第1話 激しい『戦争』の予感


 「随分舐めたこと言うじゃねぇーか」


 『豪炎』から迸る灼熱の魔力が辺り一帯に漂う。


 アイシャとの話し合いで『茨』『泥』『蝙蝠』のバッグにはそこそこの魔王が後ろ盾としてついていることが予測された。

 あまりにも手順が良すぎたのだ。『焔』への対策の良さ、3人のメンバーが上手く『焔』を倒せるような魔物を配合できていること。

 そしてアイシャは自分が『豪炎』に目をつけられていることを知っていた。自分の魔名があれば『豪炎』はランクアップすることができることをアイシャの師匠である『天風』に聞かされていたらしい。



「俺がルーキーにビビる? それに俺様が『焔』を狙っているだぁ?」


「『焔』に戦争を仕掛けた3人の後ろ盾はアンタだろ?」


「なんで俺様がルーキーに手を貸してルーキーの相手をしなくちゃいけねぇーんだ」



 イライラしているのか、『豪炎』が落ち着きのないような動きをしはじめる。

 周囲の配下たちもそれを察したのか、俺と『豪炎』との会話に割り込もうかどうか悩んでいるように見える。

 

 ここで『豪炎』が絡んでいることが確信できるようなことができれば対策はしやすい。

 アイシャとはそれなりに仲良くなったし勝ってほしい。

 それに俺のダンジョンに喧嘩を売りに来たんだから、軽い後悔くらいはさせてやらないとな。



「さっきから舐めたこと言いやがって、今の自分の状況が分からねぇーのか?」



 周囲の魔物たちが一斉に魔力やら闘気を放ち始める。

 ここで喧嘩を売ればすぐにでも買ってやって殺してやるっていう脅しみたいなもんか、そこそこ生きた魔王のくせにやることが子どもみたいで笑えてくる。


 俺が何かを言う前に後ろから放たれたとんでもない闘気が放たれる。



――ゴウッ!



 『豪炎』から放たれていた灼熱の魔力も、周囲の魔物が放っていたもの全部覆い尽くして消してしまう巨大すぎる闘気が俺以外の全てに襲い掛かる。



――ドサッ!



 あまりの威圧感に何体かの魔物は気絶していってしまう。

 きっとこれでも抑えてるんだろうなポラールは。手札を見せたくない俺の意向をしっかり汲んでくれていて全力を出していないのだろう。



「ほぅ…そいつが戦争で活躍したやつか」


「俺の大切な相棒の1人だよ」


「あ、相棒…良い響きです」



 『豪炎』が少し余裕が無さそうな感じでポラールを見る。

 俺に相棒と言われたポラールは嬉しかったのか闘気を消して顔を赤くして俺の服を掴んで嬉しそうにしていた。


 ポラールの闘気で気絶しなかった幹部らしき魔物が迎撃しようと構えている。

 


「強いし良い女か…どうだ? 俺様のとこに来れば可愛がってやるぜ」


「下品で弱く、私のご主人様を見下すような猫の下に入るなど笑わせないでください」


「…なんだとぉ?」



――ゴゴゴゴッ!



 火山全体が揺れている。

 『豪炎』から先ほど放たれたよりも倍以上の灼熱の魔力が放たれる。

 マグマがまるで今から噴火しますよって伝えているかのように煮えたぎってきている。

 

 まさかこんなので冷静さを失う魔王だったなんてな。



「主! 無様な姿をお見せになられぬよう」



 獅子獣人の発言で一瞬で火山の揺れは治まった。

 あいつが幹部の中でも上位の魔物か。



「ふぅ~、俺様としたことが乱れちまったぜ。まぁいい、ガキと話すとイライラしちまう」


「んで…3人に手を貸してるってのは真実なのか?」


「さぁーな。テメェ自分とこに街を作るらしいな」



 ニヤニヤしながら『豪炎』が急に話題を変えてくる。

 どうせまたしょーもない脅迫でもしよーってんだろう。



「そのうち遊びに行かせてもらうぜ」


「何企んでるか知らんが来なくていい」


「『王虎』の婆に甘えている赤ん坊が粋がるな」


「なんで知ってる?」


 

 なんで俺がミルドレッドの弟子だってことを知ってるんだ?

