第8話 焔の『脅威』


 ミルドレッドとラムザが話を続けていると、ようやくモニターから魔王戦争が間もなく始まるという実況が聞こえてきた。

 自分の弟子が可愛いのも当然だが、もし弟子が負ければ自分の名前にも傷がつくので、本来魔王は弟子をとることは少ないのだが、2人ともそんな時代の流れを逆らって弟子をとった変わり者の2人だ。



『実況解説は『音霊の魔王シャープ』が務めさせていただきます! そして本日はゲスト解説に! なんと! 『皇龍の魔王クラウス』様にお越しいただいておいます!』


「はぁっ!?」


「なんだと!?」



 実況から紹介される魔王に驚愕する2人。

 『皇龍の魔王クラウス』、最古の魔王と呼ばれる1人であり、最強の魔王とも呼ばれる誰もが知っているような魔王だ。

 実況などというものに出てくるなんてのは2人が知る限り初であり、表でやりたいことはやり尽くしダンジョンでのんびりとしているとも言われている魔王でもある。


 

『何やら面白い戦争になると子どもたちが騒いでおったのでな。せっかく依頼が来ていたので出てみようと思うてな』



 クラウスの言う子どもたちというのはダンジョンにいる魔物たちだ。

 もはや誰も挑むようなことがなくなったクラウスのダンジョン、魔物たちもすることが減ったのでコアのモニターから魔王戦争を毎日のように見るのが暇つぶしのようだ。

 その魔物たちが主であるクラウスにこの戦争を面白そうだと報告したのだ。クラウスの魔物たちが面白くなりそうと言う試合なんて滅多にないので、重くなった腰をあげクラウスは表世界に出てきたのだ。



「またとんでもないのが出てきたね」


「これでは戦争よりも『皇龍』の発言にばかり注目されてしまう」



 『皇龍』が出てきているってのはすぐに広まり、多くの魔王がどんな発言をするのか聞き逃さまいと注目するだろう。

 自慢の弟子が戦う戦争でこのようなこととなりラムザは少しイラついてしまう。

 そんなことは関係なく実況解説はクラウスに質問を続ける。



『この戦争の注目ポイントはどこでしょうか?』


『『焔』はルーキーで一番優秀だと聞いておる。『茨』は火属性に相性が悪い中どのようにして戦うのかじゃろうな。儂の予想では1人ではなさそうじゃがな! ハッハハ!』


「老いぼれてもさすがの読みだな」


「まぁやるのは本人たちだから見守るとしようかね」


『さぁ! それでは『焔の魔王アイシャ』vs『茨の魔王ローザ』の試合が開始されます!』



 どんよりとした沼地の上空に数発の花火が打ちあがる。

 魔王戦争開始の合図と同時に両軍の魔物が各ダンジョンの入り口から現れる。


 城の大門から出てくるのは数十体の火砲亀の群れ。対する茨に囲まれた森から出てくるのは人型をした泥人形の大群が現れた。


 泥人形は茨を鎧のように体に巻き付けており、通常の泥人形よりも強化されているのが分かる。

 それと同時に森から大小バラバラな蝙蝠の大群が一斉に空を飛ぶ。



「やはり『茨』だけでないようだな」


「泥人形は1度配合してから量産しているようだけど、蝙蝠はまんま他魔王の魔物だね」



 さすがに2人も隠す気の無い魔物の大群に呆れてしまう。

 勝てば許されるような魔王戦争だが、このような行為は自分の名を落とすのでやるような魔王は少ないが、ルーキーでこのようなことをやっている現状に悲しくなる。

 さっそく実況のシャープもそのことについて追及しており、『茨』『泥』『蝙蝠』の3人が先ほど同盟を組んだとの声明を発表したと言っている。



『3:1とは面白くなってきの。だが火砲亀の砲撃という効果的な策相手に苦戦しそうじゃのう』



 城の入り口に横並びになった火砲亀と「炎岩砲亀ガンダルイーダ」は火岩を放ち始める。

 40秒に1発のペースで放たれる大きさ4mの巨大な燃える岩石。



『おぉーっと! 火砲亀による砲撃と同時に『焔の魔王』からも声明が発表されました! 「3人ならば1人で問題ありません」! なんと誇り高き魔王でしょうか!』


『おぉ…なかなか見所のある魔王じゃな』



 『焔』からの声明にラムザは笑う。

 さすが自分の弟子だと誇らしげにミルドレッドに語る。

 ラムザからの自慢話を聞いたミルドレッドはそんなに可愛がっているならもっと色々アドバイスとかしてやればいいのにと思ったが、あえて言わなかった。



 泥主体の魔物は敏捷性に欠き、沼地でさらに速度が落ちているところに凄まじい勢いで放たれた火岩が襲い掛かる!



――ドゴォォーンッ!



 激しい爆発音と水しぶきをあげながら泥魔物は吹き飛んでいく。

 茨の守りも意味を成さず、はじけ飛んでいく泥人形の軍団。

 泥人形だけでなく、『泥』と『茨』が組み合わさった魔物が次々と犠牲になっていく。泥狼・泥獅子・泥鮫などが抵抗することもできず散っていく。



『火岩の砲撃は相手の戦力を削るだけでなく、岩の壁を作り進軍速度を低下させるのと同時に攻め込むための足場を作っておるようじゃの』


『なるほど! 『焔』の先制攻撃は計算され尽くした一手です! さすがルーキーNo.1!』


『次は空じゃな』



 地上戦は今のところ『焔』が火岩の砲撃しか行なっていないが、それだけで圧倒している。

 空では無数の蝙蝠の大群が『焔』のダンジョンへと向かっていった。



「『竜の咆哮砲ドラゴンブレス!』」



――ズシャァァァッ!



 蝙蝠の大群が飛ぶさらに上から一筋の熱線が降り注ぐ。

 熱線に触れた蝙蝠を消し飛ばし、近くにいた蝙蝠も焼けて灰になっていく。


 蝙蝠たちが上空を警戒しながら上を向く。

 そこには1匹の竜人と羽の生えた和服の悪魔がそこにはいた。



「火魔法 「フレイムランサー」」


「『竜の咆哮砲ドラゴンブレス!』」



 『焔』から真名を与えられし2匹の魔物。

「焔竜人ドラコーン」と「炎魔ダゴク」は火魔鳥を率いて蝙蝠軍を迎え撃つ。

 火魔法と闇魔法を自在に操る炎魔と空の支配者である竜の血を持つ竜人による攻撃に蝙蝠軍は為す術もなく蹴散らされていく。



『ほう、なかなか威勢の良い若い竜がおるの』


『『焔』の魔王から真名を授けられし魔物が空を制圧! 地上もすでに火岩の砲撃で壊滅状態だ! 早くも決着かぁ!?」



 実況が盛り上がるが誰も決着がつくとは思っていない。

 まだ『茨』の陣営は真名持ちも出ていなければ、まだ魔物も大した数は出てきていない。

 だが一方的な攻撃は続き、『茨』のダンジョンから出てくる魔物の数が減ってきた。

 『茨』のダンジョン前は火岩の残骸で埋まっており、沼地から岩場へと戦場を変化しており、『泥』の魔物は素早く進めず降り注ぐ火岩に呆気なく吹き飛ばされるのが続いている。


 空の戦いはさらに一歩的な戦いになり、真名持ち2匹の攻撃の前に灰となって全滅してしまった。


 同期にしてこの戦力差。

 これが魔名もダンジョンもAランクに辿り着いている『焔』である。

 歴史上でもルーキーの中でここまで強かったものはいないだろう。

 真名を多くの魔物に付与できているのも当たり前に感じるが普通の魔王ではまだ初期で付けられる2匹にしか真名がつけられない者もいるのだ。



―――ゴゴゴゴゴゴッ



 大地が揺れる。

 爆散していった泥魔物の泥や沼の底から様々な草、茨の残骸が全て一ヵ所に集まっていく。

 火岩も巻き込んで膨れていく、それの塊に攻撃を加えていく『焔』の陣営だが、攻撃しても何度も磁石のように集まっていく塊に一度攻撃の手を止めた。



『な、なんだこれは!? どうなっているんだぁ!?』


『本来なら一撃で爆砕するのが一番じゃが、『焔』の魔物は、まだSランクでも下位程度の能力じゃから一撃の力に欠けたの』



 どんどん塊は人型へと変形していく。

 泥・草・火岩・茨・土をまとめた巨人が出来上がっていく。

 


――オォォォォォ!!!!!



 15mほどの高さのある様々な物が合わさった巨人。

 その巨人から放たれた雄叫びは5キロ四方の沼地に響き渡り、空を飛んでいた『焔』の魔物をまとめて吹き飛ばすどの衝撃波を放っていた。



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