エピローグ 迷宮都市への『一歩』


 街の西側、農業区域の見回りを終えて、今は街の北側にある商業区域を散策している。

 歩いていてお腹が空いたのでお店に入ってみたけど、なかなかの賑わいだ。



「ここは珈琲の店みたいだな」


 

 特に何があるか確認せずに入ったから思ったより落ち着いた店で驚いた。

 まぁ軽食と珈琲でも頂こうかな。



「いらっしゃいませ! ご注文はお決まりですか?」


「お姉さんオススメの軽食と珈琲で頼む」


「わ、私オススメですか!? わかりました! お待ちくださいませ」



 かなりの無茶振りをしてしまったが、見たこと無い店だし、店のオススメを頼んでおけば大丈夫かなっていう安易な考えだ。

 一応商業区域に店をだしてる一覧は目を通したつもりだったが、こんな落ち着いた良い店あっただろうか?


 周囲を見てみると若者が多く、男女で来ているグループもいるので、ここはゆっくり話がしたい人や1人の時間を楽しみたい人向けの店のようだな。


 少し何が来るか楽しみになってきた。



「季節ごとの果物を使った甘めのドリンクがイチオシなのか」



 今更メニューを見てみると、表紙にそう書いてあった。

 そんな中珈琲を頼んでしまったことを後悔しちゃうなー。


 メニューをのんびり見ているとようやくオススメが運ばれてきた。



「お待たせいたしました! デラックスサンドにアイス珈琲です!」



 運ばれてきたのは巨大なサンドイッチと珈琲だった。

 ここは大食いの店だったのか…?



「これがこの店のオススメか?」


「いえ! 私のオススメです!」


「な、なるほど…ありがとう」


「はいっ! ごゆっくりどうぞ!」



 素晴らしい笑顔で去っていった店員さんを横目に俺は『豪炎』に挑んだ時以上のプレッシャーを感じていた。

 

 さぁ! いざ死地へ行かん!








――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム



 22時頃、スライム娘ことメルクリウスは見当たらないマスターを探してダンジョンを探し回っていた。

 わざわざ星の力を使ってマスターを探すのも疲れるので動き回って探しているのだがなかなか見つからずしょんぼりしていた。


 そこへある魔物が声をかける。



「おや…メルクリウス様、いかがなさいました?」


「……地精霊」



 メルクリウスに声をかけたのはルジストル。

 マスターと同じ真名持ちしか名前と種族を覚えないメルクリウスはなんとなくのあだ名や表現方法で仲間を呼ぶことが多かった。


 ルジストルも地精霊と初めて呼ばれた時は驚いたが、それを咎めたところで意味などないので気にしていない。



「ますたーがいない」


「メルクリウス様の感知能力を使用すれば良いのでは?」


「疲れちゃう」


「左様でございますか、よろしければ閣下捜索のお手伝いをさせていただければ」


「ありがとー」


「では私はダンジョンの各階層を探して参ります」


「じゃぁ居住区を隅々まで探す」


「では…発見次第報告いたします」


「んっ」



 ルジストルはメルクリウスに一礼するとダンジョンの階段のほうへ向かっていった。

 メルクリウスはマスターの気配を感じないけどもう一度居住区を探してみることにした。



 少し考えるとメルクリウスは1つ怪しいところがあるということを思い出した。


 それはお風呂。

 普段は誰かが使用している時は使用中の札が出してあり、誰かが出た時に中に誰も居なければ誰もいないの札を出すルールになっている。


 大抵は最後に入るのはマスターかポラールで入った後に掃除係である自分に報告が来るはずなのだが、この日はまだ報告が来ていないのだ。


 メルクリウスは急いでお風呂の前まで行くと「誰も入っていません」の札が出してある。

 だがいつもなら最後の人が入って報告が来る時間。

 そしてマスターは不在で気配も感じない。


 もしかしてと思いメルクリウスは人間形態になってお風呂場へと入っていく。


 なんとそこは明かりがしっかりついており、露天風呂の扉の先も明かりがついている。

 そしてお風呂場に入ったことで感じた3つの気配。


 メルクリウスは自分に内緒で何かをしている3人にどんな天罰を下してやろうかと思い気配を消した。








――『罪の牢獄』 居住区 露天風呂



「まったくどうやって俺が入る時間をあててるんだか…」


「待ってたんだも~ん」


「わ、私は偶々です!」



 巨大サンドイッチの地獄をなんとか乗り越えてダンジョン居住区に戻ってきて、ダンジョンエリアをどうしようか悩んでいたら遅くなったので風呂に来たら、偶然だといいつつ狙っていたような顔をしたガラクシアとポラールに遭遇した。


 眼福ではあるが、なかなか緊張感が抜けずにリラックスしにくいのが本音だし、メルに見つかったらどうなるか分からないので嫌なんだが…。



「ねぇ~マスターお酒飲もうよ~」


「わ、私もお酒の気分です!」


「お前らいつの日からか毎回風呂で酒飲んでないか?」



 ガラクシアもポラールもいつの日からか、お風呂で遭遇するとお酒をせがんでくるようになった。

 気持ちの良いお風呂でお酒を飲みたい気持ちも分からなくは無いが、毎回飲むってのもどうかと思うんだが…。


 2人が左右からさらににじり寄ってくる。



「お願いだよ~♪」


「マスター…。」


「うっ…分かったよ! 出すからくっつき過ぎないでくれ!」



 2人の可愛らしい圧に屈した俺はコアを呼んでDEを消費してお酒を出す。

 俺が強くないので飲みやすい果物系統のお酒にする。


 ポラールがお酒を積極的に注いでくれるので飲むんだけど…。



「あんま飲み過ぎるとまた泥酔しちゃうからそこそこにしとくよ」


「私たちが居れば大丈夫だから飲んじゃいなよ~♪」


「一日の疲れを吹き飛ばしましょう」



 なんだか飲ませようとしてる気がするが、まぁ警戒しすぎても仕方がない。


 俺は2人が進めるがままに酒を飲んでいく。

 2人は自分の能力についての応用やダンジョンでの活かし方、他の魔王と戦う時の話など面白い話をしてくれるので楽しいし酒が進んでしまう。


 20分ほど経っただろうか。

 少し酔っぱらってきたので、心地いいうちに風呂を出たいのでがなかなか出させてくれない。

 

「マスター、もう少し飲もうよ♪」


「どうぞご主人様」


「あと少しだけだぞ」


「「はーい!」」



 まぁいつも頑張ってくれている幹部の2人だし、そんな2人が望むなら仕方ない。

 毎回この流れな気もするが楽しくなってきたので見逃しておこう。



「「あっ!?」」


「おっ…メルがきたな」



 メルが入ってきた気配がする。

 仲間外れにされて怒っている気配がするのでしっかり慰めてあげないとな。

 露天風呂を出て扉の前まで行く。


 勢いよく扉を開けたメルに何かを言わせる前に抱きかかえる。


「ま、ますたー!? いきなり何??」


「仲間外れにして悪かったな。メルも一緒に楽しもうか」


「もー。怒ろうと思ってたのに」


「さすがマスター♪」


「メルに何もせず怒りを鎮められるのはご主人様だけですからね」



 バランスを崩してメルを落とさないようにゆっくりとお風呂に入る。

 本当は全ての魔物に言うべきなんだけど、とりあえずここ最近ダンジョン外に出て活躍してくれている三人にしっかり伝えないとな。


 俺はメルを強く抱きしめながら3人に向けて言う。



「みんなのおかげで俺は生きているし、「アーク」も軌道に乗ってきたよ」


「「アーク」って街の名前だよね?」


「あぁ…3人はここ最近かなり仕事を頼んじゃったからな。でもそのおかげで助かったよ」



 3人を自分の傍に寄せる。

 ガラクシアは楽しそうでメルは恥ずかしいのか顔を伏せていて、ポラールは真っ赤になりながらしっかり俺を見て話を聞いてくれる。


 3人にたくさんの感謝を言葉が出る限り伝える。



「これからも俺と一緒に歩んでくれ」


「私たち3人は今後も頑張るために、今日はマスターと一緒に寝ることを所望しまーす!」



 また無茶振りをしてくるガラクシア。

 他の2人を見ると満更でもない顔をしているのがまた断りづらい雰囲気にしているが、まぁサービスの一環だな。



「ますたー。所望する」


「わ、私も活力不足なので所望します」


「…もう少ししたら出るぞ」


「「「はーい!!!」」」



 最高の配下たちと一緒に「アーク」を発展させ、楽しい毎日を必ず送れるように頑張らないとな。

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