第2話 『勉強』する魔王


 『罪の牢獄』に帰ってきてホルムズであったことを説明した。

 メルとガラクシア、ポラール辺りが今すぐにでもホルムズに行ってミネルヴァを襲撃しに行こうと提案してきたが、なんとか説得して止めることが出来た。

 もしかしたら、俺たちを誘う作戦なんじゃないかと思うと危険だ。


 確かにみんなで行けば勝てるんだろうけど、そんなことしたら帝国騎士団全軍を怒らせることになる。

 出来ればミネルヴァと仲良くしておいて、今後帝国を進める上でいいコネクションにしたいし、かなり情報を持っているだろうから上手く聞き出したい。

 それすらも見透かされていたら残念賞だ。



「こんな近くに迷宮都市があっても迷惑な話だから、遅かれ早かれ潰し合う運命だったんだけどな」


「他のダンジョンは面白そうじゃのう」


「街の前には私とガラクシアが転移魔法陣を設置したのでいつでも行けますね」



 ダンジョンは『罪の牢獄』と同じで地下に広がっていく形になっているようだ。

 アンデッドモンスターが中心のようで、魔王戦争を最近無事終わらせた同期だ。


 魔王戦争の記録を見たところ大量のゾンビを使った物量作戦をとってくるようだ。

 殺した相手アンデッドにして使役することも出来るそうなので要注意だな。


 ホルムズの長らしき人に手紙を渡してあるので、俺のコアにメッセージが来ててもいいはずだ。いきなり攻めるのも気が引けるからな。

 「魔王戦争をするつもりはないが帝国騎士団が攻めるという噂を聞いたのでコアを人間に砕かれるくらいなら俺が貰いに行く」と。


 メッセージじゃなくてここに来てくれてもいいんだけどな。



「若にしては大胆だな」


「ご主人様も進化していると言うことですね」


「帝国騎士団全員に襲われるよりは良いだろう」



 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』と心温まる話をしていたらコアにメッセージが来る。

 やっぱり街の長が魔王と繋がっているのは鉄板だったんだな。

 俺が許可を出し次第、『罪の牢獄』に来るそうだ。

 とりあえず俺と一緒に話を聞く係を阿修羅に任命し、他の魔物には準備と調査をお願いした。


 許可を出すとすぐに、黒いローブに包まれた骸骨とゾンビ化した戦士らしき魔物がやってきた。

 その顔は怒りで歪んでいる。



「お手紙ありがとう。僕は『死霊の魔王ワイト』だ」


「突然すまないな。『大罪の魔王ソウイチ』だ」



 骸骨なのに表情で感情が読めるって凄いな。そんくらい怒りの雰囲気が滲み出ている。

 そして俺と同じでルーキーで2文字の魔名を持つ魔王だ。魔名ってのは文字数が多くなるほど能力幅が広くなる傾向があるそうだ。

 後ろのゾンビ戦士からはなかなかの存在感を感じるので、名のある冒険者のゾンビなのかもしれないな。



「君たちが攻める話の前に……アルカナ騎士団が攻めてくるのは本当かい?」


「あぁ…今日ホルムズに帝国騎士団を見に行った時に聞いたんだ。帝国側の条件を飲まないからすぐにでもダンジョンに入って攻めると言う話だった」


「それがどうして僕の敗北に繋がるのかな?」


「相手は第2師団団長…『女帝ザ・エンプレス』だぞ。人間界に4人しかいない賢者だ」


「それが僕の敗北に繋がると?」


「今日会ったが化け物だった。正直震えたよ」


「少し上手く行っているからと言って、同じルーキーの君に見下されるほど僕は弱くないよ」



 やはりお怒りのようだ。割と役に立つ情報を伝えたつもりだったんだが…。

 逆の立場だったら感謝しそうなもんだけど、やはりプライドの問題ってことか。

 真名持ち魔物であるワイト君が騎士団なんてすぐにでも返り討ちにするそうだ。

 明日の夜に寝てる騎士団をまとめて根絶やして、その後まとめてゾンビ化してやると、わざわざ宣言してくれる。


 さらっと自分の力を口走っているけど凄い能力だな。俺はスキルをガチャ以外で覚えられないからな。俺も使いやすいスキルが欲しい。

 ゾンビ化出来るだなんて、冒険者を戦力にし放題って言っているようなものだから羨ましい。



「そしたら君を滅ぼそう。僕と魔王戦争をしてくれるかい?」


「第2師団に勝ったらやってもいいが…」


「その伸びた鼻をへし折ってあげるよ」


「しっかり準備させてもらうよ」


「では……僕は騎士団を根絶やしにする準備をするから帰らせてもらうよ」



 ワイトは自分のダンジョンに帰っていった。


 まぁ断言できるが不意を突いたとしてもミネルヴァには敵わないだろう。フォルカだったにしても、ミネルヴァの凄さは魔王を超えている。


