第17話 『氷月狼』召喚


「攻撃が通らない!」


「……硬すぎる」



 「メタルイモムシ」の鉄壁にレオンとサキの攻撃がまったく通らずに逃げ回る。

 アイカの必殺技は時間がかかるらしく囮役になりつつ逃げまわる作戦をとっている。

 幸いにもメタルイモムシは動きが遅いので余程のミスをしなければ押しつぶされることはない。

 ただサキとエリは敏捷値がイマイチなのか、大森林の中では苦戦してしまっている。



「『衝撃剣インパクトブレイドッ』」



――バァンッ!!



 俺は剣の腹でメタルイモムシを横から叩く。

 この技は大きな相手の体勢を崩すにはもってこいの剣技で、相手内部にまで衝撃を与えることができるので外皮だけ硬いやつにかなり有効だ。


 『衝撃剣インパクトブレイド』を受けたメタルイモムシは大きくよろめくが倒れることは無く、変わらずにサキとエリに向けて前進を続ける。


 さすがに二足歩行の魔物でもないから倒れさせるまでには至らないか。だったら出し惜しみをせずに使っていかないとな。


 俺の足下に青色の巨大な魔法陣が展開される。



「月を追いし氷狼よ。我らが契約に応じよ! 召喚魔法! 『ハティ』!」



――ハオォォォォンッ!


 

 俺の正面に巨大な氷柱が生まれ、咆哮とともに氷柱を砕きながら現れる人を2人は乗せられるような巨大な狼。



「なっ!?」


「召喚魔法も使えるんですか!?」


「……凄い」



 Aランクの魔物『氷月狼ハティ』。

 氷系統の技を使いこなす魔狼だ。

 夜だと戦闘力があがるという環境恩恵を受けられる魔物だが、今は仕方ない。



「ハティ! 『氷狼嵐ウルフブリザード』だ!」


「ハァオォォォォ!!」



 ハティが浴びる者を凍てつかせる氷嵐をメタルイモムシにむけて放つ。

 動きの遅いメタルイモムシでは躱すことはできずに足下から凍っていく。


 まぁBランクのメタルイモムシじゃハティには手も足もでないんだけどな。


 身動きの取れなくなったメタルイモムシは藻掻くが、どんどん凍っていき、30秒ほどで巨体全てが凍り付いた。



「まだか!? アイカ!」


「やるじゃないフォルカ! みんな離れなさい!」



 尋常じゃない魔力を滾らせて、足下に巨大な魔法陣を展開したアイカが叫ぶ。

 他のメンバーの急いで散っていく姿を見ると相当やばそうだな。

 俺は全体図を見たいのでハティに乗ってその場から離れる。




「吹き飛びなさい! 『握り潰す巨岩の手グランドスマッシャー』」



――ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!  ドガァァァンッ!



 大きく地面が揺れた後、メタルイモムシの前後左右に地面から巨大な岩の手が現れる。

 巨大な手が凍り付いたメタルイモムシを強く掴む。

 メキメキメキと凄まじい圧力がかかる。見ているだけで恐ろしいほどの力が出されているのが分かるレベルだ。



――バギィィンッ!!



 凍ったメタルイモムシは何も抵抗することもできずに巨大な手に握り潰されてしまう。

 凍ったまま欠片となって砕け散っていくメタルイモムシ。

 

