第8話 『塔』のアルカナ


 盗人騎士たちをグルグル巻きにして、待ちきれなかったから宿まで阿修羅に4人とも担いでもらって移動してきた。

 さすがに阿修羅との実力差を判って暴れたりはしなかったが、宿に向かうと分かった騎士たちの顔が真っ青になっていくのは滑稽だ。

 

 宿内はバタバタしていたが、俺たちが連れてきたのでさらにバタバタさせてしまったが仕方ない。アークに来る客人は歓迎するが、盗人に歓迎なんてできないからな。



「とりあえず副団長さんを呼んできてください」


「は、はい」



 1人の団員らしき人物に声をかける。

 リーナも真面目だと言っていたアルカナ騎士団で第7師団副団長を務めている『ザ・タワー』のバベル。

 案内時は、とても真面目な人物だったようだが、まぁどんな人物だろうとこの展開はどうしようもないと思うんだけどな。


 宿のロビーで少し待つと、灰色のショートカットをした女性騎士がやってきた。

 わざわざ鎧を着直してたんだろうな。

 こちらまで数人の部下を率いて歩いてくる。



「部下が大変申し訳ないことをしたと伺った。お手数ではあるが状況を改めて聞かせていただけないだろうか」


「最初から話をしましょうか」



 俺は案内している時から酷い言動と要求をしてくる騎士団員を酷く怪しみ、もしかしてと思い農業区域に潜んでいたところ団員たちを見つけて捕らえた流れを詳しく説明した。


 途中から副団長さんは最後まで聞き終わった後、頭を押さえて大きくため息をついた。

 真面目な副団長さんからすればあり得ないようなことだろうが、こっちからすれば許されざる行為だ。いくら帝国が誇るアルカナ騎士団様だろうが謝罪のみで済ませるような真似はできない。



「大変申し訳ありませんでした。帝国からしっかり補償金を用意させていただきます」


「彼らは色々なことを企んでいましたよ。領主に渡すだとか他の街で育てさせるだとか」


「本当ですか?」



 グルグル巻きにした団員たちに副団長が問う。

 宿に着いてから口だけは自由にしてあげてるので何か言いたいことがあるのなら言ってみてほしいものだ。



「バベル団長……騙されてますよ!」



 俺も含む多くの人間が間抜けな声を思わず出してしまう。

 ここまで来て弁解だなんて通るわけがないだろうに。



「亜人や魔族が多く住む村ですよ! 俺たちを貶めようとしてるに違いありません! 俺たちも気付いたらこうなっていたんです!」


「そうです! 意識が無くて気付いたら捕らえられていたんです!」


「精神操作を受けていたとでも?」


「そうです! きっと税や資源を渡したくない奴らの仕業です」



 どこまでもふざけた奴らだ。

 この期に及んでそんな出鱈目言って信じる奴がいると思っているのか?

 

 しかし副団長を見てみると何やら悩んでいる様子だ。


 余程俺たちを信じていないし、帝国騎士至上主義みたいな思想をしてるんだろうな。

 面倒な流れになりそうだな。



「そんな虚言が通るとでも?」


「貴様が我らアルカナ騎士団を謀ったんだろう! 正体を現せ!」


「帝国の庇護下に入りたくないか知らんが卑怯なやつらめ!」


「待ちなさい!」



 グルグル巻きにした団員たちがヒートアップするのを見て、副団長さんが声をあげる。

 そして腰の剣を抜いてグルグル巻きの団員たちに向ける。



「私の力で試すことにしましょう」


「バ、バベル副団長! わざわざそんな!?」


「4人が語ることが真実であるならば問題ないはずです」


「そんな能力があるのですね」


「はい…それが私、『ザ・タワー』の力、その一部です」



 どんな能力なんだろうか?

 まさか目の前で証明してくれるなら情報を得られるって意味でありがたい。

 そんなことを考えていたら俺たちにも剣を向けてくる。



「申し訳ありませんがあなた方も試させていただきます」


「…剣をむけるんですか?」


「いえ…実際にご覧になってください」



 副団長さんがグルグル巻きになっている団員たちに近づいていく。

 やめてくれだの許してくれだの言っている団員たちを無視して、剣の先で1人の団員の頬を軽く切る。


 対象を傷つけることで発動するスキルってことか。



「私の能力『ザ・タワー』は、斬った相手が指定した事柄に対して嘘や隠し事が多いほど悲劇が襲い掛かる能力です。そして今回の指定は窃盗事件です」



 難解な能力だ。

 どこまでが嘘と隠し事になるのか? 指定させた事柄に関係ないようなこともふくまれてしまうのだろうか? そして悲劇とはなんなのか?


