第2章 『大罪』の街 アーク

プロローグ 『初めて』のダンジョン外


 『豪炎火山』というダンジョンの麓に存在している迷宮都市「ヴァルカン」。

 築かれてから60年ほどの都市でダンジョンから採れる鉱物類や肌に良い温泉が有名な場所である。

 帝国領の中でも冒険者が比較的多い街で、ダンジョンの浅い階層がルーキーでも挑みやすく、難易度にしては良い鉱物が手に入ることでも有名だ。

 

 鉱物が多く採掘できるのでドワーフが多く生息していて、鍛冶屋が多いのも特徴になっており、帝国領に販売している有名武器屋のほとんどが「ヴァルカン」から仕入れていると言われているほど有名でもあるらしい。


 俺は「紅蓮の蝶々」とガラクシアとポラールを連れて「ヴァルカン」街を歩いている。

 ミルドレッドからの助言を活かし、服装や身につける物を人が見ても違和感のないもので統一し、違和感のない感じになっているはずだ。



「それにしても人が多いなぁ」


「冒険者が多いだけあって治安は良くないけどね」


「鍛冶屋を求めに色んな国から人が集まりますからね」


「鉱物を前面に押した集客ってことね」



 「ヴァルカン」での行動はグループに分かれて行なっている。

 とにかく街の案内を俺にしてもらうレディッシュ&二ナのチーム、レディッシュはこの街では超有名人で顔も利くのでやりやすいとのことで案内係に。


 ギルドへの報告や他冒険者への噂流しはカイルとツララに頼んである。ギルドへの報告はリーダーか副リーダーが必要なのでカイルに行ってもらい、コミュ力のあるツララにもついていってもらうことにした。


 街に残った「紅蓮の蝶々」としての後始末はベイルとグラントに任せた。

 荷物をまとめたり、世話になった人たちへの挨拶なんかを頼んである。


 ガラクシアはカイルたちに、ポラールは俺たちについてきてもらっているが、ポラールは稀にベイルたちの様子もちょいちょい確認している。



「それにしてさすがSランクパーティーだな。顔が広い」


「個人でSランク持ちに比べたら全然よ」


「私たちはレディさんがAランクの中でも中位ほどの実力者で、この街ではトップなんですよ!」



 帝国領をメインで活動している商人グループとも良い付き合いをしているようで軽く挨拶もさせてもらったし、レディッシュが俺のところに街ができそうだから拠点を移すと言うと、どの商人も興味津々だったのはさすが「紅蓮の蝶々」って感じだな。



「鉱山をメインに推すだけあって、自然はまったく無いけども鍛冶屋や武具屋が多いし、観光客には巨大温泉ってとこか」


「アクセサリーや陶器類、帝国軍の鎧なんかも手掛けてるから需要は尽きないわ」


「商業区・居住区・冒険者ギルドの3つの地域で構成されているのもポイントだと思います」



 レディッシュと二ナは説明上手だし、変な冒険者に絡まれることも無いからスムーズにやりたいことがやれている。

 Sランクの凄さを認識できるのと同時に冒険者が人のヒエラルキーのトップクラスに立っていることを見ると「魔王」ってのは本来人間にとって悪夢のような存在なんだなと思う。


 この街「ヴァルカン」も本来は『豪炎火山』を攻略するためにあるってのが人側に目的でもあると思うが、裏で操っている『豪炎』の魔王が上手くやってるんだろうな。



「俺のとこだと「果樹園」と「蜘蛛糸製品」くらいしか差別化できそうなのがないな」


「この街もできた当初は「火山岩」を加工した物をばかりだったそうよ」


「ランクの高い鉱石が出回るようになるまでは、ここまで繁栄してなかったと「ヴァルカン」のギルドマスターが言ってました」



 まぁいきなり大繁栄なんて考えてないし、少しずつ地盤を作っていかないと崩れるのは一瞬だから慎重にやっていきたい。



「冒険者ギルドに関してはレディッシュに任せるよ。ダンジョンが有名になれば自然とできるだろう?」


「えぇ…そこは人が勝手に作り上げる物だから大丈夫だと思うわ」



 SランクやSSランクがたくさん来られたら破滅してしまうが、そんないきなりはこないだろうし、数が集まるとも思えないから安心だが、問題は帝国騎士団が様子を見に来ることが確実なのが厄介なところだ。


 帝国はこれ以上迷宮都市を自分らの管轄外で作らせたくないらしく、少し有名なダンジョンの噂を聞くと軍で制圧し、そこに拠点を作り帝国軍の儲けにするのをよくやるらしく、これは王国や公国では無いことらしい。