 どっから情報を仕入れているか分からないが、また1つ不安材料が増えちまったな。



「もういい…ガキとの話は疲れた。おい! とっとと帰ってもらえ」


「はっ!」



 俺たちが使ってきた魔法陣が再び光り始める。



「まぁ精々頑張るんだな」


「あぁ…良い街を作らせてもらうさ」



 そう言って俺とポラールは元いた場所へと転移させられた。

 わざわざポラールに転移魔法陣を見せるなんて馬鹿な奴らだ。


 ダンジョンを出て、街外れの場所でポラールの転移魔法で自分のダンジョンに戻ることにした。









――『罪の牢獄』 居住区 食堂



 翌日。


 俺は『豪炎』の魔王に喧嘩を売ったことをみんなに報告したらリーナ以外は反応が無く、リーナだけは「そんなルーキーがいますか!?」とプンプンだった。

 

 『豪炎』にさらに目をつけられたものは仕方がないので街づくりを急いで始めようと俺は宣言する。

 ダンジョンコアでDEを作って色々作れるので、洞窟入り口から道を作って、まずはあまり広くないが村のような感じで作って、集まってきてくれた人に合った需要の広げ方をしていかないとな。


 俺は普段あまり果樹園から出てこないアウラウネに頼んで作り始めることにした。



「使えるDEは50000はある。さぁやっていこうか」


「せっかくの大森林だもの。豊かな街にしてよねマスター」


「あぁ…任せてくれ」



 画面をタッチして広がる木々を申し訳ないが、ある程度の広さで平らにさせていただき、木々は建物などの材料に変化させる。

 街には綺麗な川が流れるようにし、街の中央には大きめの噴水を作る。

 最南がダンジョンの入り口になるので、2㎞ほど離れたところを街にしている。



「マスター立派な農地があれば私が色々できるわよ」


「本当に頼りになるよ」



 妙に身体をくっつけてきながら色々強請るアウラウネ。

 余程自分好みの自然都市にしてほしいのだろう。普段頑張ってくれている分このくらいは甘えさせてあげたいので農業地区はアウラウネに任せることにする。


 アウラウネは嬉しそうに街の西側を予定している農業地区を弄り始めた。

 とりあえず裏道で果樹園からすぐ行けるようにしているのだけは見えた。



「良いマスターに恵まれて幸せ~」


「そいつは良かったよ」



 アウラウネの力で優しく豊かになる大地を作ることができて、シンラの力で雨は適切に降らせることが可能だ。

 アウラウネの好みなのか果物が多いようだ。

 できれば農家を何人か手配してほしいとのことなので、しっかり見極めて人材を集めないといけないな。



「街の南は冒険者区域にしておこうかな」



 冒険者ギルドになりそうな建物に宿やらいくつかの役割ができそうな建物を追加していく。

 ちなみに生物払いの結界が張ってあり、このDEを使うコアの力はなんであろうと一瞬でできてしまうのは永遠の謎だ。


 街の入り口は北と東に門を作る。

 街の囲いは大量に手に入った木材で城壁を作りガラクシアとポラールのスキルで強化してもらえばとんでもなく頑丈な壁の出来上がりだ。


 街の北は商業区域にする。

 商店街のように何本かの通りで人が流れることができるように建物を作り出す。

 もちろん娯楽施設になりそうな物を忘れていない。

 「ヴァルカン」ほどじゃないが少し真似て温泉も作った。アウラウネが力を加えた大地から汲みだされた温泉だ。


 東は居住区だ。

 人だろうが魔族だろうが仲良く暮らしていけるように人が来るたび工夫をしていこうと思っている。


 

「かなりDEを使ったな」



 街の基盤を作り上げることができたがDEのほとんどを使用した。

 まぁ人間が時間をかけて築きあげる物を一瞬でやってしまうんだから代価は必要だ。

 アウラウネやシンラ、ガラクシアとポラールの強力な力があったからこそ、良い環境を作り上げることができている。


 「紅蓮の蝶々」の面々は最初こそ街のできる過程に驚愕していたが、途中から楽しくなってきたようで積極的に意見をくれた。特に女性陣とグラントは気に入ったようで細かいところまで手を加えてくれている。



「街の西以外は人や魔族がやりやすいように手を加えてやってくれ」


「これが魔王の力なのね」


「凄いですね! 面白いです!」



 とりあえず初日で街の基盤を作り上げることに成功したのでまだまだやることは多いが頑張っていかないとな。

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