第4話 『制圧』の道のり


 先ほどまでと違い、ミネルヴァが俺たちのことを真面目な目線で見つめてくる。

 その顔からは容赦はしないって感じが滲み出ているけど、俺は魔王でミネルヴァは帝国騎士なんだよな。

 少し危機感が足りないというか、こういった経験が無いのか分からないが、きっと使えるんであろう時空間魔法で逃げておくべきだったな。



「俺は魔王なんでな。あまり舐められたままだと俺の格に関わる」


「格を気にするような魔王には感じなかったけどな」


「マスターに喧嘩売った人間がただで済むわけないじゃん♪」


「団員たちは私がキッチリ研究して、マスターのために使わせてもらおうかな」



 ミネルヴァの体から凄まじい魔力が溢れだす。EXランクの魔物に囲まれているから麻痺していたが、Sランクの魔物以上の魔力を1人の人間が放っているってのは驚きだ。


 人間とは思えないような魔力を纏いながら俺たちを睨みつけるミネルヴァだが、ガラクシアとイデアからはそれ以上の魔力が溢れだす。

 挟まれる俺としては肌にトゲトゲした痛みが走って困る。



「貴方の『無限魔力』とやらも根本的な力の差を覆せるようなものじゃない」



 イデアが淡々とミネルヴァに向けて解析した能力について話す。

 『無限魔力』って名前だけで能力内容が想像できるけど、本当に無限だったらとんでもない。

 それでもイデアの『根本魔導』はいくらミネルヴァが無限に魔法や魔導を使えたところで越えられないレベルのスキルだ。



「人の力を視る魔物まで配下にいるなんてね……本当に最近出来たダンジョンの魔王?」


「あぁ…魔王界じゃ新人だよ。1度見逃されてるから、今なら見逃すけどどうする?」


「それはアークにも来るなということかな?」


「良い風に書いておいてくれたら嬉しいよ。全面戦争となると一般人を巻き込みかねないから避けたい」


「まるで私たちに勝てるような言い方だね?」


「勝算が無いのに発言するような魔王に見えたのか?」



 帝国騎士団相手にまだ勝てるなんて確証は無いけど強気にいく。

 一応俺には第7師団を難なく退けた過去があるわけだからハッタリと思うわけにもいかないんじゃないだろうかっていう勝手な考えだ。


 少し間があった後、ミネルヴァは魔力を納める。それと同じタイミングでポラールと五右衛門が戻る。



「ご主人様戻りました」


「呆気なかったのぉ」


「ご苦労様2人とも」



 速すぎることにはツッコミを入れないでおく。これで『死霊』は消えた。

 ダンジョンも無くなり主もいなくなったこの街は崩壊するだろう。

 明日の朝にはアークから使者が来るように手配してあるので完璧だ。これで住民は増えるし、ライバル魔王の1人は消えた。

 ルーキー時代に先輩魔王に魔王戦争を仕掛けられないようにする規定は、こうやって呆気なく死んでしまう魔王を無くすためなんだろうな。



「コア破壊したから用は済んだ。街の人もアークから使者を手配してあるから安心して帝都に帰ってくれ」


「随分手の込んだことをする魔王だね」


「俺の壁になるやつらには容赦しないけど、それ以外には優しくがモットーなんだ」


「これは面倒な魔王が誕生してしまったかな…」



 ミネルヴァがやれやれと言った感じで呆れている。

 もう内容はどうあれ、これで完全に帝国に喧嘩を売ったようなもんだから、今後何かしら仕掛けられるだろう。

 一気に戦争仕掛けてくる可能性だってある。準備を怠らずに進めていかなくちゃいけない。



「まぁミネルヴァなら俺の仲間になりたかったら言ってくれ。歓迎するよ」


「人間を勧誘する魔王なんて初めてだよ」


「別に仲間にするのに種族なんか関係ないさ」



 帝国騎士団団長、しかも4人の賢者が身内に来たら、人間界の情報もたくさん手に入るし、色んな作戦を計画することが出来る。

 それにミネルヴァが仲間になったら面白そうだな。さすがにならないと思うけど。

 ため息をつきながらミネルヴァは振り返って宿へ向かって歩いていく。


 まぁもういいやってことかな。

 俺たちも『罪の牢獄』に帰るか、短時間だったけど収穫はたくさんあった。



「みんなありがとう。無事にすんなり終わったよ」



 ポラールの転移魔法で俺たちは『罪の牢獄』に帰還した。








――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 俺たちは『罪の牢獄』に帰還した後、コアルームに集まってミネルヴァの能力だったりワイトの話を共有し合うことにした。

