第4話 Sランク『冒険者』の噂
アイシャの魔王戦争まで残り2日。
とりあえず今日も1日ダンジョン運営に街の見回りや、少し商人さんたちと話をしてみたりと忙しい時間を過ごした。
1日の疲れを癒すためにスライムを連れて居住区にある温泉へと向かう。
「紅蓮の蝶々」の面々が街にいるので使う人が少ない温泉だけどガラクシアとポラールにリーナが居なければ大体静かなので良い場所だ。
入り口入って洗面台に一番近い籠に脱いだ服を入れるいつもの感じで風呂へと向かう。
浴場手前の身体洗うスペースで身体を洗う。
今日は俺が最後のはずなのでスライムは頑張って掃除してくれている。
身体を洗い終わり楽しみな露天風呂ってやつにスキップしながらむかっていく。
――ガラガラッ
「今日も1日疲れたな~~、…んっ?」
「「「えっ??」」」
「あれ?」
俺が露天風呂の扉を開けて進んでいくとそこには「紅蓮の蝶々」の女性陣がいた。
1秒後響き渡る悲鳴と放たれる魔法で大騒ぎになってしまったのだ。
◇
「まさか街の温泉が繁盛してるからダンジョンに来てるだなんて考えてなかった。すまんな」
「はぁ…私たちもリーナにしか報告してなかったから不注意だったんだけど」
悲鳴と魔法をどうにかやりすごし、温泉の中でちょっとひんやりしてるスライムを抱きしめながら露天風呂を楽しんでいた。
レディッシュ・二ナ・ツララの3人はタオルを身体に巻いて引き続き入っていた。
「だ、脱衣所にあった服見てなかったんですか?」
「この流れでそのまま入るとは恐るべし」
「自分の使う籠以外わざわざ気にしないからな~、ツララ…一応ここの主は俺なんだ」
「確かにそうですが…」
ツララと二ナは恥ずかしがっている。
まぁ確かに普通なら退室すべきだったかもしれないが、わざわざ3人が出るまで待つのは面倒だ。
それに良い交流機会になるかなって思っている自分もいる。
「3人ともけっこう大変な仕事を任せているけど困ったこととかないか?」
「初めてのことだから明確に何に困るっていうより慣れの問題かしらね」
「人の名前が憶えられません!」
「今のところは大丈夫です」
三者三様の返答で笑ってしまう。
でもこの3人はかなり献身的で街の冒険者たちを上手くまとめてくれてるし問題が起きないように管理してくれてるし、レディッシュはこの街のギルドマスターのような役割をしてくれている。
男性陣は自分たちより若い冒険者の指導をしたり一緒に依頼に出たりと頑張ってくれている。
「本当に助かってるよ…よし!」
手元にコアを呼び寄せる。
画面を開いて美味しいと評判のお酒と果物をDEを消費して購入する。
少しでも日頃の疲れをとってもらうために俺も頑張ろうじゃないか!
「お酒が得意じゃない俺でも飲みやすいお酒だ。みんなで飲もうじゃないか!」
「本当変わった魔王よね」
「その果物たくさんください!」
「私もお酒苦手です」
3人ともなんだかんだ付き合ってくれるようでコップを渡してお酒を注いでいく。
俺のコップにはレディッシュが注いでくれた。
「いや~美人に注いでもらうのは最高なもんだな」
「アンタにもそういう感情あるのね」
「はっはっは! 両手に花ってやつだな! では…3人の日頃の頑張りに乾杯!」
「「「乾杯!」」」
3人ともそれなりに気に入ってくれたようで良かった。
少しずつ話が盛り上がって色々話をしてくれる。
聞いてよかったのか分からないけど、カイルとレディッシュは恋仲なんだが、最近すれ違いでギクシャクしていたり、ツララが良い男がどこにいるか教えてほしいと頼み込んできたり、二ナは男の人からみて魅力的な女はどんな人かっていう魔王の俺に聞くべきことかと思うんだけど面白かった。
良い感じに酒が進み話が盛り上がる中、レディッシュは何かを思い出したかのように語りだした。
「そういえば噂なのだけど1人の冒険者がここのダンジョンをクリアしに向かっているって噂が出てるわ」
「へぇ~1人でか」
「私たちもその冒険者を知ってるけど、2年前から行方知れずなのよ」
「行方知れずなのになんで噂なんて出るんだ?」
その冒険者は色んなダンジョンに出没してクリアしては誰にも報告せず消えていく個人でSランクの冒険者らしい。
