第3話 難しい『問題』
アークには多くの亜人や魔族が住んでいる。これはガラクシアが洗脳した冒険者が本人たちに勧めて、来たいと言ってくれた者たちを案内してもらった結果だ。
この街では差別や迫害等の行為が見られた場合はすぐに何かしらの罰があるというのもあり、どの種族も仲良くやっているという噂を信じて訪れてくれたり、各地で困っていたら誘うような形で住民は増えている。
だが増えれば増えるほど少しずつ問題が発生してくる。
どっちが上なのかを競おうとして喧嘩したり、この世界で浸透してしまっている種族間の問題を押し付け合ったりと子どもたちにいい影響がないことも出てきている。
ルジストルとリーナから相談を受けているが、なかなか難しい問題で俺も頭を悩ませている。
現状では罰するほどのことは何も行われていないが、このまま行けば確実に何かしらの事件が起こりそうな気がするんだよな。
「さすがにミルドレッドも忙しそうだ。ルーキーがやる魔王戦争とは訳が違うって感じがするな」
ミルドレッドが10年ぶりの魔王戦争をするらしく気合が入っており、終わるまでは連絡をしないでほしいと言われたので、戦争が終わるまで相談もできない。
ミルドレッドの相手は『狂乱の魔王』だそうだ。
俺が戦った『銅』の後ろにいた魔王でミルドレッドよりも少し先輩の魔王らしい。
俺が絶体絶命まで追い詰められたハイオーガに宿っていた力。
理性を引き換えに単純に力を手に入れさせるのが『狂乱』というらしく、それなりに有名らしい。
「冒険者に付与してダンジョンを襲撃させるのは凄いな」
『狂乱の魔王』自身が街に侵入して能力をバラまいて崩壊させたこともあるようで、さすがにミルドレッドも警戒しているようで戦争前からピリピリしている空気がミルドレッドの迷宮都市を覆っているそうだ。
「介入禁止なら見守るしかないな」
ルーキー期間はルーキーがやる魔王戦争以外は介入できないってのは今となっては嫌なルールだけど、いきなり強い魔王に仕掛けられたりせずに1年は生き残るってこと考えたら必要だなって思う。
ルーキーのくせに師匠の心配なんか傲慢な考えなのかもしれないけれど、負けてほしくないんだから仕方ないと思う。
「後10日か…自分がやるわけじゃないのにドキドキするな」
自分と繋がりが大きい誰かが魔王戦争ってのはアイシャのときもそうだったけども緊張してしまう。
アイシャの時と違って見ることしかできないからモヤモヤするな。
「むしろ見ないほうがメンタル的にいいのかもしれないな」
もちろん応援はするんだけど、モニターで見てたらハラハラして精神衛生上良くない気もするので見たくない気持ちも出てきてしまう。
でもミルドレッドの戦術や魔物の戦い方は勉強になると思う。特にポラールが認めるような武闘家バイフーンと『王虎』の切り札も見たいな。
「いかんいかん……自分のことに集中しないとな」
俺はアークで起こっている問題について再び取り掛かり始めた。
◇
――『狂乱』ダンジョン コアルーム
廃墟となっている屋敷の地下に広がる『狂乱』のダンジョン。
そこのコアルームで2人の魔王が話をしていた。
「準備はできているのかな? 『狂乱の魔王ゲザルグ』」
「あぁ…奴の同盟は調べ尽くしてある」
上半身には何も身に纏わず、全身に赤い刻印のようなものが刻まれている人型男の魔王、『狂乱の魔王ゲザルグ』。
彼は自分が原初の魔王に命令されて仕方なく手をかしてやった『銅』の魔王が呆気なくやられてしまい、自分と同じ立場だったミルドレッドを恨んでいた。
「俺に恥をかかせやがって……」
「期待しているよ」
全身を黒いモヤで包まれていた者はコアの転移システムを使用して去っていく。彼はゲザルグの協力者であり、ミルドレッドの情報を同盟でもないのにいち早く教えてくれた魔王だ。
「同盟者の街に俺の力を封じた冒険者はすでに潜伏させてある。あとはクソ虎を仕留めるだけだ」
邪魔者が入らなければミルドレッドを倒す自信がゲザルグにはあった。
単純な殴り合いに強い『狂乱』を持っているゲザルグは戦争前に邪魔が入らないようにだけ細工して、後は力勝負で、今までの魔王戦に勝ってきた魔王だ。
ゲザルグの調べたところではミルドレッドの戦い方は自分と同じように真正面から殴り合いをするスタイルのようだ。