 皆を集めて、まずは俺がイデアとガラクシアにミネルヴァについて尋ねる。



「正直どうだった?」


「『無限魔力』による継続戦闘と『女帝ザ・エンプレス』による指定した対象への絶大なバフは面白いけど、相手ではないかな?」


「ん~、アイシャちゃんとこの竜みたいに火力ガンガンタイプかな?」



 魔力が尽きない『無限魔力』とバフ系統の力を持ってる『女帝ザ・エンプレス』で集団での長期間戦闘が得意そうな感じか。

 ガラクシアが言うように、もし人間単体でドラコーンと比べられるほどの火力があるってのは恐ろしいもんだ。攻撃面に特化している分、他のところが劣っているけど、そんなの関係ないくらいの火力があるってことか。



「『枢要悪の祭典クライム・アルマ』なら誰が戦っても大丈夫かな」


「なるほど…本当にイデアの「構築解析」は凄いな」


「デザイア以外は今のところ見ることが出来ているからね?」


「デザイアちゃんは無理なんだ~?」


「認知不可能なもんは無理だね」



 そんなデザイアはお休み中なので放っておこう。

 これで4人の賢者は恐らく魔法面を見ても、イデアやガラクシア、それにメルのほうが上と言うのが分かった。

 帝国騎士のトップ3が横並びの戦力であった場合、今すぐに全軍で攻められても『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が動ければ安心安全であるってことだ。


 イデアが言うには魔物でも少ない4属性の魔導までを使用できるようで、それらを上手く使って立ち回りしてくるので、油断はするべきではないとのこと。



「用心に越したことは無いからな。次は『死霊』はどうだった?」


「主の悪口を叫んでおったのでポラールが瞬殺してしもうたわ」


「何か情報を吐かせるべきでしたでしょうか…」


「対して知っていることは無かったと思うから気にしなくていいよ」


「特に印象の残ることは無かったのぉ」



 まぁ2人から見たらあのダンジョンはただアンデッドが多かっただけの場所だったんだろう。

 おかげで『死霊』が消えたので、大森林近隣のダンジョンは俺たちと残りは『迷宮絶霧』になった。

 アークへの脅威が減った今、各地を巡るならルーキー1年期間に終わらせるのが1番だな。ここから進軍してみるか。



「ルーキー以外に攻め込まれる心配が少ない今、帝国領南を進んでみよう」


「若、俺たちは若の望み通りにやるのみさ」


「『大罪の魔王』の名を広める良い流れだね」



 阿修羅とイデアが冷静に返してくれる。

 まずやることはアークの守備をさらに強化しつつ、『迷宮絶霧』にご挨拶しに行ってから様子を見て、魔王戦争も視野に入れて準備を整える。

 そこからはルビウスの守備強化も視野に入れて、『サソリ大砂漠』へのご挨拶に行きたいな。



「ますたー、全部倒しちゃえばいいのに」


「まぁ街はいらないけど、魔王たちが敵になるなら攻めるしかないな」


「儂らも楽しめるとええのぉ」


「ご主人様の障害になるものは全て砕くのみです」



 みんなやる気は十分というか、満足したい感じだな。

 

 帝国南はSSランクダンジョンのような高ランクな魔王は存在していないから、ルーキーが名を上げるには運のいい場所に生まれることが出来たんだな。

 やることが魔王らしくなってきたなって感じるし、こっからが魔王としてのさらなる旅路ってことか。

 目指すは『黄金の海賊船』だな。

 ルーキー期間が終わるまでに帝国領南では自由に動けるようになっておけば、どう攻め込まれるても、相手の動きを読みやすくなるはずだ。



「まずは『迷宮絶霧』への挨拶準備だな」



 名前通りのダンジョンならかなり道に迷いそうな嫌なダンジョンな気がする。

 俺には出来ないけれど魔名の力を宿した魔物が大量にいるのが当たり前だ。もしも魔名が『霧』だった場合は攻略法も考えておかないとな。



「その前にプレイヤーのことも片付けないといけませんね」


「『夢幻の星ドリームスター』か」



 フォルカで交流するうちに情報はそこそことれた。

 全員目的が俺の討伐ってのは確認済みだ。同じ目的のプレイヤーもチラホラアークにはいるが、今一番強いのは『夢幻の星ドリームスター』なので、手を打っておくのは良いかもしれないな。



「同時進行だな」



 フォルカがバレない内に『夢幻の星ドリームスター』問題を片付けて、「迷宮絶霧」の調査も行う路線で明日からやっていくか!





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