第18話 魔王の『覚悟』



 今、果樹園には『罪の牢獄』が誇る最強の魔物『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が勢揃いしている。


 『色欲ラスト』の大罪ガラクシア。

 『憤怒ラース』の大罪ポラール。

 『無頼ソリトゥス』の大罪アヴァロン。

 『嫉妬エンヴィー』の大罪メルクリウス。

 『暴虐フォルテ』の大罪阿修羅。

 『怠惰スロース』の大罪レーラズ。

 『強欲グリード』の大罪五右衛門。

 『偽神ヤルダバオト』の大罪イデア。

 『不死ポイニクス』の大罪シンラ。

 『欲夢パッシオン』の大罪デザイア。

 『虚飾ヴァニタス』の大罪バビロン。

 『回帰ルブニール』の大罪ウロボロス。



 ウロボロスだけ身体が大きいので空間の裂け目から頭だけ出している状態だが、しっかり勢ぞろいして俺の言葉を待ってくれている姿は圧巻だ。

 俺のいつもと違う表情やポラールからなんとなく聞いて俺がこれから話す内容を察しているんだろう。いつもは眠そうなレーラズやデザイアもしっかり俺のほうを向いてくれている。


 俺はみんなの前で『海賊』から寄せられた手紙を読み上げる。

 読むごとになんとも言えない重い圧が辺りを覆い尽くす。手紙を読んだだけなのに鳥肌がたってしまう。

 誰も何も言わないが、とりあえず怒っていることだけはこの圧で分かる。


 そして俺は謝罪の意をこめて、みんなに頭を下げた。



「どういうことかのう」


「ますたー、やめて」


「マスター…」



 各々が驚いたような雰囲気を出したり、言葉を発してくる。まさか突然頭を下げるだなんてことは事前に聞いていなかっただろう。

 俺は頭を上げ、意を決して、今の想いを思うがままに話す。



「この手紙、そしてこの内容は俺の行動が生み出したものだ。この内容は『罪の牢獄』の格を表している。ここにいる『枢要悪の祭典クライム・アルマ』という最強の魔物たちが居ながらこの体たらく。完全に俺の魔王としての責任だ」


「ご主人様……」


「……若」



 各々がしっかり耳を傾けて聞いてくれている。自分でもハチャメチャな内容だとは思うけど、頭に浮かんできた言葉をそのまま吐き出し続ける。


 ここで魔王としての覚悟を見せられないようじゃ魔王なんて失格……そんな風に感じているから。



「『枢要悪の祭典クライム・アルマ』は最強だ。共闘すると本気が出せないような弱みはあるけど、個々が圧倒的な力を持っている。この世で一番強い魔物たちの集まりだと俺は思っている。その集団が付いてきてくれているのに、この舐められようは、ほとんどの魔王である俺を舐めているからってのと、みんなを隠してきたという行動が理由だと思う」



 そうだ。

 俺がビビって行動してきた結果。

 今回、最強だと信じている『枢要悪の祭典クライム・アルマ』のみんなにも嫌な思いをさせてしまうことになってしまったのだ。

 こんなに忠誠を誓ってくれている魔物たちの目の前でチキン野郎呼ばわりされる主なんて最悪だろう。



「先の詫びは、みんなにこんな思いをさせてしまったことに対する詫びだ。そして今から話すのは俺の魔王としての覚悟だ」



 俺は一度深く深呼吸をして話を続ける。



「俺の理想は、どんな種族でも楽しく、仲良く暮らせる街を築きあげること。そしてもう一つ、みんなと一緒に最強まで駆け上がることだ。この世界でも最強になって、まだ見ぬ世界でも最強の魔王になりたいんだ」



 一つ目の理想は、みんなの前でもいつも語ってきたものだ。

 そしてもう一つは『海賊』からの手紙を読んでから強く目覚めた理想。

 このダンジョンのみんなと最強の魔王になり、四大国全ての土地を治めて、唯一無二の魔王になりたいというものだ。



「慎重になることも時には必要だとは今でも思っている。だけど、『枢要悪の祭典みんな』がいるのに必要以上にビビるのはもう終わりにしなくちゃいけない。まずは『海賊』と魔王戦争をして、全ての魔王に俺たちの力を見せつける。負けるなんて考えられない、それは『枢要悪の祭典みんな』がいるからだ」



「私たちがいればマスターは無敵……しっかり証明しないとね」


「妾たちをなんじゃと思っておるのじゃ、主が誇る『枢要悪の祭典クライム・アルマ』じゃぞ!」


「マスターのために頑張っちゃうよー!」


「この世の全てに王の名を轟かせてみせようぞ!!」



 シンラやウロボロスも珍しく鳴き声をあげてくれている。みんな優しくて大人な魔物たちだって改めて感じるな。

 アヴァロンも剣を高く掲げてくれている。レーラズも樹の上から右手を高く上げて微笑んでくれている。

 

 やっぱり最高の配下たちだ! 誰にも劣ることない最強の集団!



