第16話 『魔像』の魔王
『ゴーレム魔城』というダンジョンがある。
帝国領南地域では2番目に有名であり、塔型のダンジョンの周囲に広がる迷宮都市「パンデロム」は帝都との関係が深く、他国にも出荷するような防衛型ゴーレムを生産している。
銃火器や馬車など、様々なものを創り出していることで有名なパンデロムは常に盛り上がっており、ダンジョンの難易度も相まって拠点にしたがる冒険者もかなり多い街でもある。
知名度も魔王としてのランクもSである『魔像の魔王ピケル』。
可愛らしいロリッ娘で、様々なゴーレムや戦術兵器を開発する魔王でもあり、彼女に魔王戦争を仕掛けようとする者はいないとのことだ。まだ3回しか魔王戦争をしていないらしい。
そんな魔王が今、アークに来ていて、俺の正面に座っている。
『砂蠍』に勝利して2日が経過した。
『ゴーレム魔城』についての調査を始めようかと思ったら、まさかの魔王本人がアークに尋ねてくるという緊急事態。
だが内容は俺に興味があり、同盟を組みたいといういきなりの提案だった。
「…本当に同盟を組むんですか?」
「貴方の戦いと勢いに興味を持った。スケルトンをあんなに活躍させられる魔王は 珍しい」
「まさか他ダンジョン内の様子を監視している魔王がいるなんて……」
「あのダンジョンには昔から監視カメラを仕掛けてある」
「随分用心なことで」
「貴方も同じタイプに見える」
意外にもかなり話が通じるタイプの魔王で助かった。
とにかく実力がある魔王が好きで、コアからGランクしか召喚できないのに『砂蠍』を圧倒した俺の実力と魔物に興味を持ったようだ。
アークに防衛型ゴーレムを出荷してくれるから、新型ゴーレムの実験に稀にでいいから手伝ってほしいというのが条件のようだ。簡単に言えば強いゴーレムを創るのに手伝えってことか。
「貴方ならゴーレムをもっと強くできるような発想力がある魔王に見えた」
「俺としても同盟を組ませてもらえるのは嬉しい話です」
「んっ…よろしく」
俺はピケルさんと握手する。
ベテランでかつ、かなり戦闘以外で幅広い分野で活躍している魔王と同盟を組むことができた。
できればこうやって幅広く同盟を組んで、帝国を自由に動けるようにしていきたい。
Sランク魔王でもあるピケルさんは顔が広いようで、『黄金の海賊船』の魔王とはライバル的関係であるそうだ。さすが帝国南の1番と2番。
それに『黄金の海賊船』の魔王は誰に対しても孤高な魔王で挨拶に行くだけ無駄だと教えてもらった。
夜中にバレないように動いたつもりだったけど、すでに俺に目をつけているようで、動きがあったとピケルさんは教えてくれた。
「随分ハイテクな監視システムですね」
「ゴーレムには無限の可能性がある」
かなりドヤ顔でゴーレムについて語ってくれる。
自分の魔物や造った物に対する愛情は共感できるし、そんだけ愛があるからこそ魔王としても成功しているんだと思う。
帝都から近いところにいる魔王と仲良くすることができたのはありがたいし、『酸雪の試練道』の魔王はピケルさんの弟子だそうなので、自動的に争わなくて済んだのは手間が省ける。
これでアイシャにピケルさんという猛者たちと同盟を組むことができた。
俺も魔王として立派になってきたんじゃないだろうか?
