第6話 『憤怒』vs『偽神』




――『罪の牢獄』 ダンジョン 地獄の門



「私のエリアで何をするつもりですか?」


「リーダーを続けるのがどうしても嫌なら、私が力ずくで奪ってもいいのかなっていう建前の模擬戦かな?」


「先ほどまでと言っていること違いますよ」


「まぁ……勝ったほうがリーダーってことで! 先に身体に触れたほうが勝ちっていうルールでどう?」


「まったく……気を使わせてしまっていますね」


「その反応は面白くない……」



――ゴゴゴゴゴッ! ブワァッ!!



「触れた瞬間に身体が弾き飛ばないように気をつけてくださいね」



 12枚の漆黒の羽と赤黒いリングを出し、完全に戦闘モードになるポラール。

 その見たことも無いほど真剣な表情にイデアは鳥肌が止まらなかった。配合をしてもらう前からポラールを何度か見たことあるが、感じたことの無いプレッシャーにイデアは少しだけ後悔の念が湧いてくる。


 やるんじゃなかったと思いながらイデアも戦闘モードに移行する。



「地獄だろうがなんだろうが造り変えてみようか」



――ポワァーンッ! ポワァーンッ! ポワァーンッ!



 イデアの周囲に違う面の数を持つ色違いの正多面体が無数浮かび上がる。

 そしてイデアの身体から白銀の魔力が溢れ出る。


 互いのアビリティによるデバフ効果はEXランク同士、しかも互いにLv999というのもあり相殺される。

 能力無効するものを除いて、ここから行われるのは単純な技と自身の力を邪魔されずに使えるかの勝負。


 互いに魔力を集中させながら合図である鐘が鳴るのを待っている。



――カーーンッ カーーンッ!



「『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』!」


「『宇宙を創る偽神ティマイオス・アルマ』!」



 『憤怒ラース』vs『偽神ヤルダバオト』の頂上決戦が始まった。









――『罪の牢獄』 居住区 ソウイチの部屋



 なんだか寝付けなくて起きてみたら珍しくベッドの上には誰もいなかった。

 いてほしいわけでもなかったと言っておくが、なんだか胸騒ぎがするので部屋を出てみる。



「なんだこの感覚?」



 少し歩いてコアルームに近づくと聞き覚えのある声が多数聞こえた。

 そこに行くとポラールとイデア以外の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』がモニターで何かを見ていた。



「あっ! マスターだ!」


「おぉ…若そろそろ始まるぞ」


「何が始まるんだよ?」



 展開されている4つのモニターの1つを見たら地獄の門で戦闘モードに入って向かいあっているポラールとイデアが映っていた。

 かなり冷静に観戦しているけど、本当のことならダンジョン壊滅しないか?



「いや…何してんの?」


「ポラールがリーダーは自分でいいのか悩んでるのみて、イデアが活入れに行ったよ♪」


「説明ありがとうガラクシア」


「いえいえ~♪」



 まぁ互いに結界を張ってるから全力ではやらないんだろうけど凄いことになっているな。

 先に身体に触れたほうが勝ちってルールらしいが、このルールでイデアがどこまでポラール相手に逃げられるか楽しみだ。

 どちらかと言えば遠距離型のイデアと、距離も何も関係ないポラールの戦い。ポラールは『皇龍』様の『神滅ノ皇帝龍コウリュウ』が自分と同じくらい強いかもしれないって言ってた気がするけど、イデアはどうなんだろうか?



「何分持つかな?」


「ますたーはポラール予想?」


「んじゃこの中に同じルールで5分以上ポラールの本気を凌げる自信がある人!」


「本気っていきなり「至高天」ありってこと~?」


 

 レーラズがポラールの本気度について聞いてくる。

 ポラールは相手を軽い力から徐々に試していく癖がある。怒った時は関係ないだろうけど、律儀に軽いところから攻めちゃうんだような。

 地獄の中でも浅いもんからぶつけていって相手の出方を見るので、本気をだすのは当分後になる。

 レーラズが言う「至高天」はポラールが使う地獄の最終らへんだ。



「そうだな…開始と同時に太陽天らへんでどうだ?」



 俺がそう言ってみると誰も手をあげなかった。


 『枢要悪の祭典クライム・アルマ』は共闘は苦手だが、もしすることがあっても互いに邪魔しないように能力を語り合っているから、みんながみんな大体能力を知っている。

 そんな中でも誰もが戦闘最強と認めるのが我らがリーダーポラールなのだ。

 


