第17話 『海賊』からの挑戦状


 ピケルさんとの同盟を結んでから1週間が経過した。

 

 そして今、ピケルさんが手伝ってほしいと連絡を受けて、『罪の牢獄』ダンジョンエリアの闘技場で、ピケルさんの新作戦闘用ゴーレムの実験を手伝っている。


 俺の魔物たちのランクや能力はピケルさんに言うつもりはないけど、正面で戦いを見られてしまうのは仕方ないことだ。それに俺としてもゴーレムとやらの性能を知る良い機会になると思っている。


 ゴーレムの実験相手はトリッキーな相手が良いとのことで、五右衛門がゴーレムの実験に付き合ってくれと言うので、開始の合図を待っているところだ。


 闘技場に五右衛門、そして4m半くらいはある赤くてゴツゴツとしたオーガ型の兵器。 

 ゴーレムという存在の原型が何かは分からないけれど、ピケルさん曰く、ゴーレムには無限の形があるそうなので、今回はオーガ型で戦闘対応力に長けたゴーレムだそうだ。



「壊してしまっても怒られんのじゃろう?」


「うん……でも攻撃は試させてほしい」


「承知した」


「じゃぁ……スタート」



――ドドドドドドドッ!!



 開始の合図とともにゴーレムの両腕から弾丸の嵐が五右衛門に襲い掛かる。なんと魔力じゃなくて実弾。

 五右衛門は煙をあげながら穴だらけになっている。噴き出る煙が五右衛門の身体を完全に包み込んだときにゴーレムは倒したという認識をしたのか攻撃の手を止める。


 煙が晴れるとそこには穴だらけになっている木で彫られた蛙の像が転がっていた。



――ドゴォンッ!



 ゴーレム後方の地面から五右衛門が飛び出してきた。

 かなりドヤ顔でゴーレムを見ている。蛙が穴を掘るってのも面白い。



「変わり身の術じゃ。続いて影分身の術」



 五右衛門が印を結ぶと4人の五右衛門が現れる。阿修羅の分身とは違って一撃でも攻撃を受ければ消えてしまうものが「影分身の術」だそうだ。

 4人の五右衛門は跳びはねながらゴーレムを囲むように動き出す。



「対象…ロックオン。殲滅します」



――ガシャンッ! ドドドドドドドッ!



 かなり機械的な音声がゴーレムから聞こえた後。ゴーレムの背中から「ミサイル」という追尾する爆弾が放たれる。

 ちなみに今、五右衛門と戦っているオーガ型の4mほどの大きさを誇る赤いゴーレムなので、その大きさからミサイルはたくさん積んでいるように見える。

 ちなみにミサイルの説明はピケルさんがゴーレムを見せてくれたときに軽くしてもらった。



――ズゴォーンッ! ズゴォーン!



 ミサイルが影分身たちに着弾して大爆発を起こしていく。追尾もして爆発もするなんて普通に考えたら破格の性能だけど、実弾がゆえに弾数が限られるのが痛いところだな。

 容赦なく爆発していくミサイル嵐の中、五右衛門本体にも10発ほどのミサイルが飛来していく。


 すると普段は寝ている両肩の八咫烏が大きく目を開けた。



「「カァァァァァァァッ!」」



――ズゴォーン! ズドォーンッ!



 烏の鳴き声が凄まじい衝撃波となり、ミサイルが当たる前に破壊していく。

 その衝撃波は地面を抉りながら凄まじい勢いでゴーレムにむかっていく。



「エネルギーフィールド展開」



――バチバチバチバチッ!!



 ゴーレムが両腕を突き出すと魔法陣のようなものが展開され、衝撃波を防いでいく。結界みたいなものを瞬時に展開できるのか…。

 それにしても万能なゴーレムだ。どの距離でも戦うことができるし、盾にするにしても頑丈な壁にもなる。元々の身体の大きさから馬力もありそうなのでパワー勝負だってやれるだろう。



「格闘モードに移行します」



――ドンッ!



 八咫烏から放たれた衝撃波を防いだゴーレムは両手に手甲のような追加武装を装着して、物凄い勢いで五右衛門に突っ込んでいく。

 背中から魔力を噴き出しているのか身体の大きさに見合わぬ速さで五右衛門に迫っている。さすがの五右衛門も感心しているようだ。



「ふむ……魔力がエネルギーの大半のようじゃの」



――ヒュンッ! ヒュンッ!



 ゴーレムの高速連打をいとも簡単に回避していく五右衛門。五右衛門もデカさから考えられない俊敏性をしているからピケルさんも驚いている。

 五右衛門はゴーレムからの攻撃を回避しながら手で印を組んでいる。そしてゴーレムの放った大ぶりのパンチを回避し、後ろに大きく跳ぶ。



「口寄せ! 狐ども行くのじゃ!」



 五右衛門が最後の印を組み終えた瞬間。

 五右衛門の周囲から大量の狐がゴーレムに向かって飛びついていく。

 群がられたゴーレムは上手に対応する術をインプットされていないのだろうな。


 そしてどんどん動きが鈍っている。

 五右衛門が召喚した狐は対象から指定された「何か」を盗んでいく狐なので、今回は「魔力」を盗んでいるんだろう。

 ゴーレムは狐に魔力を盗まれ尽くされたようで動きを停止させてしまった。



「勝負ありじゃの」



 さすが五右衛門だ。

 手の内をほとんど見せずにゴーレムの攻撃を上手に捌きながら、ゴーレムの弱点らしきポイントをピケルさんに見せて勝利してくれた。


 さすがに一瞬で魔力を吸われる相手なんて想定してなかっただろう。



「魔力を吸い尽くされることは想定外。作り直し」


「頑丈な装甲を見たら、まず考えるのは装甲に邪魔されずに仕留める方法ですからね」


「ルーキーとは思えない。本当にありがたい。お礼は送っておく」



 1秒でも早く戻ってゴーレムを改造し直したかったんだろう。

 ピケルさんは急いで自分のダンジョンへと戻っていった。

 

