第7話 大事な『打ち合わせ』


――『灼輪城ホムラ』 ダンジョン内 会議室



 『焔』vs『茨』の魔王戦争開始1時間前。

 俺はアイシャの許可を貰ってダンジョンに転移させてもらっていた。

 居住区らしき区域にある立派な会議室のところのような場所に案内してくれた。この会議室は同盟を組んだ日にウキウキして作ったらしい。

 

 「メルクリウス」と真雷氷幻鳥の「シンラ」を連れてアイシャの話を聞いている。

 アイシャの幹部たちも揃っていて圧巻だ。

 どんな種族や能力をしているか分からないが紹介されていくので頑張って覚えていく。


 「焔竜人ドラコーン」はいつも俺のダンジョンにアイシャが来るとき付いてきている竜人族のSランクモンスター。 

 「炎岩砲亀ガンダルイーダ」はおっとりした性格した婆様亀。遠距離からの魔法や砲撃で相手の陣形を破壊するSランクの魔物で、全長9mほどの巨大さである。

 「炎馬ティロン」は燃え盛る炎の大地でも駆け抜けられる魔物炎馬。Aランクの中でも地上戦のスピード戦では素晴らしい活躍をしてくれる魔物だ。

 「焔大蛇カガマル」はマグマの中を移動できる火属性の大蛇。魔物を喰らって魔力を回復する魔力喰らい持ちのAランク。

 「炎魔ダゴク」は火を操る悪魔で闇魔法も得意としている。2本の刀を使用した剣技のスキルも豊富で万能なAランク。赤髪のイケメン。


 真名を与えられている主要幹部が紹介された。

 今はダンジョンで警備しているが他にもAランクがいるらしい。

 ダンジョンレベルはBで俺より遥かに上、街も発展しているし、やっぱりダンジョンにいる魔物の平均ランクが高いのが素晴らしいな~。



「沼地での戦略は整ったか?」


「まずはガンダルと火砲亀の砲撃で先手を狙います」



 予測される相手同盟にいる『蝙蝠』が主戦力ではないと予測でき、沼地を活かした『泥』と『茨』をメインとした魔物構成でくると思っている。

 まぁ実は『茨』だけで攻めてくるんだったら問題ないんだけど、そんなことはないだろうな。

 水深は浅く歩行して移動するには『泥』の力を使った魔物になるだろう。量産するならそこまで速く移動できる魔物はまだ作れないはずだ。そこで砲撃での遠距離は確実に効果的なはず。



「空の『蝙蝠』はドラコーンとダゴクの軍で行くんだな?」


「制圧でき次第相手陣営に空爆を行います」



 前言っていた爆発する岩を生み出すだかなんだかのアルマジロか。

 個人的な印象だけど『茨』と『泥』は守りのタイプだと思うからダンジョン攻略のほうが厳しそうだ。できれば俺がこの前戦った『銅』のように全戦力をダンジョンから戦場に投入してくれれば楽なんだけどな。



「『豪炎』が来たらすぐ動くからな」


「えぇ……ふふっ、3人相手に対しては信じてくれるんですね」


「あぁ…信じてるし、手伝ってほしくないだろ?」


「よくお分かりで」



 優しく微笑むアイシャ。

 プライドもあるだろうし助けてもらうばかりの関係性が嫌なんだろうな。

 

 そんな話をしているとシンラの頭の上で爆睡していたメルが地面に勢いよく落下する。



「ビックリした」


「しゃべるスライム」


「大丈夫かメル?」


 

 俺は立ち上がってメルを回収し、俺の膝上に乗せて改めて会話を続けようとすると、アイシャ含め幹部魔物たちも驚いた顔をしていた。



「その外見はGランクのスライムぁ!? スライムに真名をつけるなぞ初耳だ! ご主人! 本当に役に立つ助っ人なのか?」


「ティロン、その発言は大変失礼です。彼らは最高の同盟者ですよ」



―――ゴゴゴゴゴッ



「「「「「「っ!?」」」」」」


「あー、大丈夫だよメル」



 ダンジョン全体が震えるような冷たい圧迫感が襲う。

 可愛らしいスライム形態のメルから放たれる青黒い魔力と炎馬を顔ごと喰らおうと口を広げている蛇腹剣のようなものが伸びている。


 アビリティ:『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』 ランクEX

 ・自身か主に対して強くメルクリウスが嫌悪する感情が向けられると発動する。

 ・感情を向けた相手に意志を持つ蛇腹剣の特性を持つ尻尾を放つ。

 ・メルクリウスの意志でも動くが相手の感情で反射で動き様々技を放つことができる。

 ・最大に出せる数は44本まで。



「こんなのが、ますたーの同盟? それ以上言うなら皆食べちゃうよ?」


「言い過ぎだメル。守ってくれてありがとな、でも食べるは言い過ぎだぞ」



 そう言って膝上のメルを撫でてやると放たれていた魔力と威圧感は消え、『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』がメルの中に戻っていった。