昔は「ヴァルカン」を拠点にしていたが、いつの日からか消息不明になり、どこかのダンジョンを攻略したって噂が流れたり、とあるダンジョンを狙っているっていう噂が流れる存在らしい。
「昔「ヴァルカン」を拠点にしてた冒険者ねぇ~」
「『赤刃のビエルサ』。彼の噂の出たダンジョンは噂が出た5日以内に攻略されるって言われているわ」
「ちなみに噂が出て今何日目?」
「今日で3日目ね」
「明日か2日後に来るってことね」
「噂だけれどね」
元「ヴァルカン」拠点の冒険者でこのタイミングで来るSランクの冒険者。
あの猫野郎の顔が思い浮かんできてイライラしてくる。
もし本当に猫野郎の仕業だったら許せないし、次出会ったらぶっ潰してやる。
――ギュッ
「ん?」
「怖いですよー。二ナが怯えちゃうです」
「あぁーすまんな」
少し感情的になりすぎて魔力が漏れちゃったかもしれないな。
酔ってるのもあって冷静じゃないかもしれない。今赤い顔したツララが抱き着いてくれなかったらそのまま激怒コースだったかもしれないな。
「ツララありがとう助かったよ。二ナとレディッシュには悪いことしたな」
助けてくれたツララを抱きしめて撫でまわす。
人懐っこくて可愛いらしいっていう評判が今ならよくわかるな。
嬉しそうに撫でられるツララが可愛くて手が止まらない。
「ふにゃ~…んにゃっ~」
「そろそろ止めないとツララが溶けちゃうわよ」
「あわわわっ」
「ん? そうかすまんな」
レディッシュに止められて手を放す。
いかんいかん酔ってるとついなんでもやりすぎてしまうな。
これだからお酒は苦手なんだ。
「うぅ~もっとしてください」
「おぉ~可愛いやつだな」
「ダメよ。さぁそろそろ私たちは上がるわね、さぁツララ行くわよ」
「にゃ~~もっとして~~くらはい~~」
レディッシュと二ナに連れられてツララは露天風呂を出ていった。
静かになった中、スライムが器用に俺のコップにお酒を注いでくれる。
まったく…こいつってやつは…。
「本当に可愛いやつだな~! こいつめ~!」
プヨプヨとスライムが形を変えながら喜びを表現してくれる。
さらにその姿が可愛くて抱きしめてしまう。
そんなやり取りがしばらく続いた。
◇
――『罪の牢獄』 居住区 食堂
ついに前日まで迫ったアイシャの魔王戦争。
最後の打ち合わせをしにアイシャが相談に来ていた。
どうやら先日のプレゼント返しは効果抜群だったようで少し興奮したような様子で話しかけてくる。
「あ、あんな物を貰ってしまっていいんですか?」
「あぁ…それくらい俺も世話になってるしな。それで凄いことしてみせてくれ」
「絶対に活かしてみせます!」
「『豪炎』のほうは俺に任せてくれ。それまでアイシャのダンジョンに潜んでいるよ」
「このダンジョンにSランクの冒険者が来るかもしれないって噂が出ていますけど?」
「よくそんな情報知ってるな」
俺もその情報を昨日の夜たまたま知ったのに。
その情報はガラクシアとポラール、リーナにルジストルも知ってたらしいが誰も俺に報告してくれなかったのは悲しい。
アイシャは俺の街に派遣している人たちや風の噂で耳に入ったらしい。
同盟も組んだので俺のダンジョンの噂はたくさん集めているらしい。
「個人で強い相手なら心配はいらないと思ってるし、みんなには警戒するように言ってある」
「Sランクの冒険者ですよ」
そうか。
アイシャはガラクシアやポラール、アヴァロンの力を知らないのか。
教えてもいいかもしれんが、それもできれば『豪炎』と戦う時までにとっておきたい。
アヴァロンは確実に残ってくれるし、ルジストルとリーナ、虎蜘蛛にシンラやアウラウネもいるから安心できるはずなんだけど…。
「なんとかなるようにしておくさ」
「それならいいですが…できれば私の力だけで『豪炎』の魔王を退ければいいんでしょうけど」
「相手はなかなかの相手だ。本来ならルーキー2人でもキツイかもしれないが2人なら行けるさ」
「よろしくお願いします」
最後の詰めをしてアイシャは帰る直前に俺がプレゼントした物を右手にもって高々と見せびらかしてくれて、ガッツポーズをして自分のダンジョンに戻っていった。
絶対に負けられないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます