第16話 終わらない戦争と『友情』
ポトフ商会との商談と言うか、ただ許可するだけの話し合いが終わりダンジョンへと戻ってきた。
昼食を食べようかと思ったら、綺麗な赤髪をした1人の魔王が座っていた。
「あっ! お邪魔していますソウイチ」
「もう起きて大丈夫なのか?」
「おかげ様でなんとか元気になりました」
まだ1日しか経ってないけどな。
全魔力を使い果たして気絶していたアイシャだが目を覚ましてすぐに、わざわざ礼を言いに来たんだろう。
相変わらず姿勢よく座っている。真面目だな。
「まだ城の復旧も完璧じゃないだろうに」
「それでもお世話になったソウイチへの挨拶は大事なんですよ」
戦争も終わって気が抜けたのか、とても穏やかな笑顔だ。
しかしまだ戦いが終わっていないのは互いに分かっている。
何故なら『豪炎』がまだ生きているからだ。
俺はメルを呼んで、昨日の戦争で喰らった『豪炎』の魔物から得た情報をアイシャと一緒に確認することにする。
アイシャはお昼を食べていなかったようで、メルと3人で昼食を食べながら話をすることにした。
ちなみに昼食は刺身だ。
「メル頼めるか」
「はーい。昨日食べたのは「炎腕魔王イブリース」。SSランクの魔物で『豪炎』のエースだったみたい」
ということはつまりルーキーの戦争に自分の切り札を投入してきたってことか。
しかも多くの魔王が見てる中、切り札をルーキーにやられた『豪炎』は怒り狂って何してくるか分からんな。
なかなかプライドのない奴だよな。ルーキーに全力ってのも。
「ちなみに『豪炎』は疲弊したアイシャのダンジョンに攻め込む予定があるみたいだよ」
「えっ!?」
「なるほどな」
戦争で大ダメージを与えておいて自分が攻め込むっていう小心者がやりそうな作戦だ。
だが効果的だからこそ備えないといけない。
完全に『豪炎』は世間の評判なんか気にせずなりふり構わずアイシャの魔名を狙っているってことだろうな。
やっと気を抜けるアイシャに再び緊張感が走る。
今のアイシャからすれば精神的に厳しいものがあるだろう。
「攻め込んでくるのは、3日後くらいかな」
「アイシャの提案なんだが、『豪炎』を仕留めるのを俺に任せてくれないか?」
「えっ?」
「アイシャの喧嘩に横入りするようで悪いんだけど、まぁ予想通り昨日ダンジョンがSランク冒険者に襲われてさ」
「大丈夫だったんですか?」
「暗殺や諜報タイプで上手く捕まえられたから被害は無かったけど、これで2回目だからな喧嘩売られたのは」
アイシャが少し悩んでいる。
やっぱり自分が仕掛けられた戦いだから自分でしっかり勝ち切りたいという思いもあるが、今の被害状況ではすぐに襲い来る『豪炎』を相手にするには自分の街にも被害が出ると考えているのだろう。
「別にお礼なんて考えてないんだ。俺がムカついてるのとうちの子たちが怒ってるからな」
特にポラールが前ダンジョンに呼ばれたときの対応に激怒してるからな。
正直切り札があの程度ならポラールからすればダンジョン全てを相手にしても大丈夫だろう。
「『豪炎』が私を狙うのは『豪炎』と『焔』の魔名を手にして、かつダンジョンレベルが一定以上であればSランクの魔名になるからです」
「なるほどな」
逆もまた然りということか。
『豪炎』を倒し、ダンジョンレベルをあげればアイシャもSランクになれるってことか。
ルーキーでもし『豪炎』を倒してSランクに進化しようもんなら大騒ぎだろうな。
俺の『大罪』と大違いだ。
「別に『豪炎』の魔名が欲しいわけじゃないし、アイシャと交換条件で渡してもいい」
「なんか私ばかり頼ってばかりで気になるのですが…」
「そこで交換条件だ」
「なんですか?」
「かなり大変だが手伝ってほしいことがある」
俺が手伝ってほしいと言うのが珍しかったのかアイシャの目が輝く。
少し笑ってしまったが、俺はアイシャに昨日クラウスさんたちと話をした内容をクラウスさんたちの名前は出さずに話してみる。
