第18話 豪炎『鎮火』
「何を言ってやがる…」
ポラールの言った発言がまったく理解できないのだろう。
猫野郎はとまどいながら次の指示をどうだすか迷っているのだろう。
だったら仕掛けてやるか。
「色々聞きたいことがあるんだが」
「テメェに教えることはねぇーな」
「魔王戦争で死んだ3人を唆したのはお前か?」
『豪炎』の言葉をスルーして俺は尋ねてみる。だが聞いても答えてくれない。
乱入はしたけど3人への関与をしたことは教えてくれないのか。本当に小物だな。
「あの巨人やSランクの冒険者を俺のダンジョンに襲わせる幼稚な作戦はお前が考えたのか?」
「…幼稚だと?」
「3人もいたんだから幅広い戦略がとれたのに巨人に拘り、暗殺者っていうダンジョン攻略に適していない冒険者を単独で向かわせるって…幼稚だろ?」
「貴様ぁぁ! 黙っておけば主にふざけたセリフをっ!?」
――パキパキッ! パキッ!
「あ…え…?」
真名持ちであろう獣人たちの身体に罅が入る。
そして獣人たちは自分の身体に異変を感じたんだろう、自分の身体を見ると指先から崩れていっているのに気付いたようだ。
だけどもう遅い。
悲鳴を上げる間もなく崩れ去っていく獣人たち。
炎だろうがなんだろうが塵になっていく。
だけど痛みは無く苦しむことなく天へと去れるのはポラールの優しさなのかな? たぶんそこまで考えてないだろうけど。
ものの1分ほどで全ての魔物は塵になり、残るは『豪炎』1人になった。
言葉が出ないんだろうな、あまりの出来事に絶句しているように見える。
まぁ、たかがルーキーにここまでやられたんだ、無理もない。
「いったいなんなんだ…俺様が何をしたって言うんだ」
「ルーキーだからと見誤ったのと戦う相手はしっかり調べるべきだったな」
「こんなルーキーが存在してなるものかぁ!?」
「居るんだから仕方ないだろ?」
「くそぉぉ! この俺様がぁぁぁぁ!」
自分の身体に罅が入ったことが分かったんだろうな。
最後は天を見上げて叫びをあげながら塵となって消えていった。
これで最後はコアを砕くだけとなった。
玉座の奥にあった通路を進んでいくと、そこにはコアルームが存在し、『豪炎』のホムンクルスメイドであろう人物がコアの横に立っていた。
「お見事です。『大罪の魔王ソウイチ』様」
「これを壊すと貴方も消えるのか?」
「いえ…私たちは『原初の魔王』様のところへ一時帰還することになります」
「なら遠慮しなくていいか」
俺はポラールにアイコンタクトを送る。
ニコッと笑ったポラールはコアを正拳突き一発で破壊した。
――ゴゴゴゴゴゴッ!
「ダンジョンが崩壊するのか」
「えぇ…ソウイチ様のコアに『豪炎』の魔名が送られていると思います。ご確認ください」
「憎くないのか?」
「…あまり良い主とは言えなかったので」
「…そっか」
俺はポラールの転移魔法で街まで行くと、すっからかんになった街でガラクシアとメルが遊んでいたので合流してダンジョンに戻ることにした。
◇
――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム
随分呆気ない侵略だったが当初の予定通りの成果を得ることができた。
『豪炎』の魔名を入手することができたのでアイシャにプレゼントで贈り、「ヴァルカン」の街の機能をそのまま俺たちの街へ移すことができた。
鉱山は『大罪』のランクのおかげで「ヴァルカン」よりも良い物がとれるので、落ち着いたらこの街は鍛冶でも発展していき知名度をあげることができるはずだ。
冒険者もかなり増えたが、建物は用意していたし「紅蓮の蝶々」と「赤刃のビエルサ」のおかげで「ヴァルカン」でギルドマスターをしていた男を味方につけて仕事を引き継いでもらうこともできている。
「ヴァルカン」で街の中央として働いていた職員たちも、この街で働くことを決意してくれたようだ。
ルジストルとリーナが居れば万が一も無さそうだから安心しておこう。
「ヴァルカン」の街の住民にはかなり迷惑なことをしたが、これも俺の野望のためだと思って受け入れてほしい。
これだけ大きくなると帝都から帝国騎士が偵察にくるだろう。
そこでどうなるかが今後の分かれ道だな。
「とりあえず大きな課題はクリアしたからゆっくり行くとしようかな」
次は魔王としての実力を高めつつ、街の治安を守り、自身を「プレイヤー」と呼んでいる冒険者について調べることだな。
「ちょっと気分転換に街でも歩いてみるか」
◇
――『罪の牢獄』 街の南 冒険者区域
とりあえずダンジョンから出て目立たない格好で冒険者区域に来てるけど、凄い人になっている。
「紅蓮の蝶々」の面々が「ヴァルカン」からやってきた冒険者を暴走させないように上手く纏めながらこの街について色々教えている。
この街のギルドマスターを受け入れてくれたオプールって人も理解が早いのか先頭に立って何か事件を起こしそうな冒険者に声をかけていっている。
そんな感じで歩いているとツララに見つかった。
「こんにちは! 心配で見に来たんですか?」
「あぁ…まぁお前たちならしっかりやってくれるだろうから心配するだけ無駄かもしれないけどな」
「任せるのです! 完璧に仕事してみせるですよ!」
ツララはそう言うと何故か分身をして散らばっていった。
効率的に仕事するための技なのだろうか?
