第7話 人間の『醜い部分』


「ますたー。騎士団っぽい人たちが来たよ」



 中堅冒険者にダンジョン攻略を根強く挑んでもらうにはどうするべきかを阿修羅と話をしていたらメルが声をかけてきてくれた。

 メルが反応したってことは街に対して大きい悪意を抱いているっていう証でもある。



「主人、街が荒れる前に出るべきではないのか?」


「そうなりそうな臭いがするな。メルは他の『枢要悪の祭典クライム・アルマ』に情報を伝えてくれ。阿修羅は俺と一緒に行くぞ」


「はーい」


「おうさ」



 さぁ…帝国騎士ってのがどんなもんか、国を守るという使命をしっかり背負った連中でもあることを祈ろうかね。







――アーク 中央区域



 俺がアークに出向くと、ルジストルは既に出発の打ち合わせをしているのか騎士団と思わしき連中と話をしていた。

 

 確かに立派な鎧だが、情報によると各師団ごとで鎧のラインや布部分の配色が違うらしい。

 第7師団は橙色をしている。


 

「偵察に来た騎士は2グループに分かれているっぽいな」


「灰色の女が一人だけ抜けている」



 阿修羅の言う通り2グループあって灰色の女性騎士がまとめているグループはかなり統制がとれていて団員たちもキビキビしている。

 その中心の女性騎士だけ鎧が特注なのと魔力量が他の団員よりもけた外れに多い。


 もう一方のグループは女性騎士をチラチラ確認しながらリーナやホムンクルス秘書たちを見てニヤニヤしている。



「ルジストルは他の仕事で行くから、灰色女騎士グループをリーナにもう片方は俺が案内しよう。阿修羅は農業地区と鉱山で事件が起きないように交互に見張れるか?」


「承知した」


 