 すると副団長の能力を受けた団員がもがき苦しみ始める。



「がぁぁぁぁぁ! 助けてくれぇぇぇぇ!」



 団員の身体から黒い魔力のようなものが溢れだす。

 少しすると口から泡を吹いてぶっ倒れた。



「失望しました。アルカナ騎士団とあろう者が虚言とは」



 倒れた男から溢れる黒いオーラに他の3人も覆われる。

 3人は声をあげることなく倒れてしまった。



「同じ嘘や隠し事をしている者が近くにいた場合連帯責任です。誰か運びなさい!」


「勝手に解放されては困るのですが」


「今彼らが『ザ・タワー』の力で受けた悲劇は5つ、「自己破壊」「記憶の一部喪失」「トラウマ」「精神破綻」「発語能力の低下」です。騎士としては再起不能でしょう」


「なっ…」



 やばすぎるだろ!

 自分にデメリットが無いのに与える影響が強すぎる!

 斬れば付与できる面も強いし、戦ってれば自然と付与できて勝敗が一撃で決まるほど強い。

 だが相手と会話や何かしらのやり取りをせねば条件を指定できないのは難しいところだ。


 この力を俺に試されるのは困る。

 魔王だし仲良くする気ないし、隠し事が多すぎる。



「これを向けられることを拒まないとでも?」


「我らに隠し事でもあるのですか?」


「あなたが説明した能力だけが全てだとは思えません」


「もちろん全てではありません。ですが今使った力はあれが全てです」



 まだ他にも技があるのは1つの情報だな。

 ここで俺が受けるわけにはいかないが拒めば帝国騎士をこの場で明確に敵に回すことになりかねん。


 だがもう仲良くしたいとも思わない。



「あのような条件を出し、我らを侮辱するような発言をしたあなた方を我らが快く思っていると思っているのですか?」


「確かに今回の件はこちらの不徳の致すところですが、あなたの発言は今後帝国と手を結ぶことは無いと言っているように聞こえますよ」


「正直今回の件で余程条件が緩まらない限り、手を取り合うことなど考えられません」


「それは帝国領内で独立し、我らを敵に回すと言っているようなものですよ?」



 副団長さんは剣を握る力を少し強める。

 俺も何かしらしてやろうかと思った時、俺たちの間に1つの腕が割って入る。



「若も騎士さんも落ち着け。騎士さん、若を傷つけるのは許さん、なので現場にいた俺の腕で能力を使うがいい」


「なっ!?」


「よろしいので」



 何言ってんだ?

 確実に影響を受けるぞ! ……と思ったけど阿修羅には物理的攻撃以外の能力はほとんど効かなかったのを思い出す。



「何もなければ何も起こらないのだろう」


「もちろんです」


「なら大丈夫さ」



 阿修羅の腕を副団長さんが薄く斬る。

 30秒ほど経っても何も変化が起きず、阿修羅は何事もなかったかのように副団長に言い放つ。



「これでいいんだろうな?」


「まず正しいこと言っていた皆様を疑ってしまい申し訳ありませんでした。第7師団一同お詫び申し上げます」


「俺たちからも騎士団様に1つ試してもいいかね?」


「……いいでしょう」


「いいですかね? 若?」



 何をするつもりかまったく分からんが、この場は阿修羅に助けられた。

 俺は軽く頷いて阿修羅に好きにしてくれと伝える。


 阿修羅は副団長さん以外の団員も軽く集める。

 そして首を軽く鳴らして騎士全員をみる。


 ミシッミシミシッとどこからか木が軋む音がする。



「騎士様から見れば俺たちは辺境の地にいる帝国に従わないネズミかもしれん、だが帝国騎士だがなんだか知らんが…」



 一度止めて阿修羅が息を軽く吸い直す。



「この街と若を舐めると……地獄を見るぞ餓鬼ども?」



――ゴウッ!



「っ!?」



 騎士たちにだけ向けられた一瞬の殺気。

 バタンッバタンッと数人の団員が気絶して倒れていく。

 

 副団長さんも阿修羅の殺気にやられて額から大量の汗を流していた。



「さぁ…若、戻りましょう」


「やりすぎだ。今度は俺たちが謝罪する立場だぞ」



 阿修羅がやりすぎたことに関しては誠心誠意謝罪をさせていただいた。だが阿修羅の言ったことは間違っていない。

 さすがに驚いたのか、少し放心状態だったので、俺の謝罪を受け入れてくれたか謎ではあるが、最後に一言挨拶をして宿を去った。



 この後阿修羅にめっちゃお礼を言った。

 

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