第5話 『偽り』の火

「カァァァ~~」


「シャ! シャッ!」



 欠伸をするフレイムリザードを虎蜘蛛が必死の説得をし、シンラが無言の圧力を与えている。

 2体の高ランクの魔物からの説得をスルーしているDランクのフレイムリザード。とても面白い構図だがここまで拒否する理由が分からない。


 フレイムリザードの気持ちが分からないので解説のメルを呼んでみた。



「リーちゃんは仕事を増やしたくないと言っている」


「メスだったのか」



 配合が嫌な理由よりも衝撃の事実が発覚してしまった。

 なんだかんだいつも肝心な時にはやってくれるフレイムリザードがここまで拒否するにはもう少し理由がありそうだけどな。



「後この環境と虎蜘蛛と別れるかもしれないのが嫌だって」



 メルに心の内側までも言い当てられて衝撃的な顔をしているフレイムリザード。しっかりと俺たちの会話を聞いていたようだ。

 そしてそんなことを言われるなんて思っていなかった虎蜘蛛とシンラ。


 静寂が黒森を包む中、メルが口を開く。



「お役御免だね。帰る」



 逃げやがった!

 3人とも気まずそうな顔をして顔を合わせない。

 なんだか感動的なようで面倒な展開になってきたぞ。


 今までずっと面倒だと言ってここを離れず配合も拒否してきたフレイムリザードは実は虎蜘蛛と離れたくなかったっていう可愛い理由だったのか。


 少しニヤニヤしながらフレイムリザードを見ると、俺のほうをむいて口をあけていた。



「ガァァァァッ!」


「ごめんって! 謝るから火を吹かないでくれ!」



 一応魔王である俺に向かって火炎放射してきやがったぞ!


 なんとか回避した俺はフレイムリザードに謝罪するが、まだ怒っているようで虎蜘蛛とシンラになだめられている。

 素晴らしき友情だな。確かに生まれてから、長いとは言えないけれど、ずっと一緒だったから離れるのが寂しいのも理解できる。


 とりあえず虎蜘蛛と一緒にいられるということをフレイムリザードに説明しないといけないな。



「別に配合しても一緒に居ればいいさ。なんなら3人で階層を作りなおしてもいいんだからな」



 そういうとやっと考えてくれて、虎蜘蛛とシンラの追撃があったおかげかようたく配合を了承してくれたようで配合アイテムを物色してくれた。


 その時間で俺は虎蜘蛛とシンラにも声をかける。



「2回目は危険らしいが、もしよかったら来月2人ももう一度配合してみるか?」



 アイシャのドラコーンが2度目の配合で強くなったのを見て可能性があることを知ったので、この2人も望むのならまた強くなってほしいし、配合しなくても真名を渡してあげたい。


 俺の言葉が嬉しかったのか2人とも喜んでくれた。ただ失敗のリスクが大きいことも説明する。

 足をあげて喜ぶ虎蜘蛛と羽をパタパタして表現するシンラ。

 この2人はアークの産業面でも支えてくれているが、やっぱり2人の望むがままにしてあげたい。

 配合の結果、産業面がダメージを受けてしまったとしても、2人が望んだ結果ならば仕方が無いと思っている。


 そんな感じで話をしているとフレイムリザードがアイテムを決めたようでこっちを見てくる。


 俺は一度頷いて配合の画面をタッチする。



「改めてよろしくな……『イデア』」



1.魔名カード『神喰覇龍』 ランクEX

2.魔名カード『偽法典』 ランクS

3.魔名カード『大罪』 ランクS

4.聖魔物『66色の絵具』 ランクEX



 光り輝く4つのアイテムがイデアの身体に吸い込まれていく。

 すると白い炎がイデアの身体を包み、地面から土が剥がれて吸い込まれていく。



『確認:超変異が発生ました。配合を続けます』



 毎回だが何故か超変異で失敗する気がしない。

 光の中から現れたのは真っ赤で長いポニーテールを揺らし、白銀のコートを着たイケメン美女がいた。少し性格がキツそうな顔が何故かゾクゾクしてしまう。



【デミウルゴス】 偽神龍族 ランクEX Lv 999

         真名 イデア 使用DE??

 ステータス 体力 EX+94  物理攻 EX+85  物理防 EX+99

       魔力 EX+99  敏捷 EX+85  幸運 SS+90

アビリティ ・『宇宙を創る偽神ティマイオス・アルマ』 EX

      ・『身体とは火と土であるゼロ・クリティアス』 EX

      ・『唯一不動な本質的存在ヘルモス・ネメシス』 EX

      ・四元素変化・循環 EX

      ・混合する宇宙霊魂 EX

      ・全ての根源魔素 EX

スキル  ・『偽神ヤルダバオト』 EX

     ・根源魔導 EX

     ・偽生命創造 EX

     ・構築解析 EX

     ・神の権能 EX

     ・龍神の力 EX


・超変異必須 竜系統の魔物+大罪+悪龍系統EX魔名+偽系統魔名+創造系統EX聖魔物


・『偽神ヤルダバオト』の大罪を司る龍の力を持つ偽神。全ての魔法・魔導を司り、いかなる魔の構造も造り変えてしまうことができる。そして大罪の力で、偽りの罪を対象の魂に刻み込み、行動をこだわらせることが可能。

