第5話 女帝の『決断』


「私はありのまま報告させて貰っただけだ」


「国に仕える者としては基本の話だが……ここでは言い訳にしか聞こえんぞ?」


「いや……そんな真似はしないさ。ここまで来たからには覚悟はしてるよ。もちろん抵抗はさせてもらうけどね」


「なっ! おい! 我らはどうなるのだ!」



 さすがに第2師団団長。世界に4人しかいない賢者だ。

 土壇場での肝の座り方が素晴らしい。それに比べて参謀とかいう老人はダメだな。歳の重ねているだけの天狗にしか見えん。ここまで来て自分の保身のみが最優先な思考回路の集団に見える。


 ミネルヴァをすんなり殺してしまうのは惜しいものがある。地位があり、普通の人間では知らないことをたくさん知っており、自衛力もある。欲しい人材だ。


 こんな参謀がいて帝国がしっかり成り立っているってことは皇帝がいかに優秀かってことがよくわかる。



「ミネルヴァのことは買っている。帝国を捨ててアークに来て欲しいくらいだ」


「私がそこまで恥知らずだと思っているのかい?」


「魔王が人の都合を気にするとでも?」


「それもそうだね」


「わ、我々はどうなさるおつもりでしょうか?」


「その帝国が誇る頭脳で考えてみればいい」



 さすがにギャーギャー騒いでいる老人4人は面倒になってきた。

 全員ではないとは言え、本当にこれが帝国の頭脳って呼ばれている奴らなのか? ここまできて自分のことばかりよく聞けるもんだ。こういう奴らは平気で誰かを裏切るから好きになれない。


 少しミネルヴァが可哀想になってきたな。



「ガラクシア、あの4人は任せたぞ」


「はーい♪」



 ガラクシアが声をあげた瞬間。

 騒いでいた参謀4人は急に黙り、ガラクシアを見つめている。

 まぁこれで帝国の頭脳4人は解除されない限り、情報を常に俺へと流してくれる便利な4人組になった。これで帝国に対しての問題と侵略の1部は成功と言っていいだろう。


 ミネルヴァは少し諦めたような表情をしている。



「さぁ……邪魔者はいなくなったな」


「後が無くなったね」


「悪いが栄誉ある死なんて言うもんに美学を感じんぞ?」


「出来たばかりのダンジョンに、こんな強い魔王がいたなんて誤算だった。あの村で会った時に退いておくべきだったね」


「俺も気を付けているが……慢心してると良いことないからな」



 ミネルヴァの足下に5色の魔法陣が展開される。タイミングが上手いし、さすが賢者だけあって素早い。



――パリンッ!



 スキルが発動される前に魔法陣は無残に砕け散る。

 デザイアがアビリティをONにしたんだろう。本当に面倒くさがりなのに、抜群のタイミングを常に見計らってくれている良い子だ。姿を見せていないのもさすがだ。


 もうステータスもマイナスまで行っているだろう、ミネルヴァは俺にすら勝てない存在へと退化させられてしまった。



「諦めろ。魔王に目を付けられたもんが悪い。それと魔王を甘く見過ぎた結果だ。」


「はぁ……これで人類史では最悪の人間として名を残す訳か」


「魔王史では偉大な配下だったと残せるように頑張ってくれ」



 俺はデザイアに頼んで、イデアと2人で魔物化してもらうように頼む。人間のままだと何時脱走したり、問題を起こされるか分からんからな。

 ミネルヴァはとんでもなく嫌そうな顔をしていたが、外見はそこまで変わらないことを説明しておいたので安心していた。


 これでチケットが無くても配下を増やせる。配合する気はないが、ビエルサと同じくらいに仕事を頼めそうな存在が仲間になってくれた。


 しかも下地がミネルヴァなら魔物になって長生きする分、かなりの活躍を期待してもいいだろう。


 ガラクシアの手が完全に加わった参謀4人はウロボロスが綺麗に帝国へと転移させた。

 これで解除されなければある程度は自由にやれそうだ。









――帝都アルカーヌム




 帝国騎士団に……帝都全体に衝撃が走った。

 世界が誇る4人の賢者の1人。最高峰の魔法使いの称号を持つ者。

 そして帝国アルカナ騎士団第2師団団長『女帝ザ・エンプレス』が消息不明になっていた。城にいたはずなのに気付けばどこにもいない。


 『女帝ザ・エンプレス』の部屋は何者かが荒らしたかのように酷いことになっており、『女帝ザ・エンプレス』のもので間違いない血痕がいくつも壁にこべりついているのだ。


 それと同時に帝国アルカナ騎士団第8師団副団長『隠者ハーミット』も死亡したと参謀から正式に発表された。

 僅か1夜で2名の重大戦力を失うと言う遥か昔、各国で戦争を行っていた時代以来の事件である。


 そして参謀たちから公言されたのは、2名とも他国への調査や武力制圧の指示を出していた中であったとも発表された。


 暗殺の恐怖に備える中、帝国騎士団に所属している者たちは、現在少しずつ激しくなっている他国との小競り合いが、さらに激しくなるだろうと予測してた。


 そして4人の賢者のうちの1人が欠けたというのは一瞬にして広まってしまう。


 この2名を失った大事件をきっかけに、各国の領土争いは激しさを増していく。







――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 俺の正面にはイデアとデザイアに弄られたミネルヴァがいる。

 2人の力で種族を変えたのだ。

 まぁ簡単に言えば1度殺して作り直すという作業だったらしんだが…。



【偽女帝】 偽人族 ランクS Lv250 固定

      名前 ミネルヴァ 使用DE??

