第21話 広がる海を『待ち望む』


 魔王戦争まで残り3日のところまで来た。

 もちろん戦争準備として『海賊』の魔物についてだったり、過去の魔王戦争での戦い方だったりは調べることは怠っていない。

 水に関連した魔物とアンデット系で武装したタイプって感じの魔物が大半を占めて、水中戦だったり水中から不意をとるのが上手い特徴があるように感じた。


 地上戦が苦手なわけではないが、海のような環境を作り出せる結界もちがいるようで、毎回戦場を有利対面にすることに『海賊』は力を注いでいるように見えた。



「まぁ調べれることはこんなもんかな」



 そして決まった今回の魔王戦争の戦場は海。これは『海賊』が決めたものだ。

 もちろん予想通りだ。俺たちの初期位置は洞窟入り口の先に少しだけ広がる浜辺と1隻の船があるのみで、基本海面や水中戦を想定した戦場だ。

 そんでもって『海賊』は大量の海賊船で侵攻してくるという構図。



「そういえば水中戦ができるのが『罪の牢獄』には全然いないな……海ごと消し飛ばす魔物はいるんだが……」



 まぁ相手も油断せずにしっかり自分たちが最大限に強さを発揮できる戦場を選んでくれたのは、力を見せつけたい俺たちからすればありがたい話でもある。

 水中戦ができるかどうかは正直心配しなくても大丈夫だろう。


 ポラール・ウロボロス・デザイアの3人には、戦場についての話はしてあるので問題ないはずだ。



「勇者が女神からの神託で、どの魔王を倒すか気になるが、聖国自体が騒がしくて情報が得られにくいな」



 何やら聖都にて魔王が1人街に侵入してきて大暴れしたそうで勇者に鎮圧される事件があったようなので、「紅蓮の蝶々」と『夢幻の星ドリームスター』の動ける組に調査を依頼して聖都に行ってもらっている。

 

 『夢幻の星ドリームスター』支援組のマコ・マコとリンランによるダンジョン前の食堂&装備補修屋は大繁盛しているようで、おかげさまでダンジョンにくる冒険者も増えて助かっている。

 イブリースを突破する冒険者が増えてきたが、イデアが創り出した魔物に苦戦しているようだ。

 聖国のことも気になるが、アークのこともしっかりと整えていかないとな。



「マスター、あーん♪」


「あーん」



 基本的に俺とコアルームに待機することになっているハクは自由気ままだ。

 ただ俺が画面を険しい表情で見ていると心配してくれるので可愛いのだが、ハクの気分が悪くなると潰されそうになるほど重い威圧感が出てきて困ることもある。

 

 のんびりしているように見えるが、昼寝してても何かあればすぐ動いてくれるだろうから大丈夫か。



「マスターが心配しなくても、僕たちのところまで来れる人いる?」


「まぁー……少ないだろうな」


「それに誰が来ても僕が滅殺するから安心して♪」



 コアごと滅殺していきそうなのが恐ろしい。

 でもハクがコアルームに待機してくれているだけで安心感が違う。

 何かあるまでアビリティはOFFにしててくれるから威圧感もないので大助かりだ。



「アイシャとピケルさんには悪いけど、今回は1人でやらせてもらう」



 2人とも一応声はかけてくれた。

 あんなメッセージを出してるから、俺一人でやりたいという意思は分かりつつも、同盟として声をかけてくれたんだと思う。

 凄くありがたかったけど、今回ばかりは断らせてもらった。その分しっかり激励の言葉をもらったので元気が出た。

 

 こうして考えると、ミルドレッドの頑固さを変に受け継いでいるのかもしれない。


 ちなみに調べた結果、今のところ『海賊』も同盟に頼ることはせず、1人で挑んでくれるようだ。

 まぁルーキー相手にあそこまで言われて、集団で襲い掛かるわけにはいかないって感じだろう。



「それにしても海かぁ…」



 なんだかんだ魔王になって世界の景色を楽しむなんて考えてこなかったから、今になって海が楽しみになってきた。

 行こうと思えばいつでも行けるんだけど、わざわざ時間を割いてまで行くのも時間の無駄な気がしてるので、今回は魔王戦争をやるついでに海も見れるのでラッキーに感じる。



「それにしても情報がたくさん入ってくるな」



 活動範囲を広げたからか、どんどん気になる情報が入ってくる。

 帝国からは遥か東のほうにある、海に浮かぶ島「桜火の国」から1人、勇者並みに強いと噂の人間がいたり、帝都で大騒ぎになっているカジノ壊しのプレイヤーがいるって話、そして気になるのは勇者を追放された元勇者が聖国からの追手から逃げながら各国で目撃情報があったりと様々だ。