「他の魔王に帝国軍に冒険者と気にしなきゃいけないのが多すぎるなぁ」


「帝国は領土が広いのに迷宮都市が少ないのは軍のせいですからね」


「騎士たちが腕試しとして制圧し、コアを破壊した者に騎士団の中でもそれなりの地位を与えていますからね」


「厄介なもんだな」



 街づくりを始める上でかなり有意義な時間となった。

 ポラールも色々見ることができて楽しかったようで、今度は2人で行きたいと言われたので許可をだしたら喜んでいたので良い時間になったな。


 カイル&ツララ組はさすがに急に拠点を変えるとなったので大騒動だったらしいがガラクシアが上手く鎮圧させたらしい。

 商人には2か月後に小さな町ができるからと広めてほしいと言ってあるので2か月以内にしっかりやらなきゃな。


 ベイル&グラントも何事も無く終わり、顔が広い分少し時間がかかったが、『罪の牢獄』の宣伝と街を作ることを広めてくれたので、2人の話では街の雰囲気次第では移っても良いと言う人がいたので頑張らないとな。



 朝に来て夕方までかかった街探索だが無事にやりたいことを終え、買いたいものを買えたし「紅蓮の蝶々」の面々も頑張ってくれたので素晴らしい外出になった。


 俺は最後にやっておきたいことがあったので「紅蓮の蝶々」とガラクシアにはダンジョンに戻ってもらい、俺はポラールと一緒に『豪炎火山』へと向かっていった。









――『豪炎火山』 入り口



 さすがに夜の時間帯からダンジョンに入ろうとする冒険者はおらず、ほとんど冒険者に出くわすことなく入ることができた。

 夜20時以降はダンジョンに新しく入ることは禁止されているそうなのでギリギリだったんだけどな。


 火山を上り、中間地点にある洞窟の中を入って攻略していく流れが『豪炎火山』の基本らしく頑丈で力が強く、火魔法や土魔法の力を持った魔物が中心に生息しているらしい。


 とりあえず暑い。



「さぁ昇っていくか」


「ご主人様と2人というのは緊張しますが、お任せください」



 ポラールが張り切ってくれるので難なく火山を進んでいる俺たち。

 「黒岩亀」「フレイムリザード」「ロックオーク」なんていう魔物が多くいたが拳1つで粉々に粉砕していくポラールが心強い。

 きっと観ているであろう『豪炎』の魔王に手札をあまり見せたくないためポラールには武術のみで魔物に対応してもらっている。


 40分ほど歩いて、そろそろ洞窟でも見えてこないかなと思ったら、正面になかなかの存在感のある獅子型の獣人がいた。



「主がお待ちだ。この魔法陣で転移していただきたい『大罪』よ」



 『豪炎』とこの幹部なんだろうが、なかなか見下した発言をしてくれる。

 ポラールのほうを見ると無表情になっていたが、魔法陣に対しては何も口をだしていないので安全なんだろう。



「来るならもっと早く来てくれても良かったのに」


「主が貴様の魔物を見たいとのことだったのだ」


「あのような魔物程度では相手にならないですよ」



 少し怒った口調でポラールが獅子獣人に挑発する。

 一応主である俺だがポラールから漂う怒りの空気が怖いが、とりあえず手を握って魔法陣へと向かっていく。

 手を握った瞬間に俯いて黙ってしまうところが可愛い。



「私が怒れば手を握ってくれるのですか?」


「別に怒ってなくても握るよ?」



 さらに俯いてしまうポラールがさらに可愛くて笑ってしまう。

 とりあえず獅子獣人のいる魔法陣に入る。


 俺たちはどこかへと転移した。








――『豪炎火山』 ダンジョン内 王の間



 転移で跳んできた先は、火山の中だったようでマグマに囲まれた奥に玉座がある空間だった。

 俺のとこにもある「地獄の門」に似ている空間だけど暑いってのが嫌だな。



「俺様のとこに何の用だ? 『大罪』のガキ」


「俺のとこに冒険者を寄こして何の用だ? 『豪炎』さんよ」



 俺の返答に周囲の『豪炎』の魔物たちに動揺が走る。

 転移されたときは魔物に囲まれているのに驚いたけど、ポラールの安心感が俺に冷静さをもたらせてくれていた。



「この状況でよく俺様に喧嘩を売れるなぁ」


「俺がこの状況を予測してなかったとでも思ってるのか?」


「たった一戦勝っただけのガキが粋がるなよ」



 『豪炎』の魔王は二足歩行のデカい獅子のようだ。鬣は火魔力で包まれていて常時燃えているように見える。

 さすがの威圧感があるがミルドレッドほどじゃないし、ここにいる魔物はどれもミルドレッドのバイフーンに遠く及ばない。



「俺がここに来た理由は「紅蓮の蝶々」をダンジョンに寄こした理由を聞くためさ」


「粋がったルーキーに現実を教えてやろうと思っただけさ」



 あくまで真実を俺に語るつもりはないようなので、俺のほうから強気に仕掛けてやるしかないか。

 あんまり自分より長くやっている魔王に喧嘩を売るのはミルドレッドに怒られそうだがやるしかないな。



「なんだ…てっきり『焔』の魔王と手を組まれると怖いからビビって脅しのつもりだと思ったよ」



 俺がその言葉を発した瞬間、暑かったはずのダンジョン内に冷え切った空気が漂い始めた。

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