「すぐ戻らなきゃいけない。また連絡する」
「あ、あぁ…今日はありがとうございました」
「んっ…またね」
手を振って帰っていくピケルさん。
ルジストルとリーナが朝から大慌てだったから何事かと思ったがすんなり終わってくれたのはありがたい話だ。
帝都領土南で自由に動くために作戦が今のところはすんなり行っている。
もしかしてだけど聖国で行われる勇者のお祭りにも間に合うかもしれない。もちろん無理するつもりはないけどな。
「閣下、勢力は伸ばすと良いことが多いですが、把握できないと痛い目をみますよ」
「しっかり南地域を把握するのを進めたほうがいいですよ」
「そうだな。2人の言う通り気を抜かないようにするよ」
ルジストルとリーナのアドバイスをしっかり聞き入れる。
懐から食い破られるのが一番被害が大きくなりそうだからな。しっかりと目を離さずにどこも目をつけておく必要があるな。
それにしてもゴーレムの話を聞いたけど、そんな便利なモノがあるならば、どうにかピケルさんと話をしたい。
「ピケルさんに色々欲しい物おねだりしてみようかな」
2人に欲望に素直なのも魔王らしいと言われてしまった。
◇
――『罪の牢獄』 居住区 食堂
ピケルさんとの同盟交渉を終えた日の夜。
久々に遊びに来たアイシャとゆっくり話をしている。
何やらアイシャのほうもプレイヤーを上手く撃退したようで、まだ街には複数のパーティーがいるようだが、残っている連中は相手にはならないレベルで落ち着いたから遊びに来たとのこと。
何やら不穏な噂を聞いたとのことで相談があるようだ。
「ソウイチは聖国で行われる勇者の集まりを知っていますか?」
「あぁ…次に勇者たちが討伐する魔王を決めるらしいな」
「えぇ…その決定前にはいくつか候補が挙がるようなのですが、私が聞いた話だと、次に討伐候補に入る魔王は、私の師匠だという噂が流れているのです」
「ラムザさんか」
ミルドレッドの次はラムザさんを討伐目標って俺たちへの嫌がらせにしか感じない。
何か勇者側にも目的があるのか? それともただの偶然なのか? どっちにしてもアイシャからすれば大事な師匠だから心配になるのは当たり前だろう。ミルドレッドののときのような想いをアイシャにはさせたくない。
「ラムザさんは知ってるのか?」
「私が伝えました。師匠には『問題ない。勇者を葬るのは魔王の誉だ。邪魔をしないでおくれよ』と言われました」
「ラムザさんらしいな」
そこまで面識があるわけじゃないけれど、しっかりとしたプライドとアイシャを巻き込みたくないがゆえの発言なんだろう。
だけどアイシャはもしラムザさんが選ばれてしまった場合、どうにかしてでも手伝いたいという状況なんだろうな。
師匠と弟子のすれ違い……俺とミルドレッドも似たような流れだった。
そして現にミルドレッドを守れなかった俺に意見を求めに来たってわけか。
「俺は状況を判断して動くべきだと思う。ラムザさんは歴戦の猛者だ。勇者相手だって負けるような実力者だとは思わない」
「私もそう思います」
「相手は勇者だ。コア転移を封じる結界を使えるから、どうにか事前にダンジョンにすぐ侵入できるように潜んでおきたいけれど、確実にラムザさんにバレて怒られることになる。まぁバレればの話だけど…」
「やはりそう思いますか…」
まぁ誰が考えてもこのやり方に落ち着きそうな気がする。
もっと大胆に行くなら先に勇者を叩いておくってのが面白いのかもしれないけど、そんな簡単に仕留めることができる相手じゃないからな。
ラムザさんのことだ、こうやって心配されること自体嫌だと思っているタイプの性格をしている気がする。そしてラムザさんもきっちり準備をして勇者を迎え撃つ準備をするはずだ。
「勇者たちが発表するまで、まだ期間があるし、実際に出発するにも時間があるはずだから、まずは結果待ちじゃないか?」
「焦っても仕方ない…ですね」
「でもそういった噂を仕入れるのは大事だから、動き続けるのも大事だと思うよ。俺も少し動いてみるよ」
「ありがとうございます」
アイシャが晴れやかな顔になった。
師匠も師匠なら弟子も弟子だな。どっちも似たような感じの2人だ。
そしてアイシャを見ていると少し羨ましくも感じる。アイシャがラムザさんを想う様子を見ていると、どうしてもミルドレッドを思い出してしまう。
でも同じような想いをさせないためにも、ラムザさんもアイシャも、どっちも無事でいられるために同盟相手として尽くさないと。
「まずは本当にラムザさんが狙われるかの調査と、勇者の能力を調べないとな」
「そうですね! 私もさっそく指示を出してきます!」
そう言うとアイシャは脱兎のごとく自分のダンジョンへと帰っていった。
俺のほうも聖国に調査の手を本格的に広げてみないとな。
『黄金の海賊船』へのご挨拶を終わらせられれば帝国領土南では自由に動けるはずなので、各街で自由に動くことが出来るから情報を得られる口が単純に広がるってことだ。
「魔王ってのも忙しいもんだ…」
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