第12話 『狂乱』のハイオーガ


  想像以上の化け物が出てきて正直焦っていた。

 自軍にいるAランクの「鬼ノ虎蜘蛛」からAランクの強さを想定していて、「死霊銅鎧王」のほうは良かったが「狂乱のハイオーガ」は想定を遥かに超えた強さだったので頭の中は混乱に陥っていた。



「あれをどうやって止めるか」



 子蜘蛛は今いる分すべて出し尽くしたのでダンジョンで迎え撃つしかないのだが、あのオーガをどうするべきか分からない。

 リビングアーマーのほうはどうにかできそうなんだけどな。


 あまり使いたくなかったが一角ウサギに爆卵を装着しているので特攻してもらうことにした。

 ブリザードイーグルは上空から『銅』の援軍を足止めしてもらうために外に出ている。

 コアのモニターからダンジョン入口の様子を見ることができるので『銅』の幹部が来ている場所を映し出す。



――ズゴォォォォンッ!



 そこに映し出されていたのは、爆発範囲に近寄らせてもらえずに咆哮や振った斧に風圧で吹き飛ばされて爆散していく一角ウサギだった。

 あのオーガ頭が良いらしく、さすがにここまで爆発を見せていると完全に警戒されているし、落とし穴に嵌る気配が無い。



「ピンチってやつだな」



 ダンジョン入られて3分しか経っていないのに壊滅的なダメージだ。

 オーガとリビングアーマーの攻撃の衝撃で誤作動する罠もあり、吹き飛ばされたスケルトンやゴブリンで作動してしまう罠ばかりで2体にダメージを与えることができない。

 それにあの2体は薄暗い洞窟でも視界が良いのか、まったく怯むことなく進み続けている。



「なりふり構っていられないけど何か策を考えないとな」



――ドゴォォンッ!



 オーガの足下にたまたま不発に終わって気絶していた一角ウサギがおり爆発してくれた。

 そこから隙ができたのか3匹ほどの一角ウサギの特攻を受けてくれるオーガ。

 そして武器を手放して横になってくれたのをみて『怠惰』が効いていることが確信する。


 リビングアーマーのほうから今やるべきか!



「ガラクシアとポラール! 俺と行こう!」


「は~い!」


「はっ!」



 2人を連れて近くまで来ている2体のところへと急いで向かう。

 オーガは勘だけど長く『怠惰』の影響を受けたままでいるとは思っていないので抵抗してくるリビングアーマーを素早く仕留めてからオーガが倒れている間にやってしまいたい。







――ズシャァァァァ!



「さすがにゴブリンだろうと近づけさせないか!」



 現場に着いたときにはゴブリンが見事な剣閃で切り裂かれていた。

 剣を持っているのに遠距離戦ができるのが、さすがAランクってとこだけど数で仕掛けさせてもらう!



「“シャドウランス”!」


「“ホーリージャベリン”!」



 ガラクシアとポラールがスキルランクは決して高くはないけれど遠距離から攻撃して隙を作り出してもらうため魔法を使用してもらう。


 もちろんリビングアーマーには効いていないが、こちらに注意を逸らすことには成功している。


 その隙に一角ウサギとスケルトンで囲むように陣を作る。



「一斉に突撃!」



 全方位からの特攻だ。

 一角ウサギとスケルトンには申し訳ないがその命を勝つために散らしてもらう!


 リビングアーマーが囲まれており、まずいと判断したのか剣を地面に突き刺し魔力を注ぎ始めた。

 すると地面に魔法陣が現れて。



――シュギィィィンッ!



 広範囲に闇魔力の衝撃波を円状に放ってきた。

 そんなことできるのかよ!



――ズゴォォォンッ!



 全方位を囲んで突進していた俺の魔物たちは衝撃波に抗うことできずに爆散していった。

 でもその特攻は無駄にはしない。

 俺はリビングアーマーの頭上に視線を向けて合図を送る。


 リビングアーマーの頭上から巨大な影が落ちてくる!



――ガシャァァァンッ!



 リビングアーマーの頭上に張り付いていた虎蜘蛛がその巨体と重さで真上から襲い掛かった。

 剣を地面に突き刺して迎撃態勢がとれていないなか確実に頭上から攻撃してくれた。


 鋭い爪で鎧を砕き、蜘蛛の糸でグルグル巻きにしている。

 そのまま「魔力喰らい」でリビングアーマーの魔力を凄まじい勢いで喰らい尽くしている。


 これで1体目を上手く仕留めることができた。



「後はオーガ1体だけっ!?」



――ガシャァァァァンッ!



「戻るのが速すぎるっ!」



 素早く起き上がり、仲間のリビングアーマーごと虎蜘蛛を吹き飛ばす。

 虎蜘蛛のほうはそこまでダメージを受けずに済んだが、リビングアーマーのほうは砕け散り再起不能になった。



「ギャァァァァァァオォォォォ!」


「くっ! とんでもない奴だな!」



 こちらに気付き迫ろうとしてくるオーガ。

 俺の前に20体ほどのスケルトンを引き連れてソルジャー君が立ちはだかってくれる。

 それと同時に俺の脳にコアの声が木霊する。



『ダンジョンレベルが8に上がりました。配合機能が解除されます』


「今かよ!」



 Aランクのリビングアーマーを倒したことでダンジョンレベルが上がったようだ。

 しかもこんな絶体絶命の戦いの中で上がるなんてタイミングが悪い!