 ステータス 体力 B+9  物理攻 B+5  物理防 A+10

       魔力 SS+21  敏捷 A+3  幸運 B+2

アビリティ ・『無限魔力』 SS

      ・四元素の使い手 S

      ・軍神女帝 SS

      ・魔導に至る者 S

スキル  ・四大魔導 A

     ・光魔導 A

     ・時空間魔法 A

     ・騎士剣技 A

     ・結界魔法 A

     ・付与魔法 A



 種族を変化させただけで他は変化させていないらしい。『偽』ってところがイデアらしさがでていていい感じだ。

 魔物になると武装具のステータスは表示してくれないのは新発見だ。

 スキルは凄まじいものがある。特に4属性の魔導が使用できるし、他にも多くのジャンルの魔法が使用できるのは、さすがの汎用性だ。賢者様万歳。

 魔力が尽きることなく回復し続け、存在しているだけで味方の全ステータスを上昇させることが出来るし、スキル攻撃力も上げれるのは珍しい。

 

 これが勇者&プレイヤー以外の限界値、普通の人間トップ50以内の力みたいだ。これが知りたかった。これを基準に各国騎士団や冒険者の力を、なんとなく予測できる。


 世界最高の魔法使いの1人がこんなもんなら、勇者&プレイヤー以外は大体がこれ以下ってことだからな。


 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の強さが逆に際立つけど、人間としてはミネルヴァも規格外なものがある。

 『無限魔力』は先天性でもっていたものらしく、やはり生まれというのも大事なのかもしれないな。



「よろしく頼むぞ。もう昼だけど帝都は大騒ぎだぞ」


「そうだろうね。これで各国の均衡が崩れると思うよ」


「人間ってのも愚かだな。仲良く出来んもんなのか?」


「人の欲ってのは果てしないのさ」



 まぁ勝手にやってくれとも思うが、アークに悪影響になるようならば手を出すかもしれない。戦争で犠牲になる罪なき子どもたちも可哀想だ。

 勇者が魔王討伐のために動くときは、さすがに落ち着くだろうけど、それが終わったら一気に仕掛け合うんだろう。


 魔王的にはどうなるのがいいのだろうか? 今のままで良い気がするんだけど、1つの国が治めるほうが良いもんになるんだろうか? 分からん。



「聞きたいんだけど、他の魔王も『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のような魔物を配下にしているのかい?」


「滅多にいないな。俺は何個もの制限がある代わりに配下がとんでもなく強くなるって覚えておいてくれ」


「私はとんでもなく下っ端だね」


「変に欲をだしてるとポラールやメルに消されちゃうから、やめておいたほうが良い」



 ミネルヴァからある程度の情報は聞くことができた。ミネルヴァから見ても化け物クラスの人間はそこそこいるそうなので、決して油断はできない状況だ。

 

 もちろん……ミネルヴァが知らないところで、とんでもない強さを持った人間だっているはずだ。魔王界だってそんな感じだと思うし…。


 でもどこかの国に仕えていた人間を配下にするのはミネルヴァだけでいいと思っている。人間側の情報に詳しく、国の動きや勇者について理解がある者を配下に加えたかっただけだから、これ以上は不要な事件を招きそうな気がする。


 今回、魔王討伐に出る勇者は、俺が倒した3人とはキャリアも実力も大幅に違うようで、特に『神速刃・暁蓮』は生きている人間たちの中でも、1対1ならトップ10に入る強さを誇っているらしい。


 これをラムザさんに伝えても、頑なに助けはいらんって言うんだろうな。

 でも道中の冒険者はラムザさんも気にしないだろうから、アイシャと一緒に冒険者掃除をして、少しでもラムザさんが勇者だけと戦える環境を作り出してあげたい。


 ミネルヴァには当面の間、ダンジョンに籠ってもらって、聖国での発表会があったら動いてもらおうと思う。

 勇者相手に上手く立ち回ってもらいたい。ミネルヴァも戦ってみたいそうだが、きっと負けると思うから違う任務をこなしてもらう。



「勇者様はわざわざ道中にある、魔物での問題を解決しながら進むそうだから、やりようはいくらでもある」



 真っ直ぐダンジョンに行けないのが、勇者の枷って感じもするけれど、それをしつつ、魔王も倒す力があるから勇者って言うのかな……と一人で勝手に納得してしまう俺であった。

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