第8話 『不穏』な予感


 イデアとのアークに来た「プレイヤー」調査は上手く行った。

 あの後彼らはダンジョン近くにあるギルド館で情報収集を行なった後、ルジストルの所で拠点申請と住む場所を探していたので、一旦置いておいていいだろう。

 

 今後はアークを拠点にしてダンジョンをクリアを目指していくんだろう。

 あの感じだとまだまだ時間はかかりそうだけど成長速度は2倍なので侮れないし、大量のプレイヤーで一斉に攻め込んでくる可能性もあるから、しっかり注意をしておかないとな。


 先にもっと強い冒険者が来る可能性があるんだけど……。


 聖都に少し前に集まった勇者も、勇者の中では新米の3人だったようなので、目を離せない! っていうレベルじゃなさそうなので、本格的に調べるのは魔王戦争の後で良いだろう。


 時間も3時間ほどかかってしまったが仕方ないと思い、急いでダンジョンへと帰還し、ミルドレッドの魔王戦争について調べると、まだ戦争中だったので観戦することにする。



「見た感じミルドレッドが良い感じに見えるな」



 『王虎』と『狂乱』、ともに肉弾戦に秀でた魔物が多いようで氷河を飛び跳ねながら戦っている。ステータスの暴力同士の戦いって感じだ。

 武闘家の虎系で敏捷性に優れた魔物軍であるミルドレッド陣営のほうが氷河に困っていないように見える。

 足場が悪かろうが、離れていようが、最悪落ちて泳ぐことになろうが対応できるような魔物ばかりなので、恐れずに前進することができているんだろう。



「どちらも同盟の助っ人は事前に潰されたのかな?」



 中堅クラスになると戦争前に同盟組んでる魔王に何かしら仕掛けて戦争どころじゃなくするのは当たり前と言っていたので、きっとこの戦争もそうなんだろう。そのおかげで1vs1の本当の戦いができるので、俺も忘れないようにしないといけない。


 それにしてもバイフーンはすごく目立つ。

 最前線で戦いながら味方への指示が上手く、必ず自軍が敵に対して数が多く攻められるように配置に気を使っている。



『おぉー! 『狂乱』の切り札ぁぁぁぁ! 『英雄霊ヘルヴォル』だぁぁぁぁ! SSランクの狂戦士がついに戦場投入!』



 『狂乱』の切り札が出てきたようだ。

 全身を赤黒いオーラで覆っている人型の魔物だ。3mもある人間? 鬼? そこらへんの詳しい種族は不明だが、

 剣を振り回しながらミルドレッドの魔物たちを薙ぎ払っていく。


 元人間の魔物なんてできるもんなんだな。

 英雄の霊をただ具現化させただけなのかもしれないけど凄い魔物をいるもんだな。



『『王虎』の切り札もついに登場のようです! こちらもSSランクの『白虎王』だぁぁぁぁぁ!』



 バイフーンと同じような感じだがバイフーンよりも2倍ほど大きな体躯で太刀を持っている白虎が出てきた。軽鎧がかなり刺々しくてイカつい。

 バイフーンも凄いオーラだしてるけど、白虎王も威圧感がモニター越しでも伝わってくるほどの存在感だ。

 2体のSSランクがぶつかり合う激しい肉弾戦は5分ほど続き、数で勝ったミルドレッドがほとんどの戦地を制していた。



「後で全部見返そうかな」



 正直戦争開始時の戦略合戦が見たかったが、最後のパワーの押し付け合いも味があるので良しとするか。

 切り札の力が互角ならば、魔物の数や戦線の位置が勝敗を握ってくる。数ではどうしても劣りがちになってしまう俺は、他で絶対的に勝れるように勉強しないといけないな。


 最後に両者魔王も前線に出てくるが目立つのはミルドレッド本人の戦闘力の高さだ。

 バイフーンと同程度の実力があると実況も言っているので、とんでもないステータスをしているんだろう。傷だらけになりながらも戦うミルドレッドを見ていると色々思うところがある。配下に頼ってばかりの俺とは大違いの強さだ。

 

 そして思っていたよりも呆気なくミルドレッドは『狂乱』の頭を砕いて魔王戦争は終了した。



 冒険者のせいで少ししか見れなかったのが本当に悔やまれるので、時間を見つけて見直して、今後のためにもメモっておいて勉強しなくちゃな。







 ダンジョンが閉じる時間になったので、今日はみんなでアークに来たプレイヤーについて話し合いながらたこ焼きパーティーをすることにした。


 ここぞとばかりに積極的に焼いて魔王としての威厳を示しながらみんなとプレイヤーの持つ固定能力を話し合う。



「大量にいるプレイヤーは2年後とかには全員Sランクになっている可能性があるから注意したほうがいい」


「若としては向こうからダンジョンに挑んでくるのを待つのか?」


「明日にでも叩けば心配しなくて済む?」


「いや……まだ情報を引き出したいから叩くようなことはしない」


「ん~、私が手下にしてこよーか?」


「下手なことして何か地雷を踏みたくないから今は様子を見るだけにしよう」


「マスター、これタコ入ってないんだけど?」


「ごめんイデア」



 各々がマイペースにたこ焼きを食べながらプレイヤーについての戦略を語りだす。

 ユニークスキルってのもあって、もしかしたらEXクラスのスキルだったり、成長していく可能性はある。

 イデアが視た感じだと剣士のほうは成長型とのことだったのでどうなるか注目しておきたい。


 

