第15話 王へと捧げる『栄光歌』


――『砂蠍の魔王スコピル』 コアルーム



 コアルームにダンジョンコアの前で激怒する1人の魔王がいる。

 下半身はサソリだが、上半身は獣人型である女性魔王。

 彼女は魔王として順調なキャリアを歩んできていた。とてもつもなく暑くて進みづらく、進路方向を狂わせながら、自分が生み出せるサソリ魔物を存分に活かせるダンジョンを作り上げて、数々の冒険者や帝国騎士を葬ってきた。


 舐めて魔王戦争を仕掛けてきた他の魔王たちが5体ほどいたが、それを全て蠍の力を見せつけて打ち破ってきた。

 物量だけでなく、Sランクの魔物は7体も揃え、SSランクも1体いる。


 しかし彼女は今、前代未聞の危機に陥っていた。

 不意打ちのように夜中にとんでもない魔力のもつ者が侵入してきたと思い見てみたら、『豪炎』をやったと言われている噂のルーキー魔王。

 自分と同じ地域にダンジョンを構え、生意気にも街を築き、最近だと近くにいた同じルーキーを一夜で始末して調子に乗っているなんて話をきいたルーキー。


 噂では聞いていた。Gランクしか呼べないクソ雑魚魔王だって。


 今スコピルが見ている景色はその通りだった。

 ダンジョンを埋め尽くすは最弱Gランクのスケルトンと呼ばれる骸骨だ。彼女も魔王になり3カ月くらいはスケルトンを使用していたことがあるが、あまりの役に立たなさに、すぐに召喚しなくなったGランクの魔物。


 そんなスケルトンに自慢のダンジョンが壊滅寸前まで追い込まれている。



「どうなってるんだいっ!」



 怒り、そして焦る気持ちをスコピルは抑えることができない。

 自慢のSランクの魔物も見る影もなくスケルトンの大群に圧し潰されてしまっている。

 それに自分のいるダンジョン奥地へと真っ直ぐ進んでくるスケルトン軍団。


 こんなスケルトンなんて聞いたことも見たことも無い。壊滅寸前まできてもスコピルは対策がまったく思い浮かばない状況でいたのだ。

 魔王本体の近くにはヤバそうなスケルトンが控えている。あのヤバそうなスケルトンがこの異常に強いスケルトン軍団を操っているんだろうとスコピルは考えているが、スケルトンの壁が厚すぎて近づけない。

 

 しかし残り僅かな時間でスケルトンたちは自分のところに辿り着いてしまう状況まで追い詰められていた。



「ドラピオスッ!」


「出番か姉御ォ!」


「そうだよ! 残り全軍率いて叩き潰してきな!」


「任せとけ!」



 そう言って、大量の魔物を引き連れて地上へと向かうのは、『砂蠍』が誇る最強の魔物『竜蠍ドラピオス』だ。

 運よく『竜』の魔名を手に入れ、手持ちにある最高級のアイテムを配合して作り上げたLv310を誇るSSランクの魔物だ。


 最強種族と呼ばれる「竜」の力を持つドラピオスに空から殲滅させ、そのままソウイチを叩かせる気でいるスコピル。

 他の魔物で障壁を作って時間を稼げばドラピオスが一掃してくれると信じてモニターを見つめていた。







――「サソリ大砂漠」 ソウイチ視点



 大量のスケルトン軍団に圧し潰されていく「砂蠍」の魔物たち。

 バビロンのテンションもどんどんあがっていき、Sランクの魔物をスケルトン軍団が倒すごとに煩くなっていく。

 

 するとコアルームと思われる目的地の近くから巨大な影が勢いよく空へと飛び出す。


 空を見てみると竜の頭と翼を持った巨大な蠍が空を飛んでいた。

 あれはきっとSSランクかな? ドラコーンほどでは全然無いけど、かなりの威圧感を覚える。

 スケルトン軍団に空から攻めるのは当然の話だ。それが定石ともいえる。


 口に火を溜めてるのでブレスでも吐くつもりなのかな?

 さすがに隙だらけすぎる。そんなものを許すほど俺も弱くない。



「ウロボロスッ!!」



――パキンッ!



「ギャォォォォォッ!!」



 俺の叫び声とほぼ同時のようなタイミングで空間を裂いて出てきたウロボロスが竜蠍を丸呑みする。

 そして何事も無かったかのようにウロボロスは次元の裂け目を作り、ゆったりと異空間へと再び潜っていく。


 あまりにも一瞬の出来事だったが、これがウロボロスの強さの1つだ。

 巨大な1発を完全に不意を突いて叩き込むことができる潜伏性能こそウロボロスの魅力だと思っている。毒と不意打ち万歳!


