第16話 冒険者する『魔王』


 【フォルカ】を作成してから5日ほど経った。

 空いた時間にやることで操作時間には慣れてきてアークにも少し顔を出してみたが、やはり人間との会話は少し難しく知らないことが多いことに気付かされる。

 オープルと「紅蓮の蝶々」に手伝ってもらい、なんとか個人ランクCまで来たのでこれからは「プレイヤー」に接触をしていければと思う。


 そしてビエルサにフォルカとパーティーを組んでもらうことにしたので、何かとメリットがあるし冒険者の大先輩として助けてもらうことにしたいが、ビエルサには色々頼んでいてほとんどアークにいないのが現実だ。


 そして今はフォルカでアークを本格的に歩いてみている最中だ。


 格好は白と灰色で統一された武装で、お洒落だけどフードが邪魔ではあるが、イデアがそのほうが良いというので仕方ない。

 武器は片手剣にしては大きいけど一撃がその分強いし重さはイデアのおかげでほとんどないので使いやすいが、何より剣士としての戦い方がまだまだ甘すぎて阿修羅や五右衛門に笑われてしまっている。


 何度か来ている冒険者ギルドで依頼を閲覧してみる。



「大森林の探索と魔物討伐か」



 さすがに大森林で魔王をやっているだけあって周囲の環境には詳しいし、生息する魔物も特徴は把握しているし、かなり良い依頼だな。


 依頼が書いてある紙を壁から剥がして受付にもっていく。

 カウンターで受付嬢に殺到している列に並ぶ。


 大森林に生息する魔物は良い素材を落とすので中堅冒険者には良い狩場だ。

 それにダンジョンも存在しているアークはどんどん人気になってきて、冒険者ギルドも賑わっている。


 そしてついに俺の順番になる。



「こんにちはフォルカさん! こちらのご依頼ですね! 依頼者様はあちらにいるのでよろしくお願いしますね!」


「あぁ…ありがとう」



 受付嬢の1人であるキャロ。

 ふわふわ茶髪が人気の女の子だ。

 依頼用紙にサインをもらって依頼者のほうに向かう。依頼用紙には推定Lvと推定ランクが書かれているがどちらもクリアできているから大丈夫なはずだ。


 キャロに言われたテーブルに近づくと聞き覚えのある声が聞こえてくる。



「どんな人が依頼を受けてくれるかな?」


「条件は指定してあるからそこそこの冒険者でしょ」


「素材集め頑張りましょう」


「……来たよ」



 そこにいたのは以前調べた「プレイヤー」たちだった。

 9人のギルドで7人の戦闘パーティーだったはずだが、今いるのは4人しかいないようだ。3人はどうしたんだろうか?

 それを聞くわけにもいかないので気にせずに挨拶をする。



「今回依頼を受けたCランクのフォルカだ。大森林についてはよく知っているつもりだ」


「レオンと言います! 同じくCランクで剣狩人をやってます」



 確かこの声は『刹那戦闘』を使う男だった気がする。

 黒髪黒目をした青年で、片手剣とたくさんのナイフ、そしてボウガンを駆使した接近型の狩人だそうだ。使う武器が多いし、重そうだけど大丈夫なのだろうか?

 ちなみにパーティーのリーダーをしているようだ。



「『夢幻の星ドリームスター』のアイカよ。ウィザードやってるわ」



 『過剰魔力放出』だったかな? 長くて綺麗なブラウンヘアをした少し強気な匂いがするウィザードだ。

 そしてギルド名は『夢幻の星ドリームスター』って言うのか、良い名前だ。



「私はエリと言います! 白魔術師をやっています! お願いします」



 パーティーのヒーラーのようだ。

 猫型のフードを被った少女だ。黒髪が覗いていてパッチリした目をしている。

 なかなかに低い身長のようでギルドに置いてある机や椅子はサイズが合わないようだが言わないほうがいいだろう。



「……サキ、マジックスナイパー」



 『銃』の魔王が持っていた気がする長い銃をもった少女だ。

 淡い紫のショートカットに眼帯に無口っぽいというキャラの濃さがすごい子だ。

 魔弾を撃ち出す銃を使う遠距離専門のようだ。


 そして思うのは大森林を歩くにしてもパーティーバランスが悪い気がするがツッコメない。

 他の3人はダンジョン1Fで慣れるために攻略中だそうだ。文句は言っていられない。



「僕らはいつでも行けますがどうですか?」


「俺もいつでも大丈夫だ」


「さっそく行きましょう!」



 準備はアークを歩いていた最中に買い込んであるので大丈夫だ。冒険者に大事なのは準備だとオープルに散々言われたので揃えてある。


 俺は4人の後をついて大森林へ向かった。

 







