第10話 天よりの『咆哮』
――『王虎』のダンジョン コアルーム
『おぉっと! ダンジョン内に竜人は戻っていったぞ!』
『何か秘策でもあるんじゃろう』
沼地に出現した泥の大巨人に苦戦する『焔』の軍勢を見ながらイライラするラムザと、そんなラムザを見て自分もこうはなりたくないなと思うミルドレッド。
100年以上は魔王をやっている2人にとって、あの泥巨人のような魔物を見たのは久々だが初見ではなかった。
同盟を結ぶことで可能になる『同盟配合』。
同盟を組んでいる者同士で月に1度だけ魔物を配合させることができるシステム。
そしてあの混合物が合わさった魔物は「真名持ちAランク以上×3」で配合すると確実に生まれてしまう出来損ないの魔物である。
真名持ちでかつAランクということで配合してみて最強の魔物を作り出し、一気に上位魔王に挑もうという若い魔王同盟がやらかしてしまう失敗だ。
とんでもない再生力と巨体からくるパワーを持つが、戦場に出たときに主人たちの魔力をほとんど吸い尽くし、言うことを聞かず、戦争終了後は消滅する最悪の魔物である。
同盟の最終手段で使われたりする「戦争壊し」とも呼ばれている魔物だ。
「くっ! だからアイシャにはバランスではなく、一点特化の魔物を配合で目指しておくんだと言ったのに!」
「それはアンタが理由を教えてやらないからだよ」
「ぼ、僕の育て方の問題だったのか…」
1人で盛り上がり1人で落ち込む『天風』を見て笑うミルドレッドだが、アイシャのダンジョンに戻っていった竜人を見て、先の戦で自分の弟子が見せたアークエンジェルの流れに似ているなと思う。
「さすが同盟だ。やってくれるんじゃないの?」
「何をするか、わかったのか?」
「アンタは黙って残っている『焔』の軍勢を応援しな!」
『焔』の軍勢はドラコーン以外の真名持ちが沼地に出て、泥巨人の足と口を狙って移動するのと雄叫びをあげられるのを防ぐように立ち回っている。
自分たちだけで倒すことは厳しいとしっかり理解しており、魔物のリーダーあるドラコーンが戻ってくるまで全力で堪える姿勢だ。
『ルーキーとは思えんほど、良く育てられた魔物よな』
『クラウス様、いったいどのように巨人を攻略していくのでしょうか?』
『核を破壊できるような一撃性のある何かが無い限り厳しいのう』
『焔』の軍勢を見る限り、何かを待つように諦めない目をしているのをクラウスは気付いていたが面白くなくなりそうなので言わなかった。
観戦しているそこそこの年季のある魔王たちは竜人が鍵であることが分かっている展開だったが、白熱する攻防戦もギリギリのラインで行われており、楽しませてくれると大盛り上がりの戦争になっていた。
『焔』の魔物たちが放つ攻撃の勢いが目に見えて落ちていく。
その時。
『焔』のダンジョンである城の頂上から天地を焼き尽くすような爆炎が広がり、『焔』の軍勢を覆い尽くしていく。
並の魔物では丸焦げになってしまうかもしれない爆炎だったが、その炎を受けた『焔』の軍勢は攻撃の勢いを取り戻した。
『な、なんとぉー! 炎に包まれた『焔』の魔物たちが回復しているぅー!』
『これが『焔』の魔名能力というわけじゃな』
『焔』の魔名能力はマスターの放つ炎で『焔』の力を持つ全ての魔物を強化・回復させることができるという力だ。
かなりの魔力を消費する能力だが、マスターからの炎を受けた魔物たちは士気もあがり攻撃の勢いも激化する。
ミルドレッドはさすがに驚いたようにラムザに話しかける。
「またすっごい能力だねぇ~!」
「あの立て直しの力こそルーキーにしてAランクの力さ」
巨人は足と口を燃やし続けられ、爆発しそうな感情を発散できずにいた。
ただでさえ強大な破壊衝動があるのに発散できない。
巨人に残る僅かな理性がその場を乗り切る最悪の方法までたどり着かせてしまう。
巨人の両肩に大きな穴が開く。
その瞬間を見た「炎魔ダゴク」は叫ぶ。
「全員退けぇぇぇぇ!」
――オオォォォォォォォォ!!!