 とりあえず許可するまで『歪み渦巻く怒りの海リヴァイアサン』出すの我慢してもらうか。


 ガラクシアやポラールと同じように敵対するやつには容赦しないし、誰であろうと叩き潰す凄みがあるが、感情の沸点が読めなさすぎる。



「うぅー。ますたーごめんね」


「謝罪するのはこちらです。ティロン!」


「うぅっ! も、申し訳なかった!」


「『天風』殿の魔物よりも恐ろしい魔力であるな」



 なんやかんやと互いの顔合わせとダンジョン構造についての話し合いは淡々と進んでいき緊張感のある良い時間が過ぎていった。


 そして『焔』と『茨』の魔王戦争が始まろうとしていた。









――『茨の魔王ローザ』のダンジョン コアルーム



 そこには首から下を茨で巻かれている人型をした男と泥でできた巨体、そして黒いマントで身体を包み込んだ蝙蝠人族が座って話をしていた。



「はじまるんだな」


「我ら3人の力があればやれるであろう」


「『茨』と『泥』で地上戦を『蝙蝠』で空中戦を制してみせつけてやろうぞ」



 『原初の魔王』に褒められるほどの優秀さ。

 3人はそれがムカついていた。

 女魔王が俺たちの中で一番? そんなことは認められないという想いで集まった3人だ。

 火魔法に相性の悪い『茨』が戦争を仕掛けることで油断させ、火魔法に対して相性のいい『泥』と空中戦に強い『蝙蝠』までいる。

 同期であればどんな魔王との戦いには勝てると3人は確信している。

 


「頼みますぞ。グーダにバッドン殿」


「おーう!」


「我らの魔名で配合した魔物なら容易に勝てるさ」



 3人は確信めいた笑いをあげながら迫る戦争開始時間まで食事を楽しんでいた。







――『王虎の魔王ミルドレッド』 ダンジョン コアルーム



「さぁ互いの可愛い弟子の戦争を見守ろうじゃないか」


「戦うのは僕の弟子で君の弟子はただの同盟者だろう」



 そこにはダンジョンの主である『王虎』のミルドレッドと、鮮やかな薄緑色の長髪を束ねた美男子『天風』ランザが座りながらモニターを見ていた。


 互いの弟子が同盟を結んだとのことでミルドレッドから連絡を取り、ラムザを自分のダンジョンに誘い魔王戦争を観戦している。


 ミルドレッドと同期のラムザ。ダンジョンレベルもSランクを誇っており、4代元素の強化属性ということもあり魔王の中でもよく注目されている『焔』を弟子にしたと噂が出て最近はさらに人気者になった魔王だ。


 同じ時代を駆けた者同士として2人はまぁまぁの仲良しでもある。



「あんたも気付いてると思うけど相手は3体の同盟らしいね」


「表では『茨』のみになっている。もし3人だとしても君の弟子に助っ人を頼むべきでもないと僕は思うんだけどね」


「『豪炎』の話は聞いてるのかい?」


「耳にはしているが、現れるのか?」



 さすがに2人とも弟子のことが気になるのか調べることは調べているようだ。

 ラムザは口には出さないが3人相手だというのも実はけっこう心配しており、特に戦場が沼地と決まったとメッセージを受けてから、言いはしないが心配をしていた。



「まぁうちの弟子がいるから大丈夫さ!」


「噂ではコアからGランクしか出せないらしいが?」


「そうだけど、配合上手なのかとんでもない魔物を配下にしてるよ」


「噂の堕天使族か」



 最低でもBランクからしか存在していない堕天使族の系列。

 ハイオーガの半身を一撃で破壊する力を持っていると聞くが、もし『豪炎』が来た場合本当に役に立つのだろうかという疑問がラムザの頭を巡る。


 するとモニターからいよいよ始まると実況の声が聞こえてくる。

 

 いよいよ注目の魔王戦争が始まろうとしている。





 

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