第14話 『大砂漠』進撃


 人間たちは寝静まった時間、俺はウロボロスの上を乗り「サソリ大砂漠」まで移動中だ。

 ウロボロスの異空間移動で、次元の狭間に入り、他の奴らには見えないけれど、俺たちからはよく見える異空間というよくわからん概念の中を移動している。


 さすがにこの空間から別空間には攻撃出来ないので一旦ウロボロスごと異空間を出るか、俺たちだけウロボロスに降ろして貰わなきゃいけない。


 さすがにデカいウロボロスなので冒険者が1週間ほどかかる距離を僅か1時間程で移動できてしまう大きさと速さだ。

 

 乗せてくれているウロボロスにメルとバビロン、ガラクシアが今回着いてきてきれているメンバーだ。

 バビロンがガラクシアとメルを楽しませようと能力を使って大道芸みたいなことをして盛り上げている。完全にスケルトン時代の下っ端精神が染みついている。



「さぁ…あれかな?」


「ついたー?」



 遺跡みたいなのが見えてきた。

 あれの中にある階段を下っていくと大砂漠が広がっているタイプのダンジョンだという情報はしっかり得ている。

 さすがにこんな時間だから冒険者はいないはずだ。ダンジョン内にはいるかもしれないけどな。


 俺たちはダンジョン前でウロボロスに降ろして貰う。なんと降ろして貰うのにわざわざ転移魔法を使用してくれるので手間いらずという素晴らしいタクシーウロボロス。これまでの移動方法を完全に置き去りにする最高の存在に感動が止まらない。


 しかも呼んだらどこからともなく現れることが出来るのも素晴らしい。ただし狭いとこだと顔だけとかになってしまうのは残念。

 さすがにダンジョン外だと見張ってくれていないと反応できないので、しっかり事前にウロボロスと打ち合わせするのが前提だ。



「ここが我らが挑む戦場か!」


「戦うって決まった訳じゃないけどな」



 初陣であるバビロンだが、基本的に強気の王様みたいな発言ばっかりしているので真面目に応えていると疲れてしまうので、軽く関わっておく。

 ダンジョンに侵入したらさすがに気付いて何かしらのリアクションを仕掛けてくれると思うので、ご挨拶して何事もなく終われば帰ろうと思っている。


 ガラクシアとメルは遠足気分のようで2人ワイワイ盛り上がっている。なかなかバビロンは自分からは絡めていないところが面白い。

 スケルトン時代が染みつき過ぎていて見ていて面白いから放っておこう。


 遺跡内部に入って階段を降りていくと冷気が襲い掛かってくる。

 「サソリ大砂漠」外の時間とリンクしていて、今は日が落ちて夜の時間帯のようだ。なかなかに肌寒い。

 砂漠の夜がこんなにも冷えるというのは単純に勉強不足だった。



「砂がたくさん! それに広いねマスター♪」


「ますたー抱っこして」


「この砂を敵の血で染め上げてやろうぞ!」



 かなりマイペースなパーティーだけど面白いからいいだろう。

 下に広いじゃなくて、横に広いダンジョンってのは正直考えつかなかったので、今さらではあるが勉強になる。


 スライム形態になったメルを抱っこして少し歩いていく。さすがに気付いているだろうから、そろそろ何かしらアクションをしてきそうだけども…。


 そんなことを考えながら砂漠を歩いていると、前方にアリ地獄のようなものが出来て、その中から赤色の巨大なサソリが姿を現した。



「我は『砂蠍の魔王スコピル』様の使いだ。何用だ? 『大罪』よ」


「さすがに知られておりますか。帝国領土南地域を自由に行き来出来るよう許可の旅をしてるんですが、お話をしにきました」


「……主の言葉を伝えよう。『舐めたことを言うんじゃないよルーキー! ノコノコやってきて、サソリの餌にしてやるよ!』だそうだ」


「世の中厳しすぎるだろう……なら話し合いは終わりだ」



――グシャッ!!



 俺の言葉が言い終えた瞬間、巨大なサソリはメルの『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』に美味しく喰われていた。


 まぁルーキーがいきなり訪れたのは生意気だとは思うが、自由に行き来することがそこまでダメなのか? でも敵対するって言ってきたんだから当然の対応なんだと思うけど、1日で帰らないと怒られるからここから容赦なんてしない。


 少し先のほうからカラフルかつ大量のサソリやらカマキリみたいな魔物が出てくる。数がとにかく多いし、常時砂の中に隠れていたようだ。環境を大いに利用した勉強になる一手だ。



「ウロボロスッ!!」



――パキッ! パキッ! パリンッ!!



 砂漠の空に大きな空間の裂け目が出来る。

 そしてそこから降ってくるのは大量のスケルトン。

 さすがの『砂蠍』の魔物たちも上から降ってきたスケルトンに困惑しているようだが、迎撃の体勢を整えている。


 ……だが、スケルトンは上空からの着地なんて上手くできるわけもなく、着地の衝撃でバラバラに砕け散っていく。地面に転移させてもらったほうが良かったな…失敗だ。


 スケルトンの大雨攻撃となっているが、サソリとカマキリ軍団はこの程度気にもならないようだ。



「さぁ…見せてくれ、バビロン」


「我が究極の一手でこの戦場を支配してみせよう! さぁ! 再び戦場へ舞い戻れ同胞たちよ!」



 バビロンが杖を掲げると赤黒い魔力が周囲に拡散するように放たれる。

 バビロンの魔力は散らばっている骨に纏いつき、骨同士を元のスケルトンへとくっつかせていく。

 一瞬にして赤黒い魔力を纏ったスケルトン軍団へとなって復活する。


 そして油断してるかスケルトンを馬鹿にしてるのが分からないがスルーして俺たちのところへ迫ろうとしているが…。



――バシュッ!