 そしてスケルトン軍団を阻む魔物は何処にもいなくなり、次々と現れる『砂蠍』の魔物を物量で飲み込んでいく。

 『砂蠍』の魔王が見える頃には諦めている様子だった。



「ルーキーに好き放題やられるなんて……ね。こんな屈辱……早く殺しな」



 完全にお手上げという感じで両手を上げている。俺みたいなルーキーに良いようにされてプライド的にも自分が許せないのかもしれない。

 夜中に不意打ちでの勝利は魔王界では批判されそうな戦い方だけど、そんなことは気にしてなんていられない。

 抵抗する気はないようなので、最後はバビロンに命じてコアを破壊してもらう。



「我らの勝利だぁ! 勝利の美酒を王に捧げるのだ!」



 叫びながらコアに攻撃を加えて破壊するバビロン。完全にスケルトンたちの大活躍を手柄にしている。まぁ強化したのはバビロンだから良いんだけど、こう自分で手を下さずとも勝ち誇っている感じが『虚飾』らしいのかもしれないな。


 スケルトンたちが何度も万歳して喜びを表現している。スケルトン特効のカリスマがちょっと凄い。


 コアを砕かれた『砂蠍』は光となって消えていった。

 このダンジョンもゆっくりと崩れていくだろうから脱出しないとな。



「よし…みんなお疲れ。帰って寝るとするか?」


「ますたー、お風呂入ろ?」


「私も一緒に入るっ!」



 とりあえず無事に終わったので一件落着だ。

 ウロボロスに頼んで帰り道も優雅に飛んでいってもらった。

 別に転移魔法を使用できるんだけど、空の旅を楽しみたかったのは内緒だ。








――『罪の牢獄』 居住区 露天風呂



 ダンジョンも閉じている遅い時間に俺たち『罪の牢獄』に帰還した。

 バビロンは頑張ったスケルトンたちとお祝い会をするらしく、いそいそと自分のエリアへと戻っていった。

 そして約束通り、俺はメルとガラクシアと一緒に疲れを流すためにお風呂に来ている。

 身体を2人に流してもらい、軽くお酒を飲みながらゆったりとしている最中だ。

 ガラクシアは俺の横で身体を預けてきていて、メルはスライム形態で俺に抱きしめられている。



「2人とも助かったよ。ありがとう」


「な~にもしてないよ~?」


「ますたーも頑張った♪」


「一緒に来てくれるだけで俺は助かるんだよ」



 2人と簡単に振り返りながらゆっくりする。

 バビロンがスケルトンを強化してほとんど一人で『砂蠍』を圧倒してしまったけれど、2人が構えてくれているから初陣のバビロンに好きにやらせることができたってのもある。


 これで残るは3つのダンジョンが問題だが、実質2つだと考えている。

 『ゴーレム魔城』と『黄金の海賊船』の魔王たちが『砂蠍』がやられたことに対して何も動かないわけがない。

 もしかしたらすでに動いてきているのかもしれないから油断ならない。

 特に『ゴーレム魔城』の魔物は空をも飛んでくるらしいので対策を考えないといけない。

 最悪、ウロボロスと龍形態のイデア、ガラクシアにポラールあたりに迎撃してもらえば制空権も支配できそうなもんだから、そこまで心配はしてないんだけどな。



「マスターもどんどん魔王らしくなっていくね♪」


「ますたー凄い♪」


「みんなのおかげだよ」



 2人を自分のほうへ抱き寄せる。

 何故か一気に盛り上がっている2人だが、みんなのおかげでやりたいことができているのは本当のことだ。

 凄まじい力を持ちながらも俺と一緒に来てくれる『枢要悪の祭典クライム・アルマ』、ルジストルにリーナが居てくれるから、ここまで来ることができている。


 特にルジストルとリーナはどんどん忙しくなっているから、申し訳なくなってきているが、なんだか2人の時間を邪魔すると少し怒られそうになるので、好きにさせている。


 甘えてくる2人が可愛くてお風呂から出るのがもったいないが早寝早起きも大事なので、2人を説得してお風呂を出ることにした。

 ウロボロスのおかげで自由自在に動けるようになったこともあり、準備をしたら次の目的地である『ゴーレム魔城』に行こうと考えているので、みんなに相談しよう。


 そして2人を連れて自室に戻り、ゆっくりと寝ることにした。

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