第11話 『大罪』の力


――『王虎の魔王ミルドレッド』のダンジョン コアルーム



 ミルドレッドは少しの間とは言え、それなりにアドバイスもしたし『魔名』も与えた弟子のソウイチの戦争をコアルームで見ていた。


 『銅』の魔王の甘い迎撃が引き起こしたソウイチの先制攻撃。

 ソウイチの言っていた通り数で押しつぶすことを考えていて、先手を打たれるなんて考えていなかった感じだ。



「それにしても『憤怒』とかいう力は凄いな! 魔力を浴びてからあんなに早く作動するなんてね」


『おぉー! 『銅』の魔物軍の中心が空爆を受けたと思いきや、突然仲間割れを起こし始めましたー! 30体ほどの魔物が反乱を起こしております!』



 進軍していた魔物が中央から崩れる。

 ここまではソウイチの予測通りだし、あたふたして指示を出していない『銅』の魔王を見ていると魔王としての能力はソウイチの圧勝だと感じる。



「『銅』の小僧についているハイオーガ、あ奴は手強そうですな」


「やっぱりそう思うか?」


「『大罪』の魔物が束になって敵わなそうに見えますね」


「実際敵わないだろうね」



 混乱する主の隣で異様な雰囲気を放つハイオーガ。

 モニター越しにもハッキリ理解できる強さ、うちの幹部たちも実力を評価するレベルなのでソウイチのとこの魔物ではどうにもならない。



「どうやって捌き切るのか?」


『おぉーっと! 同士討ちをはじめた『銅』の魔物軍に大量の蜘蛛が迫りくる!」



 なかなかの俊敏性を持って『銅』の魔物軍に迫りくる100体はいそうな子蜘蛛軍団。

 ソウイチの話だと衝撃を与えると爆発し、子蜘蛛には『怠惰』の魔力が込められており爆風でダメージを受けると戦意を失い魔王の指示を無視するようになるらしい。


 子蜘蛛が100mほどに迫った時、先頭に居る「死霊銅鎧王」が剣に魔力を纏わせ高々とかかげる。

 ルーキーにしては自分の力に合った良い魔物を作ってるじゃないか。



『『銅』の魔王から真名を授かっているAランクの魔物「死霊銅鎧王」のブロングスが剣を掲げているぞ! 素晴らしい魔力だぁ! 100以上いる蜘蛛相手になにをするつもりだぁ!?」



 「死霊銅鎧王」が剣を横に薙ぎ払うように振るう!



――ズゴゴゴゴォゴゴゴォッ!



『出たー! スキル「風牙一閃」だぁ! 飛ばした剣閃の受けた蜘蛛は一斉に爆散していくぅ! この蜘蛛は「爆鬼蜘蛛」の類のようです!』



 「死霊銅鎧王」から放たれた横に広がる剣閃は先頭の子蜘蛛を切り裂き爆散させ、それに連鎖してしまうように子蜘蛛が軍に辿り着く前に爆発していってしまう。

 

 失敗に終わった子蜘蛛特攻作戦。

 凄まじい爆発で辺りを大量の砂埃が覆う。


 さぁ第2陣は失敗に終わった。

 『憤怒』の影響で味方を攻撃していた魔物を数で制圧されてしまったようだし、奇襲の成果はまぁまぁに終わってしまったけど次はどうするかな?



『「死霊銅鎧王」の見事な一撃で子蜘蛛は片付けましたが、砂煙で視界を封じられたか!? しかし時間の問題! 次の一手はどちらが打つんだぁ!?』



 相変わらず騒がしい実況だが盛り上げてくれる。

 ルーキー同士の戦いは毎年面白いから本当に酒が進むよ。

 他の魔王に連絡して一緒に観戦しようかと思ったけど可愛い弟子の戦争だから一人で真剣に応援しようと思って一人で見ている私にはありがたい実況だ。


 そんなことを思いながら酒を飲みながらモニターを見ていると。



――ドゴォォォンッ!!



 軍の先頭で爆発が起きた。

 さぁどんどん面白くなりそうだね!



『巻き上がる砂煙に紛れて第2陣の子蜘蛛がやってきていたー! 「気配殺し」のアビリティを持っている分、「死霊銅鎧王」でも気付くのが遅れたかぁー!?』



 その通りだ。

 「鬼ノ虎蜘蛛」は進化したことで「気配殺し」を失ったが、生まれてくる子蜘蛛は「爆鬼蜘蛛」と同じようなアビリティとスキル構成なので砂煙を巻き上がらせるのも計算に入れた第2陣だろう。


 わざと固めて分かりやすく正面から突っ込ませた大量の子蜘蛛を爆散させて視界が悪い中でコソコソ迫っていた子蜘蛛に軍を襲わせる作戦。



『爆発するが銅の鎧には通じていない! ダメージは負わせているが変わらず進軍しております!』



 さすがの鎧持ちに手痛いダメージは与えるほど強くない子蜘蛛の爆発だが、ソウイチの狙いは少しでも爆発を多くの魔物に当てることだ。


 すると先頭の魔物が武器を投げ捨て、その場に寝始める者や逃げ出す者が現れ始めた。

 『銅の魔王』の叫び声がよく響いている。


 なるほどこれが『怠惰』というやつか。



「主の弟子は不思議な力を使いますな。とても強力だ」


「見たこと無い能力だね」



 幹部の1人「火虎」のエンカクが声をあげる。

 確かに『大罪』は聞いたこと無いし、150年生きてきて一度もソウルピックで見たことも聞いたことも無い名前だね。

 それに詳しく聞いてないけど、すでに『憤怒』『怠惰』とそこらへんの精神に作用させる魔法が霞むほどの力がある。


 『銅』の魔物軍の前線3割ほどが戦意喪失している。

 ソウイチの作戦では子蜘蛛集団第3陣がもう少しでくるはずだ。

 『怠惰』で怯ませ『憤怒』で仕留めに行く作戦だ。

 塔の上で混乱している『銅』の魔王。あんなのじゃ今後の戦争をどう戦っていくのかね? 今のままじゃ勝っても狙い撃ちにされてしまうだろう。


 第3陣が来るかなって思いながらモニターを見る。




――ギャァァァァオォォォ!!!



「っ!?」



 とんでもない雄叫びが戦場に木霊する。

 モニター越しでも迫力のある咆哮をあげたのは『銅』の魔王幹部の「ハイオーガ」だった。

 砂煙も爆炎も何もかも吹き飛ばし、『怠惰』の影響を受けていた味方の目を覚ましたようだ。

 通常の「ハイオーガ」には無いようなスキルだけど、戦局を一瞬で切り替えたね。



『なんだ今のは!? オーガの咆哮がすべてを吹き飛ばす! 砂煙が晴れた先には子蜘蛛が迫ってきている! バレてしまったぁぁ!』



――ドゴォォンッ!



 「ハイオーガ」が塔の上から跳んでくる。わずか数回の跳躍で先頭まで来た「ハイオーガ」は赤黒い皮膚に巨大な斧、4mある巨体が先頭に立ち子蜘蛛を迎え撃つ構えだね。

 それにしてもAランクとは思えない迫力とオーラだね。

 でも「ハイオーガ」から感じる魔力には『狂乱』のボウヤの力を感じるね。


 「ハイオーガ」は大きく息を吸って再び咆哮の構えをとる。


 これはまずいねソウイチ。



――ガァァァァァァァァッ!!


 

 再び「ハイオーガ」の咆哮が戦場に響き渡る。



――ズガァァァァァァァンッ!!



 前方迫っていた子蜘蛛は吹き飛ばされて爆散していく。

 しかも周囲に居た「死霊銅鎧王」以外の味方モンスターも吹き飛ばして木っ端微塵にしていった。

 この様子を見ると『銅』の魔王の指示ではなくて「ハイオーガ」自身の判断かな?


 これでソウイチの子蜘蛛作戦は終わりだね。

 なんとか戦力をほとんど削ぐことができたけど厄介な2体がソウイチのダンジョンに向かっていく。


 『銅』の魔王のダンジョンからも使用制限いっぱいを使った銅の武装をした魔物たちが出てくる。



『オーガの咆哮で戦局が覆りました! ですが『銅』の軍勢は壊滅寸前!』



 ここからはダンジョンまで誘導するであろうソウイチが『銅』の厄介な「ハイオーガ」と「死霊銅鎧王」に対してどう対処するのかが見物になるね。


 私が見ていた限りでは「死霊銅鎧王」は対処できそうだけど、「ハイオーガ」の力押しに対応できる術は無かったように感じるけど。



『さぁ! 『銅』が誇るAランク2体が『大罪』のダンジョン前に到着しようとしております!』



 入り口に構えるは最弱候補の一角ウサギとブリザードイーグルの組み合わせだ。


 面白い戦いになってなってきたね。

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