「明日の朝、『海賊』に魔王戦争の宣言をする。戦争までに『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が2体増えると思う。そしたら全員で14人になるはずだ。俺はその14人全員で戦争に挑むほど『海賊』は強くないと思っている」


「あと2人増えるんじゃな……楽しみじゃのぉ」



 俺が自分の魔名を授けたいと思っている魔物は召喚している中では残り2人。本当はルジストルにも授けたかったが、断固拒否されてしまったので含めていない。



「さぁ! 改めて『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の最初の仕事は、この俺たちに屈辱を味わわせた『海賊』を完膚なきまでに叩きのめすことだ!」


「そうこなくてはな! 血が騒ぎますぞ若!」


「ますたーの敵は全部消す♪」



 もしかしたら5人くらいしか戦争には出ないかもしれないけれど、それぞれの役割をしっかり遂行してもらう。確実に勝ち……そして見せつける。

 みんなの顔を見ると、まだ30日もあるのに、待ちきれないような顔をしている。



「もう誰からも舐められるような真似はしない。誰だろうと俺たちの前に立ちふさがる奴は叩き潰す。『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の力を世界に示してやろう!」



 俺の発言にみんなが沸き上がる。

 そしてポラールが俺の隣に歩いてきて、みんなの方へ向き直る。



「『大罪』の力でご主人様を『最強の魔王』にし、そしてどこまでもお供するのです! 『枢要悪の祭典我ら』の力を見せつけるのです! いきますよ!」



――オオォォォォォォォォ!!



 ポラールの掛け声に、凄まじい声の数々が重なる。

 阿修羅に五右衛門、バビロンにウロボロスが大音量で耳が痛いが、しっかりみんなで右手を上に挙げて誓い合う。


 『海賊』。

 俺たちを敵に回したことを後悔させてやる。二度目の命を持てないよう魂ごと消し炭にしてやるから、首を洗って待っていろよ。



「大きい声出したらお腹すいたよー、ますたー」


「私も~♪」


「妾も何か食べたいぞ」


「若! ここで大サービスを望みますぜ!」


「儂にも酒のサービスを!」


「よし、果樹に影響が出ないようにここでBBQだ! 全員準備するぞぉ!」



――オオオォォォォォ!!



 さっき以上の大音量で木霊する叫びを聞きながら、BBQの準備の指示を出していく。

 いつの間にか肉が出てくるのを待っているカーバンクルを抱き上げて、俺も肉を焼くため、みんなと一緒に準備を進めていった。










 ――全魔王 共通メッセージのお知らせ



『お知らせ:『大罪の魔王ソウイチ』が『海賊の魔王エルフス』に魔王戦争を挑みました。開戦は30日後です。戦場は『大罪』の願いにより『海賊』が自由に選択します。そして『大罪』からの宣戦布告メッセージが公開されています』



『『大罪』からの公開メッセージ:『海賊の魔王エルフス』、アンタは魔王戦争を何度も勝利してきた猛者だと聞いている。だから条件を決めさせてほしい。戦場はアンタが自由にやりやすい場所を指定してほしい。そして俺は戦場に出す魔物を3体以下でかつ15分以内にアンタの首がとれなかったら負け。このルールで戦争をさせてもらいたい。もし嫌だったら15分じゃなくて10分でもいいぞ? この程度のハンデをしてやらないと歴戦の猛者さんと良い勝負にならないからな(笑)。首を洗って待っていろ、全員まとめて魂が残らないほど消し炭にしてやる』



 このメッセージは全魔王を震撼させた。

 ルーキーが長年生きている中堅魔王に対してこの発言、魔王史上初の出来事である。

 

 このメッセージを見た『海賊の魔王エルフス』はソウイチの狙い通りに怒り狂い、全戦力を投入して殺すことを公開メッセージで返信。


 一部の魔王以外はソウイチのメッセージを見て大笑いしたそうだ。

 Gランクしか呼び出せないことで有名なルーキーが行った世紀に残る黒歴史だと、たまたまチケットかガチャでSランクでも当てて舞い上がった結果だろうと。


 30日後に全魔王は知ることになる。


 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』という名の恐ろしい魔物軍団の名と『大罪の魔王ソウイチ』という史上最強にして最凶のルーキー魔王の名を。

 

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