 どさくさに紛れて狙われると一番困る場所を阿修羅に任せる。

 リーナは上手く街の案内をできるだろうが、俺は上手くやれる自信がないけど仕方ない。



「15人か……多いな」



 メルの分裂体が付いてるとはいえ15人も1人で面倒を見なきゃいかんのは面倒だが、騎士団のために他の者がこれ以上手を止めるのも困る話だから仕方ない。


 俺は少し待たされてイライラし始めた団員たちに声をかけた。



「お待たせいたしました。私が本日アークのご案内をさせていただきます。この街の長であるソウイチと申します」


「…貴様のような若造がこの街の長だと?」


「若輩ながら皆様のお力をお借りして日々やらせていただいております」


「…おい、若い女はいないのか? バベル副団長のとこを案内していたやつみたいな女と代われ」


「申し訳ございません。他の者は手が空いておらず、私で我慢していただきたい」



 バベルとかいう騎士が中央を離れたからだろうか、リーダーっぽいゴツイ男も取り巻きの団員も女を所望してくる。

 これじゃ話に進まないが要望を全部聞いてやるわけにもいかん。



「こちらへどうぞ。アークの居住区域をご案内します」


「ちっ……若い女もいねぇーたどうなってやがんだよ」



 言うこと言うこと癇に障る奴だが、全部気にしていては日が暮れてしまうから冷静にならないとな。








――アーク 居住区域



「汚らしい亜人だの魔族がいるんだがどうなっている?」


「この街はどんな種族だろうが平凡に暮らすことを理想とする街ですので、多くの種族の方々が仲良く暮らしておられるのです」


「寄せ集めの村ではないか、ただの無法者たちの集まりを随分な言い方をするんだな」



 所詮この程度の考え方の連中だったか。

 居住区に案内してから言いたい放題だ。

 亜人や魔族への差別発言は当たり前、というか帝国の人間以外は全て見下しているような言い方ばかり。

 すれ違い気に入った女性には後で館に呼べだの腐った発言ばかりしてくる。


 全部が俺の掲げているものを否定する。

 こいつらといると精神が病んでしまいそうだ。



「今日の宿はどうなっている? 飯と酒は最高の物を用意してあるだろうな?」


「もちろん。アルカナ騎士団の皆様が来るとのことで見晴らしのいい湖前の宿とアークがご用意できる最高峰のものを手配いたしました」


「この陰気臭い村を見てると期待はできんが、つまらんものだったら覚えておけよ」


「もちろんでございます」



 あー、凄いよアルカナ騎士団の皆様。

 もちろん人それぞれなんだけど、こんなにも教育がなってないのが騎士だなんて恥だろ、これが帝国の安全を守りますだなんて笑わせてくれるよ。

 口を開けば見下すか女かの2択、代金はアークで払っておけだの笑わせるような発言をしてくる。しかも上司にバレたくないチキンっぷり。

 最高峰の鍛冶師たちが打ったそこそこの武装具に騒ぎ立て、横暴にとっていく。


 女に金に武器に見栄、腐り切った欲望に塗れたこの生命体が1つの国を守る騎士を名乗らせている帝国にかなり失望したよ。


 リーナ側のグループは大変真面目だったようだが、結局アークから多くの資源と金を求めているのは変わらなさそうだな。



「こんな奴らに従属など笑わせる」



 奴らを宿に送った後に思わず口に出してしまう。

 副団長にバレないように娼婦を呼ぶだの物を買い漁るだのしょうもない話ばかりしていた。


 いったい何しに来たのかは分からないが、このまま帰ってくれると助かるんだがな。



「当初の予定通りだな」


「ソウイチ様とルジストルが言うより醜い者たちでしたね」


「副団長がいるときは真面目のようだがな」


「ですがそれだけでしたね」



 偶々第7師団がクソ野郎どもの集まりだったり、俺が対応した奴らだけの可能性もあるけど、今回の件で帝国と仲良くやろうって流れは完全に無くなったな。



「ますたー怒ってる」


「あぁ~本当久々にこんな怒るよ」


「よく我慢していましたね」


「私のおかげ」



 メルが手を挙げて主張する。

 確かにメルの分裂体が俺に引っ付いて色々やってくれていたのが分かったから冷静でいられたってのは実際にある。


 こんな状態で明日も滞在するだなんて勘弁してほしいよ。

 

 








 

 俺は今、レーラズからアークの農業区域に近づく集団がいるとの報告を受け、ホムンクルス兵ではなく自ら出向いている。


 こんな遅い時間に迷惑な奴だと思いながら阿修羅とメルが同行してくれている。

 この2人が居れば万が一も無いはず。


 葡萄を育てているエリアに気配を感じるので気配を殺して近づいて覗いてみると、騎士団員が4人ほど籠を持って葡萄を取り始めていた。



「これを収穫して調べれば他の街で育てて物価を落としてやれる」


「こんな村みてぇーなところに俺たちを派遣させた罰だな!」


「最悪ルビウス帰ってから領主に渡して金貰うってのがいいな」



 アルカナ騎士団が来るのに乗じて狙う輩がいるかと思ってたが、まさか騎士団様が直接盗りに来るなんてな。

 どこまでも俺たちを舐めたやつらだ。


 ここまでされて容赦はしない。

 現行犯でおしまいだ。



「メル…宿に居る人に伝えて寝てる他の騎士団起こしてここに来させてくれ」


「はーい」



 メルが一瞬で鳥の姿に変わって飛んでいった。

 連れてきた人選は完璧だったな。



「さて…殺しは禁止だからな」


「承知した」



 阿修羅と一緒に団員たちに近づいていく。

 さすがに近くなると足音でこちらで気付いて逃げようとするがもう遅い。



「騎士が窃盗とは……」


「チッ! 土産に少しくらい持たせろよ! 上に良い感じに言ってやるからさ」


「そんなことで窃盗が許されるとでも?」


「クソ田舎の長如きが俺たちになんて口利きやがる!」



 団員たちが持ってきていた武器を各々構えだす。

 こいつら窃盗だけじゃなくて街の長に剣を向けるってどんな神経してるんだよ。



――ブワァッ!



「ひぃっ!」



 団員が剣を俺に向けた瞬間。

 隣にいた阿修羅から身も凍るような闘気が放たれる。

 派手な和装の大男から放たれる闘気に怯む団員たち。


 ゆっくりと煙管を咥えながら阿修羅は4人にむかって歩いていく。

 腕を通さずに上から羽織っているだけの和服が揺れるさまが美しいな。



「お、俺たちに手を出したらどうなるか分かってるのか!?」


「貴様らは自分の命より重い物に手を出した……然るべき裁きだろ」


「や、やれーー!」



 一斉に突撃してくる団員たち。

 実力差も分からんとは可哀想な奴らだな。



「ふむ…殺しはせん」   



――トンッ!



 俺の目にはただ団員の間を阿修羅が歩いて通り抜けただけに見えたが、すれ違った順から気絶して倒れていく団員たち。首の後ろを叩いて気絶するって本当だったのか。

 さすが武芸の鬼神なだけあって朝飯前の対応だし、まったく傷つけずに気絶させてこの後をやりやすくしてくれる対応は、さすが阿修羅だ。



「さて…グルグル巻きにだけしておくか」


 

 阿修羅に手伝ってもらい、とりあえず団員たちをグルグル巻きにしておいた。

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