・龍神の力を使うことができ、自らの身体を龍に変化させて戦うことも可能。その場合、魔力のステータスが少し減少し物理攻と敏捷値が増大する。



「綺麗な名前をありがとう。私のマスター♪」


「あぁ……さっきまで火を吹いていたとは思えないほど美人さんになったな」


「あら? 龍になって火を吹いてあげましょうか?」


「勘弁してくれ!」



 ポラールと並ぶとんでもない魔物が誕生してしまった。

 でも虎蜘蛛とシンラ、それにいつの間にか来ていたカーバンクルと楽しそうに話す姿はいつも通りで微笑ましい。


 そして驚くのは『大罪』で唯一誰とでも共闘できるような能力構成だ。味方にデバフすることなく、自分以外の全てに影響を与えるのが基本である『大罪』の中でも異質の存在だ。



「マスターに言っておくけど、ポラールのほうが確実に強いから階層如きで競わせないでね」


「阿修羅と五右衛門の件か?」


「あの子は戦闘においては最強よ。私のほうが色々できるけど戦いになったらポラールには絶対敵わないから」


「ポラールと肩を並べられるだけ凄いよ」



 存在を一瞬現しただけで最古の魔王様たちを少しビビらせるのがポラールだからな。

 阿修羅と五右衛門の喧嘩をしっかりと見ているし、身内で争いたくないってところが配合前のフレイムリザードの名残を感じる。

 

 するとイデアは配合アイテムの所に虎蜘蛛とシンラを連れていった。

 カーバンクルは俺の所へ走って飛び込んでくる。



「何してるんだ?」


「来月2人を配合してくれるんでしょ? 今のうち喧嘩にならないように予約しときなさいって」


「仕事が速い」



 クールで面倒見のいいお姉さんなんだな。

 イデアと微笑ましい2体の姿を堪能して俺たちはダンジョンエリアを新しくするために話し合った。


 イデアがみんなに挨拶をしに行ったときは驚かれていたが、ガラクシアとメルは凄く懐いていたのでさすが姉御肌だなって思った。

 五右衛門はまた挑むのかなって思ったが出会った瞬間に諦めていた。良かった。


 話し合いの結果このようなダンジョン構造になった。

 イデアの偽生命創造が反則すぎることになってしまった。


ダンジョン名 『罪の牢獄』ダンジョンLv27 知名度B 総合B(難易度EX)

 迷宮都市 街 ルジストル・ホムンクルス多数+リーナ 難易度 無

 1F    薄暗い洞窟 ゴブリン集落+スライム+一角ウサギ 罠多数  F

 地下1F  朽ちた街 スケルトン+子蜘蛛  『銅』の軍勢化  D

 地下2F  湿地帯  スケルトン(泥纏い)+血吸い蠅+スライム  C

 地下3F  灼熱火山 炎腕魔王イブリース(メル分裂体のためランクS)  B

 地下4F  破裂の黒森 偽金剛蜘蛛+偽火竜+偽狼軍  S

 地下5F  闘技場   スケルトン+全滅したら出てくるアヴァロン  EX

 地下6F  永遠の星空  ガラクシア  EX

 地下7F  暗黒湿地帯  五右衛門 EX

 地下8F  星海     メルクリウス+スライム多数  EX

 地下9F  鬼の花道   阿修羅  EX

 地下10F  白の塔  鬼ノ虎蜘蛛+真雷氷幻鳥+イデア EX

 地下11F  地獄の門   ポラール  EX


 居住区 果樹園  レーラズ+カーバンクル  EX

     コアルーム ソウイチ C







――アーク 鉱山 頂上付近



 ダンジョンも閉まり、アークの全ての人が寝静まった真夜中。

 鉱山の頂上付近で星空を見上げるポラールがいる。


 彼女はイデアと挨拶を済ませてから、とある1つの不安を感じていた。



「私はリーダーのままでいいのでしょうか?」



 何度か言葉を交わしただけで全員と仲良くなったイデアを見て、魔物のリーダーが自分でいいのかどうか分からなくなってしまったのだ。


 ソウイチもポラールに改めてよろしく頼むと言ったのだが、ポラールから不安が取り除かれることはなかった。


 そんなポラールに近づく1つの影。



「綺麗な街ね」


「えぇ……ご主人様の夢が詰まっていますからね」



 ポラールに声をかけたのはイデアだった。

 ソウイチが自分にポラールと並ぶと言った時からポラールが自分を見てどう思うか気になっていたので、ダンジョンを出たポラールを追ってきたのだ。



「自分がリーダーに相応しくないとでも思ってる?」


「……やはり貴女もそう思いますか?」


「…なんでそんなに強いのに謙虚すぎるのかな?」


「どういうことですか?」


「『罪の牢獄』で一番強いのはポラール、マスターが一番信頼してるのもポラール、マスターと一緒の時間を近くで過ごしてきたのもポラールでしょ?」


「リーダー能力の問題ではないのですか?」



 イデアの言うことは間違っていない。

 ポラールもそれは認めるが、ポラールが理想としているリーダー像は自分よりもイデアに近いのが事実だった。



「私だってリーダーは向いてないよ。どちらかと言えば2番手タイプ、でも私たちのリーダーは『罪の牢獄』の中でポラールしか務まらない。そう私は思っている」


「……」


「この姿になる前からずっと見てきたけど、誰よりもマスター想いで、このダンジョンを愛していて、みんなが信頼できるのはポラールだけ」


「信頼ですか」


「まぁ…私も話すの上手くないから……ついてきて!」



 イデアはポラールを連れてダンジョンへと戻っていった。

 その顔には、少しだけワクワクの感情が宿っていた。




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