第9話 真剣にやると『墓穴』を掘ることもある


――『罪の牢獄』 ダンジョン エリア2 朽ちた街


 

  魔王戦争が開始された同時刻。

 『罪の牢獄』エリア2に「紅蓮の蝶々」の面々は潜伏していた。

 ソウイチがエリア内の魔物を全部撤退させており、「紅蓮の蝶々」に「赤刃のビエルサ」を撤退させるか捕えることを命じている。


 次の階層に進まれたら失敗という扱いになるらしく、もし成功すれば報酬はしっかり出すと言われたので、「紅蓮の蝶々」としても現在はソウイチの配下であるので報酬が無くても断らなかったが、ソウイチの厚意に甘えた形だ。


 15時頃には来るだろうと言われているので、次の階層に行く直前の場所で6人で待機しているの現状だ。



「本当に「赤刃のビエルサ」が実在するなんてな」


「冒険者同士で戦うことになろうとはな」


「階段に防御結界完了です」



 不公平な話だが、相手の能力はソウイチからある程度聞いている。

 「赤刃のビエルサ」はSランクの冒険者だ。

 冒険者における個人でのSランクの称号は誰もが求める栄光だ。

 Aランク冒険者5人以上の力を有すると言われており、今の自分たちでは能力の一部を知っていたとして勝てるかどうか。



「緊張するわね」


「まさか暗殺者類の冒険者だとは思いませんでしたね」


「やれるもんなのかよ」



 6人は警戒を解いてはいないのだが、気配もまったく感じないエリアの空気感で少し駄弁ってしまっていた。

 血を得た相手の姿になることができる。

 相手の血を得るには敵に近づいてから武器なりなんなりで攻撃しなければいけないので確実に相手は近づいてくると考えていた6人は互いに近い距離で陣形を整えて警戒中である。


 ふとレディッシュが何か嫌な予感がすると思い上を見上げると大量のナイフが落ちてきていた。



「っ! 来たわ! 上から来てるわ!」


「結界魔法「風牢結界」」



――カキンッカキンッカキンッ! パリンッ!



 上から襲い来るナイフを二ナの結界魔法で防いでだはずだったが結界は破られ、各々が残り少ないナイフに対応しようと思ったら白煙が辺りを包み込む。



「ベイル!」


「風魔法「ウインドブラスト」」



――ブォォォォォンッ!



 視界が完全に覆われてしまう前にベイルが風の槍を上空に向かって放つ。

 強風を纏う槍は煙とナイフをまとめて吹き飛ばし6人の視界を晴らすことに成功した。



 しかし



「「なっ!?」」


「カイルが2人?」


「やられた……」



 白煙とナイフを退けた警戒を続けようと思ったら、そこにいたのは2人のカイルが同じような驚いた顔して向き合っていた。

 ナイフと白煙で視界を比較的上に向けさせてカイルを攻撃して血を奪ったのだろう。



「よし! カイル合言葉は!?」


「「黄色の蝶々!」」



 見事にタイミングも完璧に合う2人のカイル。

 外見も同じで話し方も同じ、秘密の合言葉まで知っている。

 しかしこの程度ではとグラントは質問を続けていく。



「俺の得意技は?」


「「クイックトリガー!!」」


「俺の好きな食べ物は?」


「「ドラゴン肉!!」」


「カイルがパーティー組んで最初の依頼でやらかしたことは!」


「「依頼品を破壊した!」」


「まじかよ」



 寸分狂わぬタイミングでまったく同じことを言う2人のカイル。

 絶対に知らないであろうことも言われたグラントは唖然とする。



「相手の姿だけじゃなくて記憶なんかも同じってことね」


「ならば他のことで試そう」



 ベイルが1つの建物にむけて指をさす。

 2人のカイルはその建物を向いて首を傾げる。



「カイルの得意技を見せてみろ」


「なるほど…記憶は継げても細かい技術までは真似できないってことですね!」



 ベイルの方法にツララが名案だ! という勢いで叫ぶ。

 2人のカイルは双剣を抜いて火魔力を纏わせる。

 魔力量も質も何もかも同じで見守る5人は察してしまう。



「「飛竜炎月刃!!」」



――ズシャァァァァンッ!



 火の魔力を宿わせたX字の剣閃が建物を破壊した。

 まったく同じ切れ味に技術、まったく見分けがつかず5人は諦めが過っていた。


 そんな中ツララが何かを閃いたかのようにグラントにヒソヒソと語り始める。



「お前怒られるぞ」


「ふっふー。今のカイルは本当のことしか言えない面白状態です! この際色々聞いてやりましょう!」


「まぁ「赤刃のビエルサ」はここのコアを狙っているならこんなとこで油売っている場合じゃないからね」


「時間稼ぎでもありますね」



 5人は次の階層に行かさなければいいので、このままカイルの状態で居てくれるのならやりやすい。

 無理にでも次の階層へ進もうとしたほうが「赤刃」だと判断しやすいからだ。



「「俺で遊ぶなよ!」」


「カイルが今! 一番気に入っている女の子と言えば!?」



 ツララ的には実はパーティーメンバー皆知っているのだが、カイルだけレディッシュと付き合っているのは他の人らにバレていないと思っているが、ここは正直に答えてもらい盛り上げようと思って質問した。


「ニナ!」


「レ、レディッシュだ!」


「「えっ??」」



 世界は一瞬凍り付く。

 叫んだ本人たちも聞いていた5人も驚きの表情を浮かべている。


 そして時は動き出す。



「捕えろぉぉぉ!」


 

 グラントが二ナと言ったほうのカイルを指さし叫ぶ。

 5人の行動は速かった。

 さすがSランクパーティーと呼ばれるだけの連携を見せ、二ナと答えたほうのカイルを有無を言わさずにグルグル巻きにして縛り上げる。


 するとスキルが解除されたのかグルグル巻きにしていた偽物の体格や髪色が変化していった。

 ここで興味本位で解放してみては失敗するかもしれないのでグルグル巻きのまま帰還することにしたのだった。



「さぁ捕えたことだし…カイルと二ナは話を聞かせてもらうわよ」


「「…はい」」



 まだまだ終わりそうになさそうだ。








――魔王戦争 『焔』陣営 コアルーム


 

 巨大な混合物巨人から放たれた雄叫びの衝撃波が戦場にいた全ての魔物を吹き飛ばす。

 竜人だろうが悪魔だろうが岩亀だろうが関係なく吹き飛ばされる。

 圧倒的存在感を持つ巨人が『焔』のダンジョンに迫ろうとしている。


 アイシャと俺はその様子をコアルームのモニターで確認していた。



「なんですか!? あの巨人は?」


「魔物が少ないと思ったら、あの魔物を作って強化するのに配合回数とDE使ってる気がする」


「あれが彼らの切り札であると?」


「あいつの攻撃で被害受けないために隠してる可能性もあるけどな」



 Sランクの中では下位ではあるものの基礎ステータスは高い竜人をいともたやすく吹き飛ばすパワーに攻撃を受けても再生していく回復力。

 沼地の恩恵もあってか、おそるべし魔物が呼び出されてしまっている。

 一撃の火力に欠けるアイシャの陣営にあのタイプは厳しいように見える、最初にあった小さい核を壊せば一撃なんだろうが奥深くにある核まで攻撃を通すのは骨が折れそうなミッションだ。



「一歩動かすだけでも相当時間がかかるようですし、攻撃方法は吠えるか腕を振るうか、身体から混ざった物を弾き飛ばすのみです。考える時間はあります」


 

 瞬時に冷静になれるアイシャを素直に凄いなって思う。

 俺のダンジョンの場合あのデカさなら入ってこれないからやりようはいくらでもあるんだが、アイシャの城は正面まで来られると力押しされる可能性がある。


 でも手はいくらでも試せる。



「まずは足を崩します」


「定石だな」



 アイシャが指示した瞬間一斉に両足に向かって攻撃を始める『焔』の軍勢。

 ダンジョン内の守りにも数をかけているので全軍ではないが、なかなかの攻勢だ。


 巨大な片足が爆散し巨人の身体が崩れ始める。



「驚異的な再生力ですね」


「大きさと再生力に特化した魔物だな」



 崩れても再生し続け、足が折れてもくっついてと忙しいくらい再生が働いているのに一向に衰える様子が見えない。

 

 アイシャは意を決したように指示を出した。



「ドラコーン、すぐコアルームへ戻ってください。他の皆は少しだけ耐えてください」




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