第18話 その羽根は『不滅』の輝きを


「マスター、『救世の賢者・坂神雫』が半年後に聖国で次に討伐する魔王を女神に聞くっていうのをやるらしいよ」


「それは物騒な話だな」


「これで討伐すると言われた魔王は勇者数人でダンジョンに攻め込むらしいよ」



 イデアが『救世の賢者・坂神雫』の情報を探ってくれた。

 これはガラクシアのネットワークを駆使して手に入れた情報らしい。

 3人の勇者は俺が討ったが残り5人でやるつもりなのだろうか、それともまた『地球』とやらから勇者を呼びよせるのか?

 どっちにしても俺たち魔王からすれば厄介な話だ。


 可能ならばフォルカの状態で聖国に行くのが一番良い作戦だな。

 近くで勇者に会うチャンスだし、現場に居れば普通では手に入らない情報だって入手できるはずだ。

 さすがに現地の人間ならば勇者についての話だったり、どのような方法で勇者を異世界から召喚しているのかの情報を得られるんじゃないかと思っている。

 


「それまでにフォルカで色々基盤を作っておかないとな」


「結局忙しいねマスター」


「それを抜ければみんなでゆっくりできるさ」


「みんなで世界を巡ってみたいな」


「それいいな。色々終わったら行ってみるか?」


「その言葉忘れちゃダメだよ?」



 もっとダンジョンを任せられる魔物が仲間になってくれたなら、世界各地を旅してみるってのは面白そうだな。

 何かあってもみんなと居ればどうにでもなりそうだからな。


 イデアはウキウキした顔でコアルームを出ていく。

 明日にはダンジョン中に広まってそうだけど全部終わってからじゃないといけないぞ?



「帝国がアークの調査に動きそうな感じらしいな」



 やはりルビウスがどれだけ良い報告をしていても騎士団員が多く犠牲になったこともあり調査に乗り出すようだな。

 その場合帝都から偵察予告の手紙が来るのか、不意に来るのか? それともお忍びで来るんだろうか?

 ルジストルとリーナが居ればアークは問題ないだろうが、帝都から何を要求されるだろうか?

 帝都に戦争仕掛けるくらいの根性があれば違うんだろうが、さすがに帝国全土を敵に回すにはまだ力が足りない。



「そういえばあれの時期だな。今日ダンジョン閉じた後にしよう」



 大事なことを思い出したが、それより確認しておきたいことがあったのでそちらを先に終わらせることにしよう。

 レーラズは教育してくれているはずだが、しっかり育っているだろうか?








――『罪の牢獄』 居住区 果樹園



「元気にやってるか?」


「シャァァァ~~」



 レーラズに教育を任せているニーズヘッグに会いに来た。

 何やら鳴き声で返事ができるようになったようで、巨体をクネクネさせながら甘えに来る。

 レーラズと属性が似ていることから相性は良いようで、ヘッグちゃんと呼ばれていたので俺もヘッグと呼ぶことにする。


 

「ちゃんと色々教えてますよ♪」


「さすがレーラズだな。やる時はやってくれる」


「ヘッグちゃん! お腹空いた!」


「シャァァァ~~~」



 ニーズヘッグは果樹園の中から果物をいくつか器用に咥えて、レーラズへ渡しに行く。


 俺が思ってた教育と違う気がするぞ。完全に便利屋になってないか?

 完全に雑用を押し付けられているニーズヘッグと少し交流を深めようと思ったが、思ったよりノビノビとやれている様子を見ると、心配することはないな感じる。



「きゅ~~~♪」



 突然カーバンクルがやってくる。

 カーバンクルもヘッグと仲良しなようで、ヘッグの長い身体を走り回っている。ヘッグも楽しんでいるなら気にしないって感じでカーバンクルに遊ばせている。

 かなり大人なヘッグ、雑用押し付けられようが、身体を走り回られても怒らない器の広さは、虎蜘蛛に通じるものを感じる。



「よし! おいで!」


「きゅ~~♪」


「可愛い奴だな!」



 呼べば跳び付いてくるカーバンクルが可愛すぎて撫でまくってしまう。

 ヘッグに乗せてもらいながら果樹園の様子を見る。

 レーラズ曰く人間界では存在してはいないような魔法の果物がどんどん生まれているようでダンジョンの魔物たちには大好評のようだ。


 人に食べさせれば死んでさえいなければ完全回復できそうなレベルの果物なので、さすがに世に出せはしない。四大国から狙われてしまう。

 ただ、街の農業区域は勢い落ちることなくどんどん育っていってくれて、アークの街を収益面で助けてくれているし、街の健康を守ってくれている。



「マスター♪」


「どうした?」


「あ~ん♪」


「…あ~ん」



 レーラズが可愛らしい笑顔で俺に少し調理された果物を差し出してきたので食べてみる。

 とっても甘い。そして後から広がるちょっとした刺激的な感じが目が醒めるな。すると刺激がどんどん広がってきて、気付けば涙が出るほどの辛さが襲い掛かる!



