第9話 『勇者』の脅威


「ミルドレッドが勇者に襲われている…?」


「祝勝会の準備をしている最中に襲撃された。勇者が集まっているとは聞いていたが、まさか我らの所に予告も噂も無しに来るとは思わず、不意をつかれた」


「タイミングが良すぎる」



 いくらなんでも都合が良すぎる。

 魔王戦争が終わった直後なんて狙わなきゃ無理だし、噂も立てずにいきなりダンジョンにくるなんて何かしらやらなきゃ無理だ。

 まずどうやって人間が魔王戦争をやっているだなんて知ったんだ?

 

 確実に勇者に狙わせた誰かが存在している。勇者に通じている魔王が確実に…。

 ミルドレッドの同盟は戦争前に『狂乱』が仕掛けた作戦で疲弊していて厳しい状況。



「行こう」


「勇者の特殊結界魔法で転移ができんのだ」


「用意周到だな」



 勇者は逃げられないように転移を封じる結果を張るのだが、これが強力らしく中からも外からも転移不能になるらしい。

 勇者に反発した街の亜人たちも皆殺しにされ、ダンジョンもボロボロにされているが、ミルドレッドが死んでほしくないとバイフーンとの契約を消滅させフリーの魔物にして俺の所にギリギリのタイミングで転移させたようだ。



「まだ死んでないんだろ?」


「無謀だ……勇者としては新米の3人だそうだが、それでも恐ろしい奴らだった」



 弱っているやつを嬲り殺すような野郎は気に入らない。ミルドレッドがどれだけ準備をして魔王戦争に勝利したと思っているんだ!

 そして何よりミルドレッドに死なれるのは俺が嫌だ。


 できれば勇者は調べてからどうにかしたかったが、この状況では調べるもくそもない。覚悟を決めるだけだ。



「みんな……勇者を叩きたい、ミルドレッドにそんな最期を送らせるわけにはいかない」


「若、そんなの命令するだけでいいのさ」


「私たちが蹴散らしますすよ」


「ますたーの敵は全部倒す」


「勇者に会いに行く。まずはポラールはバイフーンを連れて全速力で街まで転移魔法陣を作りに行ってくれ」


「はい、お任せください。ほら行きますよ!」



 ポラールは有無を言わさずバイフーンに触れて転移した。

 街の外に転移して飛んでいくんだろう。


 そして他の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』を見ると何故か右と左で分かれていた。


 イデア・阿修羅・メルとアヴァロン・レーラズ・五右衛門・ガラクシアで分かれているけどどういうことだ?



「私と阿修羅とメルで、マスターと勇者に会いに行く。メルが逃げないように全力で結界を張って、私とポラールと阿修羅で1人1殺でやれるんじゃないかな」


「タイマンで大丈夫なのか?」


「任せてくれ若、それにこの状況を想定されているのならこの4人は『罪の牢獄』とアークを全力で守護するべきだ」



 確かに残った4人は守護に適している4人だ。

 瞬時にここまで判断するなんてさすが俺の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』だ。

 俺は他の魔物にも警戒をするようにコアからメッセージを送る。


 勇者はダンジョンが閉まっていようと関係なしに襲撃してくるらしいからな。


 どんだけ強いかは分からないけど、新米3人が俺の魔物に勝てると思うなよ。



「レーラズ、果物をみんな食べてくから用意してくれ」


「は~い♪」


「ガラクシアはルジストルとリーナの3人でアークを警戒、アヴァロンはいつもの位置で五右衛門にはコアルームを任せるぞ」


「はーい!」


「承知じゃ」



 手早く指示を出していく。

 ポラールが本気を出せばすぐにでもミルドレッドの街に着くだろう。

 そっからはダンジョンに急いでいき、勇者の荒らした道を辿ってなんとか勇者に辿り着きたい。



「若、空気が読めんがミルドレッド殿が手遅れの場合、覚悟をしておいたほうがいい」


「………」


「怒りで我を失いすぎて突っ込んでも何も良いことないから頼むよ」


「あぁ……正直嫌な予感はしている」



 バイフーンが先陣を行き血塗れの時点でミルドレッドの魔物たちでは厳しいだろう。あの白虎王ってやつがどれだけ堪えられるかどうかにかかっているはずだ。


 覚悟はしてるけど現場を見たら我慢できるような気がしないんだよな。



「ご主人様戻りました」


「さすがに速いな。よし行くぞ!」







――『王虎』のダンジョン 入り口



 ポラールに入り口まで転移してもらい、街の上をポラールとイデアが空から街を一瞬で通過してダンジョン入口まで来たけど血の匂いが凄い。

 それに光の結界を町全体を覆っている。


 これが勇者が使える援軍封じの結界ってやつか。



「バイフーン頼む!」


「行くぞ!」



 バイフーンについて急いでダンジョンを進んでいく。

 斬り刻まれた血の跡がそこら中にある。壁にも床にも血の跡が消えずに残っているのは異様な光景だ。

 酷い臭いで気持ち悪くなると同時に怒りを感じる。


 メルが結界を張り終えたようで報告してくれる。

 阿修羅・イデア・ポラールの3人は集中しているので変に声をかけるのはやめよう。


 バイフーンが近道を交えながら進んでいくと、血の匂いが一層濃い場所に辿り着いた。


 そこにいたのは



 血塗れのミルドレッドを上から見て何かをしゃべっている3人の人間だった。



「ミルドレッド様!」



 走り出しそうになるバイフーンを阿修羅が止める。

 俺も同じ気持ちになるがグッと堪える。

 3人の人間がこっちをむく。



「ありゃ最初に斬った猫じゃねぇーか! 生きてるじゃん!」


「パーフェクトならずですね」


「増援ですか!?」



 少し良いとこの貴族服みたいなのを着た3人。

 2本のナイフを持った男に杖持った男、そして金色の手甲をつけた少女。

 これが勇者ってやつなのか? 思ったよりもそこらへんにいる冒険者と外見から言えば変わらないもんなんだな。


 ミルドレッドを見ると微かに息をしているように見える。



「あんたたち何者? こいつの仲間?」



 ナイフを持った男がミルドレッドを足で突きながら質問してくる。

 にやけた面もムカつくし、一丁前に挑発してくるのも気に入らない。他の勇者がどんなのか分からないけど、いくら新米とは言え人間の希望ってやつがこんなので逆に良いのか?



「ポラール」


「はい」



 ミルドレッドの姿が一瞬ぶれる。

 気付けば俺たちの後方にミルドレッドが倒れていた。ポラールが転移させてくれたが、勇者は反応できないんだな…。


 勇者3人組は驚いた顔をしている。



「バイフーンとメルはミルドレッドを頼む」


「先ほどまでの魔物とは違うようですね、SS以上の時空間魔法かでしょうか?」


 

 バイフーンとメルがミルドレッドの下へ行く。

 俺は3人を見たまま視線を動かさない、これが本当に勇者なのかという疑念が正直浮かんできているが、ミルドレッドをここまで追い詰めるだけの能力だけは持っているようなので警戒は怠らない。



「前の男は強くないけど、後ろの3人は凄い魔力を感じます!」


「『鑑定』でも見れないってことはSSランク以上の魔物ですかね」


「んで? また聞くけどあんたたちは誰?」


「せっかくだから、そっちから聞かせてくれよ『勇者様』」



 俺がそう言うとナイフを持った男が大笑いした。

 面白いこと言ったつもりも無いし、この状況で爆笑してる余裕があるのが羨ましいくらいだ。

 後ろの3人は俺の指示を待ってるのか穏やかな気を感じる。



「なんか気取ってんのキモイけど教えてやるよ、勇者『魔魂狩りのグロウ』」


「勇者『魔法叡智のカルジス』です」


「勇者『竜拳の榊原杏』と言います!」


「わざわざありがとう。『大罪の魔王ソウイチ』だ」



 俺が自己紹介するとナイフの男がまたも笑い出す。

 さっきも思ったけど勇者ってより悪役の似合うやつだな。

 でも実力者だから勇者に選ばれてるんだろうな。



「あんた弱そうなのが魔王なのか?」


「1日で2体の魔王討伐となれば報酬も凄いことになりそうですね」


「油断しないで2人とも!」



 生け捕りとか一瞬考えたけど無理だ。

 俺の奥の手を使って一気に叩き潰す。

 阿修羅・イデア・ポラールが俺の前に出てくれる。


 勇者はさすがに3人を見たら警戒しているのか魔力をだして警戒している。



「実戦で使うの初だな。みんなやりすぎるなよ」


「無理じゃな、若」


「いくらご主人様でも聞けません」


「誰の主人に喧嘩売ったか教えてあげないとね」


「3人の『大罪』をさらに深みへ墜としてやろう」



 『大罪』のデメリット塗れの中で戦闘でも使える能力。

 魔物に『大罪』の力を付与できる力。そしてこれは『大罪』を司る魔物に、その司っている『大罪』を付与することでさらに力を増すことが最近使えることが分かったのだ。


 たぶん使わなくても勝てる気がするけど、あいつらは絶望に叩き落とす必要がある。地獄に落ちても苦しむぐらいの悪夢をな。


 阿修羅に『暴虐フォルテ』、イデアに『偽神ヤルダバオト』、ポラールに『憤怒ラース』を付与する。



「『原罪之欲シン・ディザイア』」


「さぁーて、若を笑った罪を償わせるとするか」


「私はあの拳法家でいいですか?」


「じゃ、私の合図で跳ぶからね。行くよ!」



 俺の配下3人と勇者3人が一斉に消える。

 頼むぞ、『大罪』最強の魔物たち、新米勇者にその恐ろしさを身に染みるほど教えてやってくれ。

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