第13話 魔王の『覚悟』


「ミルドレッドの想いがあるとしても僕らはコアを諦めきれない」


「今すぐ他の2人を呼んでください。少しなら待ちますよ」


「さっきから誰に向かって口をきいてるんだ? ルーキー君?」


「さっきから遅れてきた立場で何言ってんだ? 『空』の魔王さん?」



 阿修羅が少し笑っている。

 俺の言動が普段と違って笑っているんだろう。阿修羅的には今の俺の方が魔王らしく思えているのかもしれないな。

 ポラールとイデアも特に何も言わないので俺に任せてくれているし、それは間違っていないってのを教えてくれている気がする。

 メルは俺をイライラさせている『空』の魔王にイライラしているように見える。


 バイフーンも俺がこんな風に怒っているのを見て驚いている。



「僕に喧嘩を売っているのかい?」


「呼ばないなら砕きますよ。話を続けても意味ないでしょう」



 俺はコアを操作して自壊させようとする。

 その瞬間『空』の魔王から殺気が放たれる。どうしてもやらせたくないようだな。


 『空』の魔王後方にいた幹部らしき鳥人族が槍を構えている。


 それを見た俺の魔物たちも雰囲気が変わる。



「悪いがルーキーのために2人をわざわざ呼ぶことはないよ」


「じゃぁ諦めてください」


「交換条件でどうだい? いくつかの魔名をあげようじゃないか」


「興味ないですし、話が長いので終わりにしてください」



 コアの操作を再開する。

 砕く方法もあるけど自壊させることでダンジョンをゆっくり安全に崩壊させる。

 砕くと一定時間後に一気に崩れるので街に被害が出るかもしれないからな。



――バサッ!



「俺たちがいて若に手が出せるとでも?」



 阿修羅のほうを見ると飛び出してきていた『空』の魔王と後方にいた鳥人魔物を押さえていた。

 片手で頭を掴まれている。相手も余計な動きをすると頭を砕かれると理解しているようだな。

 仕掛けてきたってことは余程コアが欲しいんだろうな。


 メルの身体から『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』が4匹ほど飛び出しているが阿修羅のほうが速かったようだ。



「仕掛けてきたってことは……そういうことでいいですか?」


「随分良い魔物を揃えているね」


「ミルドレッドの弟子ですからね」


「それでも譲れないんだけどね」



 『空』の魔王周囲に大量の魔物が姿を現す。透明になって、かつ気配も消せるのか…。

 これが『空』の能力ってやつか、まったく気付かなかった。

 でも4人は気付いていたかのようにまったく動揺しない。教えてくれよ。



「勇者が弱かったから良い発散相手だな」


「マスター、とっとと砕いていいよ。時間の無駄じゃない?」


「ご主人様すぐ蹴散らしますので帰りましょう」


「ますたー、眠いよ」


「あぁ……蹴散らしておいてくれ」


「ルーキー如きが調子乗るなよ!」



 画面をタッチして自壊の所を選ぶ。

 2回ほど確認されるが、自壊を選ぶ。

 『空』の魔王が叫んでいるが気にせずにタッチし終えた。



――パリンッ!



 コアは砕け散った。

 これで数日かけてゆっくりとダンジョンは崩れていくだろう。

 『空』の魔王は怒り狂っているが気にしない。

 『空』の魔王配下は4人によって蹴散らされていく。


 ある程度倒し終えた4人はコアが破壊されたのをしっかり見て手を止めた。

 俺は『空』の魔王に声をかける。



「まだやりますか?」


「……こんなことしてただで済むとでも?」


「済まないのなら今のうちに殺すだけだ」


「僕を捕らえられるとでも?」



 『空』の魔王が消える。

 これが魔物を隠していた能力なんだろうがこの4人が逃すはずがない。

 