「私がいつでも反応できるようにしておくね、ますたー♪」


「さすがメルだ。助かるよ」



 メルの監視能力があれば何があっても反応できる。

 ルジストルとリーナも気にしておいてくれるようなので安心できるし頼りになる魔物たちで本当に恵まれていると再認識させられる。

 個人的な考えだが、別世界から来ている勇者とプレイヤーは何かしら共通点があると思っている。

 もしかしたらプレイヤーが勇者になることだって考えられるからな。



「儂らはこれ以上強くなれんからな。経験を積むことしかできんというのは気になるところじゃな」


「イデアとポラールが街ごと破壊すれば行けるんじゃな~い?」



 レーラズがとんでもない策を言っていたが一旦スルーする。街に敵しかいなかったら考えるけど今のところは触れないほうがいいな。

 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』はLvもステータスがほぼ上限だけど『大罪』の影響でLvは固定だからな、五右衛門には申し訳ない。



「ますたー青のり無くなった」


「マスター私おかわりー!」


「私もおかわり欲しいなマスター」


「ご主人様、私も欲しいです」


「ちょっと待ってろよ!」



 必死にたこ焼きを焼いている魔王というのは他の魔王から見たら滑稽かもしれないけれど、こういった交流も大事だと思っているので月に数回はやっている。


 なんだかんだ盛り上がるので好評だ。


 阿修羅と五右衛門は食い物よりも酒のほうが興味があるようだ。

 女性陣はイデア以外はよく食べる。とてもいいことだ。



「そういえば昨日のイデアとポラールの喧嘩は互いにどうする予定だったのー?」



 ガラクシアが思い出したかのように2人に問いかける。

 みんな気になるようで箸を動かしながら耳を傾けている。



「私は放たれる地獄に1つ1つ対処していくしかないからね。ひたすら守るだけだよ」


「どこかで隙ができると思っていたので、そこまで攻撃を続けるだけです」


「えー? やっぱポラールは勝てると思ってたの~?」


「『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』さえ発動できれば、ある程度は行けると思っていますよ」


「よっ! さすが我らのリーダー!」


「よっ! 『罪の牢獄』一番の鬼!」


「ご主人様、五右衛門とはお別れかもしれません」


「嘘じゃ! 冗談じゃ!」



 なんだかんだポラールの悩みは吹っ切れたようだし、みんな仲が良い感じだし嬉しいことだ。

 個性が強い『枢要悪の祭典クライム・アルマ』だけど戦闘時は相性が悪いだけで普段は楽しくやってくれているのは魔王として感動してくる。


 特に五右衛門が良いキャラしている。盛り上げ役として買って出てくれるので、狙ってボケる貴重なタイプだ。なんどか命の危機に遭っているが、逃げるのが上手いので大丈夫だろう。

 ボケるつもりがなくても面白いのがガラクシアにレーラズ、ポラールの3人は笑顔でとんでもない発言をしたりするから最高だ。

 メルは話の流れに関係なくぶっこむので逆に面白いし、ノリよく盛り上がる時もあるので可愛い。

 阿修羅とイデアは空気を読むタイプなので大人って感じだ。


 こうみるととってもバランスの良い構成な気がする。

 これで共闘すると弱くなるんだから世界は不思議である。


 みんなでワイワイしていると誰かがダンジョンに転移してきた気配がする。

 誰だ? こんな時間に連絡も無しに。



「誰か来たな」


「血の匂いです! レーラズ!」


「は~い」



 ポラールがいち早く反応してレーラズを連れて動く。

 俺たちも後を追ってコアルームへ急ぐ。


 

 コアルームまではすぐなので到着するとバイフーンが血まみれで倒れていた。


 それを治療するレーラズ、それにイデアにガラクシア、メルといった面子も協力して治療していく。

 さすがの力で一瞬で回復したバイフーンが起き上がるが生気があまり無い。



「仕掛けられた……」


「どうしたんだ? 何があった?」


「我らのダンジョンに……勇者が襲撃してきたのだ」



 バイフーンの発言を聞いて、生まれてから一番、自分の心臓が大きく跳ねた気がした。

 


 

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