俺が手伝ってほしいのは自分たちを「プレイヤー」って呼んでる冒険者が「どこから来た存在なのか」「何を目的としているのか」「この世界の何を知っているのか」を知ることについてだ。
「本当に変わった魔王ですねソウイチは」
「ダメか?」
できればアイシャにも手伝ってほしい。
常に冷静で実力があり、同期で頼りやすくて背中を任せられる存在はアイシャしかいない。
アイシャは優しく微笑んでくれた。
「その話承ります。ただし私がSランクになったら魔名カード1枚受け取ってくださいね。ソウイチと違って今でも月に5枚は出せるので」
「…自慢かよ」
「気のせいですよ」
よし! これで『豪炎』にイライラを発散できるし、未知の調査にアイシャも手伝ってくれることになった。
後数日でアイシャのとこに攻め込むようだからすぐにでも叩きに行かないとな。
「残り日数はないのですが『豪炎』とはどう戦いますか? 私のダンジョンで迎え撃ちますか?」
「いや『豪炎』の本体とコアをすぐにでも叩きに行く」
「…正気ですか?」
「当り前さ…相棒を信じてくれ」
「あ、相棒って……分かりました。お願いしますよ相棒」
ノリがいいのもアイシャの良いところだ。
そのあと少し世話話をして昼食を食べ終わって少しするとアイシャは戦争の報酬を事前の打ち合わせ通り分けて帰っていった。
DEと『泥』の魔名が手に入ったがなんとも使いにくいものだ。
とりあえず準備をしないとな! DEを使い惜しんでいられない。
◇
――『罪の牢獄』 居住区 コアルーム
アイシャと話をした翌日の朝4時、俺はコアルームにリースとガラクシア、ポラールにメルクリウスを集めた。
『豪炎』のダンジョンにカチコミに行くことを伝える。
『大罪の魔王』らしく悪逆の限りを尽くしてやろうと思う。
鉱山を破壊しダンジョンコアと『豪炎』を葬り、「ヴァルカン」の機能を止める。
街の人からもすれば最悪の行為だが、リーナの話によると戦争で勝てないと思って今回のような攻め方をする魔王もいるらしい。戦争報酬は無くなるが…。
「ヴァルカン」の人がうちに来られるようにDEを使いまくって街の拡張をした。
ポトフ商会にも少し手伝ってもらって、急な人の受け入れもできるだけの物資や建物も用意した。
そして「ヴァルカン」の生命線である鍛冶屋たちも活躍できるように鉱山レベルを上げまくった。『大罪』のいいところはSランクだから初期からDEがあればエリアレベルをSランクまであげれることだ。
つまり『豪炎』よりも良い鉱物が採れる鉱山ができるわけだ。
この準備をするのにほとんど全てDEを使ってしまったので完全に成功する前提でやっている。
リーナには俺たちが不在時のダンジョンの守りをやってもらう。
アヴァロンがいるのでなんとかなるだろう。
「すでにやってほしいことは決まってるんだが発表していいか?」
「「「はーい!」」」
ポラールもメルとガラクシアのノリに引き込まれているのは笑うが仲が良いのは良いことだ。
「ガラクシアは鉱山担当、メルは「炎椀魔王イブリース」に「完全模倣」で変身して街の人を殺さないように暴れる。ポラールは俺と一緒にダンジョンをぶっ壊す!」
「「「はーい!!!」」」
文句も言わずに元気に返事をする皆が可愛くてついついニヤついてしまうが、売られた喧嘩を盛大に買ってやらないとな!
ルーキーだからって舐め腐りやがった結末を猫野郎に返すとするか。
そして俺の力じゃないが秘策はある。
あの日ポラールに転移魔法陣を見せた猫野郎のミス、時空間魔法EXであるポラールにあんな真似すれば転移場所の特定くらい朝飯前だ。
冒険者に関しては「紅蓮の蝶々」と完全にガラクシアの力で洗脳下である「赤刃のビエルサ」に立ち回ってもらう。
「さぁ! カチコミに行くぞ!」
「「「おー!!!」」」
俺とアイシャに喧嘩を売ったことを後悔させてやらないとな!
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