第22話 無慈悲な『海賊狩り』
――『天風の魔王ラムザ』ダンジョン コアルーム
『天風の魔王ラムザ』の弟子であるアイシャが一緒にソウイチの魔王戦争を観たいと言うことで、ラムザはアイシャを自分のダンジョンに招いていた。
残り20分ほどで開戦ということでアイシャはソワソワしている。
その様子を見てラムザは自分の弟子が良い同盟相手をもったとアイシャに気付かれないように微笑んでいた。
2人が見ている魔王戦争準備段階を映している画面には大海原に広がるような布陣で構えている数えきれない量の海賊船が映し出されており、まさしく圧巻という言葉が相応しい光景になっていた。
そんな『海賊』に対するは、浜辺に立つソウイチとポラールの2人だけという魔王戦争とは思えないほどの寂しい布陣。
圧倒的戦力差に見えるが、ラムザとアイシャにはソウイチに関して、重大なあることを知っている。
それは「勇者3人を同時に殺している」ということだ。
「ソウイチはあんな条件を出していましたが、勝つ自信は大いにあるそうですよ」
「じゃなきゃ、あんなふざけた条件を出さないだろう。勇者3人に勝利した実力を見せてもらうとするよ」
「私を助けてくれたスライムはいませんね?」
「ダンジョンの守護に回しているんだろうね」
2人はソウイチと関係があるが、以外にも情報は持っていない。ソウイチが自分のことをあまり話したがらない性格をしている。何度もダンジョン間を行き来しているアイシャでさえもソウイチの魔物については詳しく知らないのだ。
アイシャも以前助けられたメルクリウスの実力は少し知っているが、メルクリウスが勇者を3人も仕留めたとは考えづらく、ルーキーでは考えられない、勇者3人に勝利するような魔物がどこにいるのかと気にしている。
そんな中、2人も聞き慣れたいつも通りの魔王戦争実況の声が聞こえてくる。
『さぁ! やって参りました! 『海賊』vs『大罪』の魔王戦争開戦が近づいております! 前代未聞! ルーキーが大先輩魔王に喧嘩を売り尚且つとんでもないハンデを自分に課すという舐めっぷり! 『海賊』はあまりの怒りで一時我を失ったそうです!』
「だろうね。僕も同じ事されたら怒ってしまうよ」
「目立つのが好きな性格では無かったはずですけど…」
あんな挑発をすれば、この魔王戦争への注目度は凄いことになるし、魔王界ではとんでもない噂になっている。
しかも相手は上級魔王には程遠いが、それなりの経歴を持つ『海賊』。
海戦では無類の強さを誇っていて、とんでもない戦術家でもあると噂になっているほどだ。
強気な姿勢で挑んで来る魔王を海に葬ってきた実績のある相手に対して、ソウイチの舐めっぷり、ソウイチと何度も会っているアイシャから見ても、ソウイチが何故こんな目立つようなやり方をしているのか理解できていない。
『『大罪』と言えばコアからGランクしか召喚出来ないで有名! 途中でGランク以上の魔物を失っても復活させることが出来ない! あんな挑発をしたということはチケットで良い魔物なんかをゲットしたのかー!?』
モニターで見ている多くの魔王は笑っているだろう。
チケットとソウルピックに全てがかかっているギャンブル人生に振り回されて、運が良くなったら調子に乗って高みに挑んでいるかのような実況の話っぷり。
しかも相手が『海賊』ともなれば、多くの魔王たちの脳裏に過るのは惨殺されて魔物の餌にされているソウイチの姿だ。
多くの魔王は、この戦いを魔王戦争ではなく…1つのパーティー程度にしか認識していない。
『対する『海賊』は海戦の達人! 挑んで来る若造に今回も現実を伝えるのか!? 得意中の得意である海での戦争! 今日も勇ましい海賊船が若造の首を掲げようと戦闘隊形だぁ!』
海に潜ませる魔物と船の上や空から攻めることが出来る魔物とバランスの良さは長年魔王を続けている魔王の特権だ。
『海賊』の力を受けた魔物は敏捷性、船上や海上で力を増す力を得ている。まさに『海』という環境は『海賊』のためにあるような戦地なのである。
「そろそろですね」
「楽しませてもらおうか」
アイシャは少し緊張気味に、ラムザは優雅にお茶を飲みながらだが、しっかり画面からは目を離していない。
画面では両魔王が映し出され、戦前最後の言葉を掛け合っている。
『よくもあたしをコケにするような真似をしてくれたね! その首晒して歴史に名だけは残してあげるよ。歴史上一番マヌケな魔王としてね!』
『できないことは言わない性格なんだ。残念なことに俺はアンタの首を晒してはやれないな。終わるころには塵となって消えてるだろうから……俺の仲間を舐めるなよ』
怒りに震える『海賊』と冷静に応える『大罪』、互いが挑発し合う。
観戦している魔王たちは大盛り上がりになっているであろう掛け合いに実況のボルテージも上がっていく。
未だかつてない……ルーキーが先輩魔王への敬意のないかのような発言。
互いのプライドを全てかけた。
大海原での魔王戦争が幕を開ける。
『15分で決着が着かず、『大罪』が戦場に4体目の魔物を出した瞬間に『大罪』の敗北となる特別ルール魔王戦争! 『海賊』vs『大罪』……いざ開戦!!』
「ポラール、デザイア。……頼むぞウロボロス」
――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
勢いよく進んで来る海賊船を眺めながら、呟くようなソウイチの掛け声とともに、3つの魔力が至る所から戦場を覆うように溢れでる!
