第3話 魔王としての『あり方』
『黄金の海賊船』帝都近くに存在しながら200年ほど続いているダンジョンでアルカナ騎士団の育成に使用されているとも言われているダンジョンだ。
このダンジョンは1Fだけのかなり変わったダンジョンで、大量の海賊船から降りてくる魔物や海賊船を乗り継いでいって奥にある黄金に輝く海賊船を目指すダンジョンになっている。
海で溺れたり、海賊船から放たれる砲弾に注意しなければいけないが、ルーキーから上級者までやりごたえのあるダンジョンとしても有名だ。
そして帝国領土南の存在している魔王のトップと呼べるだろう。
「それと突然現れた遺跡ってのも騒がれてるね」
「なんのための場所か分からんな」
突如出現した魔物が生息している遺跡。
最奥に何か隠されている訳でもなく、少しだけ強い魔物が潜んでいるだけという謎さが世界中で話題を生んでいる場所だ。
プレイヤーに関しては意味がある場所のようだけど、どうやって遺跡を大量に造りだしたんだか…。
「南を制するなら『黄金の海賊船』と『ゴーレム魔城』だな」
「倒しに行く?」
「情報収集、そして挨拶が最初だな」
「ワクワクするね~♪」
とにかく魔王が少ない地域で良かった。
他の方面は平気で30体くらいいるそうだから戦場だ。睨み合いを続けたままダンジョン運営をしたくないから、なるべく早めに決着をつけたい。
帝国は魔王の数が2番目に少ない国だ。1番少ないのは聖国、さすが勇者誕生の国。
「明日『死霊』はやられるだろうから、次は『迷宮絶霧』に挨拶しに行くか」
「楽しそうー!」
ガラクシアとメルは楽しそうに笑っている。
『霧』の魔王なんだと思うけど、一体どんな魔物がいるんだろうな?
『霧』の魔名を考えると、視界を奪い、暗殺だったり不意打ち、水属性っていうイメージが出来るんだけど、その通りの魔物が多いのだろうか?
「別に制圧しなくてもいいんだけどな」
「ますたー、夢はでっかく」
「そーそーやっちゃおう!」
『
出来れば仲良くやりつつも俺が実権を握れるくらいになるのが理想だ。俺みたいなルーキーが考えるには傲慢かもしれないけど、理想を叶えるためには止まってられない。
広すぎても1人じゃ見てられない。俺は『罪の牢獄』とアークだけでいい。
最古の魔王組は自身の島だったり、人里から離れた山だったりと、5人とも自分の国みたいな感じになってるから、俺もそれを目指す!
「明日に迫ったホルムズの最期にむけて準備するか」
出来ればコアを頂けると嬉しいんだよな。
ガチャをたくさん引ける訳じゃないから魔名はいくらあっても邪魔にならないし、『死霊』は汎用性が高そうだからスケルトンに配合する機会があれば良い魔物が生まれそうな気がする。
フォルカの姿で行くのは無駄になるだろうから何人か連れて、俺自身も街に向かうのが1番良さそうだな。
「さぁ…準備するか」
「「はーい♪」」
◇
――帝国領 南 ホルムズ
日付が変わって2時間程経過した真夜中。
ホルムズの街には異変は誰が見てもわかるほどのことが起こっていた。
上空にはローブを被った魔法を得意としているアンデット数種が飛び交っている。
地上では地面から這い出てきて、武装しているゾンビが大量に出ている。
魔物たちはとある宿を囲んでいた。
そこは現在ホルムズに交渉と偵察をしに来ているアルカナ騎士団第2師団が宿泊している宿だ。
ホルムズに存在しているダンジョン『死霊の墓場』の主人、『死霊の魔王ワイト』は自身のダンジョンを攻略し、自身を容易に殺すという騎士団の動きを聞き、自分たちから攻め込むことにしたのだ。
魔王ワイトはコアルームから街の様子を見ながら、魔物たちに指示をだしていた。
「何が師団長だ。寝てれば普通の人間と同じだ! 僕を馬鹿にしやがって!」
ソウイチからのメッセージで「アルカナ騎士団が攻め込む予定になっている。コアが欲しいからその前に俺が攻める」と書いてあるのを見た時、ワイトは大激怒したが、まとめて返り討ちにしてやると思い、しっかり準備をしたのだ。
「師団長ゾンビを作ってやる」
アルカナ騎士団が宿泊している宿に近づく。
中に住んでいる宿関係者も巻き込むのは仕方ない、そう思いワイトは上空にいるアンデットたちに攻撃魔法を放つ準備をさせる。
50を超える攻撃魔法を嵐。
もし逃げ切れても地上には武装したゾンビ軍団がいる。
アルカナ騎士団をゾンビにして、あの上から目線の同期を殺す。
ワイトの頭の中はそれしかなかった。
「僕を馬鹿にした罰だッ! やれぇ!」
上空に待機している魔物に一斉放射の合図を送る。
その瞬間
空を飛ぶ魔物たちがいるさらに上に巨大な魔法陣が描かれる。
王の合図を受けて魔物たちが攻撃魔法を放つよりも速く、空に描かれた魔法陣から眩いほどの光が降り注ぐ。
光に触れた魔物たちは呻き声をあげながら灰となって消滅していく。
そして宿から師団長ミネルヴァを筆頭に、アルカナ騎士団第2師団の団員たちがしっかり武装をして出てくるのであった。
◇
――ホルムズ 街入り口付近
「あれは光魔導ですね」
「物を壊さずアンデットだけ消滅させれるのは便利だな」
「マスター出てきたよ」
俺たちはワイトが宣言していた時間帯にホルムズに訪れていた。
来た時にはミネルヴァたちが泊まっていた宿周辺がアンデット系の魔物で溢れかえっており、空には光属性の魔法陣が描かれていた。
それにしても勇者でも使えなかった「魔導」を使うとはさすが賢者だ。
単純に「魔法」の上位である「魔導」だが、この世界では使用できる人間は極僅かだって話を聞いたことがある。
ちなみに俺と一緒に来てくれているのは、「ポラール」「イデア」「ガラクシア」「五右衛門」の4体だ。
メルとデザイアは爆睡していたので『罪の牢獄』の留守番は阿修羅にアヴァロンとシンラに任せた。
「次々と出てくるな」
「ダンジョンで仕留めた冒険者をゾンビにしているようですね」
「ダンジョンの守りは捨てたのかな?」
「マスター星が綺麗だよ!」
「先頭の白いのが凄まじい使い手じゃのぉ」
周囲に被害を与えないようなスキルを選択して、アンデットを次々と葬り去っていくミネルヴァ。
他の騎士は宿にアンデットからの攻撃が当たらないように守っているだけのようだ。
次々とスキルを使用しているように見えるミネルヴァだがまったく消耗していないように見えるのは俺だけかな?
「彼女だけガラクシアと五右衛門以外には気付いているようですね」
「ミネルヴァを褒めるべきか、気付かれない2人を褒めるべきか」
夜になると力が増すガラクシアとデカいけど忍んでいる五右衛門はさすがだな。
そして隠れる気の無い2人は逆に凄い。
俺たちに気付いているからかミネルヴァも手早くアンデットを消し去ろうと広範囲魔法や魔導を使用している。
しばらくするとアンデットは出現しなくなった。
団員たちに宿に戻らせるように指示したミネルヴァは1人でこちらにむかって歩いてくる。
その顔は素晴らしいほど笑顔だった。
「君があの人形を操作していた魔王だね?」
「あぁ…『大罪の魔王ソウイチ』だ。1人で寄ってきて大丈夫なのか?」
「着いてきても意味ないだろう? 後ろの魔物たちは配下かい?」
「大事な家族のみんなだ。ミネルヴァの勇姿を見るついでにダンジョンコアを破壊しに来た」
「出来ればコアは団員たちに破壊させてLvを上げさせようと思ったんだけどね」
「早いもん勝ちだな。ポラール、五右衛門…頼んだぞ」
「「はっ!」」
2人は俺の指示を聞いて素早くダンジョンコアの破壊に向かった。
別にワイトに話すことは無いし、ダンジョン構造も『罪の牢獄』と似ているならば興味がない。
「自分から守りを薄くして大丈夫なのかい?」
ミネルヴァの発言にガラクシアとイデアは特に反応をしない。
その様子をみてつまらないって感じの顔をしているミネルヴァ、さすがに肝が据わっているな。
でもガラクシアがいるこの状況で喧嘩をするのは悪手だ。俺自身には力が無いけれど、実力差はハッキリと分かる。
「マスターに喧嘩売るなんて悪い人間だね? 宿に戻った人は、み~んな私の物になっちゃったよ♪」
ミネルヴァが振り返ると、武装した団員たちが少し虚ろな目をしながらこちらへ歩いてくる。
気付かせずにガラクシアが洗脳したんだろう。団員たちはミネルヴァを見つめながら歩いてくる。
「恐ろしい魔物だね」
「『
「……」
イデアの発言に動きが停止するミネルヴァ。
まぁこれだけイデアの目の前にいたら解析されるのも仕方がない。不用心なミネルヴァが悪い。
イデアは右手を歩いてくる団員たちにむけると、地面から銀色の水が溢れだして団員たちを包み込む。
「随分な歓迎じゃないか」
ミネルヴァからようやく余裕の無さそうな表情を見ることが出来たな。
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