――アーク周辺 大森林



「ここでは大きな音や煙を出してしまえば寄ってくる魔物が多い。昆虫系魔物は硬いのが多いから要注意だ」


「私の魔法は反応しちゃうのかしら?」


「アイカの魔法は威力は凄いが派手で目立つから魔物を引き寄せてしまうかもしれない。ここではサキのスナイプのほうがやりやすいかもしれないな」


「……静かにやる」



 大森林を歩きながら細かいポイントを説明していく。

 俺がタンク役をしながら『夢幻の星ドリームスター』の面々が遠距離で確実に仕留めていく。

 巨大な木々が並ぶ大森林をこんな風に歩くのは初だが、魔王になりたての頃にかなり調べ尽くしたので大丈夫だろうし、そこで得た知識を言っておけば満足するだろう。


 しかし『タンク』というのは難しい役割だ。スキルがないせいかもしれないが、相手の注目を集めるというのは難しい。



「木の幹に擬態している魔物がいる。あそこを見てみてくれ」



 背中に背負っている剣の柄を握りながら説明する。

 そこにいるのは「ブレイドカブト」がいる。幹の色に擬態して通り過ぎた獲物を、不意をついて斬り刻む人間サイズのカブトムシだ。

 この大森林では正面から襲ってくる魔物は少ないので知識で勝負しないと戦う前にやられてしまう。



「近くを通り過ぎないと反応しないから声をだしても大丈夫だ」



――バッ!



 ブレイドカブトにむかって跳ぶ。

 そこまで反応が速くて身軽な魔物じゃない。


 一閃ッ! 横に薙ぐように斬る。

 ブレイドカブトにアクションを起こさせる前に仕留めるのが一番楽だ。

 なんとか一撃で切り裂くことができたので素材を剥ぎ取らないとな。



「硬いっていうのは分かったけど、なんであんたの剣ではすんなり斬れるの?」


「そいつは剣がいいからだな」



 しまった。


 何気なく攻撃していたが、本来Cランクである俺がこんな剣を持っているわけないもんな。

 ステータスも同ランクではぶっちぎりで高いと思うからそういったところは見せすぎないように注意しなきゃいけない。

 これは対策不足だった、違和感がないように気を付けていたつもりだったが本当に難しい。



「凄い剣ですね! 僕も武器をどんどん強くしなきゃな」


「それこそここの魔物を狩りまくれば良い物になる」


「お二人とも補助魔法をかけなおします」



 エリが身体能力と自然回復力が上昇する白魔法をかけてくれる。

 俺も付与魔法を使用できるが使うまでも無いので見せてはいない。なんだが経歴とか聞かれそうで怖いからだ。


 それにしても多彩なパーティーだ。

 これに前衛職が3人控えているんだから確実にすぐに名前を広めるだろう。

 レオンとアイシャは隠すことなくユニークスキルを見せているが、それがぶっ飛んで強い。

 それにエリとサキと仕事を確実に遂行するので隙の無い面子だ。強いて言うならアイカの魔法がないと決め手に欠けるとこだな。


 俺たちは大森林をグルグルと回る。

 魔物に関しては俺の装備パワーでゴリ押しができるので苦戦をせずに済んでいる。

 『夢幻の星ドリームスター』の連携の邪魔にならないように魔物の注意を引き付けながら一撃を喰らわすスタイルでいる。


 そして安全と思われる場所で少し休憩に入る。



「フォルカさん本当にCランクですか? 凄い強いですね!」


「うん。物知りだし強いしビックリだよ」


「大森林と『罪の牢獄』は慣れてるからな」


「へぇ~ダンジョンのほうも慣れてるのね」


「あぁ…3層まではすんなり行けるぞ」


「……役立つ」



 そんなことを話して交流を深めていた。

 1日の関係だが、かなり話し込んでいる。

 『夢幻の星ドリームスター』が『罪の牢獄』をクリアするのが目的なのは知っているので俺の話は興味をそそるだろう。

 できればこの調子で『夢幻の星ドリームスター』に入り込めれば面白そうだし、情報がたくさん掴めそうだ。



――ゴゴゴゴゴッ!



「ここ通り道だったのか」


「な、何の音?」


「かなりの威圧感を感じます」



 俺たちは火を消して警戒をする。

 各自が武器を構えて音の正体を探している。

 何かを引きずる音はどんどん大きくなってきて、俺たちの前に現れたのは超巨大なイモムシだった。



「メタルイモムシだ! 押しつぶされるなよ!」



 大森林を徘徊し続ける「メタルイモムシ」。

 鋼のような硬さを誇り、速さと攻撃力はかなり低いが守備に特化した魔物だ。

 そして素材がけっこう貴重でもある魔物だ。



「みんな必殺技使うから耐えて!」



 アイカが凄い勢いで魔力を溜め始めた。

 わざわざ大声で叫ぶところが「プレイヤー」らしく、まだ戦場には慣れてないなって感じてしまうが、必殺技とやらが気になるから頑張ってみるとしよう。

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