第9話 深い『溝』
――『罪の牢獄』 居住区 果樹園
阿修羅の活躍もあってどうにかやり過ごしつつ、帝国様へ完全に喧嘩を売った翌日の朝、俺は『
阿修羅が副団長であるバベルの力の一部を試してくれたし、メルが隙をついて騎士団員のステータスを調べてくれたおかげで1日である程度把握できたと思うがどうだろうか?
「普通の団員は私たちからすれば、スケルトンがちょっと強くなったレベル」
「みんなが強いから分からんな」
「思ったより弱いよね~♪」
「あくまで今回来ている騎士の平均値です。油断してはいけません」
メルが調べた一般団員の能力だが、ステータスはE~Dランクの魔物程度でアビリティやスキルは人それぞれで多く持っている人もいるってことだ。
総合してDランクが騎士団員の実力ってことかな。
「葡萄を盗ったのは許せな~い」
「あの女の能力は見れた分の力は『
「それは朗報だ」
唯一の問題は副団長のバベル。
彼女だけ1人桁違いの能力を持っているとのことで警戒をしなければいけない。
もしルビウスと争うことになったら彼女と、その1つ上の地位である団長が出てくるのだから油断はできない。
「「赤刃のビエルサ」よりは強いよ、ますたー」
「剣技の練度もかなりのものだ」
「バベルとルビウスに残っている団長対策を練っておかないとな」
「まだ今日の昼過ぎまでは街に騎士団員は居ますので集中していきましょう」
人間と戦争をする準備は粗方できているつもりだけど、副団長クラスがゴロゴロ潜んでいた場合は少し面倒になるな。
もしものことを考えてアイシャには万が一の助っ人として話はしてあるので、何かあった時のアークの守護はなんとかなる。
Sランク冒険者クラスのバベルの能力をできればもっと見ておきたかったな。
とりあえず今日の方針とルビウスと争う準備を各自してもらうことを言い、この場は解散した。
◇
――アーク 北門
なんとかアルカナ騎士団の査察のようなものを終えることはできそうだが、すでに埋めることが難しそうな溝を作ってしまった。
今日もリーナを中心にアークの産業やダンジョンについての話をさせてもらったが、さすがにかなり警戒しているようで、どの団員も警戒心が一段と強くなっていた。
リーナが頑張ってくれたおかげで無事に全ての説明を終えて、昼食をとったアルカナ騎士団はルビウスへ帰還しようとしている。
「この度は大変なご迷惑をお掛けしていまい申し訳ありませんでした」
「お気になさらず…ここは魔物が多い大森林地帯、気を付けてお帰りください」
「……本当に帝国の庇護下に入るつもりはないのですか? できたばかりの迷宮都市ならば手を結ぶことを改めて勧めます」
「それは今行われている交渉次第でもありますね」
「そうですか…」
なんども自分たちの非を認めつつも帝国の下で街運営していくことについて説いてきた副団長。
帝国という国に絶対の自信があるのは良いことだが押しつけようとするのは話が違うと思うんだけどな。
それと気になるのは帝国の庇護下に入るのがまるで常識のような言い方をずっとされているのが少し腹が立つ。
自分たちの支援を受けずに生きていけると思うなよと言われているみたいで不快だ。
すんなりと帰ってくれたアルカナ騎士団を見送って、なかなか俺の理想としている街は受け入れられにくいものであることが分かった。
俺にもっと経験と話術の力があれば今回も穏便かつ好印象で終わらせることができたのかもしれない。
でもこのまま行ってもアークに来てくれている亜人や魔族、冒険者なんかは帝国からの搾取に耐えきれなくなってしまう可能性だって出てくるから、やはりあの条件で仲良くするのは無理な話だと改めて思う。
「次は明後日帰ってくる予定のルジストルだな」
今日の夕方に着いて交渉を行う予定だ。
明日の朝に再度話し合いをして、昼過ぎにルビウスを出発してアークにむかうという多忙なスケジュールになっているが、俺たちの交渉など時間の無駄だと思われているのだろう。
もしルジストルに何かあったらメルの分裂体が知らせてくれるので、すぐに動くことができる。
こちらにはガラクシアとポラールがすでにルビウスに転移魔法陣を仕掛けているからいつでもすぐ仕掛けられるからな。
「とりあえずDEと魔力を使って街に仕掛けられるような戦力を作るか」
魔王の逆鱗に触れたってことにしておいて魔物の軍勢で攻めるのも最悪の手段として準備しておくとしよう。
コアルームに戻ってスケルトンと銅の装備大量生産をすることにした。
◇
――ルビウス 領主の館
「ふざけるなよ! この程度で帝国の庇護を受けられると思うな!」
「閣下はあなた方が提示した条件ならば帝国の庇護は必要ないとお考えです」
アークからアルカナ騎士団が去っていた少し前。
ルジストルはルビウスの外交官数名、そして領主と話し合いをしていた。
こちらの条件は延々と無視され、帝国側の条件をどうにか押し付けようとするだけでなく、アークの特産品を多くルビウスで売らせろという押し付けにルジストルは涼しい顔で流し続けている。
「帝国の庇護も受けずに街が安全だとでも言うのか?」
「アークは帝国領の最南端。辿り着くにも大森林を抜けなければいけませんし、攻め入られるのは北側からのみ。襲われたとして帝都からの応援がすぐ見込めない以上意味の無いこと」
「税金は現金のみで2割、ドワーフや農家の派遣は断り、しかも帝国の法には乗っ取らず、騎士団の常駐も拒むとは、ふざけるのも大概にしろ!」
目の前で激昂する外交官たちを見てルジストルは内心微笑む。
閣下には申し訳ないが、今帝国に従属するなどあり得ない話。どうせ交渉が破綻するならすぐにでも崩壊させ、戦をしたほうが早いとルジストルは考えていたのだ。
ソウイチが提案した最終妥結ラインを最初に提示することでルビウスの外交官にアークの印象を最悪にし敵対心を出させ、帝国を絶対的に上だと捉えているルビウスの外交官からアークへ仕掛けさせる思惑でルジストルは交渉を続けていた。
「貴様らの発言は帝国領にありながら独立し、帝国を敵に回すという発言に捉えられても仕方がないぞ」
「このような条件の数々、特に亜人と魔族に対する仕打ちはアークの理想とは正反対ですからね。仕方のないことでしょう」
「ならばこの瞬間から帝国の敵ですな」
今までニヤニヤしながら交渉を見ていた領主がここにきて口を開いた。
部屋に居た2人の兵士も剣を抜いて領主の近くによる。
「ここに敵対戦力からのスパイがおりますね……捕えて地下に閉じ込めておきなさい」
「「はっ!」」
「最初からこうなると踏んでいたのですね」
ルジストルが見通したように領主に声をかける。
ルビウスとしてはできたばかりの集落のような街から搾り取るくらいだったら全てを奪い、完全に支配してやったほうがいいという考えになったのだ。
金を生み出す者達だけを残して他は始末してしまえば乗っ取ったも同様と考え、特に外交官を捕らえて話をでっち上げればすぐにでもアルカナ騎士団を使って攻め込めると領主は考えていた。
「街に出ている団員たちが帰ってきたら潰しに行くとしましょうかね」
「……愚かな人間だ」
「さっさと連れていきなさい」
「「はっ!」」
こうしてルジストルはルジストルの思惑通り、ルビウスの地下牢に捕らわれることになった。
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