第6話 戦争前の『一時』


 メルの紹介が皆に終わり、現在は朝の9時。

 魔王戦争までは時間があるし、メルが感知してくれた『赤刃』もまだ動きそうにないので街の様子を見に行ってみることにした。


 メルにガラクシアとポラールっていうとんでもない布陣で街を歩く。

 今いるのは北の商業区域だが、2~3年目冒険者が集まっている街に見合った店が並んでいる。

 

 特に飲食店が多いようで朝からお腹がすくような匂いで商店街は包まれていた。



「マスタ~あれも食べたいな~」


「賑わっていますね」



 野菜や果物が豊富にとれるような地域なのでそれらが各店が美味しそうな工夫が凝らされたものを売っている。

 ガラクシアとポラールは朝から食べまくり、メルは子猫に変形して俺の頭の上で爆睡している。

 

 今日は大事な日であるけど、こんな風にのんびりと散歩できてリラックスできるくらいの精神状態ってのが一番良いのかもしれない。



「さぁ良い感じに食べたし! 目的地に行くか」


「は~い♪」


「はっ!」



 とりあえず朝ご飯を満足するまで食べ歩きで済ませれたので、俺たちは街の中央にある館に向かっていった。








 その館ではルジストルにリーナと2体の補佐役ホムンクルスが働いている。

 今のところ街の人たちには精霊だとバレていないようなのでルジストルは優秀だ。

 まぁ街にいるのが若い冒険者とそれを狙った商人ばかりなので、まだ狙われることはないだろう。


 朝から書類仕事を淡々とこなしているルジストルに声をかける。



「おはよう。朝からご苦労様だな」


「おはようございます閣下。わざわざお越しいただいてどうなさいましたか?」


「まだ生まれたばかりのルジストルだが、もし良かったらさらなる進化をしたくないか聞きに来た」


「噂の配合とやらですね」



 ルジストルは少し驚いたような表情を見せた後に問いかけてくる。

 色々心配なことがありそうだ。



「新参者の私でよろしいのでしょうか?」


「あぁ…アウラウネには断られたし、個別の仕事を任せている魔物で配合していないのはルジストルだけだからな」


「なるほど…ではさらに閣下のお役に立つためにもお願いいたします」


「ありがとう…じゃ~さっそく」



 俺はコアを呼び出す。

 この街もダンジョン内っていうことなのでコアをどこでも呼び出すことができる。

 少し空いている机の上にアイテムを並べる。

 いつもの説明をルジストルにすると頭を悩ませながら物色している。

 残念ながら『大罪』はないって話をすると、自分には荷が重いと苦笑いをしていた。


 7分ほど悩んでルジストルは3つのアイテムを指して声をかけてきた。



「決まりました閣下。これで大丈夫です」


「わかった。じゃぁ行くか」



 ルジストルが選んだアイテムは、これもいつも通り予想外なラインナップであった。

 うちの魔物たちは毎度予想外な選択をしてくれるので面白いな。



1、魔名カード『白魔導』 ランクS

2.魔名カード『大地』 ランクS

3.聖魔物『黄金の林檎』 ランクS



 『大地』は土魔法を使えるルジストルの力を単純に強化するだろうから分かるが『白魔導』は回復魔法に関する魔名だったから意外だった。

 だがルジストルの顔を見ると満足げだったのできっと何か思うことがある組み合わせだったんだろう。


 俺は画面をタッチして配合を開始する。

 3つのアイテムがルジストルに吸い込まれていく。

 いつもの演出を終えると、ルジストルは初老の男性だったのがかなり若返って渋さのあるカッコいい男性へと変化していた。少し強面でもあるな。


 

