第15話 一度成功を信じたら『偽物』とは疑えない
俺はダンジョンに戻ってきて少し休んだ後、晩御飯に「紅蓮の蝶々」の面々をダンジョン内に呼んでいた。
それはもちろん「赤刃のビエルサ」の報告を聞くためだ。
無事守り切ったのは「紅蓮の蝶々」を褒めるべきだし、報酬の約束もしている。
ついでに『豪炎』が何を考えているのか「ビエルサ」を使って知りたいからな。
少し待つと食堂に「紅蓮の蝶々」とグルグル巻きにされた人らしきものが来た。
あれが「赤刃」なのかな?
凄い誇らしげな顔で食堂の席に座る「紅蓮の蝶々」の6人。
俺は「赤刃」との戦闘について聞いてみた。
能力はメルが感知した通り面倒な力だったらしい。
カイルに変身されて色々あった結果なんとか捕らえることができたのだとか。
すると晩御飯を食べて、俺の膝上で寝ていたメルが眠そうな声で指摘する。
「ますたーに殺意持ってたの、そいつじゃないよー」
「「「「「えっ!?」」」」」
「っ! 覚悟ぉぉぉ!」
メルの言葉と同時に襲い掛かってきたベイルはメルの触手により簡単に捕らえられた。
ん? よく分からんどうなってるんだ?
「な、なんでベイルが? じゃぁこのグルグル巻きの正体は?」
動揺が走る俺たちにメルが人間形態になって眠そうではあるが説明してくれるようだ。
スライム触手で完全に身動き取れず、メルに情報を完全に読み取られているのだろう。
「くっ!」
まぁさすがにSランクと言えどメルが居れば抵抗はできないだろう。というかメルがいなかったらけっこう危なかったかもしれないな。
「こいつは他人の血で自分も変身できるし、斬った相手を赤の他人に変身することもできて変身させられた人は血をとった人の記憶を入れられ、その人になる」
「赤刃」はカイルを斬り、そしてその後にベイルを斬って、自分はベイルに変身にして本物のベイルをカイルに変身させて記憶と能力を植え付けたってことか。
なかなか面白い能力で思わず感心してしまう。
そしてどちらかのカイルを捕まえさせて安心させたところ、いつか魔王に出会うのを待ち、魔王を暗殺したら報告して主不在のダンジョンを『豪炎』が征服するって話だったらしい。
コアを狙えばいいのに強欲な奴だな『豪炎』のやつ。
とりあえず「赤刃」はガラクシアが欲しがっていたからあげるとしよう。きっと諜報部隊にでもしてくれるんだと思うから期待しておこう。
グルグル巻きになっていたベイルを解放してどんよりとした空気が漂う中、リーダーであるレディッシュが口を開く。
「Sランクを舐めていたわ……」
「まぁ暗殺や諜報特化の相手に正面で挑んだのが失敗だったかもな」
戦闘力ではイマイチは「赤刃」だったが暗殺や諜報の面で見れば恐ろしい能力だと思うので敵わないのも仕方ないが報酬はなしだな。
「何か依頼を受けて遠くまで行きたいときはルジストルに聞いてくれればいいからな」
「えぇ…また報告させてもらうことにするわ」
報酬を期待していたんだろうな。
重い空気の中「紅蓮の蝶々」は去っていった。
心なしかカイルと二ナの足取りが重いようだが何かあったのだろうか。
「今日は疲れた! 寝るとしよう!」
明日は朝一でルジストルとリーナから呼び出されているので忘れないように行かなければいけない。
とりあえず寝るとしよう。
◇
――ダンジョン街 中央 ルジストルの館
俺はルジストルとリーナに朝早く来てほしいと言われていたので向かうと、なるべく早くに話がしたいと言う商人が先日来たようでポトフ商会という帝国に限らず名の広い商会だったので俺の判断でお願いしたいとのことだった。
俺は事前に渡されていた資料をとりあえず読んでおき、ルジストルとリーナには仕事に戻ってもらう。
どんな話し合いになるのやら心配だがやれるだけやるしかないな。
少し待つとリーナに案内された羽振りの良さそうな商人と立派な武装をした護衛が入ってきた。
これがポトフ商会のトップか、確かに金の香りを漂わせているし、口が回りそうな印象を思わせる男だ。
「お初にお目にかかります。私は4大国で幅広く商売をさせていただいておりますポトフと申します。この度はお忙しい中時間を割いていただきありがとうございます。ポトフ商会としてこの街の長であるソウイチ様にお話ししたいことがありやって参りました」
手慣れている。
俺の仕草や視線の動きなんかをよく観察しているし、後ろの護衛も俺の動きを不快に思われない程度に見ている。
