第8話 『無限無窮』の最奥


 ソウイチに戦う『大罪』を選択した『夢幻の星ドリームスター』。

 気付けば再び転移させられていた7人は、薄暗いどこかへと来ていた。


 壁に飾られた蝋燭たちが唯一の明かりだが、それすらも数が少なく、暗すぎて周囲を見渡せない。


 ただ7人が同じように感じていることが1つある。


 自分たちが向いている方角に、何か震えるような気配のある存在がいることだけは確かに感じていた。

 暗く…どこまで暗いような気配を…。



「くそ! どーするんだよ!」


「叫んでも変わらないわ。逃げたら2人が殺されてしまうもの」


「ここで死んじゃうのかな?」


「禍々しい気配がします。落ち着きましょう!」



 恐ろしい気配を感じてはいるが、いきなりこんな展開になり大混乱だ。

 ポラールの闘気と殺気にあてられて正気を失うような動揺が駆け巡る中、リーダー2人はなんとか冷静を保ち、他のメンバーを説得した。


 9つの選択肢は正直何がなんだか分からなかったようだが、物知りなアルがメンバーに『七つの大罪』の話をして、それに該当しない選択肢の中から導き出したのが『欲夢』だった。


 少し冷静になることが出来たエリとアルが周囲を照らすために魔法で視界を明るくする。

 そして禍々しい気配の下へと歩くこと3分ほどでとある魔物が視えてきた。


 7人が目を凝らそうとした瞬間、周囲を照らしていた魔法が消える。



「つ、使えません…どういうことでしょうか?」


「チラっと視えたけど、正面に巨大な蜘蛛がいるよ」


「えぇ…少し目が慣れてきたわ」



 暗闇に慣れてきた7人が目にしたのは巨大な蜘蛛。

 こちらを視認するわけでもなく、顔を動かさずに前の空間をじっと見ているだけの巨大な蜘蛛がそこにはいた。

 そして一番視力の良いタクミマンが蜘蛛を見てさらに声をあげる。



「蜘蛛の上に椅子があるぜ! その上に誰かいる」


「………妾の前で騒ぐのは誰じゃ?」




 透き通るよな、そして寝起きとも感じられるような声が蜘蛛の上から聞こえる。

 その声と同じく周囲にあった蝋燭の火が急に強くなり、周囲を照らす。

 そこに現れたのは巨大な祭壇のような場所に佇む巨大な蜘蛛と、蜘蛛の体の上にはボロボロの頭蓋骨で形作られた、触手を生やして蜘蛛に引っ付いている玉座と、その玉座に座って不機嫌そうに7人を見る猫耳フードを被った美女。


 『罪の牢獄』が誇る最強のデバフの神。

 Lv1000というコアにも表記されていないLvを誇り、この祭壇でソウイチに呼ばれるか遊ぼうと強く誘われるとき以外ニートをしているこの魔物。

 『欲夢パッシオン』の大罪を司る。妾系猫耳フードニートのアザトース。ソウイチから授かった真名をデザイアと言う。



 そしてアイカが自身に違和感を感じて、密かにメニューを開こうとするも開けないことに気付く。そして『アイテムボックス』も作動しないことにも気付いてしまう。



「何も…使えない?」


「どうなってやがる?」



 デザイアはステータス、アビリティ、スキルに絶大な影響を与えて、ランクを下げてしまうという他にはないデバフを放つことが出来る。一定ラインまで下がった能力は全てデザイアの前では使用不可にし、マイナスまで落ちてしまったステータスは戦闘では無力に等しいものとなる。


 7人はメニューが開けず、ステータス確認が出来ないので分からないが、スキルとアビリティは全て消滅しており、ステータスは全てG-になってしまっているのだ。



「主も妾のお昼寝を起こすなんて意地悪なのじゃ」


「な、なにをしやがったんだ!?」


「……煩いのう」



――バンッ!