「マスター逃げて!」


「ご主人様! ここは我々に任せてください!」



 叫び声をあげながら迫ってくるオーガに残ったすべての魔物が俺を守ろうと集結してくれる。

 虎蜘蛛も体勢を立て直してオーガの隙を狙っていて、オーガもそれを分かってるのか隙を見せない。

 でもこの戦力であのオーガを倒す術があるのか? 外のブリザードイーグルもなんとか足止めをしてくれてるが魔力が長い時間持つわけじゃない。

 何かあるはずだ、まだ考えついてないことがどこかにあるはず。



「っ! ガラクシアとポラール! 俺とコアルームに今すぐ戻るぞ! 急いでくれ!」


「大丈夫なの!?」


「はっ!」


「頼む! みんな3分持ちこたえてくれ!」



 魔力をけっこう消費することになるがダンジョンマスター権限で使用できるダンジョン内の転移を行う。

 ガラクシアとポラールの手を繋いで転移を行う。


 すると景色は一瞬でコアルームまで戻ってきた。



「頼む! 戦争中でもできてくれ!」



 俺はコアの画面を祈るような想いでタッチした。








――『王虎の魔王』ダンジョン コアルーム





『おぉーっと! 『大罪』が幹部を連れて転移してしまったぞ! まさかの敵前逃亡か!』



 ハイオーガを『怠惰』の力で足止めし、鎧のほうを手際よく仕留めたのは素晴らしいものだったが、ソウイチの想定以上の速さでハイオーガが元に戻ってしまったようだ。



「撤退して何をするつもりかな?」



 戦場に残ったのは鬼ノ虎蜘蛛と大量のスケルトンに数匹のスライムもいるようだ。

 スケルトンが追加されているのでコアルームに戻って操作しているのだろう。

 しかしいくらGランクの魔物を追加したとしても追加した魔物には爆卵はないので壁にすらならないだろう。

 ハイオーガが警戒する可能性はあるがどうやって倒すつもりだ?



「決着ですかね? お弟子さん頑張りましたな」



 エンカクが勝敗が決したと思ったのか残念そうに声をかけてくる。

 確かにここから逆転できそうな手段は私たちが見ていた限り、無かったように見える。

 残り数分で外で足止めしているブリザードイーグルの魔力も尽きるだろう。

 ハイオーガ相手に何を見せてくれるか、コアが砕けるまで分からないので最後まで見守るとしよう。


 スケルトンが「捨て身」のスキルを使い突撃していく。

 「捨て身」は自分の防御ステータスを0にして攻撃力をあげるステータスだ。

 確かにハイオーガの攻撃で一撃で粉々にされるなら使っておくのは悪くない判断だな。



「ギャオォォォォォ!」



 4体ずつの隊列を作り突っ込んでいくスケルトンたち。

 咆哮や斧を振るった衝撃波で粉々になっていく。

 爆散していったりしているのもハイオーガもしっかり見ているのだろう、誰も近づけさせないし後方から虎蜘蛛が糸を放っているがそれも弾き飛ばしている。


 私には時間を稼ぐようにわざと時間差でスケルトンが特攻を仕掛けているように見える。

 ハイオーガが爆弾を警戒しているからこそできる戦法だが、何を狙っているのやら。



 1匹の一角ウサギが運よくハイオーガの近い距離まで潜り込む。



「グォォォォォッ!」



 ハイオーガの咆哮によって消し飛んでしまうウサギ。

 あんだけ隙なしに見えるハイオーガの動きも数が多すぎると潜り込まれてしまうことがあるようだな。



『惜しい! 一角ウサギが良いところまで行ったが阻まれてしまいました!』


「まだだな」


『おぉぉぉっと! スケルトンソルジャーが懐に入り込んだぁぁ!』



 スケルトンソルジャーが咆哮の隙をついて潜り込む。

 剣を持っておらず、その手に代わりに持っていた黒い物体をハイオーガの顔に投げつける。



――ズゴォッ!



 投げつけた瞬間にハイオーガの裏拳で吹き飛ばされてしまったスケルトンソルジャーだったが盾が砕け散っただけでやられてはいないようだ。



――ドゴォォンッ!



「グォォォンッ!」


『スケルトンソルジャーが投げつけたのは先ほどから猛威を振るっている鬼蜘蛛の爆卵だぁぁ! しかもこの爆卵はなんらかの力でデバフをかけています!』



 スケルトンソルジャー捨て身の特攻で『怠惰』の魔力を再び付与することに成功した。

 正直スケルトンソルジャーを使う魔王なんて久々に見たので新鮮な気持ちだ。


 しかしハイオーガは戦意喪失するかと思われたがその様子は見られず、赤い魔力が溢れだす。



「やはり『狂乱』の力を混ぜていたオーガだったか」


「バーサーカーになられては精神魔法も意味を成しませんね!」



 声にならないような叫びをあげながら暴れまわるハイオーガを見て、さすがにこれは止められないのではと感じる。

 虎蜘蛛が蜘蛛糸を吐くが、先ほどとは比べ物にならない速さで回避し虎蜘蛛へと跳んでいく。



――ドゴォォッ!



 壁に張り付いていた虎蜘蛛を叩き落としたハイオーガ。

 抵抗もできず叩き落とされた虎蜘蛛は抵抗しようとするも速さに対抗できず蹴り飛ばされてしまう。

 虎蜘蛛が壁に激突する前に追いついてさらに追い打ちをかけるハイオーガ、虎蜘蛛の防御力ではさすがに厳しいだろう。


 ボロボロのスケルトンソルジャーが虎蜘蛛の前に立ちふさがろうとするがお構いなしにハイオーガは斧を振り下ろす。



――ズゴォォンッ!



 「なんだ? あの魔物は?」



 赤黒金の軽鎧とドレスを纏い、6枚の黒い羽を広げたソウイチのところにいたアークエンジェルと似た顔の魔物がハイオーガの攻撃を片手で受け止めていた。

 


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