第7話 戦争と『プレイヤー』


 新たなに配合で姿と能力が大幅に変わった五右衛門とイデアもかなり馴染んできてダンジョン運営も完璧だ。

 何しろイデアが能力で偽魔物を創れるのでダンジョンの幅が広がり、冒険者からすると攻略の歯応えだったり、アイテムドロップの幅が広まったので良い感じではないだろうか? ただイデアの負担が大きくなってしまうのが心配なので、ずっと続けるのは無理かもしれない。



 そして今日はミルドレッドの魔王戦争が開催される日だ。

 時間は確か13時からで、指定された戦場は氷河らしくどちらの魔物も上手く適応することが求められる怖い戦争になりそうだ。

 なんとなくだけど『王虎』のほうが寒い地域にも適応できそうな魔物が生み出せるイメージだから、少しでも有利であってほしい。


 ミルドレッドとは戦争が決まった日からメッセージでしかやり取りしていない。

 同盟と話をして戦争に勝つため集中している中で会っても邪魔なだけだろうし、弟子にたくさん心配されて、かつ助けたいなんて言われたら、ミルドレッドは怒りそうだ。


 とりあえず昼ご飯食べて応援の準備でもしようかな。



「閣下! ご報告があります」


「どうした…こんな時間にダンジョンに戻ってきて」


「アークに「プレイヤー」と思われる集団が滞在することになりそうです」


「そいつは確かに一大事だな」



 なんともタイミングが良くない。

 ミルドレッドの魔王戦争があるっていうのに最悪のタイミングだ。観戦する気満々だったのに…。

 だがこれで警戒を怠うなんてことをして、ダンジョンやアークに被害を出してしまうなんていうミスをしたらミルドレッドに怒られてしまうだろう。

 まだ街に来たばかりで油断してるだろうし、イデアの力で現状の力を読み取っておきたい。



「報告ありがとう。俺が出るからいつもの業務に戻ってくれ」


「はい。それと閣下、噂程度ですが少し前、聖国に勇者が3名ほど集まったという話を耳にしました」


「聖国か……わかった、調べておく」


「よろしくお願いします。ではこれで」


「あぁ…また何かあれば頼む」



 俺はせっかく食べていたハンバーグを急いで食べて、イデアに召集をかける。

 すぐにイデアは来てくれて、プレイヤーに対してやってもらいたいことをイデアに説明をする。

 イデアの構築解析は視るだけで能力を知ることができる。

 本当はメルに喰ってもらって記憶なんかも手に入れてみたいが、それだけで殺すのはおかしな話だからやめておく。



「よし…頼むぞイデア」


「マスターがバレなければ大丈夫だと思うよ」


「わかった、落ち着いていく」


「それなら完璧かな」



 完全に俺の性格を知り尽くされているな。

 言うことが的確だし、とにかく落ち着いているから本当に頼りになる。


 俺はイデアとともにアークの冒険者区域に行くことにした。








――アーク 冒険者ギルド本館 酒場



 ルジストルが伝えてくれた、プレイヤー集団はすぐに見つかった。

 男3に女6の男女比バランスの悪いパーティーという印象だけど、そんなことはどうでもいい。

 初めてアークに来たことを周囲に知らせるようにキョロキョロしてくれていたおかげでバレバレだ。

 パーティーとして同時に入れるのは7人までなので2人は都市での支援に徹するタイプなんだろう。


 昼食をとっていないようで、今からランチタイムだったのを確認して、空いていた近くのテーブルにイデアを連れて座る。もちろんイデアには9人を視認できる位置でだ。


 そして俺は気合の傾聴の構えで後ろから聞こえてくる声に集中する。



「ここが『大罪の魔王』がいる街だね」


「女神の加護でなんとなく場所が分かるのは本当に便利よね」


「とりあえずはLv上げですね」


「聞いた話だとここのダンジョンはランク以上の難易度だそうだ」


「ガンガンLv上げしてやろうぜ!」



 女神の加護とやらの能力で目的としている対象の位置がわかるって、簡単に言うけどとんでもない力だ。

 どの程度の探知なのかは分からないけど、これがある限り逃げることは決してできないってことか。

 これで五右衛門のところにCランクでも辿り着けていた理由が判明した。だけど警戒心が低すぎて声がデカいのはどうかと思うぞ。



「最適な狩場を探さないとね」


「生活の基盤を整える組と、狩場捜索組で分かれましょう」


「クエストクリアしながら来たけど家なんていけるのか?」


「レンタルみたいなのもあるんですって、最初はそういったものをお借りして、そこから先はお金がたくさん貯まったら考えましょう」



 ここを拠点にして他の目標にも挑戦していくスタイルにするようだな。

 正直大森林に挑むのも不安がありそうな戦闘力に感じたけど、ここに辿り着いているようなのでまずまずの実力はあるんだろうな。


 この9人はこの前見た4人と違って、早く元の世界に帰りたい! と焦っていないように見える。