 これがアイカの威力を5倍にまで膨れ上がらせるスキルか。

 もしアイカが魔導を覚えたらとんでもないことになってしまいそうだな。


 …それにしても。



「デカい音を出しすぎだ! 素材とったら街まで逃げるぞ!」



 確実に俺の話を聞いていなかっただろう4人に声をかけて急いで街まで戻った。

 楽しそうに帰り道を走る4人をみて、命に対する不安を感じているようには思えなくて、少し怖くなった。








――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム




「けっこう長いことやっちゃったな」



 まさかのプレイヤーグループと遭遇して依頼をともにすることになったから、かなりの時間を冒険者活動に費やしてしまった。

 だが無事依頼を終え、次回も一緒に魔物狩りをすることを約束したし、他のメンバーにも紹介したいと言われたので、初回にしてはなかなかいい手応えに感じた。


 それに冒険者の能力もなんとなく見ることができた。



「この世界に滞在している時間が長いだけ勇者のほうが強いが、同じ時間になればプレイヤーは勇者と並ぶような強さを手に入れる可能性がある」



 確実と言うわけではないがそんな気がする。

 もしそうなるなら大量のプレイヤーがみんな勇者みたいになられたら俺たち魔王はとんでもないことになってしまうだろう。



「ますたー肩もみするね」


「あー、ありがとうメル」


「いいよ♪」



 俺を見て肩が凝っていると感じてくれたんだろう。メルが肩を揉んでくれる。本当に良い子だ。

 そろそろダンジョンが閉まる時間だな。本当にこのダンジョン閉鎖できるってのは迷宮都市の良い点でもある。



「マスター、今日は例のプレイヤーの一部が来ていたよ」


「どうだった?」


「前衛職3人で自分たちの連携を確認する感じだったね」



 レオンたちが言っていた通りだな。

 今度紹介してもらえるそうなので仲良くできるようにしておかないとな。

 

 俺はイデアたちに今日の話をしてプレイヤーの可能性について話しつつ、情報を全部引き出し次第叩くと伝えた。

 もし引き出す前に本格的にダンジョン攻略に乗り込んできた場合も叩くけどな。


 勇者と並ぶような可能性があるような奴らをそのままにしとくつもりも無いし、結局は俺の命を狙う奴らだ、フォルカで仲良くなったからと言って容赦をしてやるつもりはない。



「マスター変わったね」


「……そうか?」


「儂は今のほうが好ましいぞ」


「私も徹底的にやる考えのほうが好きかな」


「様子見てばかりじゃ何かあってからじゃ遅いからな」


「ますたーは私たちが守るよ」



 ミルドレッドの勇姿と意志を絶対に忘れるわけにはいかない。

 立派な魔王として俺は最高の街を創るために壁になるやつは容赦しないと決めたからな。

 同期の魔王も俺たちを狙ってくるだろうし、上の魔王たちもどこかで邪魔をしてくると思うから来たら潰してやらないと。


 ルーキー期間である今、どこまで力を伸ばせるかが今後の未来を大きく変えるはずだ。とにかく今は全力で前へ進むしかない。



「みんなでご飯でも食べるか」


「おぉ! 儂は酒が欲しいぞ」


「ますたーデザートある?」


「私も甘いものを食べたいな」


「とりあえず食堂に行くか」



 3人を連れて食堂に向かう。

 食堂にはすでにガラクシア・ポラール・阿修羅がワイワイ楽しんでいた。

 まぁ『枢要悪の祭典クライム・アルマ』には自由を与えているからいいんだけどな。


 3人は流しそうめんを楽しんでいる。

 阿修羅が麺を流す係をしていて2人が啜っている。誰がどうやって準備して用意したんだ…。



「おっ! 若たちもどうだ?」


「儂の箸捌きを見せてやろうぞ!」


「私もいただこうかな」


「ますたー行こ♪」


「せっかくだしみんな呼んでくるか」



 こういうのは大勢いればその分楽しくなるだろうからな。


 俺はみんなを呼んで流しそうめんを楽しむことにした。

 アヴァロンは食事を食べるようなことはないので淡々と麺を流してくれた。

 五右衛門が分身して反則をしたところポラールにボコボコにされたり、レーラズが阿修羅にお酒渡して自分の分をとってもらったり、メルが流れる水をこっそり操って自分の目の前で流れがとまるようにしたりと面白い流しそうめんになった。


 途中からガラクシアが麺以外のものを流してみたいと言うので、フルーツやら刺身なんかが流れてくるという意味不明だったが楽しい食事会は無事終わった。



「みんな元気だな」


「だって私たちの階層は基本こないから他のことやってるくらいだよ?」


「まぁ今の感じだと来そうにないな」



 偽イブリースですら倒されたことがない現状だからな。

 しかもガラクシアのとこ行くにはアヴァロンを倒さなきゃいけないから来ることは無いだろうな。

 その分仕事を頼んでいるが、ガラクシアからすれば忙しいうちに入らないんだろう。



「そうだな。もっと色々考えるか」


「マスターと一緒ならなんでもいいよー♪」



 ガラクシアが跳び付いてくるので受け止める。

 相変わらず凄く軽いのでいいけども色々恥ずかしいものがある。そしてそれが確実にバレていてニヤニヤされるのがさらに恥ずかしい。

 こんな嬉しそうな顔されたら何も言えないのが俺の弱いところだよな。



「お風呂にでも行こうかな」


「おぉ~? 私は~?」


「……黙って行くぞ」


「マスター大好き!」



 ゆったりガラクシアと露天風呂を楽しもうと思ったらすぐポラールにバレて怒られた。

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