この分だとダンジョン構造をもっとしっかり考えていかないとな。
最初の3階層くらいは誰でもやりやすいように作らないとダンジョンに面白みが無くなるかもしれない。
「何かしら発見があるのは良いことだな」
人混みはそこまで好きじゃないけど、何かしら発見があるのは素晴らしいことだ。
この調子でどんどん街全体を見ていくとしよう。
このまま北へ向かって中央に行くとしようかな。
「それにしても人が多くなったし、ドワーフが一気に増えたな」
鍛冶屋のドワーフだったり冒険者のドワーフだったりこの街の種族がどんどん多種多様になっていく。
暮らしの場の環境設定はしっかり配慮しているし、ドワーフ専用の住居だって作ってあるから、多少の喧嘩はあっても種族同士での大きな争いだけは避けてほしいところだ。
のんびり歩いていると街の中央までやってきた。
「まぁルジストルには用がないな」
「ヴァルカン」からの受け入れで死ぬほど忙しいだろうからルジストルとリーナに会うのはやめておく、きっと大迷惑になるか仕事を手伝わされる羽目になるからだ。
「農業地帯でも見に行くか」
ホムンクルスたちがアウラウネに裏から指示されて成り立っている農業地帯。
この街の押し事業だし、農家になりたいという人や各地で冒険者が見つけてきた貧困に困っている人や行き場のない亜人や魔族なんかにも仕事として働いてもらっている。
野菜と果物を多くの種類育てており、都合の良い時にシンラが雨を降らせてくれるから特に困ることは無いと思うんだけど…。
「さっそく何か起こってそうだな」
農業地区の入り口で何やら人が言い合っているのが見える。
片方は商人っぽいけど商談でもしているんだろうか…。
「何故だ! ここの野菜を外部に出せばかなりの稼ぎができるぞ」
「それを決めるのはルジストル様です。私はただの農家ですので、それはルジストル様にお伝えください」
「ルジストルに話をしても無駄だから育てている貴方に直接商談を持ち込んでいるんです」
見たこと無い商人だな。
きっと「ヴァルカン」からやってきて、この街の物を他の街に持っていき商売を始めようとでも思っている輩だろう。
まぁ懲らしめると良くない噂が出ちゃうかもしれないから軽くやっておくか。
「ここの農産物は外部に出すの禁止ですよ、商人さん」
俺は商人の肩に『怠惰』の魔力を乗せて置く。
一瞬声をかけられてビックリしたのか、俺を睨んでくるけど、その顔はすぐに気力を失う。
「こんな話し合い面倒でしょ? ここは家に引きこもってたらどうです」
「あぁ…家に帰る…仕事なんて面倒だ」
よかった家に帰るのも面倒とか言わなくて。
あんまり強い魔力を乗せなかったからちゃんと帰れると思うけど少し心配だな。
「助かりましたご主人様」
「あぁ…今みたいな奴は初か?」
「はい」
「もし強引な場合は少し手荒な真似をしても構わんが、ルジストルにしっかり報告すること」
「かしこまりました」
ホムンクルスは俺の魔名ランクでステータスが変化するので、一応Sランクの俺に比例して高いステータスを持っているのでそこらへんの冒険者くらいなら倒せる実力を持っているからな。
「さて…もう少し見てみるか」
俺は農業区域の中に入っていった。
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