「「「「「「えっ?」」」」」」



「綺麗に弾けたのぉ~」



 デザイアに強く問いかけていたタクミマンの体が風船が割れるように弾け飛び、血を撒き散らしながら死亡した。

 そしてデザイアの一言で死を覚悟した6人はタクミマンがやられたことに対して声をあげることも出来ずにその場に佇む。


 抵抗する間もない圧倒的な力の差。この世界にきて少し成長しただけのプレイヤーとこの世の頂点であるEXランクの埋めることができない絶望的な差。



「復活はできん状態で殺してしもうたが…主に怒られるかもしれん……」


「そ、そんなぁ…」



 デザイアの呆気の無い発言にレオンが情けない声を出してしまう。

 プレイヤーの生命線でもある能力。Lv40を消費すれば命は助かると思っていたメンバーだったが最後の望みまで粉々にされて、あまりの恐怖にエリとアルは泣き出してしまう。



「主が配下にしたいと言っていた気がするが……誰じゃったか?」


「ぼ、僕は役に立てます! 配下になるので助けてください!!」


「ア、アル!? 何を言っているの!?」



 アルの泣きながらの裏切りのような命乞いにアイカが戸惑いの声をあげる。

 デザイアはその様子をつまらなさそうに眺めている。

 睡眠時間が減らされるし、あまりにも弱すぎる人間の相手をさせられる、そしてここまで来てあまりにも無様な命乞いを見せつけられているデザイアはアルを気に入らなかったのか、アルに自身の指先をむける。



「あぁ…ぁぁ…あぁ…ぁ…?」


「ア、アル? 大丈夫か?」


「思考と理性の消えた者に声をかけても無駄じゃ」



 思考すれば実現させることが可能なデザイア、かなり疲れてしまうがアビリティやスキルすらもある程度ならば創り出すことが出来る存在なので、その場その場の気分に合わせて力を行使する存在。

 これが『思考具現化』というデザイアの持つ恐ろしいスキル。


 『腐敗する智慧』と今創った黙らせたいというデザイアの想いが合わさった時、アルは永遠の置物となってしまった。


 とりあえずデザイアは煩かったアルを置物にしようと思って黙らせただけなのだ。



「そろそろ妾はお昼寝の続きがしたいんじゃが」


「僕たちはどうなるんですか?」


「妾の知ったことではない。質問はいらぬ、答えを述べるのじゃ」



 絶望的な状況だった。完全なる積み。

 もはや生き残るのも正面にいるデザイアのご機嫌次第となり打つ手も無い5人。


 デザイアは残った5人の答えを聞いて、再びお昼寝を再開することにした。








――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 まさかのデザイアが選ばれて盛り上がることも無く遊ばれて、正常に生き残った5人と捕えていた2人に合わせて7人のプレイヤーが配下となった。

 裏切る可能性が無い訳じゃないが、裏切ればどうなるかなんて自分たちが1番良く分かっているだろうから大丈夫だろう。


 コアを操作して配下登録をしていく。

 「紅蓮の蝶々」ほどではないが「プレイヤー」という存在が配下になったことは色々なメリットが考えられる。


 まずは『アイテムボックス』だ。各々がたくさんの物を持てるのは普通じゃ考えられないメリットだ。Lvに応じて収納できる量や大きさも変わるそうなので今後に期待だな。


 そして他のプレイヤーに積極的に交流を仕掛けてもらえるということ。ぶっちゃけこれが1番のメリットだ。女神とやらの加護をもらっているプレイヤーは放置しておくと面倒なので把握しておきたいのだ。


 そして俺の配下になったところで色々変化があったらしく…。



「ほら…討伐目標が変わったじゃないか」


「『鉄刃の魔王』……」


「もし俺の言うことを忠実に頑張ってくれるなら手伝ってやるさ」



 5人の顔が少し晴れやかになる。

 さすがにデザイアの強さを見せられて手伝うなんて言われたら期待するんだろう。

 まぁ本当に役に立ってくれたら手伝っても良いと思ってるし、場所は5人のスキルが教えてくれるようなのでどうにでもなるはずだ。


 各々ジョブが全然違うので、とりあえず戦闘組と生産組で仕事を頼むことにする。

 話している内に真面目だと分かったのか少し安心したように質問等してくる。

 まぁ死んだ仲間のことは触れないようにしてるのかな? 俺の期限を損ねたら死ぬと思っているだろうし。


 

「「紅蓮の蝶々」っていうSランクパーティーが色々手伝ってくれるから真面目に頑張ってくれよ」


「えぇ…いつか元の世界に帰らせてくれるのでしょうか?」


「まぁ……誰かしらが元の世界に帰ったって話が出たらクリアしに行くか」



 俺の言葉を聞いてさらに安堵したようだ。

 とりあえず全員元の世界には帰りたいようなので、しっかり働いて帰ってもらおう。

 

 デザイアの能力を少しではあるが実戦で確認することが出来たし、プレイヤーとの良い繋がりも確保できた

 お次は「迷宮絶霧」にご挨拶しにいかないとな。

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