第12話 スライムが弱いってのは『古い考え』
やっぱり出てきたか『豪炎』の魔物。
反応の速かったシンラがメルを乗せて空へ飛び立つ。
俺は実況に向けて1つのメッセージを送ることにした。
この戦争を台無しにしやがった『豪炎』を地獄に叩き落としてやらないとな。
◇
――『王虎』のダンジョン コアルーム
悪魔から放たれた業火を見て、さすがにこれは防げないと思った2人は『焔』の敗北を悟ってしまう。
しかしその攻撃は『焔』の軍勢に届くことなく、軍勢を覆い尽くす「水の結界」が防いでいた。
「SSランクのスキルを簡単に…?」
「あの幻鳥は…」
ミルドレッドは城の周辺から飛んでいる、見覚えのある青い鳥を見つける。
あれは自分の弟子だと言おうと思った時、実況から大音量の声が響き渡る。
『なんだぁー! 水の結界が攻撃を防ぎました! そして1つのメッセージが来ております! 『あれは『豪炎』の配下、3人の魔王は『焔』が相手すると言ったが、4人目は宣言外なので、『焔』の同盟者である『大罪の魔王ソウイチ』が叩き潰す』だそうです!』
『はっはっはは! 来てよかったわい! あの鳥の上にいるスライムは『大罪』のかの?』
クラウスの発言でモニターの画面が一斉に城の周辺を飛んでいる幻鳥を映す。
その幻鳥の頭の上には一匹のスライムがいる。
上級魔王と呼ばれる者以外の魔王はスライムを見て笑う。
一般的にどこまで配合してもそこまで強くならず同じような性能になるスライムがこの悪魔と竜の戦いに入ってくるなんて笑わせてくれると。
そして上級魔王は恐れおののいた。
スライムの異質さに、魔力も闘気も感じないように見えるが、集中すれば感じるのだ。
スライムから感じる溢れ出る星の魔力を。
◇
「大丈夫かドラコーン!」
「『大罪』殿、すまぬ助かった」
「まぁ『豪炎』が出てきたら俺たちの仕事だからな、さぁ『茨』のコアを壊してこい。こっちはメルがいるから安心だ」
「この結界もスライム殿のものなのか?」
「あぁ…真名持ちはメルの怖さを見ただろ? さぁ早くしないと相手に防衛ラインを整えられるぞ」
「恩に着る…よし! 全員行くぞ!」
ドラコーンの掛け声とともにメルの作った『
外からも中からもメルの許可が無いと何も通さない防御結界『
これのおかげで泥巨人の雄叫びからも助かったから凄いスキルだ。
「逃がすか蜥蜴ども!」
自分のスキルを防がれていたことに少し驚いていたであろう悪魔がダンジョンへ向かうアイシャの魔物たちにむけて、もう一度攻撃しようとする。
メルを無視してよそ見するだなんて馬鹿な奴だ。
「『
――ドシャァァァンッ!
悪魔が凄い勢いで泥巨人の残骸の中へと突っ込んでいった。
あまりの勢いに飛び散った泥に当たりそうになるが、伸びてきたメルのスライム触手が助けてくれた。
ゆったりとシンラと一緒に隣まで下りてくるメル。
あんまり見られると嫌なのでシンラに1つお願いをする。
「沼の上だけ大雨にできるか?」
シンラは鳴き声をいつも通りあげずに頷くと一枚の羽根を空へと飛ばす。
その羽根から雨雲のようなものが広がり、僅か30秒ほどで沼の上はどす黒い雨雲で覆われていた。
――ポチャッ
「おっ! きたきた」
さらに少し待つと雨が降り始めてきた。
それと同時に泥巨人の残骸が黒く溶けていくのが見える。
残骸の中から『豪炎』の魔物が怒り心頭というような表情と魔力を纏って出てくる。
どっから考えても余所見するやつが悪い。
「貴様が主の言っていた邪魔な小僧か」
「『
――ザバァァァァンッ!
何か言いたそうだったけど、人間形態になっていたメルのスキルによって、また沼の底へと叩きつけられていく『豪炎』の魔物。
かなり空気の読めないメルだけど面白かったから完璧だ。
それにしても凄い水しぶきをあげるから汚くて困るな。
「ますたーに対する感情の向け方がムカついたからやった。後悔はしていない」
「さすがメルだ」
とりあえずメルを撫でておくと可愛いので撫でておく。
先ほどから使っているスキルは「『
どこに居ようと地面につくまで永遠と落ち続ける恐ろしい技だ。しかも勢いが凄いから落下させた対象を使って攻撃することもできなくはない。
簡単に言えば余所見したら怒るよって技だ。余所見しなかったらしなかったで他のアビリティが発動するのに、なんとも恐ろしいスキル。
沼の底に熱烈なキスをしてきたであろう悪魔が大きな水しぶきをあげて再び出てくる。
その表情は怒り狂っているように見える。
「火の魔物が沼の中かつ雨の中でも元気に動けるもんなんだな」
「ますたー。『
そういえばアイシャたちとの話し合いの時から、許可するまで出しちゃダメってメルに言ったんだっけか?
「あいつの頭の中読めたか?」
「うん。1分も正対してれば少しは読み取れるから、後で変身させてくれれば大丈夫」
「余裕抜かしおって! 消し炭にしてくれるわ」
「使っていいよ」
「はーい」
『豪炎』の魔物が巨大な両手をあげて魔力を溜めていたのだが、解禁されて3秒も経たない間にメルから伸びる『
そういえば『
いつも後悔は終わったあとにくるもんだな。
「ますたー。終わったよ!」
「さすがだよ。メルを連れてきてよかった」
「えへへ~♪」
スライム形態に戻って跳びついてくるメルを受け止めて、全力で撫でておく。
後ろのシンラも寂しそうだったので一緒に撫でておく。
後は大丈夫だろうと思い、俺は休んでいるアイシャのところへ戻っていった。
◇
――『王虎』のダンジョン コアルーム
『な、何が起こったのでしょうか? 当然現れたスライムと幻鳥によって一瞬にして悪魔はやられてしまいました! モニターでは急に降り出した大雨で見えにくくなっております!』
『面白い』
泥巨人の残骸の中へ突っ込んでいき、出てきたと思ったら再び沼へと消え、そして最後にはスキルを放つことなく上半身を喰い千切られるという呆気ない戦いだったが、これを見た誰もがソウイチに対して疑問を持つ。
いったい何をしたのか? あの悪魔をやったのはスライムなのか? それとも幻鳥なのか? それすらもよく分からず見たことも無いスキルに誰もが混乱していた。
実況席で見守るクラウスは何かを決めたかのように微笑んでいる。
「さすが私の弟子だね!」
「いったい何者なんだ? あのスライムは普通じゃない」
「まぁ私にも分からないけど、とりあえず弟子が活躍してくれればいいんだよ」
「そんな単純なものなのか…」
そうして間もなく、『焔』の軍勢の自慢の火魔法でダンジョンを焼き尽くされ、『茨』のコア破壊と三魔王の死亡。そして『泥』『蝙蝠』ダンジョンの主無しダンジョン認定が発表された。
こうして『焔』vs『茨』の戦争は、史上でも稀に見る6名もの魔王が関与したルーキー同士の魔王戦争は謎を多く残したまま幕を閉じたのである。
多くの魔王がルーキーではないのに関与していた『豪炎』について興味を持ち。
多くの上級魔王が『大罪』について、さっそく調べ始めるのだった。
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