希望が寄せられる1日でもある。

 

 聖都には勇者を一目見ようとする者、護衛として雇われた者、それに各国の重鎮ともよべるような存在まで集まっていた。


 少し見渡せば名の知れているような人物ばかり。

 これは過去、魔王の手下によって勇者が、発表の場で暗殺されそうにあったことが原因で聖国が勇者を守るために、各国から招待したが故である。


 すでに勇者の手助けをする冒険者であったり、聖国から追従する騎士団は発表されており、残るは勇者による討伐魔王の発表のみとなっていた。


 

 壇上に勇者一行があがる。

 それだけで一斉に大歓声が巻き起こる。最早地鳴りのような勢いだ。

 先頭に立ち、発表を行おうとしているのは聖国が誇る最強勇者である『救世の賢者・坂神雫』である。

 

 彼女は自分の発表を見守る人たちを1度見回す。

 そして1度息を吐くと、少し微笑んでマイクに向かってストレートに言い放つ。



『私たち勇者が討伐する魔王は、『天風の魔王』と呼ばれている者です。厳しい戦いになると思いますが、支援と応援よろしくお願いしますね』



 バタッバタッ、雫の声を聞いて何人かの人物がその場で倒れ伏していく。

 ガヤガヤと動揺が走る中、雫は微笑みを絶やさずに声を出す。



「今倒れた方々は、私のスキルにより気を失った魔なる者です。確保してください」



――スゲェェェ! マジかよッ!



 警備兵たちが倒れた者を次々と確保していく。

 たった一声で各地にいる魔王が放った斥候を無力にした雫に集まる称賛の声、そして発表された出発の号令。


 勇者に用意されるのは最高設備が施された馬車。

 冒険者や聖国騎士たちはそれを囲むようにして、各々の馬車に乗り込んでいく。

 発表からのすぐに出発する。これは魔王に出来るだけ猶予を与えないというのと、聖国に留まると何か事件になりやすいという過去からの学びから得ている風習である。


 こうして一瞬にして終わった発表から、流れるように勇者御一行は『天風の魔王』が潜む公国に向けて出発したのだった。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 いつも忘れてる実績プレゼントを確認したらアイテムがあったので、1人で踊っているところだ。

 最近は誰かしらがフォルカを触っているので、モニター以外の機能を使用して無かったから、確認してビックリした。



1.戦力トップ5%以内の人間撃破記念 【ランダム魔物獲得チケット】

2.街の住民が5万人を突破した記念 【指定ダンジョンエリア獲得チケット】



 何がビックリってミネルヴァが、あんなにいる人間の中で5%ってのが驚きだ。もっと強い部類だと思ってたんだが、上には上がいるんだな。しかもたくさん。


 ミネルヴァに単純な1対1で、誰が1番強いのか聞いたら、ミネルヴァは会ったこと無いが、よく噂になるのは桜火の国を纏めている『桜火神喰会・会長』っていう立場の人間がアルカナ騎士団の中では1番という認識をされていたらしい。



「ランダム獲得って言いながら、最高Sランクってどういうことだよ」



 【ランダム魔物獲得チケット】って言うからEXも奇跡的に獲得できるかと思ったら最高Sランクまでという制限があるが、通常よりも能力が追加されるらしい。能力値かしなくていいから低確率でもEXが良かったな…。


 とりあえず使ってみることにして、何が出てくるか見守ると、小っちゃな子猿が生まれてきた。



【ハヌマンモンキー】 猿族 ランクG 真名 無し 使用DE??

 ステータス 体力 G  物理攻 G  物理防 G

       魔力 G  敏捷 F  幸運 G

アビリティ ・変顔 F

      ・飢え凌ぐ C

スキル  ・ 無し


・手のひらサイズの小猿。我慢するのが得意。【チケット限定魔物】



 Gランクマニアの俺が見たこと無い魔物が出てきたんだけど助けてくれ。

 Gランクなら自由だと思っていたのに、俺の知らない魔物がいる? 最初からコアに表示されていないってことは、この猿は何かの魔物を配合しないと生まれない存在ってことだ。

 魔物は基本配合したらある程度は強くなるはずだし、超変異したとしてもGランクになるなんてことがあるのか?


 白・黒・黄色の毛が入り混じった手のひらサイズの小さい猿なので可愛いけど戦力としては考えられないな。

 俺の肩に黙って座っているので気に言ったんだろう。


 そんなやり取りをしていると、イデアとポラールがやってきた。



「ご主人様、やはり勇者は『天風』と公表し、先ほど出発しました」


「ミネルヴァの言う通り、聖都内にいた魔王関連と思われる者は全部捕らえられたみたいだね」


「危なかったな。とんでもないスキルだ……」



 同じ賢者ってだけあって、ミネルヴァは『救世の賢者・坂神雫』に近づく機会が多かったようで、少しだけ能力を知っており、俺の影響を受けている人間を近づけさせないほうがいいとのことで「紅蓮の蝶々」と『夢幻の星ドリームスター』は聖都から離れさせた。

 『救世の賢者・坂神雫』の能力影響を受けた人間は強制的に浄化されてしまうらしく、魔王と出会う前の状態に戻るようだが、支配されていた期間の長さだけ罪の炎に燃やされてしまうらしい。聞いただけだとよくわからない。


 つまり魔王に繋がりがあれば締め出されるって覚えておけばいいってことか。



「やっぱ理不尽なもんだな。勇者って」


「声を聞くだけでも影響を与えてくるのは厄介ですね」


「2人には効かないだろ?」


「効かなくても、何があるか分からないから対策だけは練っておかないとね」


「ご主人様の肩をマッサージしている子は新人さんですか?」


「あぁ…ちょうど今、召喚したんだ」



 ハヌマンモンキーは自分から出来ることを探そうと懸命に頑張ってくれている。音を立てないようにコソコソやっているので可愛い。今は俺の肩を揉んでくれている。健気すぎて癒しだ。

 メルとハクが配合前は癒し枠だったが、新たな癒しとして仲良くするとしよう。



「凄い数の冒険者で名の知れたのも居るみたいだね」


「進路上の魔物を倒していくのに、あれだけの数揃えるのは驚きですね」



 各地から約100組の冒険者を雇い、魔物関連の問題を解決していってもらい、出来るだけ勇者の負担を無くそうって魂胆なんだろう。

 アイシャもラムザさんには断られたようだが、勇者を疲弊させるために魔物を仕掛けるようだが、さすがに冒険者の数が多すぎる。



「フォルカで参加しなくて良かったな。浄化とやらを受けるところだった」



 雇われ冒険者にフォルカで参加しようと考えたこともあったけど、声を聞くだけでアウトなら行かなくて良かったと本当に思う。

 少し勇者を見くびりすぎたな。


 俺たちもラムザさんには、ミルドレッド亡き後の対処を手伝ってもらった恩がある。ラムザさんは友のためと言っていたが、俺の師匠に対してのことなので、俺は恩があると思っている。


 だけどミルドレッドの仇でもある勇者御一行様を見過ごそうなんて思わない。さすがに多くの目がある中で襲って、特定されて世界中から狙われるのは困るので、やり方は考えるが…。


 手を出してほしくないと言っていたが、俺もアイシャと同じやり方で冒険者を減らそうと思っている。


 勇者を直接叩く前に周囲の壁から狙ってみるとするか。



「キッーキッー!」


「危ないぞ?」


「キッーキッー!」



 置いて行こうとしたら離れようとせず、俺も行くって感じのハヌマンモンキーを振り払うことが出来ない。

 ポラールとイデアも、引き剥がすことはせずに、俺の行動を待っている。

 まぁ仕方ないから連れてくしかないな。


 俺は肩にハヌマンを乗せ直して、事前に決めて置いた場所に行くことにした。


 勇者……特に坂神雫とやらには会いたいが、まずは周囲の冒険者狩りから始めるとしよう。


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