再び放たれる破壊の雄叫びが周囲の全てを吹き飛ばす。
◇
――『焔』の陣営 コアルーム
ソウイチはアイシャのやることの手際の良さに思わず声をあげられずにいた。
ドラコーンに戻るよう指示を出してから、すぐ魔物をいくつかの部隊に分けて、どこの部隊にどのスキルを使用するかの素早い指示出しを行う。
自軍の消耗してくるタイミングを見計らって魔名スキルの発動と完璧な流れだ。
それにしても凄い能力だったな。
ドラコーンはリスクがあるが2度目の配合をするとアイシャが言っている。
『焔』の魔物軍リーダーでもある彼がトップで居てほしいし、2回目は危険なのだが、ドラコーンが良いとアイシャの直感がそう告げたらしい。
――オオォォォォォォォォ!!!
――バリンッ! バリンッ!
「おっ?」
「くっ!」
とんでもない雄叫びと凄まじい衝撃波が城のガラスをぶち破って襲い掛かってきた。
しかし俺たちの周囲には水のカーテンのような結界が張られていた。と思ったらすぐに消えてしまった。
衝撃波が襲う一瞬だけ薄い水の膜が見えたから、きっと膝上で寝ているメルの仕業なんだろう。
アイシャとドラコーンは気付いていない様子だ。
モニターで外の様子を見るとそこは悲惨な光景が広がっていた。
ボロボロになり倒れる魔物たちを見てもアイシャは冷静にドラコーンに配合素材の説明をしていき、色々決まったと思った後、俺のところまで歩いてきた。
「ソウイチ頼みがあります」
「なんでも言ってくれ」
「今からドラコーンを配合し、そのあと皆にもう一度私の全魔力を注いだ後指示を出します。きっと私は気絶すると思いますので、もしそのあと何かあった時は…」
「あぁ…しっかり戦争終わりまで見届けるし、乱入してくるやつは任せてくれ」
「ありがとうございますっ」
そう微笑んでアイシャはドラコーンのところに歩いていく。
巨人のデカい足音が凄いゆっくりと城に近づいてきているのが分かる。
とりあえずは先ほど咄嗟に守ってくれたメルを撫でておく。
プルプルと震えて反応した。起きてるのかよ。
ドラコーンの身体が輝きはじめるのを見て、何故か俺は安心感を覚えた。
◇
――『王虎』のダンジョン コアルーム
『おぉーーっと! さすが「戦争壊し」だぁ! さすがに勝負あったかぁ!?』
『城のほうまでボロボロにするとは、相変わらずのパワーじゃな』
肩に作り出した口から放たれた雄叫びの衝撃波は『焔』の軍勢をいとも簡単に蹴散らし、城にもダメージを与えるほどの威力の雄叫びを止められる者はおらず泥巨人は再び進軍を開始した。
もう2~3歩で城の正面に辿り着くだろう泥巨人を見て、ラムザとミルドレッドは悲痛な気持ちを隠せなかった。
「ほぼ全滅とはね」
「これで終わりか…」
「戦争壊し」の名の通り前評判なんぞ関係なしの壊しように2人は少し呆れてしまう。
ルーキー同士の戦争で「戦争壊し」が出てくることは滅多になかったが、出てくるとこんなことになるなんて2人は思わなかったのだ。
偶々3人が「戦争壊し」を知ったのか、誰かに唆されたのか知らないが、自慢の弟子が「戦争壊し」にやられてラムザの気分は過去最低レベルにまで落ちていた。
しかし。
――ギャオォォォォォォォ!!!
――バゴォォォン!!
『城の上から竜が飛び出してきました! 先ほどダンジョン内に戻った竜人ではありません! 出てきたのは完全な竜です!』
『ほう…これはまた凄いのが出てきたのう』
全身を燃やしながら羽ばたいている真紅の竜。
右手に輝く炎を地面に向かって投げ放った。
【灰燼焔竜王ドラグノフ】 真竜族 ランクSS Lv51
真名 ドラコーン 使用DE200000
ステータス 体力 SS+2 物理攻 SS+1 物理防 S
魔力 S 敏捷 S+2 幸運 A
アビリティ ・真竜族の力 SS+1
・焔の竜王 SS
・『
・生命の煌炎 S+1
・破壊者の剛腕 S
スキル ・竜炎魔法 SS+1
・生命の竜火 SS+2
・焔竜闘技 S
・竜王の風格 S
・灰燼の咆哮 S
・単独行動 S
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます