第9話 夢幻の『行く先』


 『罪の牢獄』に挑み、逃げる間もなく無残に敗北し、ソウイチの配下となってしまった『夢幻の星ドリームスター』の面々。

 デザイアとの戦いとも呼べないような遭遇で「タクミマン」と「アル」を失ってしまった7人は自分たちの拠点へと戻ってきていた。


 ソウイチの配下となり、アークでの危険は無くなったが、自分たちが倒すべき相手の配下となってしまった状況や、同じプレイヤーたちを調査やお近づきになってほしいという仕事を任されて見通し不安に陥っている7人の姿がそこにはあった。



「2人を失ってしまったのは悲しいけれど、命が助かったことを今は喜びましょう」



 主ぐるしい空気の中アイカが沈黙を破って口を開く。

 普通なら殺されても仕方なかった状況で助かり、しかも目的対象が『鉄刃の魔王』に変更され、仕事を頑張っていればソウイチが手伝ってくれるとのことだったので、嘆くことばかりではないと語るアイカ。


 リーダーのレオンは仲間の男性が2人ともやられてしまい、『夢幻の星ドリームスター』唯一の男になってしまったことに悲しみを抱いていたのと同時に命が簡単にも失われてしまった事実にショックを隠しきれない

 そしてソウイチの配下だったポラールとデザイアが女性だったこともあり、男性である自分が殺されてしまうんじゃないかと怯えてしまったのだ。



「……安全だと思う」


「はい。もし殺されるなら先ほどの段階で殺されていたと思います」


「そうだね……魔王さんからの頼みごとをしっかりやってれば大丈夫だよ」



 エリにサキ、風香はレオンを慰める。

 自分たちをアイカと一緒にここまで引っ張ってきてくれたリーダーでもあり、今後も一緒に頑張っていくリーダーに立ち直ってもらおうと思いつく限りの言葉をかけていく。



「逆に彼の庇護下にいるほうがアークでは安全だと思うし、時間はかかるかもしれないけど確実に元の世界に帰れる可能性高くなったと考えてもいいと思うわ。仲間2人の見殺しにしたような発言に聞こえるかもしれないけれど……そう考えるのが1番よ」


「支援職の私たちにも、しっかりとした待遇を約束してくださるそうです」



 拠点で待っていたら連れ去られてしまったマコ・マコとリンランが冷静に現実を述べていく。2人とも逆らえるような実力も勇気も無かった。


 レオン以外の面々は悲しくはあるがポジティブ要素もしっかり捉えられているようで、しっかり先を見据えることが出来ている。

 リンランは食事で少しでも元気づけようと部屋を離れた。



「『鉄刃の魔王』とさっきの魔王さんの報酬金の差すごいね」


「新しく指定された魔王が5000万円で先の魔王さんが20億円ってこれは強さの差なんですかね?」


「もしかしたらそうだったかもしれないわね」


「……規格外だった」



 改めて自分たちが地球に戻るための条件を確認しだした一同。

 出来るだけ早く帰りたい想いは変わらず、やれるだけの努力をしていこうと再度確認し合いつつも、切り替えてソウイチから頼まれていたことを報告し合うことにした。



「私は中心となって他のプレイヤーと交流を図ること、そしてユニークスキル持ちを探ることね」


「私は街医者のような立場になってほしいと頼まれました」


「……用心棒」


「私は警備員と来たばかりのプレイヤー案内係!」


「私はダンジョン近くで装備補修屋をやってほしいと言われたわ。同じ店でリンランには軽い食堂を出してほしいと言っていたわ」


「……僕は指示されたアークに被害をもたらす人たちを捕らえる警備員になること」



 7人はアークに来たプレイヤーと仲良くするっていう共通の仕事も任せられているが、個々にも頼みごとをされているため、ソウイチの指示を聞きながら準備をしなければいけないのだ。

 

 今後について各々が頼まれたことに対しての相談を各自していきながら時間は進み、調理室から香ばしい匂いとともにリンランが料理を持ってきた。



「さぁ! 今はご飯を食べて元気を出しましょう」


「そうね…ありがとうリンラン」



 こうして、現状『大罪の魔王』を討伐目標にしていた中では1番強かったと言える『夢幻の星ドリームスター』はソウイチの手によって楽々と支配されてしまったのである。


 今後、迷宮都市アークに訪れるであろう他のプレイヤーたちを確実に始末するための仕掛け人として……。








――『罪の牢獄』 居住区 食堂




 『夢幻の星ドリームスター』を配下にすることが無事完了し、各自に仕事を割合てることができた。

 これでアークにくるプレイヤー関連だったり雑用関連で生じるみんなの負担が減るだろう。特に同じプレイヤー同士だから問題無く情報収集してくれる人材が手に入ったのは大喜びできる結果だ。