「ポトフ商会と言えば田舎者の私でも耳にするような大商会。そんな大商会の方がわざわざお話をしてくださるなんて、是非にお聞かせください」
とりあえず敬語だとかはよく分からんがそれっぽい言葉を言っておく。
あまり交渉慣れしていないとこを見れば少しくらい調子に乗ってくるかもしれないけどな。
「ありがとうございます。この街は他の迷宮都市とは規則も環境もまったく違いますので驚きました。ご出身をお伺いしてもよろしいですか?」
「旅人の息子な者でして、色んな場所を見て回りましたが「ヴァルカン」なんかはなじみ深いですね」
「おぉ~「ヴァルカン」ですか、「ヴァルカン」とは正反対な嗜好品や産業を中心とされているのはその影響で?」
「単に自然が好きなだけですよ」
かなり適当なことを言ったがなんとかやり過ごせているようだ。
まぁポトフさんが言いたいのは亜人や魔族なんかも普通に暮らしているのは違和感があるし、働いている職員も様々な街で虐げられていた者たちを救って働かせているので品がないとでも言いたいのだろう。
そして狙いはアウラウネが作っている果物ときたか。
「この街の自然と他の街では迫害や差別を受けるような亜人や魔族でも誰もが共存していく街を作りたい想いでここまで来ましてね。みんな頑張ってくれていますし果樹園のおかげで人も集まるようになってきましたのでありがたい話です」
とりあえず今の方針を変えるつもりはないという意味で先手をとっておくか。
この分かって試されている感じは凄く嫌いだけど、ここはなんとかやるしかない。
「素晴らしいお考えだ。この帝国領最南の地に一瞬にしてこれだけの街を作り上げる能力は天晴の一言ですね」
街の方針についてはこれ以上触れてもいいことがないって判断したのか、さすがに頭の回転が速いし持って行き方が上手い。
「ありがとうございます。この街が発展したのは果樹園や野菜、珍しい蜘蛛糸や幻鳥の羽根を使用した製品ですので、これらをここだけの特産品としてさらに発展させていきたいですね」
「ここだけの、ですかな?」
「ええ、街の外に出すつもりはありません」
人間が使用している金銭に興味など無い。
俺たち魔王が集めるのはDEなんだ、そのDEを集めるためには人を集めて繁栄させてダンジョンを有名にしたい。
だから基本的には街に来る理由を外に出すべきではないのだ。
「交渉の前に断られてしまいましたな」
「金よりも冒険者や亜人たちが集まる街を目指してますので」
「製造方法も売るつもりは無さそうですな」
「その通りです」
俺の反応を見るポトフさんを見ると、俺の回答はある程度予測済みのように感じる。
街の在り方を見て、俺の人となりをそれなりに把握してきたんだろう。
「では本題に移りますと単純な話で、この街にポトフ商会の商店を開かせていただきたい」
これは想定済みだし、こちらとしては凄くありがたい話だ。
ポトフ商会のような有名な商会が商店を出してくれるなら街の知名度も信用度もあがるのでありがたい話だ。
この街では売っていないような物を販売してくれれば住民の幸福度もあがるだろうし、冒険者が拠点にしたくなるかもしれない。
「それはありがたい。この街では利益から1割のお金しか頂かないシステムなので、他の税金については気になさらないでください」
あまり反応しないところを見ると、この条件は知っていたようだ。
この条件の良さに街に来てくれる商人をいるくらいだからな。商人からしたら涎が出るような条件にしてあるのでそのままやって人を集めてくれると助かる。
「商人に条件の良いことばかりですが、定住者や冒険者に多くの宣伝をして街に人を集めてほしいということですな」
「話が早くて助かります。よろしくお願いしますね」
俺は立ち上がってポトフさんと握手をする。
話の内容はポトフさん側からは完全にお決まりで、確かめたかったのは俺という人物を見極めたかったということか。
「ただ、この街で悪さを考える奴は誰だろうと容赦しないので気を付けてくださいね」
「そんな恐ろしいことはしないのでご安心ください」
ポトフさんはそう言うと颯爽と立ち去っていった。
きっと店を出す準備もある程度終わらせてあるんだろう。
4大国に名を馳せるポトフ商会、これで街の知名度は確実にあがるし、住民にとって住みやすい街になってくれるはずだ。
俺は朝から疲れたなと感じながらダンジョンへと戻った。
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