「からァァァァァァァァ!」


「火炎放射を覚えましたね♪」









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 少し緊張している。

 コアルームにはほとんどの魔物が見守っている。


 その中心にいるのは、まだできたばかりだが『罪の牢獄』最古参とも言える虎蜘蛛とシンラだ。

 2体とも1度配合しているが、もう1度配合してほしいとのことで、前の配合から30日経過したので本日、運命の日を迎えている。


 配合の説明では2回目からは失敗することが多いと書かれていたが、本人たちがやりたいと思うのならやればいいと思っている。

 配合アイテムは簡単には手に入らないが配合回数が少ないし、基本Gランクしか呼べない俺からすれば気にすることじゃないな。


 すでに配合アイテムは前回決めていたらしいが今一度並べて置いた。


 シンラはすぐにアイテムを寄せて早くしてくれと訴えてくる。

 待ちきれないとい感じだ。失敗をするなんて考えてもいない勇ましい表情は、何故か俺に安心感をくれる。


 

「いいんだな?」



 力強く頷くシンラを見て、俺は画面を操作して配合をタッチする。

 シンラが選んだのは自身の属性に大きく関連したものばかりで、配合アイテム選びは、とてもとても堅実なラインナップだった。



1.魔名カード『銀世界』 ランクSS

2.魔名カード『神王雷』 ランクEX

3.魔名カード『大罪』 ランクS

4.聖魔物『黄金の羽根』 ランクSS



『注意:この魔物は2度目の配合ですが、よろしいですか?』



「改めてよろしく頼むよ…『シンラ』」



 いつも呼んでいる名である『シンラ』を改めて真名として授ける。


 一呼吸入れてから画面をタッチして配合を開始する。すると少しいつもと違う感じだ。

 4つのアイテムが黒く光り、シンラの周囲を回りだす。これは2回目配合のとき限定演出か? ドラコーンの時はこんな風になっていたっけな?


 いつもと違うってだけでかなり不安になってしまうが、黒く輝いているシンラは少しずつ大きくなり、いつもの1.3倍ほど大きくなると黒い光は消え、中から黄金に輝くシンラが羽を広げて現れた。



【フェニックス】 不死鳥 ランクEX Lv 960 固定

        真名 シンラ 使用DE??

 ステータス 体力 SS+90  物理攻 SS+95  物理防 SS+99

       魔力 EX+99  敏捷 EX+99  幸運 EX+99

アビリティ ・『火は巡る明日の空へムエルト・フェネクス』 EX

      ・『雷は駆ける悪の下へスカイ・ブリッツ』 EX

      ・『氷は連なる地の底へラ・グラキエース』 EX

      ・天空の支配者 EX

      ・永遠を駆ける神鳥 EX

スキル  ・『不死ポイニクス』 EX

     ・神火 EX

     ・神雷 EX

     ・神氷 EX

     ・天地騒乱 EX

     ・時巡りの神鳥 EX

     

 2度目の配合でEXを含むアイテム2つ以上で生まれる。

・『不死ポイニクス』の大罪を司る不死鳥。3属性を得意とし、3属性の魔力が周囲にあれば何度でも蘇ることができる。

・ほとんどの時空間系統の効果を無効化することができ、天候も自由に操ることができる。自由気ままに好きな空間、好きな天候の中を優雅に羽ばたいている。



「さらに美しくなったなシンラ」



 まさか不死鳥になるんだなんて思ってもみなかったが、天候を自在に変化させる力、そして『不死ポイニクス』という自身や味方が死なないように様々な力を付与する大罪。ただ成長を止めてしまうデメリットもあるが、Lvが固定である『枢要悪の祭典クライム・アルマ』になら問題無いと言いたいところだが、味方のバフすらまともに受け付けない奴らばかりなので、活躍場面は限られるかもしれない。


 黄金に輝くシンラを素直に褒めてみたら、空間が歪んでシンラの姿が消えてしまった。せめて一撫でくらいさせてくれてもいいじゃないいか…。



「恥ずかしがって行ってしまったね」


「いつも鳴き声出さなかったのは恥ずかしかったからなのか」



 シンラは、また戻ってきたときに話せばいいとして、次はみんなの先生の出番だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る