第3章 迫りくる『太陽』
プロローグ 牢獄に『迫る剣』
――クピドゥース帝国 帝都アルカーヌム 参謀室
「ヴァルカン」が滅んでから2週間後。
帝都の最北に存在する城のとある一室で数名の参謀と騎士が話をしている。
広げられた地図には帝国領の最南の位置に×印が書いてある。
「ヴァルカンにいた住民の8割はこの街に移住したようだ」
「どうしてこんな辺境の地へ?」
「ヴァルカンに所属していたSランクパーティーが勧めたそうだ」
彼らは「ヴァルカン」が何者かの手でダンジョンごと滅ぼされた件について話をしていた。
帝国領にある街が1つ一瞬にして滅んでしまったというのは瞬く間に世界中に広がってしまった。
騎士団の調査ではダンジョンから逃げ出した強大な魔物の仕業とされている。
そして「ヴァルカン」の住民たちは偶然にも元「ヴァルカン」所属だった冒険者パーティーの誘導で最近できたばかりで自分たちも全然把握できていない最南の土地にある迷宮都市らしき街へ移住したようだ。
こんな怪しいことがあってなるものかと帝国が誇る参謀数名は帝国領の中でも人が近づくことがない最南にできた新しい街の長が仕組んだことだろうと予測する。
「この街はポトフ商会や「ヴァルカン」から来た職人による鍛冶関連で凄い勢いで金を生んでいると聞いています」
「ならばこの街から税をたくさん取れば良い。丁度ヴァルカンから収入は無くなってしまったので丁度良い」
「この街から一番近い領主を働かせれば良いですな。なかなか遠いですが「アルカナ騎士団」のどれかをついていかせれば働くでしょう」
帝国領には多くの街が存在しており、野心ある多くの領主が存在しているが南のほうにはほとんど街は存在せず、大森林のみなので少し手こずるだろうが、さすがに騎士団を連れていけばどうにでもなうという思いで参謀たちはいた。
「すぐにでも空いているのはどこの師団かね?」
「少し時期をズラせばいくつかの師団が空きそうですな」
「よしならば2週間後に領主に手紙を送らせ舐めた態度を取れば1カ月以内に騎士団に攻め込ませるのだ」
「はっ! アルカナ騎士団第7師団 師団長『
帝国が誇る最強の実力主義集団「アルカナ騎士団」。
全部で11師団あり、各師団の団長と副団長は帝国内で知らぬものがいないほどの実力者の集まりである。
さすがに師団ごと派遣すればいくら急激に力をつけた迷宮都市如きすんなり陥落できると考えた帝国の参謀たち、彼らは「ヴァルカン」からもたらされていた帝国の利益を取り戻すためにどうにかしなければいけないのだ。
ここ最近で一気に増えたダンジョンとそこに住む魔王に頭を悩ませているが、聖国が大量の冒険者を輩出したという噂が出ており、そこには『勇者』の匂いがする者も多くいたという。
ならば魔王は聖国に任せておいて自分たちは帝国の利益を考え、いずれ皇帝から言い渡されるであろう最高司令官の地位を手に入れている自分を妄想し、ニタニタと笑う参謀たちであった。
◇
――帝都アルカーヌム 城中 アルカナ騎士団第7師団 師団館
帝都の広大な城の敷地内に存在する騎士団の館。
第7師団の師団館には1人の男が机にむかい書類仕事に没頭していた。
「アルカナ騎士団」は帝国のマークが大きくどこかにあれば武装や服装は基本自由だ。
だが机にむかう男の背には白銀の鎧、帝国の紋章が描かれた赤と黄色のマントがいつでも装着できるように綺麗に用意されている。
そして椅子のすぐ右にはいつでも手に取れるように1本の剣が置かれている。
――コンコンッ
「どうぞ」
「失礼します! ソレイユ様、帝国参謀より任務の通達です」
「読もうか」
師団長室に1人の騎士が入ってきてソレイユに手紙を渡す。
手紙を受け取ったソレイユと呼ばれる男こそ、アルカナ騎士団第7師団団長『
少しだけ癖のある金髪、190㎝の身長と鍛えられた肉体。そしてどんな任務でも真面目に取り組む姿勢に住民に優しい姿はアルカナ騎士団の中でもトップクラスに人気を誇る男性だ。
彼は手紙を一通り読むと、もってきた騎士団員に返す。
「うちの副団長が館内のどこかにいる。申し訳ないが探して渡してほしいんだ」
「はっ!」
「よろしく頼むよ」
騎士団員は一礼して部屋を出ていく。
ソレイユはしっかりと見届けた後、椅子に座り深く息を吐く。
残っている書類仕事に取り掛かりながら、今来た任務のことを少し考える。
「「ヴァルカン」を滅ぼした可能性のある迷宮都市か…」
彼自身、「ヴァルカン」に行った回数は任務で数回立ち寄った程度だが、冒険者が多く世界的にも有名な鍛冶師が多くいた街だった。
しかもAランクのダンジョンが存在しており、そのダンジョンまで崩壊しているとなるとかなりの戦力だと考えられる。
任務で向かう街はここ最近できたばかりで情報が少ないがCランク程度のダンジョンがある迷宮都市だと記されていた。
この街からの近くの街にいる領主が税を要求する準備をしているので、それを無事終わらせるための護衛。
「わざわざ第7師団全員に任務ということは戦になる可能性があるということ」
ソレイユは自分1人で行くのなら安心できる任務だったが、第7師団全員となると初めから戦闘が考慮されているケースと思い気が重くなる。
こういう場合は領主が無茶な要求をするか、相手方が一銭も出す気がないか、一定ラインを譲らずに両者がヒートアップするケースになることが考えられる。
「どちら側も調べておかないとな」
幸いまだ1カ月期間があるのでソレイユは調べなければいけない情報を頭の中で整理しながら急いで書類を片付けるべく、ギアを上げなおす。
新しくできた街についてどれだけ調べられるか、しかも場所は人が立ち入らない大森林地帯にある。
「団員の士気をあげる方法も考えなければ…」
ギアをあげたはいいが次から次へとソレイユの頭の中に浮かんでくる課題。
こんなことではまた部下に心配をかけてしまうと思うものの、なかなか切り替えられない自分に、ソレイユは思わず苦笑いをしてしまったのだった。
外はまだ太陽が照らしており、快晴な天気を続けていた。
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