「俺とアヴァロンがもって5分届かないってとこだぞ、若」


「私とメルちゃんが4分くらいかな?」


「儂とガラクシアが3分と少しというとこじゃな」


「ポラールが怖すぎる……」



 『罪の牢獄』で戦闘において右に出る者がいない存在。本人はそんなことないと言うが、圧倒的な力で有無を言わさずに相手を屠れる能力をもつのがポラールだ。

 唯一無二の『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』は破られることが想像できないほどに強大な力だ。



「おっ! はじまった!」


「まずはお手並み拝見のポラール嬢の武神スキルじゃな」



 お手並み拝見って言っても全ステータスがとんでもなくバフされながら突っ込んでの『黒炎魔舞踏ベリアルアーツ』でいかなる防御技を砕くように殴りかかっているという恐ろしい近接戦闘だ。


 それに対してイデアはしっかり突っ込んでくるポラールに反応している。

 ポラールがイデアに3m距離に入る前にイデアはポラールの両手に宿っている防御不可の黒炎を砂に変えて、さらに氷魔導の何かを放って距離をとらせようとする。


 たぶん『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』以外はイデアの構築解析からの『四元素変化・循環』で自在に変えられて終わり、さらにイデアが創り出す魔物の魔力として吸収されるのがオチだな。

 



「さすがイデアだな。ポラールに踏み込ませないな」


「でもポラールも効かないって分かって『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』に切り替えたね」


「色んな地獄の種類があるけど、どのルートで行くんですかね~?」



 観戦者たちは実に楽しそうに見ている。


 ポラールの『至高天・堕天奈落輪廻パラダイス・ロスト』はさすがのイデアでも能力自体には干渉できないので、放たれる地獄に対して対応していくしかない。


 最初にポラールが行なったのは右手をイデアにむかって伸ばすこと。

 イデアも反応速くて周囲に展開されている正多面体の1つがイデアとポラールの視線を切るように出現させる。

 そして正多面体は内側から突然燃え始めて一瞬にして灰になってしまった。



「『奈落天・焦熱地獄しょうねつじごく』か」


「奈落天ルートだ!」



 奈落天ルートはポラールが対象を見たり声をかけたり、指先を向けるだけで対象に影響を与える地獄ルートの1つ。

 『奈落天・焦熱地獄しょうねつじごく』はポラールの手の方向にある者が順に燃えて灰になるという地獄だ。



「ポラール嬢も様子見ってとこじゃの」


「当たったら死んでるけどいいのかな? ますたー?」


「イデアは自己蘇生できるから大丈夫だと踏んだんだろ?」



 するとポラールは攻撃の手を緩めてモニター越しに俺たちのほうを見た。

 

 ん? 目が合ってる?



「まずい、バレたぞ!」


「いかん! モニターを消せぇぇぇぇ!」


「ますたー死にたくない」


「果樹園に逃げるから誰もこないでね~」


「儂は旅の準備でもするかの」


「付き合い一番長いから許してくれないかな?」


「アヴァロン、剣と盾を置いて命乞いの準備しても無駄だぞ」


「そうですね。全員地獄逝きです♪」



 振り向いたらとても可愛い笑顔をしたポラールがいた。

 こんなことになるなら起きるんじゃなかった………。



 気付けばポラールに全員正座で並ばされる。そんな俺たちを見て後ろでイデアが笑っている。

 ポラール様! 犯人は後ろで笑っている奴です!



「はぁ…まったく何をしてるんですか」


「2人がエリアに入っていくから」


「儂らは好奇心に負けたのじゃ」


「イデア……貴方はこの展開を狙っていましたね」


「偶々だよ。最初は本気で勝負する予定だったから」



 知らん顔をするイデアだが、きっとコアルームに誰かしらの気配を事前に感じ取り、途中からは確実にこの展開を狙っていただろう。

 他の連中に分かるように動いて好奇心を突いた罠に俺たちはしっかりかかってしまった。

 でもポラールは何か吹っ切れたような感じがする。



「はぁ……5時間後には朝です。今から15分以内に全員休みなさい。リーダー命令です!」


「寝れなかったらどうするのー?」


「起きてるのを発見次第「至高天」に連れていって差し上げます」


「全員いそげぇぇぇぇぇぇぇ!!」



 俺たちは急いで休むため全力で部屋や各々のフロアに戻っていく。

 

 やっぱり『枢要悪の祭典クライム・アルマ』の中心はポラールだし、『罪の牢獄』のリーダーはポラールじゃないとな!




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