ソウイチの足下から出現し、そのままソウイチを乗せて飛び出したウロボロス。
ソウイチの隣に立っていたポラールは海全域を眺めれるような上空まで飛び上がり、突如現れたデザイアとニャルラトホテプのコンビが不気味な笑みを浮かべながら浜辺に降臨する。
ポラールとデザイアは溜めていた魔力を解放させる。
「『
「『
――バキバキバキバキバキバキッ!!!
――ギャオォォォォォォォォォォォォ!!!
戦場…そして観戦していた全ての魔王の時が一瞬止まる。
開戦の花火とともに起こった出来事に…。
画面に広がっていた大海原は、瞬きをした瞬間には……鮮やかな『氷河地帯』へと変わり、海賊船全ての動きは綺麗に停止している。
ソウイチのダンジョンに勢いよく進軍していた全体の役半分にもなる海賊船の下から湧き出る黒い渦と渦の中から勢いよく全てを取り込もうとする大量の触手によって、海賊船は黒い渦の中へと消え去った。
そしてソウイチの足下から突如出現した。超巨大な空飛ぶ蛇龍。
僅か30秒にも満たない時間で、観戦していた全ての魔王から……笑顔を奪いとっていった。
◇
――魔王戦争 氷河上空 ソウイチ
「これで残り半分、作戦通りだな」
開始の合図と同時にポラールとデザイアによる先制攻撃。
ポラールの最速『
そしてデザイアの『
そして残りは俺がウロボロスに乗って『海賊』を探しながら攻撃の指示をするだけ。
3手で良いんだ。これで『
「魂まで蝕み尽くすせ、ウロボロスッ!!」
――グガァァァァァァァッ!!!
指示を出してウロボロスの口から氷河地帯へと変わった地上に向かって毒炎を放って貰う。これでも溶けないんだろうな…ポラールの力ってやつは…。
ウロボロスが放っているのは神をも殺す毒の炎。
その炎で燃やされた者も、毒に侵され溶け消えた者も、揃って魂ごとゆっくりと消滅させて永久に苦しませる毒炎だ。
動けない『海賊』の軍勢にウロボロスの毒炎から逃げれる魔物なんていないだろう。人型アンデッドや魚人、巨大な蛸のような魔物しか地上には残っていない。
「ギャァァァァァァ!」
「ウゴォォォォォォォ!!」
「アネゴォ! タスケテクレェェ!」
ウロボロスの放った毒炎は残った全ての海賊船を覆い尽くす。
たぶん1番奥に見えるデカくて巨大な海賊船も燃えてるから、あれに『海賊』が乗っててくれたならゲームセットになると思うんだけど、どっかに隠れてたりするのかな?
「ウロボロス……どっかに隠れてる気配するか?」
時空間魔法を使っていても、極時空間魔導を使用できるウロボロスには探知できるし、追うことだって可能だ。
どうにか逃れていても絶対に見つけ出して消滅させてやる。
ウロボロスが『海賊』を探知したようで、巨大な船内から逃げてはいないようだ。
奥にある巨大な海賊船だけ燃え続けて、残りは全て灰となって消えていく。
『海賊』の魔物たちの嘆きの叫びを聞きながら、ウロボロスで巨大な海賊船へと近づいていく。
すると崩れ行く海賊船の甲板でのた打ち回っている魔王らしき気配のある奴を見つける。
放っておいてもいいんだけど、最後に敬意を持ってしっかりトドメを指すとするか……4手になるけど…。
「ウロボロス」
――グオォォォッ!!
ウロボロスが甲板目掛けて毒炎を再度放つ。
ただでさえ崩れようとしていた海賊船は、ウロボロスの追撃によって『海賊』ごと塵となって消滅した。
『…え? お、終わり? し、し、勝者! 『大罪の魔王ソウイチ』! な、なんとぉ! 試合時間は4分で終わってしまったぁ! 『大罪』! お、お前は何者なんだァァ!?」
「俺が強いんじゃなくて、強いのは俺の仲間たちなんだけどな……」
実況が判定を下したから終わりだ。俺を注目するより、ポラール・デザイア・ウロボロスを注目してやってほしい。最速最短という無理難題をこなしてくれた最高の3人こそ今回称えられるべきだ。
終了の合図がしっかりあったので、やっぱりさっきのが『海賊』であっていたようだ。
3人とも素晴らしい働きをしてくれた。姿を見せすぎるのも嫌だから帰ろうかな。
「さぁ帰るとするか」
これで帝国領土南では自由にやれそうだな。
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