 【管理の大精霊ルジストル】 精霊族 ランクS 真名 無し 使用DE13000

 ステータス 体力 C  物理攻 C  物理防 B

       魔力 SS  敏捷 D  幸運 S

アビリティ ・一国を牛耳る者 S

      ・交渉術 S

      ・統率力 SS

スキル  ・土魔導 S

     ・危機察知 S

     ・読唇術 A

     ・回復魔導 S

     ・結界魔法 A


・大国を管理・統率することができるほど政治家としての能力がある。どのような種族に対してもリーダーとして力を発揮できる万能性もある。

・土魔法の上位である土魔導や回復魔導で戦闘の補助を務めることができる。かなりの生存能力を誇る。



「これは…凄い力を手にしてしまいました」


「さすが俺たちのリーダーだ。期待してるぞルジストル」


「皆様のご期待に沿えるよう努めて参ります」



 丁寧な所作でお辞儀をするルジストル。

 これで街の運営はルジストルとリーナに任せていれば大丈夫だな。

 何かあればメルもいるしホムンクルスだって仕事ができるから安心だ。

 まさか街を作って僅かな期間でこんな良い形になるなんて思わなかったけれども、これなら安心してアイシャのほうに意識を向けられるな。


 俺は楽しそうに話をするルジストルとガラクシアやポラール、メルにリーナを見て、少し安心した気持ちになった。


 少し交流をした後に俺たちは魔王戦争と『赤刃』にむけて準備するためダンジョンへと戻った。







――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 魔王戦争開始3時間前。

 メルが『赤刃』の様子を確認したところ、ダンジョンに行く準備をしている段階らしく、この流れだと3時間後には確実にダンジョンに攻め込んできているだろうとのことだ。

 メルのおかげで相手の動きが筒抜けなのはかなりやりやすい。

 「紅蓮の蝶々」の面々はかなり驚愕していた。

 まず「赤刃のビエルサ」がしっかり生きていたことや能力、それにメルの力を目の当たりにしてさすがに言葉が出ないようだ。


 ここからの作戦を発表した。


 俺と一緒にアイシャのダンジョンで『豪炎』が仕掛けるのを待つのが「メルクリウス」と「真雷氷幻鳥」だ。

 当初はメルじゃなくてガラクシアだったが、メルの力がみたいのと、メルが俺と一緒が良いと甘えてきたため負けたのだ。


 ダンジョンに残るのはそれ以外のメンバーでメルがいないと「赤刃のビエルサ」の動きが詳細に把握できないが、本来はその予定だったので気にせず行く。

 「赤刃のビエルサ」の能力はこちらで把握しており、姿を見せない暗殺者の力を見せてもらうのも面白いが、ここは「紅蓮の蝶々」に戦ってもらおうと思っている。



「まぁとりあえず昼ご飯食べるか」


「おぉー!」



 メルの元気が最高に良い。

 星核から魔力吸いながら生きてるから基本満腹のはずなのによく食べる。

 

 今日のメニューはカレーにサラダのランチセットだ。

 アウラウネが良い野菜ができたとのことでサラダにして頂いている。


 カレーはそれそれ辛さを選べるのだが、俺は中辛派なのだ! 甘口ではない!



「おぉ! 野菜美味しいな」


「ねぇ~アウちゃんが自信作って言ってただけある~!」


「ますたー! おかわり!」



 そんな感じで楽しく昼食をとる。

 メルは一瞬で打ち解けてるし、ガラクシアとポラールが妹的な感じで可愛がっている。

 ちなみに『黎明の三柱』に選ばれなかったメルが怒ってしまい慰めるのが大変だった。確かにガラクシアとポラールより早くダンジョンに居たから俺のミスだ。


 昼食を食べ終わった後に「赤刃のビエルサ」が来る前にダンジョン構造を見直して罠を追加しておこうと思う。

 現在のダンジョンを詳しく見るとこのような感じだ。



 ダンジョン名 『罪の牢獄』ダンジョンLv11 知名度D 総合D(難易度EX)

 迷宮都市 街 ルジストル・ホムンクルス多数+リーナ 難易度 無

 1F    薄暗い洞窟 ゴブリン集落+スライム+一角ウサギ 罠多数 F

 地下1F  朽ちた街 スケルトン+子蜘蛛  『銅』の軍勢化 D

 地下2F  破裂の黒森 鬼ノ虎蜘蛛+フレイムリザード A

 地下3F  闘技場   スケルトン+全滅したら出てくるアヴァロン EX

 地下4F  永遠の星空  真雷氷幻鳥+ガラクシア EX

 地下5F  星海     メルクリウス+スライム多数 EX

 地下6F  地獄の門   ポラール EX

 

 居住区  果樹園  豊穣のアウラウネ

      コアルーム 魔王ソウイチ


 暗殺者ってどんな風にダンジョンを攻略してコアルームまで来るんだろうと思いながら、「紅蓮の蝶々」の面々に少し話をして、俺はアイシャのダンジョンへと転移した。


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