「気になり始めたらキリがないな」


「ストレスになることは全部消しちゃえばいいんだよ? 僕が斬ってこようか?」


「ハクは俺と一緒にここを守っていてくれ」


「っ! 一緒にいる♪」



 1人で行かせたら、うっかり国を滅ぼしてきたなんて言いそうなので行かせられない。

 俺の言った言葉がヒットしたのかハクに抱きつかれる。なんだかんだ前の一角ウサギ時代と変わらず癒しの存在なので愛でておこう。

 何気に身長が近いのが気になるし、一角ウサギ時代と違って美人さんになったので、こういったスキンシップにドギマギしてしまうのは仕方ない……ということにしておきたい。



「ハク、お昼ご飯一緒に食べるか?」


「うん♪」



 さぁ…『海賊』狩りのために体力つけないとな。

 3人には変にプレッシャーになるようなことは言わず、各々の力を存分に発揮できるような環境を整えられるように頑張らなきゃな。









――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 魔王戦争前日。

 ダンジョンを閉め終わり、みんなで戦争前の晩御飯タイムを楽しんでいる。

 ちなみに今日のご飯は大量の唐揚げとサラダに色んな種類の漬物だ。

 白米と味噌汁もたくさんあるので、大ボリュームだし、体力がなんとなく付きそうな気がする。

 なんか白米と味噌汁があると落ち着くんだよな……何故だかは知らないけど。



「さぁ…いよいよ明日だからな。食べたら早寝早起きだぞ」


「妾たちは子どもではないぞ」


「戦争は13時からではないのですか?」


「くそ……冷静だな2人とも」



 悲しいことに俺以外の誰も魔王戦争への緊張をしていないようで、食事風景もいつも通りという感じだ。

 阿修羅と五右衛門は最近、俺が使わないからって2人でフォルカを使いまくっているようで、戦争よりもフォルカの話を2人でしてる始末。フォルカのよからぬ噂は全部あの2人がだしたもんだな……。



「ますたー。どっしり構えていいと思う」


「ちょっと和ませようと思っただけだよ」


「さすが王! こんなときも我らの士気を気にするとは!」



 確かに緊張はしてる。

 けど負ける気は一切しない。だって『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中から3人……それも3人とも敵が多くても気にならない能力構成をタイプだ。

 しかも俺たちのリーダーであるポラールに、デザイアとウロボロスが出るんだから、戦争はすぐ決着がつくと思ってると伝えると、みんな笑っていた。



「これは責任重大ですね」


「妾たちにしっかり働けということじゃな……少し面倒になってきたのぉ~」



 ポラールとデザイアが唐揚げを頬張りばがら微笑んでいる。

 上を見ると裂け目を作って、そこから覗いているウロボロスも力強く俺を見ている。

 ここにいる誰一人負けるなんてあり得ないとしっかり思っている。自分たちの強さに過信しすぎている訳でもなくて、しっかり俺と『海賊』について調べるのを各々が手伝ってくれた結果であって、しっかり勝つまでのシミュレーションを全員で考えたからこそもっている自信と確信だ。



「3人の凄さを多くの魔王に知らしめることが出来るのも、今となっては少しワクワクしてきたよ」


「全力を出す相手には至ってないのが残念ですね……互いに影響がでないように気を付けて戦いましょう」


「妾はポラールが攻撃する前に引っ込む予定じゃから安心じゃ」



 2人が本気を出したら敵味方関係なくとんでもないことになってしまうので自重してもらわなきゃならない。俺とウロボロスを安全に戦わせて欲しい。

 3人とも共闘というよりはエリアを分けて戦うつもりなので、互いに邪魔をすることはないだろうから大丈夫だと思うけど、今回のような広い戦場でも狭く感じてしまうほど能力範囲が広いのは驚かされる。



「それにしても唐揚げ美味しいねー!」


「サラダもさすがアークで育てた野菜たちだけあって美味しいですね」


「ふふっ…野菜はどんどん食べてくださいね♪」



 毎回みんなで食事してると思うことがある。

 俺がこの先どんな魔王になろうとも、この光景と楽しい環境を忘れずに、そして続けられるような魔王であり続けようって。

 決して仲良く一緒に戦える集団じゃないけれど、各々がしっかりとした個性と強さを持ち、俺と一緒に理想を叶えるために頑張ってくれる『罪の牢獄』の魔物たちと永遠に一緒にいるために。


 まずは『海賊』との魔王戦争。


 しっかり勝たせてもらうぞ。

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