第13話 『太陽』のアルカナ


「誰もいないと良いけどな」


 

 俺はポラールの転移魔法陣でルビウスの領主の館に裏手に来ている。

 館の正面をメルとポラールに任せていて、ルビウス正門は副団長が戻ってくるだろうからそっちをガラクシアと阿修羅に任せている作戦を実行中だ。


 ルジストルの身柄は館正面から侵入したメルとポラールに任せて、救出でき次第アークに帰ってもらう算段。

 アークはレーラズがいるからある程度は大丈夫だろうけど、なるべく速く見つけて戻ってくれると助かるんだがな。誰かしらに攻められると怖いからな。



「さぁ…そろそろだな」



 その瞬間。

 ルビウスの街が闇に包まれる。

 月光と眩いばかりの星の煌めきが外を照らし出す真夜中の時間へとルビウス全体が覆いつくされる。



「よし! 行くか!」



 ガラクシアの『星空領域スターリーヘブン・無窮ノ夜エンドレス・ナイト』が俺たちが動く合図だ。

 これが発動すれば街の住民や騎士団員に冒険者もまとめて制圧できるだろうから安全だ。


 1分ほどでガラクシアの結界は消滅したので大体の人を制圧できたんだろう。

 俺は裏手にある扉から中に入る。

 すると視線の先には立派な白銀の鎧を纏ってひと際威圧感を放つイケメンと遭遇した。



「正面で暴れていた気配が消えたり、ルビウス全体に結界が一瞬張られたりしてるが、君はその一味かな?」


「誰だ…あんた?」


「質問は肯定と捉えて、君を敵と見なすよ……アルカナ騎士団第7師団団長ソレイユ、君を捕らえさせてもらう」



 なるほど。

 ガラクシアの結界でも無事なのも納得の大物ってわけだ。

 さすがの団長様も副団長が戻るよりも前に攻められるなんて思ってもみなかったようだな。

 でもルジストルを捕らえた段階から最大限に警戒しておくべきだったな。



「俺はアークの長ソウイチだ。ルジストルを捕らえた件と副団長さんたちが街で悪さしたツケを支払ってもらうぞ」


「……転移魔法か」



 俺の言ったことに疑問を持たず、しかもここに来た方法に一瞬で辿り着くのは、さすがに帝国騎士団の団長さんってやつだな。

 団長様が剣を抜き俺に向けてくる。

 完全に敵意を向けられている。そんなに敵視されるような自己紹介したつもりはなかったんだけど…。

 

 俺はとりあえず銅の鎧を着たスケルトンを5体ほど召喚する。



――ゴウッッ!



「あつっ!」



 団長様から放たれた灼熱の魔力で銅のスケルトンたちが一瞬にして燃え尽きてしまった。

 だがスケルトンが燃え尽きるほどの熱なのに他の物は一切燃えていない。

 団長様がこっちに剣先を向けてくる。



「『花咲く小太陽フレアガーデン』」



 見るからにヤバそうな火球を飛ばしてきた。そこらへんのSランク火魔法並みの魔力が込められている。

 めっちゃ速い訳じゃないけど、俺は全力で裏の扉から外へ飛び出す。



――ドゴォォォンッ!



 館の壁は花が咲いたように見える爆炎とともにはじけ飛んだ。


 あんな技で殺すんじゃなくて捕えようとするってどんだけ俺が丈夫に見えたんだよ!



 全身を燃えるような魔力で纏った団長様が凍えるような視線を俺に向けて、ゆっくりと歩いてくる。

 近づいてくるだけで肌が焼けるような熱さが俺を襲う。

 近くの草木が急激な勢いで枯れていく。


 これが『太陽ザ・ソル』の力の一部ってやつね。


 だけど俺だって最強の騎士様を護衛に着いてきてもらってるからな。

 ここは任せるとするか!


 俺の影からガシャンッ! と鈍い音を鳴らしながら巨大な鎧騎士が姿を現してくれた。








 

 正面に立つ青年の後ろに巨大なリビングアーマーらしき魔物が現れる。

 その鎧が僕のほうを見る。



――ブワッ!



 久々に感じる恐ろしいほどの殺気。それに威圧感。

 自然と剣を握る力が強くなる。

 それほどまでの緊張感を一瞬にして味わわせられるような魔物ということだ。


 両手剣のような大きさの剣と大盾を片手で扱う力があるリビングアーマーとは厄介だ。力勝負では厳しそうだ。


 白と黒の鎧が何を意味するか分からないが、呼んだ主人の何倍もの魔力と闘気を感じる鎧に対して『太陽ザ・ソル』の出力を上げる。


 『太陽ザ・ソル』は太陽の魔力を持ち主に宿し、防御ステータスと幸運値を増大させるとともに特殊な火魔法を使用可能にする。近づくものを枯らし、踏みしめる大地を荒らしてしまう力も持つ。出力をあげることで灼熱の魔力を纏うことができる。