 バビロンの力で大幅強化されたスケルトンがサソリに飛びかかり足を引き千切る。どんだけ強化されてんだよ!?


 今のスケルトンはSランク並みのステータスを誇っている化け物へと進化しているようだが、実際にサソリをボコボコにしている姿を見ると感動してくる。

 何かしらスキルが追加されたわけでは無いが、全ステータスが爆上がりして、飛び跳ねながら近接戦闘ができて、塵や灰にされない限り永遠と復活するスケルトン軍団にどう立ち向かうのかな?


 Gランクのスケルトンがここまで大活躍してくれるのは感動だ。これで俺も地上戦では物量作戦を行うことができるので魔王戦争でも数で劣るという事態を回避できる可能性がでてきた。


 ウロボロスの開けた次元の裂け目から次々と落ちて増えていくスケルトン軍団に蹂躙されていく『砂蠍』の魔物たち。

 とあるサソリはスケルトンに尻尾をもたれて武器として振り回されている。カマキリも自慢の鎌を引き千切られて武器として使われている異様な光景が広がっていく。


 明らかに幹部らしきサソリの下半身を持った巨人も集団の強化スケルトン軍団が束となって突っ込んでいきボコボコにしている。


 あの優しかったスケルトンたちはもういない…。

 アクロバティックかつ馬鹿力を秘めたスケルトンへと変わってしまった…。



「カッカカカカ! 我が軍の圧倒的な力に平伏すが良い! 我こそ『虚飾ヴァニタス』の大罪を司りしバビロン様である!」


「ますたー、バビロンが煩い」


「すっごい元気だね~♪」


「まぁ……許してやってくれ」



 メルが作る分裂スライム軍団のほうが圧倒的に強いのは確かなんだけど、このスケルトンは勝手に復活して、勝手に特攻してくれるから見てて面白いし、バビロンがノリノリなので好きにされてやりたい。


 スケルトンが砂漠を走って進んでいく構図が面白くもあるが、相手にしたら相当面倒だろう。

 勢いを止めるのは圧倒的な火力で対処するのが1番楽な気がする。

 全体を終わらせるには強力な魔法や魔導で塵に返すか、バビロンを仕留めるのが一番だが、それが出来ないと壊滅まで追いやられてしまうからな。


 何体かのスケルトンが、まさかの地面を凄い勢いで掘り進んだりして、潜んでいたワームを引っ張り出して蛸殴りにしている。砂漠はもはや世紀末だ。


 すると巨大な牛の顔をつけたサソリが中央あたりに出現する。

 あれが『砂蠍』の真名持ちモンスターの1体かな? かなりの闘気を感じる!

 


「スケルトン如きが! 調子に乗るなぁぁぁぁぁぁ!」



――ゴォォォォォッ!!



 メルに名前を教えてもらって「牛蠍」という魔物だということが判明した。

 牛蠍が前方にむけて巨大な火炎放射を放つ。直撃を受けていくスケルトンたちは黒焦げになり、灰になるまで燃やされていく。


 しかし多方向からアクロバティックかつスピーディーに走り込むスケルトンたちが牛蠍に飛び乗って拳を叩き込んでいく。

 身体を振り回してスケルトンを振り下ろそうとするが、火炎放射をやめてしまえば隙を見せてしまうだけだった。

 牛蠍はスケルトンに拳を叩き込まれまくってミンチにされていく。圧倒的な手数とパワーの組み合わせだ。そして見ていると少し怖くなってくる。



「さぁ! 我が王に力を示すのだ! 進めぇ!」


「ますたー、コア見つけたよ」


「さすがメル」


「えへへ♪」



 しれっとダンジョン奥地を探知してくれていたメルを撫でながら歩いて進んでいく。

 バビロンの大号令でメルの探知した場所へと全速力で進軍していくスケルトン軍団、道中の魔物はスケルトンの波に飲まれて叩き潰されていく。

 これは最強レベルの物量作戦になるな。ステータスがSランク並みになったスケルトンが全速力で迫ってくるなんて悪夢みたいなもんだ。それと巨大なスケルトンに合体することが出来るのでなかなか器用なことも出来る。


 バビロン本体も面白い能力をもっているが、このスケルトン軍団を本命の力と捉えても良いくらい目の前に広がる光景は凄い物だ。



「大将首を討ち取るのだぁぁぁ!!」


「ますたー煩いよぉ」


「本当に元気だね♪」


「まぁ任せておこう」



 少し不機嫌になるメルを抱きしめながらバビロンに続いて進んでいく。


 こんな夜中にダンジョンに忍び込んで、数で攻めるなんて反則じみた戦法だが、確実に勝つためだから先輩魔王には申し訳ないが、このまま終わらせてもらう。




 

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