 まず不意すら打てない気がする。前出会った3人の勇者たちよりも確実に強い感じがしたからな。

 まぁせっかくなら様子を見に行ってみてもいいかもしれないな。



「どうだった阿修羅?」


「あのゾンビは名のある戦士なんだろうが…ハッキリ言って話にならんぞ。新米勇者のほうが断然強い」


「阿修羅と比べて話になる奴なんて少ないだろう」


「うちにはたくさんおるぞ? 若」


「うちは数少ないけど、単体最強ばかりだから」



 阿修羅にワイトたちの印象を聞いたがやはり感じた通りのようで戦えば確実に勝てるだろうな。

 でもミネルヴァを見れたのは大きいな。人間界トップ4に入るであろう純粋な魔法使いを見れたのは今後の人間側の戦力を見る時に大いに役立つ。

 確実に倒した勇者3人合わせたよりもミネルヴァのほうが強いっていうのは恐ろしい。



「準備だけはしとかないとな」


「若…フォルカどうするんだ?」


「メルや五右衛門に頼んで引き続き『夢幻の星ドリームスター』と仲良くしてもらうことに専念してもらおうかな」



 メルの分裂体が俺に変身して、俺の話かたで違和感なく『夢幻の星ドリームスター』とあれからの仲良くやってきてくれている。

 俺が会ったこと無い5人とも顔合わせが済んでいるようで、報告が俺のところにあがってきている。

 阿修羅もフォルカのランク上げを五右衛門と一緒に頑張ってくれていたな。



「俺は当分触らないからやりすぎないようにな」


「承知した」



 それにしてもワイトの力があれば先日の勇者もどうにか戦力に出来ていたと考えると凄い力だ。

 

 俺はとりあえず何があるか分からないの準備をすることにした。








――次の日



 明日の夜、ワイトの勇姿と第2師団の激戦を見に行くのは決めた。

 今日はワイトのおかげで考えることが出来た、自分の近くにいる魔王についての情報をまとめることにした。

 冒険者をそれなりに支配下に置いているガラクシアがまとめてくれるらしいので聞くことにした。



「まずが昨日来た『死霊』だね! ここが一番近いよ!」


「ルーキー同士が近いって、今思えば争えって言われてるようなものだな」


「私たちは帝国領の最南端だからね。囲まれてなくて良かったね!」


「囲まれてたらますたーが忙しくなる」



 ガラクシアとメルが面白おかしく心配してくれてるがその通りだ。

 後ろからは空を使うしかないから対策しやすい。

 もし囲まれてたらストレスで爆発してたかもしれないな。



「そして『死霊』の反対! 大森林をずっと東に行くと『迷宮絶霧』って呼ばれているダンジョンがあるよ」


「霧か…名前でダンジョン構造が分かりやすい良いダンジョンだな」



 ガラクシアの話によると『迷宮絶霧』は30年ほどあるダンジョンらしくて、かなりの殺傷力のあるダンジョンらしく、場所も場所だから冒険者からは人気が無いようだが、アークから出向く人が増えて、最近は少し人が多くなってきているらしい。


 どんな魔王なのか気になるな。もしあれだったら出向いて挨拶しに行くのもいいかもしれない。



「次はアークから北方面、ルビウスよりさらに北にある『サソリ大砂漠』!」


「『蠍』の魔王ってことかな? これはフォルカをプレイしてるときに軽く聞いたな」


「ここもあんまり人気無いみたいだよ!」



 かなり特殊なダンジョンらしく、フロアは1Fのデカい砂漠になっていて、どこかに遺跡への入り口があるらしくて、その遺跡にダンジョンの続きが広がってるんだけど、探すのがとにかく大変らしい。

 砂漠なだけあって暑いし、動きづらいしで冒険者からは不評との噂だ。

 出来ればここにも挨拶くらいはしておきたいな。



「その『サソリ砂漠』から西に少し行くと『酸雪の試練道』っていう新しいダンジョンと『ゴーレム魔城』だったかな?」


「人のこと言えないけど変わった名前したダンジョンだな」


「でも何がいるか分かりやすい」


「確かにな」



 『ゴーレム魔城』は帝国領土南では2番目に有名なダンジョンだ。

 100年ほど続いているダンジョンでかなり人気だ。迷宮都市も「ヴァルカン」の2倍ほどとの噂で、かなり技術が発展しており、『銃』関係の武具を揃えたい冒険者が拠点にしている場所でもある。


 それと近くにいるルーキーは最悪だろうな。1年は安全だとしてもそっからは危ないからな。どうにか仲良くするしかないだろうな。


 そんな凄いとこでも帝国領土南では2番目だ。



「ルビウスから北西に行って帝都に近づくとあるのが、ここらへんで1番有名なダンジョン! 『黄金の海賊船』だよ!」


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る