 Aランク程度の魔物だったらこれだけ出力を上げていたら燃え始めてくれるはずなんだけど、前の2人はそれ以上の存在ということだね。



「頼んだアヴァロンッ!」



 青年が鎧に声をかけながら走り去っていく。

 本来ならば追いかけて捕らえたいところだけど、この鎧から目を離すとまずい気がして視線すら動かせない。


 ゆっくりと鎧は僕に向かって歩いてくる。



「『花咲く小太陽フレアガーデン』」



 直撃した相手の魔力を一瞬吸ってその量に伴って爆発範囲を拡大させる火球を放つ。

 しかし鎧は僕の攻撃に対して剣か盾を構えることなく歩いてくる。


 僕の放った「『花咲く小太陽フレアガーデン』」が直撃する瞬間。

 「『花咲く小太陽フレアガーデン』」は音も無く消滅した。



「どうなっている」



 振り下ろされる大剣を防げないと判断して横に跳ぶ。

 速さはあるわけじゃないけど、さすがに力はありそうだ。

 そして鎧には何かしらの防御スキルが使用されている。


 そして何より「『花咲く小太陽フレアガーデン』」が使用できない。妨害能力持ちということか。




「『獄炎向日葵』」



 僕の足下少し前から炎の向日葵が前方へと勢いよく咲き始める。 

 人の腰ほどの高さまで育つ炎の向日葵は触れたものを焼き、そして水分を奪い渇きを与える花なんだけど届くかな?


 向日葵が当たる前に剣を大きく振りかぶって地面に叩きつけるように振るう鎧。

 凄まじい剣閃が地面を砕きながら向かってくる。


 さらに『太陽ザ・ソル』の出力を上げる。



――ドゴォォォォンッ!



 互いに攻撃が直撃したように見えるが僕にも鎧にもダメージはないようだ。

 そして『獄炎向日葵』が使えないことを確認する。

 先ほどから僕の技は防がれていて、一度防がれたら使えなくなってしまう防御スキル、聞いたことが無いし、とんでもない防御スキルだ。



「ならばっ!」



 全身に魔力を漲らせて突進する。

 速さではこちらに分があるのなら剣技で攻めるのみ!


 全速力で懐に入り剣を振るう。

 兜の動きを見るに確実に僕の動きを見えているはずなのに反応してこないのは気になるが鎧の隙間を狙って突きを放つ。


 『太陽ザ・ソル』の魔力を纏った剣技は普通の鎧ならば溶けてしまうはずだが、果たしてこの鎧に届くのか?



――ガキンッ! パリンッ!



「なっ!」



 突きは鎧に当たる直前に弾かれ、剣を纏っていた『太陽ザ・ソル』の力は掻き消された。

 今度は鎧の大剣に空から落雷が降り注ぐ。

 突きが当たる直前に大剣を振り上げている鎧から無機質な声が聞こえる。

 



「『雷轟天槌』」



――ズガァァァァンッ!



「ぐぅぅぅぅッ!」



 剣で受けたが凄まじい衝撃で後方へ吹き飛ばされる。

 

 なんとか着地するが想像以上の強さに動きが止まる。

 


「鎧の力でなくて本体のアビリティが僕の攻撃を防いでいる」



 鎧に当たる直前に突きの威力も『太陽ザ・ソル』の力も霧散してしまったことからそう考察する。


 すると鎧は大剣を地面に刺し、とんでもない密度の雷魔力を両手に溜める。

 地面が少し揺れる。

 弓矢を放るような構えになると雷魔力は弓矢の構造に変化する。


 避ければ被害はとんでもないことになってしまいそうだね。


 『太陽ザ・ソル』の力を最大レベルで放出して身に纏わせる。

 周囲の草木が枯れ果てていくが仕方がない。



「『無限彼方まで届く雷霆ケラノウス・ヤケレ』」


「『誕生せよ黎明の日輪サン・フレア』」



 その雷撃、僕が燃やし尽くす!








――ルビウス 領主の館 執務室



――ゴゴゴゴゴッ!



「凄い戦いになってるようだな」



 師団長さんはアヴァロンに任せて俺は館内で領主を探しまくって、ついにそれらしき人物を発見した。


 とりあえず資料を持ち帰れるだけ頂いていこう。

 情報の宝庫である領主の執務室で俺は様々な紙に目を通す。


 兵士や領主はガラクシアの力で眠っている。


 少しすると廊下からこちらに歩いてくるガラクシアと阿修羅の魔力を感じた。



「マスター! 終わったよ~♪」


「若、任務完了だ」


「おっと! ご苦労様2人とも」



 勢いよく跳びついてくるガラクシアを受け止めて2人に声をかける。

 メルとポラールと言い、この2人と言い単独じゃなければ全力を発揮できないのによくやってくれた。

 ペアを組ませたのは俺が不安だったからだ。

 この様子を見ると特に問題はなかったようだな。



「副団長さんは気絶させてあるけど……どうするの?」


「アヴァロンの所に行こうか」


「外で派手にやっとるな」


「ガラクシア、ここに置いてある資料を保管しておいてくれ」


「はーい!」



 欲しい物はガラクシアの時空間魔法で収納してもらって、俺は2人を連れてアヴァロンの下へ急いだ。

 

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