「メル、頼めるか?」


「見えないだけで、まだそこにいるよ?」


「そうなのか?」


「うん」



 メルの発言を聞いて驚いたのか『空』の魔王が姿を現した。

 本当にその場にとどまっていたのか。

 見るからにイラついている顔をしている。ルーキーに良い様にされてプライドもクソもないのだろう。


 かなり面倒だ。

 今回の件でさすがに学んだよ。徹底的に敵になりそうなやつは叩いておかないと自分が望んだ世界は造れない。

 情報を知って警戒をしてるだけじゃ何時か痛い目に見る。

 だったら敵と分かった瞬間に倒す。


 これ以上失わないために。



「何が目的か知りませんが襲ってきた立場なんで文句は無いですね?」


「くそ……こんなルーキーが何故…」


「結局何がしたかったんですか?」


「……好きだったんだ。ミルドレッドのことが」


「……」


「ずっと同期で活躍してきて、アタックしてたんだけど最後までダメだった。でも最後のコアくらいは僕の手で砕いてあげたかったんだ」



 同期で一緒にやってきたがゆえの行動ってやつか。

 なら他の2人は呼べないわけだな。自分だけでやろうと思ってたんだろうから。


 そんな風に思っていたらメルが声を出す。



「ウソついてるよ。ますたー全部読み取った。こいつ黒幕の1人」


「……醜いもんだ」


「な、何を言っているんだ!? 僕が嘘つくわけないだろ!」


「初対面にそんなこと言って信じるかよ。ポラール」


「はい」


「え? や、やめろ! やめてくれぇぇぇぇ!」



 ポラールが黒炎を纏わせた拳で一撃かましてくれる。

 『空』の魔王は消えることのない地獄の黒炎で灰になっていった。


 元々ミルドレッドのコアを狙っていたが、俺が来たので勇者と戦って疲弊させたところをコアと一緒に殺すつもりだったようだ。


 あんなのが魔王? ミルドレッドと同格の? 本当に笑わせてくれるな。









――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 時間が時間なのでかなり眠たいんだけど、今回のまとめをしておかないといけない。

 バイフーンとはダンジョンを出て別れた。

 街に関してはなんとか持ちそうだけど危ないとのことでバイフーンがなんとかするそうだ。俺もアイシャを通して『天風』に連絡しておいてもらうので大丈夫だろう。


 メルが読み取った『空』の魔王だが、だいぶ前から洗脳のような状態になっていたようでメルが読み取った中で出てきたのが『救世の賢者・坂神雫』という勇者の名前。

 この勇者は聖国にある『空』のダンジョンがある近くの街にいるようだ。

 メルが言うのは崇拝のような状態になっており、魔王の情報を勇者側に流していたようで、今回の戦争時間等も全部流していたようだ。


 ミルドレッドが狙われたのは偶々戦争があったからだそうで、ずっと前から計画されていたようなことではないようだ。


 『空』が操られていたことも『天風』に伝えてもらうようにアイシャにメッセージを送ったけれど、面倒なことになるかもしれない。


 そしてイデアが勇者からたくさん情報を聞き出してくれた。さすがイデア。



「勇者が女神の消耗品説は……一旦置いておこう。サンプルが3人じゃまだ分からん」



 勇者は「プレイヤー」と似たように固有の能力が3つあるらしく2個のスキルは人それぞれなようだ。

 そして別世界から呼ばれる勇者は全員『地球の日本』という場所から来ているようだ。


 日本から呼ばれる者に共通点は年齢がみんな近いらしい。10体以上の魔王を倒すと帰れると言われているようだ。

 聖国でトレーニングを受けてから本格的な勇者活動をするようだ。魔王を倒す以外にも忙しいようでそれぞれ色々活動しているそうだ。


 そしてどうやら「プレイヤー」も同じところの人間らしい。

 ただこの世界への入り方が違うようだ。

 確かに魔王10体の勇者に比べて、3つの条件をクリアする「プレイヤー」じゃ全然違うがそこらへんは勇者も分からないようだ。


 だがこれはデカい情報だ。結局魔王からすればどっちも脅威だ。

 それにミルドレッドをこんな目に合わせた『救世の賢者・坂神雫』は注意しなきゃいけない。

 魔王戦争のあとに勇者に攻め込ませるやり方は厄介すぎる。

 

 今までは慎重になっていたが、事を起こされる前にやる覚悟も必要ってよくわかったよ。



「俺の師匠をやっておいて……『魔王』の格を傷つけられて……黙ってはいられない」



 俺は情報をまとめ終わった後、限界が来て寝ることにした。


 

 

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