 かなりマイペースな魔王だけど、実力は確かだから仲良くするに限るし、ぜひとも改良したゴーレムを買わせてほしいものだ。








――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 『黄金の海賊船』の調査を少しずつ進めていた中、アークに届いた1通の手紙をルジストルが俺の下に持ってきた。

 差出人は『海賊の魔王エルフス』とのこと、『黄金の海賊船』の魔王だ。


 内容は単純なものだった。



『規定で守られてるからって好き放題やってるルーキー君へ。最近先輩魔王に戦争を仕掛けられないからって好き放題やっているらしいね? それに『魔像』とも手を組んだようで、ビビりながらもルーキーにしては良くやってるよ。もしアタシんとこに来るようならアタシから戦争が仕掛けられるようになるか、自分から魔王戦争を仕掛けるくらいの気概を見せてみな。チキン野郎は興味ないんだ』


 

 こんな感じの内容だ。

 まぁ簡単に言えば、魔王戦争をルーキーは同期以外から仕掛けられないからって好き放題やってる俺が気に入らないんだよってことか。

 もし『黄金の海賊船』に来るなら、自分から魔王戦争を仕掛けてこいってことだ。


 俺としては不意をついてダンジョンごと叩き潰すのが一番楽なんだが、さすがに警戒されてるだろうし、ここまでやられると今後、俺の格にも関わってきそうな事案だ。



「それにしても随分なこと書いてくれるな」



 もしこれをポラールやメル、イデア辺りが見ていたらとんでもないことになりかねん事態になっていただろう。俺の指示を無視してでも飛んでいっていたかもしれない。

 今すぐにでもカチコミに行く流れで激怒していただろう。確実に直接手紙は見せられない。


 今後魔王界で俺の格をあげるためにも、魔王戦争を仕掛ける良いキッカケかもしれない。

 『海賊』から仕掛けてもらうには、俺のルーキー期間が終わる必要があるからまだまだ先の話になる。

 そんな先まで、こんな不安分子をかかえておけるわけがない。

 だったらこっちから仕掛けて戦争に勝てばいいだけの話だ。



「ルーキーである俺の実力なんて知れてると思ってるんだろう」



 大砂漠ではピケルさんに見られていたから、もし『海賊』にも確認されていたら面倒だと思っていたけれど、そんなこともなく、完全に俺のことをGランクしか基本召喚できない雑魚魔王とでも思ってるんだろうな。俺としてはありがたい。

 チケットや配合で作った魔物は1度倒せば2度と復活しないって考えてるんだろう。


 明日魔王戦争を仕掛けて開戦するのは30日後か…。

 

 聖国で行われる勇者のお祭り騒ぎにはなんとか間に合いそうだな。

 『銅』の魔王以来の魔王戦争になりそうだ。しっかり準備をしないと…。



「無視してダンジョンに攻め入ってもいいんだよな」



 魔王戦争で得られる特別報酬は得られなくなるが、ぶっちゃけダンジョンに攻め込むほうが楽なのは確かだ。

 『海賊』の挑発にまんまと乗るのは無謀かもしれないし、挑発に負けた気もする。相手には戦争の必勝法でもあるのかもしれない。



「冷静になってダンジョンに攻め込むのが一番かな」


「いえ……魔王戦争で叩き潰しましょう。ご主人様」



 背後から肝の冷える声が聞こえる。



「……いつから見てたんだ?」


「ルジストルが少し速足だったので気配を消して最初から読ませていただきました」


「ヒエッ」



 振り向いてみたら、見たこともないほど素晴らしい笑顔を浮かべているポラールがそこにはいた。

 その笑顔はウキウキしているように見せかけて、俺を馬鹿にしている『海賊』への凄まじい怒りで煮え滾っているように見える。


 俺は咄嗟にポラールを抱きしめに行く。



「えっ!? ご、ご主人様どうされたのですか?」


「怒るな~静まるんだ。いつもの優しくて可愛いポラールに戻ってくれ! そして暴れないでくれ!」


「もうっ! 怒っていませんよ。でも少しショックではあります」


「ショック?」



 微笑みながら抱きしめ返してくれるポラールが俺に言い返してくる。

 その顔はどこか悲しそうな顔をしていた。



「ご主人様は私たちに『枢要悪の祭典クライム・アルマ』という素晴らしい名前をつけてくださいました。私たちはご主人様のためならばなんだって致します。どんな魔王だろうが勇者だろうが葬ってみせます。ご主人様の慎重さは良いこともありますが、偶には私たちを信じて何も考えず命じてくださってもいいのかなと思います。私たちは強いですよ?」


「……信じていないわけじゃない……でもその通りだな」


「ご主人様は、まだ魔王として生まれたばかりですが、これもまた経験かと思います」


「よし……ダンジョンを閉め次第、果樹園に『枢要悪の祭典クライム・アルマ』全員を集めてくれ」


「はいっ!」



 『海賊』め…。

 俺に改めて魔王としての覚悟を刻ませてくれたのは感謝するが、こんなルーキーに挑発なんていう大人げないことをしてきやがって…。


 ポラールが軽やかにステップをしながら去っていく姿を見ながら、俺は魔王戦争の段取りを考えていた。

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