パワーに特化させた『狂乱』と敏捷性と連携で戦う『王虎』の戦いは久々の中堅クラス同士の魔王戦争ということもあり注目が集まっていた。
ゲザルグはここでミルドレッドに屈辱を与えながら始末し、前回の恥を帳消しにすることしか考えていない。
「さすがに奴にもSSランクは居るだろうがどんな奴だか情報が無いが、そんなの関係ねぇーな」
『狂乱』は自分の魔物たちが暴れやすくするためにどんな魔物がいるか調べているがなかなかミルドレッドの魔物の情報が出てこずイライラしていた。
「早くあの面をぶっ潰してやりてぇーよ…ヒヒッ」
ゲザルグの顔は狂気に染まっていた。
◇
――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム
なんだかんだ日が進みミルドレッドの魔王戦争まで残り5日のところまで来た。
俺はダンジョンをいつも通り運営しつつ、アークで起こっている問題について考えつつ、「プレイヤー」と勇者について調べる日々を送っていた。
そして今日は配合解禁日だ。
2体の魔物に配合できるが全然考えていなかったので困ったな。
「カーバンクルは嫌って言うしな」
小回りが利いているあの姿から変わりたくないようだ。
Gランクの魔物を配合していってもいいけど、できれば唯一無二の仲間たちから配合していきたい。
残りの候補はフレイムリザードと大蝦蟇だ。
とりあえず大蝦蟇はコアルームに呼んでいるので面接を行うことにする。配合しないとしっかりコアに登録できずに、コアを使ってあれこれできないので確定なんだけどな。
配合の説明をして悪くなるかもしれないという話をしているところだ。
「ふむ……儂らの話を聞くのはええことじゃが、主が決めればええ」
「そう言われるとなんとも言えないんだが」
「優しさは大事な要素じゃが、魔王として容赦の無さと野心の強さを見せるのも必要じゃと思うぞ。主の理想のためにやれることは躊躇なくやるべきじゃろう」
大蝦蟇の言葉が突き刺さる。
これは阿修羅にも言われたことがあるし、他の魔王を見てても不足してるのは魔王として、俺に欠けている威厳と誇り、どっしり感なんかも持っていない、特にミルドレッドを見ているとつくづく思う。
「もし失敗したとしても、それは主の野望のための必要な犠牲と思うことじゃ」
「難しいもんだな」
「儂は新人じゃが主が決めたことならなんだってする覚悟はできておる。それは他の魔物たちが皆持っているから儂も自然と持った覚悟じゃ」
葉巻を相変わらず吹かせながら真っ直ぐに語ってくれる。ダンジョンに来たばかりの大蝦蟇にここまで言わせてしまうとは…。
魔物たちみんなが持っている覚悟か…。
絶対に理想を叶えたい強い覚悟、そして魔王としての信念が俺には、もっと必要ということか。
「じゃが今の主が持つ優しさも唯一無二のものじゃ。切り替えが大事ってことだの」
「刺さるな~」
面接するつもりが俺が為になる話をされていた不思議。
ならば配合に関してはもう迷わないぞ。
そんな俺の目をみた大蝦蟇が自らアイテムを物色しはじめる。
本当に魔物として生きた時間が長いだけあるな。
新人だろうと関係なくしっかり意見を言ってくれるし、ダメなことをハッキリ言ってくれるのがありがたい。
「さすがに悩むか?」
「正直よく分からんから直感じゃのぉ」
それにしては全部手に取って見ていく姿は面白い。
1人で唸っている大蝦蟇を見つめながらゆったりと見守る。
10分ほどして大蝦蟇が決まったと言うので見てみると、まぁ納得のようなラインナップだった。
1.魔名カード『神の役者』 ランクEX
2.魔名カード『大仙人』 ランクSS
3.魔名カード『大罪』 ランクS
4.聖魔物『天叢雲剣』 ランクSS
「役者に仙人、それに刀に大罪って欲張りさんだな」
「せっかくのチャンスじゃからの、とりあえず欲しいもの中から選んだってとこじゃ」
「楽しそうだな」
「こんなチャンスは二度と無い、ならば全力で楽しむのが一番じゃな!」
「あぁ……これからも頼むぞ『五右衛門』!」
俺が真名を授けると同時に大蝦蟇・五右衛門の身体が輝きはじめた。
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