 「紅蓮の蝶々」に「迷宮絶霧」の調査を任せているので帰還を待って、報告内容次第でどのように動くか決めないといけないな。



「デザイアお疲れ様」


「わざわざ妾を候補に入れないで欲しかったのじゃ」


「悪い悪い、でも助かったよ」



 みんなで晩御飯の時間。

 少し不満そうな顔でデザイアが文句を言ってくる。

 せっかくの昼寝を邪魔されたのが嫌だったのと、相手があまりにも弱すぎて歯ごたえが皆無だったようだ。

 

 コアルームで観ていたけれど、改めて恐ろしい能力だ。

 今のところ、「ポラール」「イデア」「阿修羅」「デザイア」の4人はLvもそうだが、『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中でもトップ層ともいえる実力をもっていると思う。役割が各々違うから一概には言えないけれど、この4人は底が知れない恐ろしさと強さを秘めている。


 もちろんそれぞれ長所が尖っているのでなんとも言えないし、まだ一人として本気なんて出したことないだろうから分からないけどな。


 このデザイアの力をもってしてでも戦いたくないポラールの本気ってどんなもんなのやら…。



「若、醤油とってほしいんだが」


「あいよ」


「儂は七味がほしいのう」


「ほい」


「ますたー、ごま油ほしい」


「どうぞ」


「妾は胡椒が欲しいのじゃ」


「これかな……お前ら取るのが面倒だからって調味料が近くにない席座っているだろ?」



 DEにもかなり余裕が出来て、どんなものでも毎日自由に食べれるようになったので、調味料なんかも大量に生産してみたんだが、みんな取るのが面倒なのか、まとめて置いてある席の近くに座りたがろうとしない。

 ポラールとイデアは気にせずに座って、他の奴らに頼まれても優しく渡してるので性格が出まくりだ。



「マスター! 味噌汁おかわり!」


「ご主人様、私も欲しいです」


「私もお願いしようかな」



 まぁみんな元気に食べてくれるのはなんだが嬉しくなるからいいんだけどな。

 アヴァロンはずっと見守ってくれているのでなんだか申し訳ないんだけども、シンラもレーラズものんびり食事に参加してくれていて『枢要悪の祭典クライム・アルマ』全員がしっかり交流してくれている光景は魔王として嬉しくなる。


 カーバンクルとニーズヘッグも可愛がられているから『罪の牢獄』の面々は仲良くできているようで安心する。

 出来ればみんなには和気藹々と仲良くやってほしいのが俺の願いだからな。



「マスター、冒険者からゲットした話なんだけどね」


「何かあったか?」


「聖国に『神速刃・暁蓮』が到着したらしいよ。今いる勇者の中で1番か2番目に強いかもって言われてるらしいよ!」


「そういえば聖国で数か月後に次に討伐する魔王決めるんだったな」


「事前打ち合わせみたいなのかな~?」



 ガラクシアが洗脳している冒険者から得た情報を話してくれる。

 勇者は現在5人だったはずだ、1人勇者から脱退してソロ活動をしている奴がいるそうなので、出来れば補足しておきたいところだが、1.2番に強いって言われてる奴の動きが把握出来てるのは嬉しいことだ。

 もし歴代でもトップクラスに強いとかいう噂も引っ付いていたら焦りまくっていたが、さすがに守る分には大丈夫だろう。


 あの3人が弱かっただけで他は物凄く強い可能性だって十分あるわけだからな。



「妾の勘じゃが、新しい勇者の補充なんかの準備もあるんじゃないかのぉ?」


「私もそれに1票かな」


「俺もそう思うな」


「ご主人様、私もその意見に賛同します」


「そんな自在に別世界から呼べるものなのか…」



 ちなみに地球にアクセス出来るかは分からないけど、デザイアも別次元のどこかの世界から何かを呼び出すことは出来るようだ。

 地球の詳しい次元を特定出来ればやれないことではないらしい。そこらへんはよく分からんので、もしその時が来たら何かしてもらうことにしよう。



「帝国領南の挨拶周りが終わったら聖国を把握しておきたいな」


「ますたー、情報頑張って集めるね」


「私も~♪」



 メルとガラクシアが俺の発言を聞いて気合を入れてくれる。

 この2人が情報収集を精力的に頑張ってくれているおかげで色々事前に動けているから本当に頼りになる存在だ。

 

 ミルドレッドをあんな運命に追いやった『救世の賢者・坂神雫』を許すつもりはないからな。



「明日には「紅蓮の蝶々」が帰還する予定だから、のんびり行こうかな」



 まずは目の前のことから、しっかり終わらせないといけない。先のことばかり考えていたら躓きかねないからな。



 

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