「それにしてもギルド館内に人が少なくて良かったわ」


「ダンジョン前にもう1つあってそっちのほうが人が多いそうですよ」


「ダンジョンの詳しい情報も調べないとね」


「それは攻略組じゃない私たち2人に任せてよ」


「おう! 俺たちはガンガンLv上げて金稼ぐからな!」



 チラっとイデアを見るともう終わったようなので、怪しまれないうちに一旦離れることにする。

 もし何か目立つような動きがあればその時に誰かが確認すればいい。


 俺はイデアを連れて近くある甘いものが食べれる店に入る。

 この店は個室だし、少し休みつつ話ができればと思ってのチョイスだ。



「ふふっ…いいチョイス♪」


「偶には良いかなってな」



 とりあえず互いに注文をしてから話を始める。



「9人全員「プレイヤー」ってのは確定。それで9人に共通して存在してるアビリティとスキルが計3つ」


「さすがイデアのスキルだ。本当万能すぎて怖いよ」



 短時間だったがしっかり視てくれたようでイデアの優秀さに少し驚く。

 イデアを見ると特に疲れた様子なんて無いから、本当に朝飯前のような感じだったんだろう。イデア先生万歳!

 とりあえず1つずつイデアから聞いて情報を整理することにした。



「まずはアビリティから、『女神の加護』っていう話でも出てたの」


「目標対象の場所がなんとなく分かるってやつか」


「それだけじゃないよ」



 イデアが追加で教えてくれる。

 『女神の加護』……目標対象の居場所に一番近い街を示してくれる。獲得経験値が2倍になる。アイテム発見率15%上昇。死んだ時にLvをマイナス40して0より上であれば近くの街で復活できる。それとメニューの使用が可能になる。


 意味不明なほど強いアビリティで驚いてしまうし、このアビリティで色々説明がつく気がする。 

 なんと言っても復活スキルが強すぎる。確かにLvは下がるけど、それさえやれば復活するし、その場から逃げることもできるのは反則だ。


 マイナス40して0以下であればそのまま死ぬってわけか、大蝦蟇に挑んだ4人は40以下だったってことか。

 うちの『枢要悪の祭典クライム・アルマ』が持てば、Lv固定だから復活し放題では…?


 そしてメニューってのはよくわからん。いつか本人たちに聞いてみよう。



「次は『挑戦者の心』……アビリティだね」


「挑戦者か……3つの目標に挑む挑戦者ってとこかな?」



 『挑戦者の心』……この世界で言語を共通させる。全ステータスが目標をクリアすることに上昇する。病気から身を守り、老いの流れを大幅に遅くする。


 これで完全に別世界から来たことは確定した。そしてその世界は多くの言語があったことは想定できる。そしてこの世界で戦って死ぬ以外を封じるような老いに対しての効果。


 それにしてもこんな凄いアビリティ2つが固定でつくなんて凄いもんだな。



「そして最後にスキル。『アイテムボックス』、これは時空間魔法にある収納と同じだね」


「それ全員時空間魔法使えるってことじゃん」


「至れり尽くせりって感じ。残った能力はジョブごとのアビリティやスキルだけど、2人変わったのが居たよ」


「2人か…」


「マスターは外見ほとんど見てなかっただろうから、簡単な特徴言うけど、1人目は自分を僕って言ってた剣士君」


「なんとなく分かる」


「ユニークスキルってのがあって、『刹那戦闘』っていうスキル」



『刹那戦闘』自分の体力が戦闘開始時から70%以上減っている時に発動できる。自身だけ1秒を5秒にすることができる。このスキルは時空間魔法に系統する。


 これはかなりの強いスキルだと思う。

 戦闘開始時から7割体力を減らされた段階から魔力が尽きるまで1秒で5秒分の動きができる。近接戦闘が得意である剣士ならば好き放題できるスキルだ。

 時空間に干渉できたり何かしらの干渉ができないとそれで戦いが終わるレベルの強さがある。



「そしてもう一人は魔法使いの女の子でスキルは『過剰魔力放出』」



 『過剰魔力放出』……使用する魔法に追加で魔力を消費することで最大5倍の威力で魔法を放つことができる。


 これはうちの『枢要悪の祭典クライム・アルマ』に欲しいスキルだな。国ごと吹き飛ばせそうな魔法を使えるようになりそうだ。

 これなら一気にランクの高い魔物に勝てる可能性も出てくる良いスキルだ。



「さすがイデアだ。本当に助かるよ」


「デートのお礼ってことにしとくね」


「はっはっは! パフェ食べたら戻ってミルドレッドの戦争見ないとな」



 でも「プレイヤー」が動いたらそっちを優先しなくちゃな。

 最初の動向や他の仲間が来るかどうかは知っておきたいからな。


 俺はイデアと一緒に特盛のパフェを楽しんだ。


 俺が食いきれずに、時間がかかってしまいイデアに怒られたのは余談である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る