第11話 煌めく『生命』の火


 SSランクの魔物。

 それは70年ほど生き抜いた魔王が辿り着く魔物の極地と言われているランク。

 魔王は絶体絶命のピンチでしか基本使用せず、同盟にすら存在を隠すほどの魔物でもある。

 上級レベルと言われている魔王はSSランクの数で戦争の勝敗が決まるという流れがあるほどだ。

 どんな戦場でもひっくり返すことができる能力を持っており、Sランクと比べ物にならない絶対的な力は多くの魔王が目指す場所とも言われている。







――『王虎』のダンジョン コアルーム



「あれは…」


「間違いないね」



 城から現れた燃え盛る竜。

 圧倒的な存在感に魔力、そしてモニター越しでも肌に刺さるような圧迫感。

 あれは紛れもなく、多くの魔王が目指す場所とも言われているSSランクの魔物だと2人は確信していた。

 

 2人にもSSランクの魔物はいる。

 他の魔王にはできるだけ詳細が隠れるようにし、戦争でも未だ活躍の機会は少ないが配下にしている。

 だが2人がSSランクの魔物を配下にできたのは生まれて30年前後だったとき。

 今2人が目にしているのはルーキーが解き放ったSSランクの姿に驚きを隠せない現状であった。


 そして焔竜が右手に持つ輝く炎を見てラムザが呟く。



「あれは『焔』の力だね」


「また復活させようって戦法かい?」


「1度目で大規模な力を使っているから2度目は厳しいはずだが」



 未知なる強大な力を前に、泥巨人は理解できない感情に支配されていた。

 いち早く目の前に巨大な存在を破壊しようと大きく空気を取り込む。



『おぉー! またも衝撃波を放つつもりだぁ!』


『さぁ…見せてもらうとするかのう』



 泥巨人は顔を少し上げ、確実に破壊できるよう狙いを定め。


 解き放つ。



――オォォォォォオォォォ!!!



 対するドラコーンも大きく息を吸い。



「『竜王の怒号ドラゴン・ノヴァ』」



 2つの破壊の咆哮が解き放たれた。








――『焔』の陣営 コアルーム



 俺はとんでもない奇跡を見た。


 ドラコーンへの危険とされている2度目の配合。


 アイシャが選んだアイテムは結果見事な采配だった。



1.魔名カード『竜』 ランクS 

2.魔名カード『天炎』 ランクS

3.魔名カード『焔』 ランクA

4.聖魔物『竜王の爪』 ランクA



 上2つは俺があげたプレゼントだったが結果論で行けば良いプレゼントになった。


 ドラコーンの配合は通常通りに行くと思いきや「超変異」が発生し、噂通り2度目の配合は危険というのが体現されてしまうかと思ったが、むしろ大成功の結果でSSランクっていう化け物が生まれてしまった。


 生まれ変わったドラコーンに何かを囁きながら光り輝く炎を手渡した後、ドラコーンは飛び立ち、アイシャは倒れそうになったので支えてやり、今は長椅子に寝かせている。



――ドゴォォォンッ!



 外から耳が破裂してしまうほどの轟音が聞こえたのでモニターを見てみると、顔がはじけ飛んだ泥巨人が立っていた。


 なんつー威力の攻撃だ。



「恐ろしいもんだな」



 そう感心していると。

 ドラコーンはアイシャに渡されていた輝く炎を地面に向かって勢いよく投げる。


 地面に着弾した炎は輝きを放ちながら燃え広がっていく。

 倒れていた『焔』の軍勢を燃やし続け、先ほどと同じように傷を再生させていく。

 1体、また1体と無言で立ち上がっていき、倒れていた全ての魔物が起き上がる。


 そしてドラコーンが軍勢に向かって叫ぶ。



「我らが主の命に応え! この巨人を燃やし尽くすのだ!」


「「「「「「「「オォォォォォォ!!!」」」」」」」」」


「中央を狙うのだ!」



 ドラコーンの指示は『焔』の軍勢に再び勢いを与えたようだ。

 凄まじいリーダーシップと他の魔物からの信頼の得方だ。

 この感じだとすぐにでも決着がつくだろう。


 そう思った俺は肩の力を抜きながらモニターを見るとあることに気付いた。



「『茨』のダンジョンから少量ずつの蝙蝠が飛び立っている?」



 あまり気にしすぎてもいけないかと思って違うモニターを見る。

 『焔』の軍勢が放った攻撃は泥巨人に再生させる隙を与えず焼き尽くしてしまう。

 巨大な体全体が燃えており、雄叫びする隙がないんだろうな。


 中央が削れ、大きな赤色の球体が見えるとドラコーンが魔力を集めるのを感じた。



「竜ってのは凄いもんだな」



 迫力ある存在に思わず声が漏れてしまう。

 今は膝上で寝ているメルだって負けてないが、外見のインパクトだって負けてないが竜ってのが強いって言われるのがドラコーン見てると理解できる。



「『滅びの竜炎・焔獄波ドラグーン・レッド』」



 ドラコーンの燃え盛る身体から10体の竜の顎が放たれる。

 泥巨人の核に向かって勢いよく向かっていく竜の顎を防ぐ術はなにもなく。



――バキバキバリィッ!



 泥巨人の核は粉々に砕け散った。









――『王虎』のダンジョン コアルーム



『逝ったぁぁぁぁぁ! 核を砕かれた巨人が砕け散っていきます! 情報によると「戦争壊し」を召喚した際に『茨』『泥』『蝙蝠』の3人は魔力を失い、気絶しているとのことです!』


『なかなか良い竜の活躍であった』   



 ずば抜けた破壊力を持って泥巨人を制した『焔』の竜。

 さすがに慣れぬ力をいきなり使用し、かなり疲弊しているが、敵の三魔王は気絶をしており魔物が追加される気配はない。


 

「よかったね~。祝いの品でも用意しておきなよ」


「そんなもの戦争が決まった日から用意してある」



 どや顔で誇るラムザに少し引いてしまうミルドレッド。

 ここまでキモイとは思っていなかったミルドレッドだが弟子を心配する気持ちは同じようなので仕方ないと言うことにしておく。


 再びモニターを見た2人は気付く。



「あの蝙蝠…」


「召喚陣の陣形をしているだと?」



 戦場の上空で蝙蝠の群れが魔法陣を描くように飛んでいる。


 ドラコーンの動きは速かった。

 一度地上に降りて他の魔物とコア破壊までの段取りを話し合っていたので気付くのは遅かったが、蝙蝠とは思えない魔力の流れに反応し、高速で蝙蝠に向かって飛んでいく。


 魔法陣を描いていた蝙蝠たちが急に炎上する。

 膨れ上がる魔力の渦から1つの影から飛び出てくる。



「生まれたばかりの蜥蜴が粋がるな!」


「ぐおぉっ!?」



――ドガァァァァン!



 魔法陣から現れたのは両腕が異常に大きな鬼のような角を生やした悪魔。

 腕は燃え続けており、大きさはそこまでではないが、恐ろしいほどの魔力を放っている。


 ただ観戦している者が分かるのはあからさまに三魔王の魔物ではないということ。

 むしろ『焔』の魔物であるようにも感じてしまう。



「くっ! やはり来たか! だがどこに潜んでいたんだ?」


「『蝙蝠』の魔王が実は支配されていたが有力だね。戦争途中からの乱入は難しいけど、最初から用意しておけば簡単だからね」



 ミルドレッドの予想では『蝙蝠』の魔王はすでに『豪炎』に支配されており、蝙蝠には『豪炎』の魔力が溜められており召喚魔法を使用できたというものだ。

 もしそうであれば「戦争壊し」を作ったのも納得できる。『豪炎』が唆したのだろうとミルドレッドはさらに予測をたてる。



『突然の乱入者だぁ! どこに準備されていたんだ!? 大活躍の竜が叩き落とされたぁ!』


『力を使い過ぎた結果じゃのう。少し分が悪そうじゃ』



 ドラコーンを叩き落とした悪魔は腕を組み、『焔』の軍勢を見下ろしている。

 泥巨人より何倍も小さいのに、その何倍もの圧力を感じてしまい、誰も動けずにいた。



「くそ…『豪炎』め! あんな魔物を出してくるとは!」


「あれもSSランクだね。まさか切り札を投入してまで『焔』を取りに来るなんてね」



 『豪炎』がこの戦争に乱入するかもしれないという噂は確かに耳にしていた2人だが、まさか切り札を投入するようなことをしてくるなんて思っていなかった。

 

 目覚めたばかりで疲弊しているドラコーン&『焔』の軍勢ではあの魔物には敵わないだろう。

 


「これが主の求めたものか…蜥蜴たちよ、滅びるが良い」



 悪魔の両腕から触れた者を内側から腐らせながら燃やし尽くす業火を放つ。

 ドラコーンが魔力を溜めて迎撃しようとするが間に合いそうになく、数体の魔物が真名持ちを壁になって守るように立ちふさがる。


 そんな姿をみてドラコーンは叫ぶ。



「やめるのだ! あれに触れれば助からん!」


「少しでも回復するのです!」



 ドラコーンの叫びにBランクの魔物「火天使」が答える。

 そして悪魔の業火が眼前まで迫りきた瞬間、さすがに恐怖のあまり火天使は目を瞑ってしまうが、瞑る瞬間に何故か水の膜が見えた気がした。



 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る